発展途上国研究奨励賞

第38回「発展途上国研究奨励賞」(2017年度)受賞作品

ジェトロ・アジア経済研究所は、1963年以来、発展途上諸国の経済などの諸問題に関する優秀図書、論文の表彰を行ってきました。1980年度に創設された「発展途上国研究奨励賞」は、発展途上国に関する社会科学およびその周辺分野における調査研究の優れた業績を評価し、この領域における研究水準の向上に資することを目的としています。

今回、選考の対象となった作品は、2016年1月~12月の1年間に公刊された図書、論文など開発途上国の経済、社会などの諸問題を調査、分析したものです。大学や出版社等から推薦された35点の中から次の1点が受賞作品として選定されました。

岡田 勇氏 左は佐藤理事

岡田 勇氏 左は佐藤理事

講演中の岡田 勇氏

講演中の岡田 勇氏

表彰式は7月3日(月曜)に、ジェトロ・アジア経済研究所にて開催されました。

第38回(2017年度)受賞作品

資源国家と民主主義――ラテンアメリカの挑戦――

『 資源国家と民主主義――ラテンアメリカの挑戦―― 』(名古屋大学出版会)
著者 岡田 勇(名古屋大学大学院国際開発研究科 准教授)
(著者の所属・肩書は書籍刊行時のものを表示しています)

受賞の言葉(岡田 勇氏)

このたびは、第38回発展途上国研究奨励賞の受賞という身に余る光栄に浴し、誠にうれしく思っております。選考委員の先生方、大学院時代の恩師の先生方、ご支援・ご助言いただいた皆さま、そして名古屋大学出版会の三木信吾さんに厚く御礼を申し上げたいと思います。

本作で取り上げた石油・天然ガス・鉱物資源の価格高騰は、2000年代の最も重要な出来事の1つでした。人類の歴史に与える意義の大きさを考えると、未だこの点は過小評価されていると思います。1990年代初頭の冷戦終結は、グローバル経済の拡大を生み出し、あまたの発展途上国についての研究がその可能性と問題について論じてきました。しかし、それらはおそらくまだ前哨戦に過ぎませんでした。中国などの新興経済が爆発的な成長を見せ、本格的にグローバル経済に参入し始めると、天然資源の需給がひっ迫し価格高騰が起きました。問題は、この価格高騰がもたらすインパクトにあります。今後、ますます多くの発展途上国がグローバル経済の中で重要な役割を果たす中、何度もコモディティ価格の高騰が起きると思います。私たちは、このインパクトについてどれくらい分かっているでしょうか。

本書は、様々な角度から、資源価格の高騰がラテンアメリカの国々にもたらしたインパクトを明らかにしようとしたものです。本書の前半ではラテンアメリカ地域全体について論じ、後半ではペルーとボリビアという2か国を取り上げています。主な論点は次のようなものです。まず資源価格の高騰に対する決定や行動は政治的なものであったこと、それらはしばしば外部の専門家の目からは非合理的に見えるもので、全体として資源開発そのものは不確実な状況に置かれたことです。しかし、一見すると非合理的に見える決定や行動ですが、それぞれの国の歴史的文脈に置くとそれなりに理解できるものです。様々な場面で、資源部門が生み出す莫大な利潤をどう分配するかや、資源開発に伴う不利益をどう処理するかといった問題が生まれました。資源生産国の人々は、そうした問題に対して彼らなりの行動や決定を行ったように思われます。

今後、資源価格が再び高騰する時、何が起きるでしょうか。この問いに答えるためには、2000年代の経験をよく理解する必要があります。この研究分野にますます多くの研究者が関心を持ち、より多くが解明されることを願っています。

略歴

1981年 愛知県生まれ
2010年 筑波大学人文社会科学研究科より博士(政治学)取得。
在ボリビア日本大使館専門調査員(2010~2012年)、筑波大学特任研究員(2012~2013年)日本学術振興会特別研究員PD(2013~2014年)を経て、2014年11月より名古屋大学国際開発研究科准教授

主要著作

最終選考対象作品

最終選考の対象となった作品は受賞作品のほか、次の2点でした。

  • 『胎動する国境――英領ビルマの移民問題と都市統治――』(山川出版社)
    著者 長田 紀之(ジェトロ・アジア経済研究所 研究員)
  • 『津波被災と再定住――コミュニティのレジリエンスを支える――』(京都大学学術出版会)
    著者 前田 昌弘(京都大学大学院工学研究科建築学専攻 助教)

選考委員

委員長
田中 明彦(政策研究大学院大学学長)

委員
高原 明生(東京大学法学部・大学院法学政治学研究科教授)
大橋 英夫(専修大学経済学部教授)
遠藤 貢(東京大学大学院総合文化研究科・教養学部教授)
栗田 禎子(千葉大学文学部教授)
白石 隆(ジェトロ・アジア経済研究所長)