IDEスクエア

世界を見る眼

(2022年中国共産党第20回党大会)第3回 権力の伝統に回帰する中国政治――中国共産党第20回党大会の成果と第3期習近平政権の展望

Return to the Monarchical Tradition of Power? : Evaluation of the 20th Party Congress of the Communist Party of China and Prospects for the Third Term of the Xi Jinping Administration

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00053531

2022年12月

(7,943字)

正誤表(210KB)

第3期政権のスタート

2022年10月16~22日の1週間にわたり、中国共産党第20回全国代表大会(以下、20回党大会と略記)が開催された。大会では、習近平総書記が、「中国の特色ある社会主義の偉大な旗印を高く掲げ、社会主義現代化強国の全面的建設のために団結奮闘しよう」と題する、向こう5年間の施政方針演説、いわゆる政治報告を発表した。また、新任の中央委員の選出と党規約の改正も行われた。

大会閉幕後の10月23日には、第20期中央委員会第1回全体会議が開かれ、習近平総書記の続投が決定したほか、新規の中央政治局委員と同常務委員も選出された。こうして2022~2027年までの第3期習近平政権が正式に発足した。

本稿では、20回党大会の成果について、①政治報告の注目点、②党規約改正をめぐる動き、③指導部人事の特徴を分析するとともに、これを手がかりとして、今後の中国政治、とくに指導部の権力動向について簡単な展望を行う。

なお、政治報告と党規約の中国語原文、指導部人員の名簿については、中国側が公式発表としている各ホームページを参照した1 。煩瑣を避けるため、以下の文中では、これらの出典の記載を省略する。

コロナ禍のなか開催された第20回党大会

コロナ禍のなか開催された第20回党大会
政治報告の注目点――既定方針の「継承・発展」、ただし危機意識の昂進と改革意欲の低下2
(1) 全体の特徴

政治報告の基調は、「継承・発展」の言葉で表現される。2012年の総書記就任から現在までの10年間、および2017年の第2期政権以降の5年間について、習近平はみずからの施政を積極的に肯定した。また、「社会主義初級段階」論など既存の理論的基礎を前提として、これまでに提起・執行された主な政策方針を今後も着実に推進していくことが強調された。

例えば、「社会主義現代化強国の全面的建設」について2017年の第19回党大会で示された、「社会主義現代化」の基本的実現(2020~2035年)と「富強・民主・文明・和諧・美麗」の社会主義現代化強国の実現(2035~2050年前後)を目指す2段階の発展戦略を踏襲する一方、2035年までに1人当たりGDPを「中等の先進国水準」に引き上げることなどが盛り込まれた。なお、中国語の「現代化」とは、社会科学の一般的用語でいうところのmodernizationを意味する。

表1には、20回党大会と前回の19回党大会の両政治報告にみられる重要語句の登場回数を示した。前後の文脈を無視して当該語句を機械的に数え上げたものにすぎないが、報告の中国語文字数は約3万2000字とほぼ同じであり、文章の基本的特徴は理解できよう。

それによれば、「新時代」「改革開放」「安定」「経済改革」「共同富裕」「闘争」などの登場頻度は、両大会を通じてさほど変わらない。また、既定目標である「中華民族の偉大な復興」が減る一方、日本語訳では安全保障の言葉があてられることも多い「安全」や「強国」が大幅に増えている。大国化と強国化に伴い欧米や周辺諸国との軋轢が増すなか、自国の脆弱性に対する中国指導部の不安やいらだち、安全保障への危機意識も増幅している様子がみてとれる。さらに、「改革」への言及も大きく減少し、指導部の改革意欲の低下をうかがわせる。

表1 19・20回党大会の政治報告における重要語句の登場回数

表1 19・20回党大会の政治報告における重要語句の登場回数

(出所)筆者作成
(2)「中国式の現代化」による独自路線の追求

新規性に乏しい今回の政治報告のなかで注目すべきキーワードのひとつは、「中国式の現代化」(中国語原文は中国式現代化)である。習近平は、今後の「中心任務」についても、「社会主義現代化強国の全面的建設」、すなわち「中国式の現代化によって、中華民族の偉大な復興を全面的に推進する」ことと説明した。その特徴として、①中国共産党が指導する社会主義の現代化であること、②巨大な人口規模などの中国の国情に基づき、発展のための独自の方法や歴史的経路を有すること、③「共同富裕」と呼ばれる富と機会の公正な分配、格差是正を重視すること、などが挙げられた。

「中国式の現代化」は、欧米諸国の歴史経験に由来する近代化モデルとその発展の歩みを拒絶し、中国独自の発展のありかたを追求していこうとする明確な意思表示といえる。欧米の人権概念とは異なる「中国の人権発展の道」が強調されたのもその表れであろう。この点、第3期政権でも、中国の政治的独自性の強調した強硬な対外姿勢が維持される見込みが高い。

(3) 安全保障、格差是正、台湾併合への取り組み強化

個別の政策分野については、以下の3点が注目される。

第一に、国内治安と対外安全保障の重視である。今回の政治報告では、前回大会のそれとは異なり、「国家安全保障の体系と能力の現代化を進め、国家の安全保障と社会の安定を断固として守る」ことを謳った項目が新設された。そこでは、中国語の「安全」の言葉が頻出している。

第二に、「共同富裕」による格差是正、これを念頭に置いた民生と社会保障の拡充である。同じく、前回報告にはなかった分配に関する説明項目が設けられ、「分配制度は、共同富裕を促進する基礎的な制度である」ことが明記された。

第三は、台湾政策の強硬化の兆しがみてとれる。台湾問題に関する政治報告の書きぶりは、従来に比べて統一への意欲と決意をより大胆に示している。いわく、「台湾は中国の台湾である。台湾問題の解決は、中国人自身の事柄であり、中国人によって決定される」「国家の統一と民族復興の歴史の車輪は、ぐんぐんと勢いを増して進んでおり、祖国の完全統一は必ずや実現しなければならず、また必ずや実現できる!」、と。

(4) 指導者としての政治的こだわり

政治報告では、習近平の個人的思い入れを感じさせる記述も散見される。ひとつは歴史教育の重視であり、いまひとつは政治の師である毛沢東への尊敬、および毛沢東と同格のリーダーを目指す強い意志である。

前者に関し、民族主義的マルクス主義者にして文化的保守主義者でもある習近平は、歴史教育をとくに重視している。一般民衆には「党史、新中国史、改革開放史、社会主義発展史の宣伝教育」を、党員・幹部には「党史学習教育」を、軍人には「軍史学習教育」の徹底をそれぞれ指示している。自身の統治実績のひとつに、2021年の党創設百周年に際し習近平の肝いりで建設された歴史博物館「中国共産党歴史展覧館」の名前を挙げたことも、そうした信条の表れであろう。党大会の閉幕直後には、新任の常務委員を引き連れて革命聖地である陝西省延安を訪問し、1945年の7回党大会や毛沢東の旧居などへの表敬参観も行った。

後者について、習近平は、同じくみずからの功績として、中国共産党が「自己革命という治乱盛衰の歴史の周期律を抜け出すための2番目の答案を探し当てた」ことを指摘した。これは、汚職撲滅と綱紀粛正の政治キャンペーンの推進を意味している。ここで「歴史の周期律」と呼ばれるものは、1949年の中華人民共和国建国前後における毛沢東の発言に由来する。こうした歴史的背景を考慮すると、上述した習近平の発言には、中華人民共和国史上、毛沢東に次ぐリーダーとして自身を位置づけるとともに、将来的には党主席の肩書と正統イデオロギーとしての「習近平思想」の名称といった毛沢東と同格の地位と権威を獲得しようとする意欲がみてとれる。

党規約改正をめぐる動き――「名」より「実」の優先

前後の状況から推察すると、今次大会での党規約の改正にあたり、習近平は当初、自身の個人集権に向けて2段階の政治戦略を狙っていたように思われる。すなわち、まずは最善の選択肢として①党主席制の復活、②「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」という現行の長い名称から「習近平思想」への短縮化、③「領袖」の指導者称号の獲得を目指した。だが、それが困難とみるや、「二つの確立」(習近平同志の党中央の核心・全党の核心としての地位を確立し、習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想の指導的地位を確立するとの意味)の挿入という次善の策で妥協しようとした。

しかし、いざフタを開けてみれば、新たに採択された党規約には、上記3点セットはおろか「二つの確立」もなく、「核心」と「新時代の中国の特色ある社会主義に関する習近平の思想」の用語がこれまでどおり維持された。集団指導体制と個人崇拝禁止の規定も変わっていない(党規約第10条第5項、同第6項)。これは、習による「七上八下」(党大会開催時での68歳以上の定年慣行)の打破や政権への居座り、大会中に生じたいわゆる「胡錦濤退出事件」などに対する党内の潜在的な不満や不安の広がりに一定程度配慮した結果であろう。

だが習近平は、上記の3点セットを決して諦めたわけではない。今大会では、権威の「名」の部分(習近平思想と領袖)については先送りして譲歩する代わりに、権力の「実」、すなわち総書記3期目以降の「時間」と指導部の「人事」の確保に成功した。

また、「二つの確立」は入らなかったものの、「『四つの意識』(政治意識、大局意識、核心意識、看斉意識)を強化し、……『二つの擁護』(習近平総書記の党中央の核心・全党の核心としての地位を擁護する、党中央の権威と集中統一領導を擁護する)を徹底する」とのフレーズが新たに付け加えられた。習近平の権力と権威の強化の面で、「二つの擁護」や「四つの意識」は、「二つの確立」と同様の効果を十分に発揮しうる。屋上屋を架するような政治的術語を連ねてイデオロギー的明晰性を失わせるよりも、当面の間、「名」は現状維持でよいとの判断に至ったのではなかろうか。

実際の政治的帰結においても、習近平は3期目の5年間、あるいは4期目の10年間という時間を得た。この間に、習近平思想と領袖への名称変更に合わせて、党主席に就任することも決して不可能ではない。

指導部人事の特徴――習近平による他派閥の徹底排除
(1) 中央政治局常務委員

第20期の常務委員人事を一言で表現すれば、非習近平派の一掃であり、中国語でいう「粛清」の言葉がふさわしい。鄧小平が重視した集団指導体制は、党規約の文言には残ったものの実質的に終焉したといってよい。今後は、習近平の独裁化の傾向が強まることは避けられないであろう。

新たに選出された常務委員は、表2に示した7人(平均年齢65.3歳)である。彼らは、①地方指導者時代からの長年の部下を含む、習近平に政治的に近しい新任者(李強、蔡奇、丁薛祥、李希)、および②第1~2期政権での過去10年間の働きぶりが認められた留任者(趙楽際、王滬寧)の2つに大別される。①に分類される李強と丁薛祥は、習近平の地方指導者時代の秘書であった経歴を有する。その統治手腕を疑問視する声の多い北京市トップの蔡奇や、上海のロックダウンで住民の不興を買った李強が指導部入りしたことは、適材適所の原則や庶民の実感に反してまでも自分の政治的意志を貫徹しようとする習近平の断固たる意志を示している。習近平への個人的忠誠心が第一の選任基準であり、派閥間のバランスや官僚政治家としての実務能力、専門性が考慮されたとは言い難い。

表2 第20期中央政治局常務委員(年齢は2022年時点)

表2 第20期中央政治局常務委員(年齢は2022年時点)

(出所)筆者作成

また、前任の常務委員のうち、栗戦書(72歳)と韓正(68歳)がポストを外れた。68歳の年齢制限が適用されたとみられる。一方、67歳であったにもかかわらず、李克強と汪洋の2人は中央委員にも選出されず、引退を余儀なくされた。常務委員への昇格が見込まれていた胡春華(59歳)は、中央委員にはとどまったものの政治局委員に残留できず、事実上の降格処分となった。

ポスト習近平の後継候補という観点からみると、常務委員7人のうち、趙楽際、王滬寧、蔡奇、李希の4人は、年齢的に次回党大会が開催される2027年に引退する見込みである。5年後に68歳となる李強は微妙な立場にある。年齢の要素だけでいえば、李強と丁薛祥が後継レースで一歩リードする形となった。有力候補の一人と目される陳敏爾は常務委員に昇格できず、やや後退した。

だが習近平は、現時点で後継候補を確定していないと思われる。3期目だけでなく4期目の留任も視野に入れながら、党のトップとして可能な限りの長期化を目指しつつ、同時に今後5~10年間かけて後継候補の育成と見極めを行うつもりであろう。

(2) 中央政治局委員

計24人の第20期政治局委員(平均年齢50.8歳、第19期政治局委員より1人減)のうち、既述の常務委員(7人)を除く17人の顔ぶれは表3のとおりである。このうち、李鴻忠、張又侠、陳敏爾、黄坤明の4人が19期からの留任者である。

表3 第20期中央政治局委員(表2の常務委員を除く)

表3 第20期中央政治局委員(表2の常務委員を除く)

(出所)筆者作成

政治局委員の構成をみると、年齢、ジェンダー、派閥、専門性といった特徴について次の5つが指摘できる。

第一に、習近平(69歳)だけでなく、王毅(68歳)と張又侠(72歳)が「七上八下」の例外措置を受けた。68歳以上のベテランとして外交と軍事の専門家を配したことは、この2つの政策分野を習近平が重視しているという意図がみてとれる。それはまた、人事における年齢条件の機械的適用をやめ、人物本位で登用や昇進、引退を決めるやり方(「能上能下」という)への転換に向けたサンプル的意味合い――それが真実の理由か否は別にして――もある。他方、すべての政治局委員のうち68歳以上は習近平、王毅、張又侠の3人で、習を除くと政治局委員全体の1割未満となることから、幹部引退の年齢的目安として、「七上八下」の線引きはなお基本的な効力を有しているとみられる。

第二に、次回党大会の開催が見込まれる2027年時点で60歳台前半の者が、丁薛祥(常務委員兼任)のほかに7人いる。すなわち、尹力、劉国中、李幹傑、李書磊、張国清、陳吉寧、袁家軍である。これらの人々も、ひとまずは習近平の後継候補群といえよう。

今次大会では、将来の指導部入りを目指す1970年代生まれの若手指導者たちの中央委員会入りも注目されたが、彼・彼女らは概して中央候補委員のランクにとどまった(表4)。2027年頃には、習近平の地方指導者時代からの部下たちも、その人的ストックが尽きる。習近平の4期目政権の成立も予想されることから、1970年代生まれの指導者集団についても今後の動向に注意を払う必要がある。

表4 1970年代生まれの主な中央候補委員

表4 1970年代生まれの主な中央候補委員

(出所)筆者作成

第三に、20期政治局委員のなかには、女性が1人もいなくなった。2002年以来、過去20年間にわたって維持され、第2期胡錦濤政権では2人に増えた女性の政治局委員のポストが消滅した(16期1人、17期1人、18期2人、19期1人)。ジェンダーバランスへの政治的配慮という時代的・国際的潮流に逆行する動きといわざるを得ない。

第四に、派閥分布をみれば、常務委員と同じく、政治局委員についてもほぼ全員が「習近平派」といってよい。表3のうち、陳敏爾、何立峰、李鴻忠、黄坤明の4人は、習近平の政治的クローニーであり、何立峰は、経済専門家としての能力はもちろん、しかしそれ以上に、福建省アモイ市時代以来の長年にわたる習近平への忠誠と奉仕が評価されたものと思われる。

これに対し、胡錦濤に連なる共産主義青年団系列のめぼしい人物では、先述の胡春華をはじめ周強(62歳、最高人民法院院長)や陸昊(55歳、国務院発展研究センター主任)が、中央委員に名前を残すくらいである。

第五に、常務委員を除く17人の職務履歴上の専門性をみると、外交(王毅)、軍事(張又侠)、治安・情報(陳文清)のほかに、①「科学技術、ハイテク産業、軍民融合」人材(航空・宇宙や兵器産業の大型国有企業出身者、科学技術の振興や「軍民融合」政策の担当者3人――馬興瑞、張国清、袁家軍)、②「国民生活の質的向上と広義の環境保護」人材(生活に密接に関連し、人々の関心の高い社会政策分野、例えば、自然保護・原子力安全など広義の環境保護、公衆衛生・食品・医薬品の専門家3人――尹力、李幹傑、陳吉寧)、③「学者官僚」(2人――石泰峰、李書磊)の3種類の人々がいる。一見したところ、経済の改革と成長を担ってきた人材が見当たらない。

習近平の個人独裁の可能性

本文執筆時点(2022年11月11日現在)で、20回党大会の閉幕から約3週間が過ぎた。改めて思い返してみれば、今回の大会は、過去に例のないほど中国市民の間での政治的高揚感が小さかった。むしろ、習近平の個人独裁に反対する抗議の横断幕にみられるように、指導部内の集団指導体制が実質的に終焉し、単独意思決定者としての習近平の存在感が増したことに対する、社会の陰鬱な雰囲気が感じられた。

筆者のみるところ、今後、指導部内では、①習近平と他の常務委員・政治局委員の関係が一種の「君臣関係」へと変質する、②政治的意思決定を習近平が独占することで、習以外の常務委員と政治局委員との差が縮小し、「その他大勢」の横並び化が進むことが予測される3 。ここで君臣関係というのは、必ずしも印象論の言葉ではない。

実際、トップリーダーとサブリーダーの関係について、中国共産党史では、前近代的な政治の表現形態がしばしば現れた。例えば、毛沢東と周恩来以下の他の指導者は〈専制君主とその従僕〉のごとき関係であった。毛沢東のもとで長らく中央弁公庁主任を務めた楊尚昆の毛沢東に対する尊称は、日本語で主人や主君を意味する「主」「主座」「主公」であり4 、そこでは共産党人のあるべき「同志的関係」が「伝統的な『君臣関係』への置き換え」られていた5 。同様に、習近平と丁薛祥との間でも、長年、上司-秘書の関係が続いている。

鄧小平と他の「八大元老」との関係においては、鄧小平は、党員・幹部の履歴の長さなどから、とくに「陳雲と李先念に一目置いて」6 、朋輩である両者の意見や立場を尊重しつつ、〈有力諸侯に対するその筆頭者〉のように、1989年の天安門事件前後における重要な意思決定を行った。

こうした独裁者・亜独裁者の前例をみると、大規模で仮借なき暴力の発動を含む最高指導者の意思決定とそれをめぐる副官たちの関係性は、1949年以降の中華人民共和国の歴史や1921年以来の百年に及ぶ中国共産党史をも超えて、前近代の王朝体制下の政治的伝統とも連続性をもつようにも思われる。

翻って今期の中央政治局のメンバーには、かつては同僚であり政治的ライバルでもあった李克強や汪洋をはじめ、兄弟分のアドバイザーであった王岐山や劉鶴、習近平より年長の官僚専門家である楊潔篪や孫春蘭のような人物が見当たらない。経歴・専門性・年齢のいずれの面でも、習近平が「一目置かなければならない存在」はいなくなった。そうした存在にいくらか該当するのは、年上だが父親の代からの友人で、中越戦争の実戦を経験した筋金入りの軍人である張又侠だけである。メンバー構成からみて、他の政治局委員や常務委員が、習近平による単独かつ排他的な意思決定、個人独裁化を掣肘することは以前に比べて困難となろう。

他方、習近平その人にとっても、個人集権の動きを停止したり緩和したりする動機に乏しい。習近平の政治認識を構成する各時間軸の基底的要素――①過去(文革での肉体的・精神的迫害に由来する基本的な人間不信)、②現在(総書記就任以来の反腐敗キャンペーンや権力闘争で失脚させた多くの者たちからの報復への恐怖)、③未来(既得権益に切り込む格差是正策や米国との覇権競争など「中華民族の偉大な復興」実現のための課題の大きさ――を考慮すれば、集権化の流れはすでに自律的・慣性的な運動のようにもみえる。

この結果、3期目以降の習近平指導部の権力関係が、上述の意味における〈毛沢東政治≒前近代的な政治的伝統〉の色合いを濃くしていく可能性は否定できないであろう。

(2022年12月2日脱稿)

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
写真の出典
  • 筆者友人提供
著者プロフィール

鈴木隆(すずきたかし) 愛知県立大学外国語学部准教授。博士(法学)。専門は政治学、中国政治。主な著作に、『UP plus 習近平の中国』(共著)東京大学出版会、2022年。『ようこそ中華世界へ』(共著)昭和堂、2022年。『アジアの平和とガバナンス』(共著)、有信堂高文社、2022年。『中国共産党の支配と権力――党と新興の社会経済エリート』慶應義塾大学出版会2012年(日本貿易振興機構アジア経済研究所 第34回発展途上国研究奨励賞)。


  1. 以下のホームページの最終閲覧日は、すべて2022年11月5日。「習近平「高挙中国特色社会主義偉大旗幟 為全面建設社会主義現代化強国而団結奮闘:在中国共産党第二十次全国代表大会上的報告(2022年10月16日)」『中国共産党新聞網』;「中国共産党章程(2022年10月22日採択)」『中国共産党新聞網』;「中共20届中央領導機構成員簡歴」『新華網』;「中国共産党第20届中央委員会委員名単」『中国網』;「中国共産党第20届中央委員会候補委員名単
  2. 本節の一部の内容は、鈴木隆「中国党大会の習近平『政治報告』」『公研』2022年11月号、112~113ページ、に基づく。
  3. 鈴木隆「考論 粛清経て習氏と『君臣関係』成立」『朝日新聞』2022年10月24日。
  4. 石川禎浩『中国共産党、その百年』筑摩書房、2021年、195ページ。
  5. 高橋伸夫『中国共産党の歴史』慶應義塾大学出版会、2021年、5ページ。
  6. アンドリュー・J・ネイサン「まえがき 『天安門文書』とその価値」張良編、アンドリュー・J・ネイサン、ペリー・リンク監修(山田耕介、高岡正展訳)『天安門文書』文芸春秋、2001年、24ページ。