アフリカにおける中国—戦略的な概観 (China in Africa)

アフリカ成長企業ファイルは2008年度~2009年度に実施した調査事業の成果です。

12.日本人投資企業への提言

アフリカにおける中国の経済的関与が教える基本的な教訓は、欧米企業が主に自分たちの株主に対して説明責任をもっているのに対し、中国企業は一義的には中国政府、より明確には中国共産党に対して説明責任をもっているということである。この点に、ビジネスはどのように遂行され、どのようなルールを適用すべきかに関する、考え方の相違が生まれる。中国の大企業では、意思決定の過程において利益は最大の動因ではない。それは安価な原材料と消費市場への政治的アクセスなのであり、政府金融機関の助けを借りて国々における資源アクセスを独占し、中国への資源供給を確実なものにすることなのである。中国共産党の絶対的政治権限が中国の主要企業トップの意思決定に優先するか、少なくとも影響を与えるのである。

政府的な国家安全保障上の考慮が投資決定を支持するならば、たとえそれが欧米企業からみて採算がとれず高額に過ぎたとしても、中国企業は喜んで高価格を提示し政治プレミアムを支払って、エネルギー案件や開発案件をとりまとめる。アフリカに進出する中国の国有企業は、政府から制度的支援を受けることによって、不安定なアフリカ市場へ参入するリスクの分岐点を下げているのである。

欧米企業にとってその挑戦はより深刻である。競合相手は中国企業だけでなく、アフリカのエネルギー資源分野で事業展開する中国企業に大いに優位性を与えている政府系の政治経済組織の集合体と競争しなければならない。ある意味で欧米企業は、中国企業というより、国家の政治的経済的な組織力と対峙しているのである。

それゆえアフリカに進出する日本企業は、中国の投資努力に見合うような包括的アプローチを、投資決定において求められるだろう。第一に、経済的政治的事柄について民間セクターと国家のあいだの緊密な調整と協働が必要になるだろう。考慮されるべきは、国家が経済的政治的パッケージを作り上げてレバレッジを効かし、民間企業が持ち込む投資案件を飲み込みやすくすることである。欧米企業は、ほとんどのアフリカ諸国において新規のエネルギープロジェクトや鉱業プロジェクトを支えるインフラが欠如していることについて、しばしば不満を漏らしている。中国は、鉱業プロジェクトに対し投資するだけではなく、そこで必要なインフラのネットワークを構築して鉱業を支援することで、こうした問題を解決しようとする。さらに資金援助、政治的な盛り上げなどを行って、取引が対象国にとって魅力的なものになるよう演出する。

その他日本企業の検討材料として、考慮に値するものを次に挙げる。

  • 悪しき部分は別として、中国のアプローチの成功している要素を模倣する
  • アフリカ諸国に対するビジネスのアプローチは、並行して政治的アプローチを行うことが必要である。成功を収めたビジネス取引をみると、製品の品質だけではなく、交渉相手や合弁パートナーの選択が鍵を握る
  • すべての事業計画は、研修、教育、科学技術開発を通じた市民社会支援を含んでいなければならない
  • 誰とコンタクトをとるか、ロビー活動を誰に対して行うか、誰に売り込むかを見極めるため、優れたビジネスインテリジェンスのプラットフォームが必要である。中国人は、この点でたいへん成功している。
  • 現地メディアとの関係構築は重要であり、広告会社との関係も欠かせない。広報の観点のみならず、中国企業の不透明な行動や不効率なシステム、ハードウェアやソフトウェアの欠陥を公に知らしめることができる。事前に知識を公にしておかない限り、自分たちには分からない技術についてアフリカのリーダーに正しい決定をさせることは、ほとんどの場合困難である。
  • 海外の投資者にとって、非常に高いレベルで投資対象国と交渉することは常に重要である。政府系企業や現地の民間JVパートナー候補との交渉に注力する前に、パワーエリートを取り込む必要性がある。新たな投資事業のビジネス面を追究する前に、トップの意思決定者たちの関心をひきつける必要がある。

海外投資プロジェクトをグローバルな経済、軍事、政治目標全体に統合する、新たな中国ビジネスモデルの登場は、その他の国の企業にはないインセンティブのパッケージをもっている。

中国以外の事業者がアフリカにおいて直面している課題は、中国企業のビジネスプランを理解するというだけではなく、それが中国国内の開発計画とどのように連携しているかを理解しなくてはならないことである。中国のニーズは、消費者と軍事、高度技術の獲得、中国のグローバル覇権への展望にも関連しているのである。

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