ラテンアメリカの民主化と人権・ジェンダー

~プリンストン大学ラテンアメリカン・パンフレットコレクション~

アジア経済研究所図書館は、米国プリンストン大学がラテンアメリカの諸事情に関する資料・文献を収集・編纂し、所蔵する“Princeton University Latin American Pamphlet Collection”の一部をマイクロフィルムで所蔵している。以下ではその収録内容の一部を簡単に紹介する。

1970-80年代のラテンアメリカでは、民主化への動きや経済危機などの社会変動を背景に、市民社会を主体とした多様な社会運動が展開された。代表的なものに、軍政下での弾圧に対抗する人権擁護運動や都市貧困層の女性による生活相互扶助運動がある。このような政治的・社会的に流動的な時代にラテンアメリカ諸国で刊行された、

  1. Human and Civil Right (人権・市民権)
  2. Women and Gender Issue (女性・ジェンダー)
  3. Racial Group in Brazil (ブラジルの人種)

に関する資料をまとめ、マイクロフィルム化したものが同コレクションに収録されている。そのうち、アジ研図書館が所蔵する計35リール (表1) には、プリンストン大学が1983年から92年の間に収集したラテンアメリカの人権団体や女性団体の機関紙、活動集会の告知ポスター、ワークショップのプログラムなど多種多様な印刷物が数多く収録されている。流通が限定的である上に、散逸しやすいこれらの資料は、当時を多面的に知るための一次資料として極めて価値が高いものである。

(表1)マイクロフィルム所蔵リスト

タイトル 請求記号(/Micro/MD*) リール数
Human and civil rights in Argentina MD1089/1-2 2
Human and civil rights in Brazil MD1090 1
Human and civil rights in Chile MD1091 1
Human and civil rights in Nicaragua MD1092/1-3 3
Human and civil rights in Peru MD1093 1
Human and civil rights in Uruguay MD1094 1
Racial groups in Brazil MD1095/1-3 3
Women and gender issues in Argentina MD1097/1-5 5
Women and gender issues in Brazil MD1098/1-3 3
Women and gender issues in Chile MD1099/1-5 5
Women and gender issues in Cuba MD1100 1
Women and gender issues in Ecuador MD1101 1
Women and gender issues in Latin America MD1096/1-3 3
Women and gender issues in Nicaragua MD1102 1
Women and gender issues in Peru MD1103/1-2 2
Women and gender issues in Uruguay MD1104/1-2 2

※ 当図書館のマイクロフィルム閲覧コーナーで閲覧、及び著作権法の許諾する範囲内で複写が可能
(一般20円/枚、学生・賛助会員10円/枚)

1. Human and Civil Rights (人権・市民権)

ラテンアメリカの多くの国では1970-80年代の軍政下、反体制派に対する深刻な人権侵害が頻発していた。その後、民主化の過程で、その実態が公に問題化されていった。 チリの場合、民政移管後に人権侵害の真相究明委員会が設置され、軍政下での弾圧の実情を明らかにした調査報告書が公にされている。一方、同コレクションには、強制連行・拷問などの弾圧の渦中にあった人権団体や労働組合が発行した各種印刷物が収録されており、被害者の側からみた、当時の状況に迫ることができる。

チリ

"Boletín CODEPU" (収録:1983年5月-89年5月、欠号あり)
CODEPU(Corporación de Promoción y Defensa de los Derechos del Pueblo)は軍政下の1980年に設立された人権団体で、人権侵害の告発、被害者及びその家族の支援活動を行っている。機関紙は、軍部による市民社会に対する苛烈な弾圧の実態を報告しており、民政移管後に公刊された報告書からは窺い知ることができない人権侵害の生々しい実態が浮かびあがってくる。

ウルグアイ

同国では、1985年の民政移管後、十五年を経て人権侵害の実態に関する公式調査が開始された。2007年にはバスケス政権が報告書を公開している。同コレクションには、軍政下の1981年に設立された人権団体、El Servicio Paz y Justiciaのウルグアイ支部が刊行した "Amnistía y Reconciliación Nacional : propuesta del Servicio Paz y Justicia Uruguay" 及び "Cuadernos Paz y Justicia" が収録されている。

ニカラグア

Comisión Permanente de Derechos Humanos de Nicaragua (CPDH)は1977年に設立された人権団体であり、同団体が1979-1990年の間に発行した活動報告書や各種書簡が収録されている。

2. Women and Gender Issues (女性・ジェンダー)

ラテンアメリカの女性を取り巻く問題は、ジェンダーによる不平等だけではなく、階層やエスニシティによる社会的不平等など複合的である。そのため、欧米のフェミニズム運動とは異なるかたちで女性の地位向上を主張する運動が展開されてきた。1980-90年代には、民主化や経済危機を背景に、軍政下での人権運動や共同炊事活動などの生活相互扶助の取り組みにおいて、女性が主体的な役割を果たし、階級や地域を越えた新たな運動へと発展していった。

ペルー

"Movimiento Manuela Ramos Boletín" (No.1-12, 1982年3月-84年5月)
Movimiento Manuela Ramosは、1978年に創設された女性団体で現在でも積極的にジェンダーの諸問題に取組んでいる。発行当初の手書きの機関紙では、生活相互扶助の取組みの記事が目立っている。

チリ

Acción Femenista, Comité de Defensa de los Derechos de la Mujer, Frente de Mujeres Caro Ochogavía などの女性運動団体が発行(1985-87年)した各種書簡、機関紙などが収録されている。

3. Racial Groups in Brazil (ブラジルの人種)

ブラジル

同国における黒人運動の黎明期とされる20世紀前半に発行された新聞が (表2) の通り収録されている。黒人系によって編集・発行されたこれらの新聞は、当時の彼らの主張が表明されている数少ないまとまった資料である。掲載内容は、人種問題を主題とした記事から、黒人コミュニティ内での各種告知など多岐にわたっている。

(表2)収録新聞リスト

新聞タイトル 期間 備考
O Menelick 1919.1.1
O Bandeirante 1918.8-1919.4
O Alfinete 1918.9.3-1921.8.28
A Liberdade 1919.7.14-1920.5.9 欠号あり
A Sentinela 1950.10.10
Auriverde 1928.4.29
A Rua 1916.2.24
O Xauter 1916.5.16
Elite 1924.1.20
O Kosmos 1922.10; 1925.1
Progresso 1928.6-1932.8 欠号あり
O Clarim 1924.2-1924.4
O Clarim da Alvorada 1924.5-1925.8 欠号あり
O Clarim d' Alvorada 1925.11-1927.10 欠号あり
O Clarim d' Alvorada(Segunda Phase) 1928.2-1933.5 欠号あり
Chibata 1932.2-1932.3
Tribuna negra 1935.9
A Voz da raça 1933.3-1937.11 欠号あり
Brasil novo 1933.4-1933.7
O Clarim 1935.2-1935.5
Alvorada 1945.9-1948.6
O Novo horizonte 1950.5-1960.6 欠号あり
Cruzada cultural 1950-1960 欠号あり