イギリス占領時代 (19世紀末~20世紀初頭) のエジプト法令集 (『勅令集』 他7点)

توابع الاوامر العالية الصادرة فى سنة 1882 والانعامات الصادرة فى السنة المذكورة ويليهما أوامر وانعامات سنة 1883 . مجموع الاوامر العالية الصادرة فى سنة 1883, [مصر] : [مطبعة بولاق], 1302 [1885]
Tawābiʿ al-awāmir al-ʿālīyah al-ṣādirah fī sanat 1882 wa-al-inʿāmāt al-ṣādirah fī al-sanah al-madhkūrah wa-yalīhimā awāmir wa-inʿāmāt sanat 1883 . Majmūʿ al-awāmir al-ʿālīyah al-ṣādirah fī sanat 1883
使用言語 : アラビア語
مجموعة الاوامر العلية والدكريتات, [مصر] : المطبعة الاهلية ببولاق
Majmūʿat al-awāmir al-ʿālīyah wa-al-dikrītāt
使用言語 : アラビア語
※ 当館では1889-1892,1896,1899,1901を所蔵。
قوانين الحكومة المصرية سنة ... . مجموعة قرارات ومنشورات الحكومة المصرية سنة ... / [وزارة الداخلية] , القاهرة : المطبعة الاميرية
Qawānīn al-ḥukūmah al-Miṣrīyah sanat … . Majmūʿat qarārāt wa-manshūrāt al-ḥukūmah al-Miṣrīyah sanat …
使用言語 : アラビア語
※ 1914、1915を所蔵
Finances égyptiennes : recueil des contrats des emprunts, décrets, conventions et documents divers / Ministére des Finances, Le Caire : Imprimerie Nationale , 1892
使用言語 : フランス語
Recueil des décrets et documents officiels : intéressant le Ministère de la justice : du 15 juillet 1840 au 31 décembre 1899 / Gouvernement égyptien, Ministère de la justice, Le Caire : Imprimerie nationale , 1899
使用言語 : フランス語
Recueil d'ordonnances et de rescrits royaux : année 1922
= مجموعة الأوامر الملكية سنة 1922 (Majmūʿat al-awāmir al-malakīyah sanat 1922), Le Caire : Imprimerie nationale , 1924
使用言語 : フランス語・アラビア語
مجموعة القوانين والمراسيم والأوامر الملكية, القاهرة : المطبعة الأميرية
Majmūʿat al-qawānīn wa-al-marāsīm wa-al-awāmir al-malakīyah
使用言語 : アラビア語
※ 当館では、1928-1929年を所蔵。

【解説】
1882年以降エジプトを軍事占領下に置いたイギリスは、ヘディーヴ(副王)を頂点とする既存の支配体制を維持・再編し、それを通じエジプトの統治を行なった(1914年以降は保護国とし、君主の称号もヘディーヴからスルタンに変更)。そのため、イギリス占領時代も副王は自らの勅令(amr ‘ālin: امر عال あるいはdikrītu: دكريتو)として法律を発布したほか、以前より副王の下で行政の中核を担っていた各省は、所管の分野に関するさまざまな決定(qarār: قرار)・通達(manshūrah: منشورة)を出していた。上記の史料①および②は勅令の集成(majmū‘ah: مجموعة)であり、史料③は、本来は別々に刊行された勅令の集成と各省の決定・通達の集成を合冊したものである。時には、省単位に関連する勅令等をまとめた版も刊行されていた(史料④は財務省、史料⑤は司法省)。アジア経済研究所図書館は、エジプト近代史研究の基本史料として高い価値を有するこの史料群の一部を所蔵している。

史料①~③に類する史料は、イギリス占領時代以前より刊行されていたが、管見の限りでは、イギリス占領時代以降、時期によりタイトル・内容に若干の異同はあるものの、定期的にアラビア語とフランス語の双方の版が刊行されるようになった(いずれの史料も、3ヶ月毎に出された分冊を1年分まとめて1冊の本としている)。定期的な刊行が始まった当初、いずれの史料も時系列順に勅令あるいは決定・通達を並べた目次が付されているだけであったが、時代が下ると徐々にテーマ別索引も付されるようになり、検索が容易になっていった。

これらの史料の価値は、当時のエジプト政府(を介しイギリス)が実施した政策の具体的な把握を可能にする点にとどまらない。特に占領時代前期(1880年代および1890年代)に刊行されたものには、勅令あるいは決定・通達といった中央政府が発した指示のみならず、特定のテーマに関し各省が作成した報告書や統計などが収録されている場合があり、政府が立案・実施した政策の背景をなす社会情勢に関する豊富な情報に触れることができる。例をあげるならば、当時の各省の決定・通達の集成にはイギリス人司法省顧問による報告書が毎年収録されており、さらに同報告書には当該年の司法統計が含まれている。これらを参照することにより、当時の治安状況と当局の見解を通時的に把握することが可能となる。ただし、史料④や⑤にはこのような内容は収録されていないほか、占領時代後期(1900年代以降)になると、上記の諸史料に各省による報告書が収録される例はほとんど見られなくなり、その内容は、より題名に沿ったものに変化していった。

なお、1919年革命を経て1922年にエジプト王国として名目的独立を果たした後も、史料①および②に類似する史料が継続して刊行された(史料⑥:アラビア語版とフランス語版の合冊、史料⑦:アラビア語版)。こちらもアジア経済研究所図書館は一部所蔵しているが、残念ながらこちらは純粋な法律(qānūn: قانون)あるいは勅令(marsūm: مرسوم)の集成となっており、占領時代前期のそれとは異なり、エジプト社会の動向に関する情報は全くと言って良いほど含まれていない。しかし、当該時期のエジプトにおける立法の動向を把握するさいに、まず参照すべき基本史料である点は変わらない。

(勝沼 聡 / 早稲田大学イスラーム地域研究機構・研究助手)


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