アフリカにおける中国—戦略的な概観 (China in Africa)

アフリカ成長企業ファイルは2008年度~2009年度に実施した調査事業の成果です。

2. 中国の資源獲得の必要性とアフリカの関係

1980年代と1990年代に中国政府によって試みられた経済構造の基礎改革は、本質的に停滞していた農業中心の経済を、日米に次ぐ世界第三位の急成長経済に変容させた。1980年代以降の中国は、毎年8%以上の平均経済成長率を維持してきた。

中国の経済成長の力強さは、石油の輸入需要の増加に見てとることができる。1993年には同国は石油の純輸入国になり、2003年には日本を追い越して米国に次ぐ世界第2の石油消費国になった。1978年と2000年の間、中国におけるエネルギー需要は年率4%で増加した。しかし、2001年以来需要は毎年の経済成長を追い越し、年間13%に急上昇した。中国は2008年に、概算で日量780万バレル(bpd)の石油を消費した。一方で同年の石油生産量は、概算で合計わずか400万bpdにすぎない。そしてそのうち96%は原油であった。中国の純石油輸入は2008年におよそ390万bpdあり、米国と日本に次いで世界で3番目に大きい純石油輸入国であった。中国の石油消費量は2009年と2010年に引き続き増加し、2010年には石油需要は820万bpdに達するとEIAは予測している。2008年と2010年のあいだに39万bpd以上と予期される増加は、2009年7月の短期的エネルギー展望によると、当該2年間の非OECD諸国において計画された世界の石油需要の増加の、31%に相当する。10月6日にダウ・ジョーンズ商品ニュースサービスはComex(ニューヨーク商品取引所)市況を引用して、中国の2010年第1四半期における石油消費量が83億6千万バレルに達するだろうと伝えた。ちなみに米国の原油消費量はおよそ2100万bpdである。

驚くべきことではないが、中国は石油調達を「国家のエネルギー需要を満たすためにすべての国家資源を使用することは国家安全保障上の問題」と考えている。中国が直面している潜在的なエネルギー危機の徴候は、2004年の2700万台から2030年に概算3億台までと予想される国内の自動車増産計画に例証される。2030年までに中国は「需要を満たすためにサウジアラビア規模の石油供給国を必要とするだろう。そして、それですら控えめな査定かもしれない」という。

China's Oil Production and Consumption 1986-2006

中国における莫大なエネルギー需要は、製鉄および関連金属製品製造に代表されるエネルギー集約型産業に中国経済が依存するようになったことにより、大方説明がつく。中国の産業は総エネルギーの70%を消費し、家庭消費が10%、輸送7%、そして商業が2%で続く。エネルギー消費量も高いが鉱工業生産はまた、労働集約的でエネルギー消費量の少ない繊維産業や電子/コンピューター機器・製品業界に比較して、利幅も最大である。それらの産業は、世界各地に多くの製品を出荷するだけでなく、現在、人口の39%以上を占めてさらに増大する都市人口、およびそれを支援するインフラならびに建設も支えなければならない。

その結果、中国は、世界の生産高シェアの34.6%を占める世界第1の鉄鋼メーカーおよび輸出者となっている。鉄鋼単独では、中国のエネルギー消費の16%を占める(重工業の合計は総消費量の54%である)。

家計所得の増加に寄与した産業基盤の成長によって、中国は、より多くの原料資源および輸出市場の両方を必要としている。中国は、現在、世界の燃料および鉱業製品の20%を輸入している。また、世界最大の石炭の生産者および消費者、鉄鉱石の世界最大の輸入者、粘結炭の世界で最大の輸入者でもある。中国は米国を抜き、総じて原料の世界最大の消費者となった。

[注:中国国土資源部によると、2010年までに国内原油生産は需要の50-55%しか満たすことができなくなり、その割合は2020年までに34-40%まで低下するという。鉄の国内生産も2010年までは38%の需要を満たすが、2020年までに29%になる見込みである。2010年と2020年までに、石炭の不足がそれぞれ2億5000万および7億トンに達するだろうと推測される。したがって中国は、今後の不足を充足するためにアフリカに目を向けているのである。]

2.1. 外交政策の中枢勢力

David ZweigおよびBi Jianhai(華建海)は「中国のグローバルエネルギー調達戦略」(『フォーリン・アフェアーズ』2005年9月/10月号)の中で、中国の外交政策は急成長する国内経済の成長経路を満たすために、円滑で中断されない原料輸入ルートを確保するという国内政策の、喫緊の課題を実現しなければならなくなったと述べている。中国はこれを、石油、ガスおよびその他の資源を産出する諸国と探査・供給契約を締結するよう、国有企業を奨励することによって行ってきた。同時に北京は、外交、取引協定、債務放棄および援助と安全保障のパッケージ(欧米諸国で見られない効果的な組み合わせ)によって、積極的にそれらの諸国政府の支持を得ようとしている。

中国の外交政策は、経済成長のもうひとつの側面(国際競争力を強化し成長の質を転換すること)に影響を受けている。2001年の世界貿易機構(WTO)加盟と、民間企業を通じた積極的なビジネス獲得戦略の確立以来、中国は国際的な舞台で多国籍企業の成長を支援している。目標は、国内消費を増加させ、輸出主導型成長の制約を緩和することである。このためには世界市場に乗り出す必要がある。

積極的なビジネス獲得戦略は、国内の優良国有企業30-50社に対し専門的技術とノウハウ開発に役に立つ政府の便益を提供し、中国の比較優位を活用して重要な投入要素へのアクセスを獲得して海外の新市場を開き、グローバルな中国ブランドを創造して、中国が輸出主導型の開発に過剰に依存することのないようにする。

この方針の重大な構成要素は、民間市場を通さずに資源を確保することにある。これは、相手国と長期的な供給契約を確保し、供給元から中国内の最終ユーザーまでのサプライ・チェーンを管理することによって達成される。

(政府の政策に支持された)中国の銀行は、国外に投資して開発する事業を促進してきた。中国のアフリカにおける外交政策の大半は、上に概説した戦略を反映してきた。例えば、アフリカに投資する事業を快く支援する、50億ドルの中国=アフリカ開発資金(CADF)の設立は、国内消費の拡大に基づく経済成長への移行に経済的焦点を当て始めた証拠である。本土外に投資する中国の事業はSinosure(中国輸出信用保険公司)の設立によって援助されてきた。同公司は、中国企業が市中銀行からより低利のローンを得るのを支援するために輸出信用保険を提供し、そして中国輸出入銀行と中国開発銀行(CDB)からの低利融資獲得を可能にする。実際、アフリカに対する国外直接投資(FDI)は、2003年と2004年のあいだに327%増加し、現在、900以上の中国企業がアフリカ大陸で操業している。

中国の外交政策の最終決定要素は外交目標である。ふたつ目標が発表されている。すなわち、「ひとつの中国」政策を支持し台湾を孤立させることと、国際関係における米国の覇権に対抗してバランスをとることである。「欧米諸国に対する反帝国主義者の均衡勢力」としての役割において、中国は低所得者層の多い資源大国と外交関係を結び、多くの必要な資源を中国に流入させている。ここで、アフリカは再び重大な役割を果たす。

中国の外交上の広がりに対する第2の側面は、「民主主義移行以前に経済成長を目指すモデル」(中国モデル)という、開発途上国における新たな開発モデルを慫慂することである。

2007年にワシントンDCで開催されたアフリカ・中国・米国三者対話においてYang Guang教授が説明したように「改革、安定、開発のあいだにバランスがなければならない。‥‥民主化は開発の必須条件であるべきではない」。代わりに、これは、諸国が自らの固有の条件に当てはまるモデルを求めることを可能にしている。つまり内政不干渉政策の提唱である。

アフリカでは、この外交攻勢は中国=アフリカ協力フォーラム(FOCAC)や中国=アラブ協力フォーラム(CACF)のような機関によって提供される政治的枠組みにより、ある程度の首尾一貫性を与えられる。FOCACは2000年10月に設立され、中国がアフリカと作り上げた新しい政治的な取り決めを象徴するものになった。その体制には、重大な外交政策における新たなコンセンサスとして、中国の資源獲得への地政学的戦略、および欧米諸国が強い影響力を有する現在の経済世界の秩序に対する変更要請もみられた。

これらには、諸国間の双務的関係の基礎として「非干渉」の確認、そして急進的イスラム主義への対処、債務免除、関税障壁の削減、出入国管理、平和維持任務、そして国際通貨基金(IMF)や世界銀行のような多国間機関の判断を支配する「ワシントン・コンセンサス」への挑戦を含んでいる。

中国の積極的なビジネス獲得方針のなかで、アフリカ大陸に対する経済的影響を強化するため、CADFおよび中国=アフリカ・ビジネス会議(CABC)のようなアフリカの開発問題を扱う特定の機関が、この包括的な方針構成に組み込まれている。これらすべては、国家改革発展委員会(NDRC)および中国共産党(CCP)中央対外連絡部(ILD)によって、国家安全部(MSS)、および中国の巨大銀行にリンクし、それらを統括する商務部(MOFCOM)のような機関と協力して調整され、アフリカへの相乗効果のアプローチを支援している。これらはすべて、アフリカの市場に侵入する中国国有企業に大きな制度上の支援を提供する。

この外交攻勢を支えるのは中国の「不干渉」原則(開発途上国の国々と中国の取り決めの基礎)である。中国は、欧米諸国が支持できない政権とも、これによって取引をすることができる。中国の戦略によってアフリカ大陸の腐敗した政権は、固定資本投資の流入のない天然資源の大量採掘によりレント経済を構築し、体制変革への圧力をかわすことができるようになる。これはとくに、コンゴ民主共和国(DRC)のような国に妥当する。そこでは鉱業部門に最小の固定資本投資がなされ、採掘された資源は中国で加工される。

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