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日本の輸入は経済的威圧にどれだけ弱いのか――脆弱性を計測する新たな指標
How Vulnerable are Japan’s Imports to Economic Coercion? Measuring Vulnerability to Economic Coercion
PDF版ダウンロードページ:https://hdl.handle.net/2344/0002001738
2026年2月
(4,303字)
はじめに
地政学的リスクが高まるなか、各国は効率性に基づいた国際分業を進めるだけでなく、政治的に非友好的な国からの経済的威圧等によって貿易関係が途絶するリスクにも備えた貿易体制を構築することが急務となっている。そのためには、各国の現状の貿易パターンが地政学的リスクに対してどの程度脆弱であるかを定量的に把握する必要がある。そこで本稿では、品目別に非友好国からの輸入途絶や経済的威圧に対する「脆弱度」を測り、さらにそれを国レベルで集計した新たな指標を構築したい(詳しい計算方法は補論を参照)。
実現脆弱度と潜在脆弱度
具体的な指標について、日本を例にして考えてみよう。まず、日本と各国の国連総会における投票行動の類似性を0から5の値で示す「政治的距離」の指標を利用する(そのため、日本と半導体を通じた貿易関係が深い台湾が本分析には含まれないことに注意してほしい)。政治的距離の値が大きいほど、日本と投票行動が大きく異なっており、政治的に日本とより非友好的な関係であると解釈できる。
この政治的距離を、個々の貿易品目(HSコードの6桁レベル)について日本の各国からの輸入シェアで加重平均することにより、日本における「各品目の輸入実績に基づく脆弱度」を求める。これを「実現脆弱度」と呼ぼう。実現脆弱度の値が大きいほど、日本は当該品目について政治的に非友好的な国からの輸入に依存しており、それらの非友好国による経済的威圧の影響を受けやすくなる。
一方、同じ政治的距離について、品目別に各国の世界貿易における輸出シェアで加重平均すると、日本にとっての非友好国が世界市場において当該品目の供給をどの程度占めているかを測ることができる。この指標は、日本における「世界供給で測った各品目輸入の脆弱度」を表している。この指標の値が大きく、特定の品目の世界供給が日本にとっての非友好国に集中している場合、当該品の輸入途絶や経済的威圧に直面すると、代替的な輸入先も非友好国が占めているため、安定的な輸入先の確保は難しくなる。この指標を「潜在脆弱度」と呼ぶことにする。
表1 経済的威圧に対する脆弱度の4類型
表1でまとめているように、この二つの指標を組み合わせることにより、経済的威圧に対する品目ごとの脆弱度の現状を多面的に把握することができる。まず、実現脆弱度と潜在脆弱度の両方が高い場合、輸出制限などの非友好国からの経済的威圧に対して日本の輸入は影響を受けやすく、また代替的な輸入先の確保も困難であると考えられる。次に、実現脆弱度は高いが潜在脆弱度が低い場合、当該品目の世界供給の多くを友好的な国が占めるため、経済的威圧が生じても代替的な輸入先が確保しやすい。逆に、実現脆弱度が低いものの潜在脆弱度が高い場合、現状の輸入は経済的威圧の影響を受けにくいが、世界的な供給は非友好国に偏っているため、自然災害等によって友好国からの輸入が途絶した場合には、供給の確保が困難になるおそれがある。最後に、どちらの指標も低い場合は経済的威圧を受けにくく、自然災害等のショックが生じた場合でも代替的な輸入先を見つけやすいため、全体として脆弱度は低いと評価できる。
日本の輸入の品目別脆弱度
図1は日本の品目別の実現脆弱度と潜在脆弱度を2017年と2024年についてそれぞれ散布図にしたものである(品目別・年別のデータこちら)。全体として、実現脆弱度と潜在脆弱度は正の関係が見られ、現状の脆弱度が高い品目ほど、代替的な輸入先の確保も難しい傾向にあることが確認される。したがって、現状の脆弱度が高い品目は、代替的な輸入先が容易に見つかりにくく、中長期的な対応が必要になる可能性が高いといえる。ただし、その関係には一定のばらつきが存在し、実現脆弱度と潜在脆弱度に大きな乖離がある品目も見られる。
また、2017年から2024年にかけて、実現脆弱度が高い一方で潜在脆弱度が低く、代替輸入先の確保が容易な品目(右下の領域)が減っており、これらの品目では総じて脆弱度が高まっている。一方、実現脆弱度と潜在脆弱度の双方が著しく高い品目(右上の領域)も減っており、非友好国への供給の集中が緩和されていることも示唆される。
図1 日本の輸入の品目別脆弱度
日本について、表1で示した経済的威圧に対する脆弱度の4類型に対応する具体的な品目例は以下のとおりである。実現脆弱度と潜在脆弱度の両方が高く、非友好国からの経済的威圧に影響を受けやすい品目には(HSコード、2024年の実現脆弱度、2024年の潜在脆弱度)、酸化リチウム・水酸化リチウム(HS282520、1.58、1.45)、レアアース(HS280530、1.43、1.15)、農業用肥料の主成分であるりん酸二アンモニウム(HS310530、1.55、1.34)、リチウムイオン電池(HS850760、1.45、1.28)、リチウムイオン電池の負極材として用いられる天然黒鉛(HS250490、1.64、1.28)などが含まれる。
次に、実現脆弱度は高いが潜在脆弱度が低いため、経済的威圧が生じても代替的な輸入先が確保しやすい品目には、天然ガス(HS271121、1.32、0.77)、永久磁石(HS 850590、1.31、0.87)、クロム(HS 811222、1.21、0.52)などが該当する。
逆に、実現脆弱度が低いものの潜在脆弱度が高いため、自然災害等によって友好国からの輸入が途絶した場合、供給の確保が困難になるおそれがある品目には、人工ダイヤモンドの原石等(HS710420、0.50、1.39)、殺虫剤として使用されるパラチオンおよびパラチオンメチル(HS292011、0.44、1.38)、同じく殺虫剤のアジンホスメチル(HS293392、0.45、1.36)などが含まれる。
最後に、どちらの指標も低く、全体として脆弱度は低いと評価できる品目は、自動巻きの腕時計(HS910221、0.07、0.17)、針葉樹の原木(HS440321、0.12、0.23)、鉄道車両用の台車(HS860711、0.57、0.29)などである。
国別脆弱度の推移
図2 各国の脆弱度の推移
まず日本についてみると、国レベルでみた脆弱度の水準は4カ国のなかで相対的に高いわけではないものの、2017年から2024年にかけて明確に低下したとは言い難く、全体としては横ばい、もしくは緩やかな上昇傾向が読み取れる。図1が示すように、脆弱度が極端に高い品目は減少していると考えられるが、これらの品目が輸入全体に占める割合が必ずしも高くないため、国レベルで集計した脆弱度の低下には大きく寄与していないと解釈できる。すなわち、日本では個別品目での改善はみられるものの、輸入構造全体としての脆弱性は十分に低下していない可能性がある。
中国は、国レベルの脆弱度がやや高い水準にあり、特に2022年にかけて急激な上昇が確認される。2022年にはロシアによるウクライナ侵攻開始以降、原油価格が高騰し、中国の輸入構造にも大きな影響を及ぼした。実際、中国の輸入総額に占める原油輸入額のシェアは、2021年から2022年にかけて11.7%から15.2%へと急激に増加した。主要な産油国との政治的距離が他の品目の輸入先と比べて相対的に大きかったことが、脆弱度上昇の一因であると考えられる。また、中国はロシアとの友好関係を維持したために、政治的距離から非友好的と評価される国が増加した可能性があり、こうした政治環境の変化が指標に反映された面もあると解釈できる。
ドイツは、対象国のなかで最も脆弱度が低く、かつ2017年から2024年にかけてその水準がほぼ安定している。これは、輸入品の多くをEU域内から調達していることにより、政治的に友好的な国々との間で供給網が構築されているためと推察される。また、2022年においても脆弱度の上昇幅は限定的である。ロシアによるウクライナ侵攻開始後、ドイツはロシア産エネルギーへの依存からの脱却を急速に進めており、こうした供給構造の転換が、経済的威圧に対する脆弱度の大幅な上昇を抑制したと解釈できる。
最後に、米国は国レベルの脆弱度が最も高く、輸入の多くを政治的に非友好的な国に依存していることが図2から確認できる。ただし、米国の脆弱度は期間を通じて明確な低下傾向を示している。特に、2018年の対中関税引き上げを契機として、中国からの輸入比率が低下したことが、脆弱度の低下につながったと考えられる。
おわりに
本分析は、「現在どの程度非友好国から輸入しているか」だけでなく、「世界的な供給構造において代替可能性がどの程度あるか」という潜在的な供給制約にも注目し、経済的威圧に対する脆弱性について品目ごとの状況を示す指標を作成した。政治的距離を用いて構築した実現脆弱度と潜在脆弱度の二つの指標により、品目ごとに異なるリスクの性質を可視化することが可能となった。
本分析から導かれる重要な政策的含意として、特定の非友好国からの輸入依存を減らすこと(実現脆弱度の低下)だけでなく、世界市場全体における供給の地政学的分散(潜在脆弱度の低下)を意識した戦略が不可欠となる。とりわけ、実現脆弱度と潜在脆弱度の双方が高い品目は、短期的な輸入先の切り替えによる対応には限界があるため、同盟国・友好国との間での供給網構築や技術協力などを通じた中長期的な供給基盤の強化が求められる。さらに、代替的な技術の開発などを通し、潜在脆弱度の低い品目に輸入を切り替える必要性も考えられる。
また、実現脆弱度が低くても潜在脆弱度が高い品目については、平時には問題が顕在化しにくい一方で、自然災害や地政学的緊張の高まりを契機として、リスクが急激に表面化する可能性がある。この点は、二国間の輸入実績のみに基づくリスク評価では見落とされがちな側面であり、本指標は潜在的な脆弱性も考慮したうえで予防的な政策対応のありかたを考察する際に有用な情報を提供する。政府は、こうした潜在的脆弱性の高い品目を特定したうえで、戦略的備蓄、輸入先多角化への支援、さらには国内生産や代替技術の育成といった手段を組み合わせ、経済的威圧に対する全体的な耐性を高めていくことが求められる。
写真の出典
- Tmy350(CC BY-SA 4.0)
参考文献
- Voeten, E. (2009). “United Nations General Assembly Ideal Points [Data set].” Harvard Dataverse.
補論
日本の輸入を例とすると、実現脆弱度は以下のように計算される。
分子の は、 年におけるHS2017の6桁品目 の 国から日本への輸出額を示す。分母は 年における品目 の全世界から日本への輸出額合計である。 は、 国と日本の 年における政治的距離で、大きいほど、政治的に非友好的と言える。 は、 年における日本の製品 における輸入相手の、日本との平均的な政治的距離を示す。
次に、潜在脆弱度は以下のように計算される。
分子の は、 年におけるHS2017の6桁品目 の 国から 国への輸出額を示す。分母は 年における品目 の日本以外の世界各国の全世界向け輸出額合計である。 は、 年の製品 における世界輸出国の、日本との平均的な政治的距離を示す。これが大きいほど、日本と政治的に非友好的な国が、当該製品を世界に輸出していることを示す。最後に、国レベルの脆弱度を以下のように定義する。
著者プロフィール
早川和伸(はやかわかずのぶ) アジア経済研究所バンコク研究センター主任研究員。博士(経済学)。専門は国際貿易、アジア経済。主な業績として、“What Goes Around Comes Around: Export-Enhancing Effects of Import-Tariff Reductions,” Journal of International Economics, 126 (2020, Ishikawa, J., Tarui, N.との共著)、“Impact of Free Trade Agreement Use on Import Prices,” World Bank Economic Review, 33(3) (2019, Laksanapanyakul, N., Mukunoki, H., Urata, S.との共著)などが挙げられる。
椋寛(むくのきひろし) 学習院大学経済学部教授。博士(経済学)。専門は国際貿易と貿易政策。主な業績として、“Impacts of COVID-19 on International Trade: Evidence from the First Shock,”Journal of the Japanese and International Economies, 60 (2021, Hayakawa, K.との共著)、“Parallel Imports and Repair Services,” Journal of Economic Behavior and Organization, 172(2020, Ishikawa, J., Morita, H.との共著)などが挙げられる。
山ノ内健太(やまのうちけんた) 香川大学経済学部准教授。博士(経済学)。専門は貿易論、生産性分析。主な業績として、“International bridges and informal employment,” Journal of Comparative Economics 53(3)(2025, Hayakawa, K., Keola, S., Sudsawasd, S.との共著)、“Minimum wage effects across heterogeneous markets,” Labour Economics 59(2019, Okudaira, H., Takizawa, M.との共著)などが挙げられる。
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