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アジア経済研究所
発展途上国研究奨励賞

発展途上国研究奨励賞

第42回「発展途上国研究奨励賞」(2021年度)受賞作品

ジェトロ・アジア経済研究所は、1963年以来、発展途上諸国の経済などの諸問題に関する優秀図書、論文の表彰を行ってきました。1980年度に創設された「発展途上国研究奨励賞」は、発展途上国・新興国に関する社会科学およびその周辺分野における調査研究の優れた業績を評価し、この領域における研究水準の向上に資することを目的としています。

今回、選考の対象となった作品は、2018年10月~2019年9月の1年間に公刊された図書、論文など発展途上国・新興国の経済、社会などの諸問題を調査、分析したものです。大学や出版社等から推薦された37点の中から次の2点が受賞作品として選定されました。

第42回(2021年度)受賞作品

書籍:経済発展における共同体・国家・市場-アジア農村の近代化にみる役割の変化

経済発展における共同体・国家・市場――アジア農村の近代化にみる役割の変化』(日本評論社)

著者 加治佐 敬(青山学院大学国際政治経済学部教授)

書籍:試される正義の秤-南アジアの開発と司法

試される正義の秤――南アジアの開発と司法』(名古屋大学出版会)

著者 佐藤 創(南山大学総合政策学部教授)

表彰式は7月1日(木曜)に、オンラインで開催されました。

写真:講演中の加治佐 敬 氏

(講演中の加治佐 敬 氏)  

写真:講演中の佐藤 創 氏

  (講演中の佐藤 創 氏) 

受賞の言葉(加治佐 敬 氏)

この度は,発展途上国研究奨励賞という歴史ある賞をいただき誠に光栄に存じます。研究所の関係者の方々,そして賞の選考にあたられた委員の先生方,選考に貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。また,これまで研究を支えてくださった先生方,共同研究者の方々,出版の労を取っていただいた日本評論社の方々にも厚く御礼申し上げます。

本書は,日本を含めたアジア農村の事例に基づき,経済体制における3つの主要な組織,すなわち共同体・国家・市場がどのように役割分担を調整してゆくのが持続的発展のために望ましいのかという課題を検討しています。既存の理論や主張を参照点としながら本書の特徴をまとめると,以下の4点になります。

第一に,3つの組織のなかでも特に共同体の可能性と限界をテーマの中心に据えている点です。なぜなら,国家と市場の役割分担に関してはすでに経済学において公共財の理論や「市場の失敗」の理論が充実している一方で,共同体と国家もしくは市場の役割分担に関する議論は十分に行われてこなかったからです。

第二に,その共同体を扱う際に,役割の限界を中心に扱っている点です。最近の潮流は,共同体の機能を積極的に評価する研究が中心でした。このことは,開発戦略において共同体への過度の期待を生み出すことにもなりました。それに対し本書は,近代化に伴い農村人口の減少や職業の多様化が進むことにより共同体の機能にも様々な面において限界が現れてくることを指摘します。

第三に,しかし,そのような局面においても,国家や市場が補完的役割を果たすことで,農業の停滞や格差の拡大といった問題を回避し,持続的な発展が可能となる方途を示すことを試みました。

第四に,3つの組織の役割分担を動態的にとらえている点です。分析においては,近代化という時間の座標軸に加え,対象とする財の性質という座標軸,さらには地域の社会構造という座標軸の広がりのなかで対象とする経済活動の位置が動態的に変化することに合わせて役割分担を更新してゆくことの大切さを指摘しました。このような動態的な分析は,様々な発展段階にあるアジアの国々(日本,フィリピン,インド,中国)の村落における2つの重要な活動,すなわち灌漑の維持管理と労働慣行を扱い,それらを統一的に分析したことで可能になりました。

共同体の限界と役割分担の変化に関する理解を深めることは,多くの途上国で共同体が急速に変容してゆくなか,ますます重要になってくると思われます。本書には,まだ改良しなければならない点,扱えなかったテーマが多く残されております。今回の受賞を励みにこのテーマに関し研究を続けてゆく所存です。そして,研究成果が最終的には途上国の現地の人々の生活の向上に結びつくことを願ってやみません。

<加治佐 敬 氏 略歴>

1999年 ミシガン州立大学農業・食料・資源経済学研究科
Ph.D.(Agricultural Economics)。
世界銀行コンサルタント,国際開発高等教育機構(FASID)ファカルティフェロー,政策研究大学院大学(GRIPS)連携准教授,国際稲研究所(IRRI)主任研究員などを経て,2012年より青山学院大学国際政治経済学部教授。

<主要著作>
  • The effect of volumetric pricing policy on farmers’ water management institutions and their water use: the case of water user organization in an irrigation system in Hubei, China, World Bank Economic Review, 2017(共著).

受賞の言葉(佐藤 創 氏)

このたび,第42回「アジア経済研究所発展途上国研究奨励賞」を賜り,誠に光栄に存じます。選考委員の先生方ならびに関係者の皆様に,心より御礼申し上げます。

本書は,南アジア諸国に根付いている「公益訴訟」と呼ばれる訴訟群の展開と変容について研究したものです。対象としては公益訴訟の先発国であるインドを中心に,パキスタン,バングラデシュ,スリランカ,ネパールの南アジア5カ国を取り上げています。

インド公益訴訟は,債務労働に苦しむ人々など,字も読めないような社会的弱者層に正義をもたらす運動として最高裁判所が1970年代後半から展開したものです。世界的にも他に例をみない司法積極主義として広く耳目を集めました。この公益訴訟について,従来は,弱者層のために行動する司法といった捉え方が有力でした。ところが,1980年代後半以降,環境問題や消費者問題などに対象が広がり,また,2000年代に入ると,弱者層の利益に反するような例も散見され,従前の理解では十分とはいえないのではないか,という問題意識から本書の研究は出発しています。

具体的には,制度変化という観点から公益訴訟の再検討を試み,公益訴訟が集中的に現れている,憲法により基本権を擁護する手段として上位裁判に与えられたイギリス由来の令状管轄権という制度に着目し,その歴史的変化を辿りつつ検討を加えることになりました。その結果得たひとつのパースペクティブは,公益訴訟には,声なき声を可視化し,社会に存在する諸問題を取り上げる回路を豊かにして,弱者層や市民の自由の拡大に貢献しうる機能をもつという側面があるものの,令状管轄権における裁判手続の柔軟化により裁判官の恣意や時々の情意を過度に呼び込みかねない制度変化を内包しているという側面もあり,その両義性をまず認識することが肝要ではないか,というものです。

このような視角を前提にするならば,次の課題は他の制度との補完関係がこの両義性とどう相互作用してきたかを分析するということになるかと思います。ただ,この点は,どのような方法論を取るかも含めて課題が多々あり,立ち尽くしているところがありました。今回名誉ある賞をいただき,これまで悩みながら採ってきたアプローチでも発展途上国研究に貢献できることがあると暖かくお声をかけていただいたように感じています。受賞を励みとして,発展途上国の社会発展の一隅を照らすべく,今後も努力を続けてまいります。

<佐藤 創 氏 略歴>

1997年早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。
2009年ロンドン大学SOAS経済学研究科博士課程修了,Ph.D.
日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員を経て,2018年より南山大学総合政策学部教授。

<主要著作>
  • 『インドの公共サービス』アジア経済研究所,2017年(太田仁志と共著)。
  • The Emergence of ‘Modern’ Ownership Rights Rather than Property Rights, Journal of Economic Issues, 52(3), pp. 676-693, 2018.

最終選考対象作品

最終選考の対象となった作品は受賞作のほか、次の1点でした。

  • 『タイ民主化と憲法改革――立憲主義は民主主義を救ったか』(京都大学学術出版会)
    著者:外山 文子 筑波大学大学院人文社会科学研究科准教授

選考委員

委員長
田中 明彦 氏(政策研究大学院大学 学長)

委員
上田 元 氏(一橋大学大学院社会学研究科 教授)
大塚 啓二郎(ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員)
栗田 禎子 氏(千葉大学大学院人文科学研究院 教授)
深尾 京司(ジェトロ・アジア経済研究所 所長)
藤田 幸一 氏(京都大学東南アジア地域研究研究所 教授)