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(2022年中国共産党第20回党大会)第1回 第20回党大会の注目点

Insights for China’s 20th Party Congress

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00053473

2022年9月

(5,561字)

正誤表 (248KB)

中国はどこへ向かうのか?

2022年秋に中国共産党第20期全国代表大会(第20回党大会)が開催される。党大会は5年に一度開催され、そこでは重要な政策課題が議論されるとともに、党規約の修正や中央委員会および中央紀律検査委員会の選挙が実施される。くわえて、党大会直後には中央委員会第1回全体会議(1中全会)が開催され、中央委員のなかから25名前後の政治局委員と、さらにそのなかから7名の政治局常務委員が選出される1。第20回党大会およびその直後の1中全会は、中国共産党による政治運営を展望するうえで、とくに注目される政治イベントといえよう。なかでも今大会では、習近平の続投が確実視されており、1990年代から続いてきた「制度化された政権交代」が変化する可能性が高い。このような変化は、今後の中国政治の予測をより一層難しくさせるだろう。

前政権を担った胡錦濤が、中国共産党の命令的指導2の下での一定の「自由」や「民主」を許容し、その範囲を拡大したことと比較すると、これまでの習近平政権は党中央への権力の集中を積極的に推し進めてきた。例えば、汚職の取り締まり強化や、国家の重要任務を担当する委員会を新設し、その長に習近平自身が就任することなどである。習近平政権は第3期目が確実視されているが、その場合、これまでの10年を踏まえてどのような政治運営を行うのだろうか。本特集は、第20回党大会で発表される活動報告や党中央、中央政府人事をもとに、政治、経済、外交などの各分野から、これからの中国を展望する。本稿は、連載の第1回目として、第20回党大会の注目点について解説する。

第3期目が確実視されている習近平

第3期目が確実視されている習近平
「制度化された政権交代」の終焉?

第20回党大会の最大の注目点は、習近平の去就である。大方の予想は、習近平が続投するとみている。しかしこれは、中国共産党による一党体制の正統性を高めてきたとされる「制度化された政権交代」を変化させ得る3。「制度化された政権交代」は、「中華人民共和国憲法」(以下「憲法」)に規定された国家主席の任期と「七上八下(党大会時67歳以下は留任、68歳以上は離任)」という内規によって守られてきた。「憲法」における国家主席の任期の規定は、1982年に、個人への権力集中を危惧した鄧小平によって加えられた。また「七上八下」という内規は、図1を見ると、胡錦濤政権以降遵守されてきたことがわかる。例えばそれ以前の第14回党大会(1992年)では、76歳の劉華清が政治局常務委員となり、第15回党大会(1997年)では、江沢民が71歳で政治局常務委員および中国共産党の総書記を務めたことなど、内規が守られていなかった。

図1 第14回党大会以降の政治局常務委員の年齢分布

図1 第14回党大会以降の政治局常務委員の年齢分布

(出所)『中国共産党新聞網』および各種検索エンジンの情報をもとに筆者作成。

習近平は、すでに2018年3月に開催された第13期全国人民代表大会(全人代――国会に相当)第1回会議で「憲法」を修正し、国家主席の任期に関する規定を撤廃している。くわえて、今秋の第20回党大会で、今年69歳を迎えた習近平の再任が決まる場合、68歳以上は離任するという内規も変更されることになる。このような変更は習近平のみか、あるいはその他の指導部人事にも適用されるのかについては、第20回党大会で発表される人事をもとに検討されねばならないが、こうした「制度化された政権交代」の変化は、現代中国政治の予測を一層難しくさせるだけでなく、体制内の権力構造を不安定化させる可能性がある。

概して非民主主義的な政治体制では、指導部が分裂せずに政権交代を実現することは難しく、その確実性を高めるのが制度であると考えられてきた。このような確実性は、チャイナウォッチャーにとって重要であるだけでなく、体制内エリートにとっても自身の出世レースに関わるため、死活問題である。しかし、それが等閑視されるのであれば、今後の政権交代や人事をめぐる権力闘争はこれまで以上に激化すると予想される。

なぜ習近平政権の3期目が確実視されるようになってきたのか?

習近平政権の第3期目が確実視されているが、そもそもなぜ習近平の長期政権が見据えられるようになったのであろうか。2018年の「憲法」改正による国家主席の任期撤廃もその一つではあるが、その他にも10年間にわたる習近平政権において、いくつかその道筋が示唆されてきた。第一に、後継者の不在である。表1に第14回党大会以降の政治局常務委員の変遷をまとめた。江沢民および胡錦濤政権の2期目までには、後継者としてその後2期10年を担当できる若手を政治局常務委員に登用していることがわかる。それが胡錦濤と習近平であった。しかし、習近平政権の2期目において、50代の政治局常務委員はおらず、後継者に相応しい人物が見当たらない4。したがって、第20回党大会ではどのような人物が政治局常務委員となるのか、またその年齢構成に注目する必要がある。習近平政権の今後を考える材料となるだろう。

表1 第14回党大会以降の政治局常務委員の変遷

表1 第14回党大会以降の政治局常務委員の変遷

(出所)ラヂオプレス編『中国組織別人名簿1995-2020年』
(ラヂオプレス、1994-2019年)、各種検索 エンジンの情報をもとに筆者作成。

第二に、長期目標の提示である。2021年3月の第13期全人代第4回会議において、「国民経済と社会発展第14次5カ年計画と2035年の長期目標綱要(「綱要」)」が採択された。これまでも長期的な国家政策として5年に一度5か年計画が採択されてきたが、10年以上の長期目標が掲げられたことは少ない。習近平は、2017年の第19回党大会開幕式で「2035年までに社会主義現代化を基本的に実現させる」と述べた5。「綱要」はこれを受けて採択されたものである。2035年は、「社会主義現代化強国」の建設を目指す第一段階の時期(2020-2035年)に位置づけられる。「社会主義現代化強国」とは、中国共産党が掲げる「2つの100年目標」の1つとして中華人民共和国建国100年(2049年)に達成されるべき目標であり、2035年はその第一段階として「社会主義現代化の基本的実現」を目指すとしている6。かりに習近平が2035年まで総書記の座に就き続けることを目指しているとしても、党内の権力闘争に勝ち続けられるか、また、2035年に82歳になる習近平が、自身の体調や体力も万全であり続けられるかわからない。しかし、第20回党大会での活動報告で習近平が長期目標に多く言及した場合、習近平が2035年を見据えている可能性は高まる。

そして第三に、習近平の権威を高める動きである。2018年の第13期全人代第1回会議は、「毛沢東思想」と「鄧小平理論」にならんで「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」を「憲法」に明記することを決定した7。江沢民と胡錦濤はそれぞれ「『三つの代表』重要思想」と「科学的発展観」を「憲法」に書き入れたものの、指導者自身の名前を付すことができなかったことから、習近平は両者よりも強い政治的権力を有し、自身の権威を高めることが可能であったと考えられた。また、2021年の中国共産党第19期中央委員会第6回総会(第19期6中全会)で採択された「党の100年にわたる奮闘の重大な成果と歴史的経験に関する党中央の決議」は、「若干の歴史問題に関する決議」(1945年)および「建国以来の党の若干の歴史問題に関する決議」(1981年)とならんで第3の歴史決議とされ、習近平政権のこれまでの成果を総括した。そこでは、習近平が政権についた第18回党大会以降を「中国の特色ある社会主義の新時代」と定義し、一時代を築く指導者であることを印象づけた(内藤・山田 2022)。さらに、2022年夏以降に習近平を「領袖」と位置づける報道や特集記事が散見される8。「領袖」という呼称は、毛沢東の「偉大な領袖」あるいは華国鋒の「英明な領袖」以外に使われておらず、第20回党大会で習近平が「人民の領袖」となった場合、鄧小平の地位も超えることを意味する(李昊 2022)。

このように10年にわたる習近平政権下において、とくに習近平政権の2期目以降に、長期政権に向けた様々な道筋が示唆されてきた。習近平の権威を高める動きが加速したことをうけて、第19回党大会前には、1982年に撤廃された党主席制の復活に関する憶測が飛び交うようになった。党主席制の復活は第19回党大会で実現されなかったものの、今後党主席制が復活した場合、習近平による個人支配が一層進むことになる。第20回党大会で習近平の権威を高める動きが具体的にどの程度進められるのかを注視しなければならない。

習近平による個人支配の度合いはどのように高められているのか?

中国に限らず、権威主義体制下の政治指導者の多くは、その在任中にできるだけ多くの政治権力を個人的に支配しようとする。政治指導者による個人支配の度合いを示すひとつの指標は、政治指導者と体制内エリートの力関係において前者が優位となることである(フランツ 2021: 68-69)。既述したような党主席制の復活は、1980年代以降築き上げられてきた政治局常務委員による集団指導体制を覆すことになるだろう。その実現可能性は未知数ではあるが、すでに習近平による個人支配の兆候は確認できる。

政治指導者による個人支配の兆候として、①政治指導者の取り巻きが小さくなること、②権力の要職に忠誠者を配置すること、③有力ポストへ身内を昇進させること、④新しい政党や運動を創設すること、⑤重要な事柄を決定する手段として国民投票を使用すること、⑥新たな治安部門を創設すること、などがあげられる(フランツ 2021: 70-71)。この6つの兆候のなかで、まず、習近平は公安部や司法部といった政法組織に自身の腹心を配置した。具体的には、2021年4月に公安部副部長の孫力軍を重大な規律違反と法律違反の疑いで調査し、翌年6月には公安部副部長および政法委員会副書記に習近平の福建省時代の部下であった王小洪を任命した9。また、孫力軍が調査対象となった時と同じくして、公安部副部長を経て、司法部部長を担当していた傅政華もその職を解かれ、習近平の浙江省時代の部下であった唐一軍が司法部部長に任命された(内藤・山口 2021: 100-101)。孫力軍ならびに傅政華が江沢民を中心とした党内派閥のひとつである上海閥に属するとされたことから、このような人事は、政法組織に対する上海閥の影響力を弱めること、そして上記②権力の要職に忠誠者を配置することがねらいであったと考えられる。

また同じく、②権力の要職に忠誠者を配置することとして、習近平は江沢民や胡錦濤と比べ、25名前後からなる政治局委員に身内を積極的に登用していることもあげられる。政治局委員の人選は、次世代の政治局常務委員を考えるうえで重要となる。表2は第14回党大会以降の総書記と政治局委員の関係についてまとめたもので、これによると、とくに習近平政権第2期目において、習近平に近しい人物の登用が目立つ。そのなかでも年齢の若い丁薛祥、李強、陳敏爾は次世代を担う人材として注目に値するだろう。第20回党大会において習近平に近しい若手の人材が、どの役職を任されるのか、第20回党大会では政治局常務委員に入るかなどに注視する必要がある。とくに、「憲法」で規定された任期にもとづき退任するとされる李克強の後任として、国務院総理に習近平に近しい若手人材が登用されるかどうかは重要である。

表2 第14回党大会以降の総書記と政治局委員の関係

表2 第14回党大会以降の総書記と政治局委員の関係

(注)江沢民は上海市での勤務経験があるかどうか、胡錦濤は中国共産党青年団かどうか、
習近平は習近平のこれまでの勤務地(福建省、浙江省、上海市)での勤務経験の有無を
条件とし、 総書記と関係があると分類した人物は、アミ掛けに示した。
(出所)ラヂオプレス編『中国組織別人名簿1995-2020年』
(ラヂオプレス、1994-2019年)、 各種検索エンジンの情報をもとに筆者作成。

さらに、2018年3月の第13期全人代第1回会議で採択された「中華人民共和国監察法」(「監察法」)にもとづいて組織した監察委員会は、⑥新たな治安部門を創設することに該当するだろう。そもそも新たな治安部門を創設することの目的は、軍部の力を相対化し、軍人がクーデターを起こすのを抑止することであるという(フランツ 2021: 72)。監察委員会は、公権力を行使するすべての公職者に対する監督および取り締まりを法にもとづき独立して行う機関であり(岡村 2018)、その対象は人民解放軍や中国共産党員に限定されていない。しかし、監察委員会は国務院および最高人民法院、最高人民検察院と同等の国家機関の一つに位置づけられるとともに、「監察法」の制定に付随して中国共産党員への規律規定も厳格化された(岡村 2018)。監察委員会の創設によって、習近平の権力の個人化と体制内エリートへの統制は強化されていることがわかる。

第20回党大会を目前にして

これまで検討してきたように、第20回党大会では習近平政権第3期目が開始されるかどうか、また第3期目の人事が決定するなかで習近平による個人支配の度合いがどの程度高められるのか注目される。本稿執筆時点(8月23日)において、第20回党大会の日程は未定であるが、8月上旬の2週間に習近平および政治局常務委員らが数日から数週間にわたって姿を見せておらず、北戴河会議はすでに開催されたようである10。北戴河会議とは、現指導部と元幹部が集まり秋に向けた政局などを議論する非公式な会議とされている。また、新型コロナウイルスの感染拡大以降、外遊に出ていない習近平が、9月にウズベキスタンで開催される上海協力機構(SCO)首脳会議に合わせてロシアのプーチン大統領と会談する計画や11、11月にインドネシアのバリ島で開催される20カ国・地域首脳会議(G20)とアジア太平洋経済協力会議(APEC)に出席する計画が報道されている12。両計画の間にあたる10月に第20回党大会は開催されるという可能性が高い。

今大会で習近平政権の第3期目が決定した場合、1980年代以降築き上げられてきた中国政治を観察するルールの再検討が必要となる。より詳細な改革案は、2023年の3中全会以降になると予想されるが、第20回党大会で発表される人事や活動報告から中国政治のこれからを理解する一端が示されるだろう。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
写真の出典
  • Officia do Palácio do Planalto(CC BY 2.0
参考文献
著者プロフィール

内藤寛子(ないとうひろこ) アジア経済研究所地域研究センター東アジア研究グループ研究員。博士(政策・メディア)。専門は比較政治学、現代中国政治。おもな著作に、Hiroko Naito and Vida Macikenaite, eds. (2020) State Capacity Building in Contemporary China, Springer, 内藤寛子(2021)「1980年代後半の行政訴訟法の制定過程における中国共産党の論理――体制内エリートの統制と人民法院の『民主的な』機能――」『アジア研究』第67巻第3号、1-18ページなど。


  1. 胡錦濤政権期の政治局常務委員は9名であった。1中全会はそのほかに政治局常務委員会のなかから1人の中央委員会総書記を決定する。また中央書記処書記や中央軍事委員会、中央紀律検査委員会の指導部の選出も行う。
  2. 「憲法」第1条に「中国共産党の命令的指導は、中国の特色ある社会主義の最も本質的な特徴である」と規定されている。「命令的指導」は、中国語では「領導」と書かれ、日本語で「指導」と訳されることが多い。しかし、「領導(leadership)」は「指導(guidance)」と明確に意味が異なることから、本稿では「領導」を「命令的指導」とする。「中華人民共和国憲法」『共産党員網』(2022年8月30日最終アクセス)。
  3. Zeng(2014)は、政権交代が制度化されたことが、中国共産党による一党体制の持続に繋がっていると説明した。
  4. ただ、このような予想も「七上八下」という定年制に関する内規をもとにしており、第20回党大会で習近平以外に対してもそれが撤廃された場合、習近平の後継者に関する人事の予想を立てることはさらに難しくなる。
  5. 中国共産党第十九次全国代表大会在京開幕」『中国共産党新聞網』2017年10月19日(2022年8月18日最終アクセス)。
  6. 「2つの100年目標」のもう一つは、中国共産党建党100年(2021年)までに「小康社会の全面的建設」を実現させることであった。
  7. 中華人民共和国憲法」『共産党員網』(2022年8月19日最終アクセス)。
  8. CCTVの特集ページ「人民領袖習近平」(2022年8月18日最終アクセス)や、習近平が広西チワン族自治区代表に選出された際での報道においても「習近平は全党の核心、人民の領袖、全軍の統帥」であると書かれた。「広西壮族自治区代表会議招開選出党的二十大代表」『網易新聞網』2022年4月25日(2022年8月18日最終アクセス)。
  9. 王小洪任公安部部長」『中国青年網』2022年6月24日(2022年8月19日最終アクセス)、「新任公安部長王小洪昇任中央政法委副書記」『星島日報』2022年6月24日(2022年8月10日最終アクセス)。
  10. William Zheng, “Has China’s annual Beidaihe leaders’ retreat already happened in secret?South China Morning Post, August 18, 2020(2022年8月23日最終アクセス).
  11. Xi, Putin may hold talks in Central Asia in Sept: WSJ,” Kyodo News, August 20, 2022(2022年8月23日最終アクセス).
  12. Keith Zhai, “China’s Xi Jinping Plans to Meet With Biden in First Foreign Trip in Nearly Three Years,” Wall Street Journal, August 12, 2022(2022年8月23日最終アクセス).