発展途上国研究奨励賞

第37回「発展途上国研究奨励賞」(2016年度)受賞作品

ジェトロ・アジア経済研究所は、1963年以来、発展途上諸国の経済などの諸問題に関する優秀図書、論文の表彰を行ってきました。1980年度に創設された「発展途上国研究奨励賞」は、発展途上国に関する社会科学およびその周辺分野における調査研究の優れた業績を評価し、この領域における研究水準の向上に資することを目的としています。

今回、選考の対象となった作品は、2015年1月~12月の1年間に公刊された図書、論文など開発途上国の経済、社会などの諸問題を調査、分析したものです。大学や出版社等から推薦された31点の中から次の1点が受賞作品として選定されました。

瀬戸裕之氏 右は佐藤理事

講演中の瀬戸裕之氏


表彰式は7月1日(金曜)に、ジェトロ・アジア経済研究所にて開催されました。

第37回(2016年度)受賞作品
現代ラオスの中央地方関係—県知事制を通じたラオス人民革命党の地方支配

現代ラオスの中央地方関係—県知事制を通じたラオス人民革命党の地方支配 』 (京都大学学術出版会)
著者 瀬戸 裕之  名古屋大学大学院法学研究科 特任講師
(著者の所属・肩書きは書籍刊行時のものを表示しています)

受賞の言葉(瀬戸裕之氏)

このたびは、第37 回「発展途上国研究奨励賞」を賜り、大変に光栄に存じます。長澤栄治先生をはじめ選考委員の先生方、博士課程でご指導をいただいた鮎京正訓先生(愛知県公立大学法人理事長)、京都大学東南アジア研究所でご指導をいただいた河野泰之先生(京都大学東南アジア研究所長)、京都大学学術出版会の皆様、ジェトロ・アジア経済研究所の先生方に、心から感謝を申し上げます。

本書では、ラオスの地方行政と中央集権・地方分権の政治動態に焦点をあてながら、ラオス人民革命党が地方を支配するメカニズムを明らかにすることを試みました。ラオスは、内戦・革命期から現在までヴェトナムとの友好関係を保ち、党の政策、国家機構において多くの類似点がありますが、地方行政をみると、ラオスは1991 年憲法の制定とともに地方人民議会と地方行政委員会を廃止し、中央から任命される県知事を中心とする制度を導入した点が特徴です。

従来は、この制度変化の理由として財務管理の問題が指摘されていましたが、本書では、政治的な側面に焦点をあてて、1980 年代末~90年代はじめの冷戦終焉期に一党支配体制を維持するために、党中央が県知事を派遣して地方党組織を統制し、地方の治安を維持することに重点をおいた組織を形成したことを指摘しました。また、1998 年以降の地方分権化政策について、県知事にプロジェクトの提案権と小規模事業の許認可権を与えることで、プロジェクト形成過程で地方出身の党幹部が積極的に参加できる仕組みが採られていることを指摘しました。

さらに、本書では、ヴィエンチャン県という首都から最もアクセスがよい県を事例に取り上げながら、本県が、1980 年代、90 年代を通じて治安が悪く、他県に比べても党組織の形成が遅れていた点を指摘し、冷戦期に「社会主義陣営の東南アジアにおける前線基地」として位置づけられていたラオスの地政学的な特徴と、国家形成において抱えてきた困難についても明らかにすることを試みました。

一方で、対象の県以外の県との比較、1991 年の改革の要因に関するより多角的な分析など、まだ考察すべき課題を抱えており、今後、さらに研究を発展させて参りたいと思います。

<略歴>

1970年 埼玉県生まれ
1994年 新潟大学法学部卒業
2009年 名古屋大学大学院国際開発研究科より博士(学術)取得
京都大学東南アジア研究所機関研究員(2010~11年)、同研究所研究員(2012~13年)、名古屋大学大学院法学研究科特任講師を経て、2015 年名古屋大学アジアサテライトキャンパス学院・大学院法学研究科特任准教授

<主要著作>


「1991年憲法制定前におけるラオス地方議会法制の変遷——1988年地方人民議会選挙とその帰結を中心に——」『アジア法研究2015』第9号、アジア法学会、2016年。
「ラオスの中央地方関係における県知事および県党委員会の権限に関する一考察——ヴィエンチャン県工業局の事業形成過程を中心に——」『東南アジア研究』46巻1号、2008年。
「ラオスの政治制度改革における部門別管理体制に関する一考察——ヴィエンチャン県財務部の人事管理を事例に——」天川直子・山田紀彦編『ラオス 一党支配体制下の市場経済化』アジア経済研究所、2005年。

最終選考対象作品

最終選考の対象となった作品は受賞作のほか、次の2点でした。

  1. 『福祉のアジア——国際比較から政策構想へ——』(名古屋大学出版会)
    著者:上村泰裕(名古屋大学大学院環境学研究科准教授)
  2. 『パワーシェアリング——多民族国家マレーシアの経験——』(東京大学出版会)
    著者:中村正志( 日本貿易振興機構アジア経済研究所地域研究センター東南アジアⅠ研究グループ長)
選考委員

委員長
長澤 栄治 (東京大学東洋文化研究所教授)

委 員
遠藤 貢 (東京大学大学院総合文化研究科・教養学部教授)
大橋 英夫 (専修大学経済学部教授)
高原 明生 (東京大学法学部・大学院法学政治学研究科教授)
中西 徹 (東京大学大学院総合文化研究科・教養学部教授)
白石 隆 (アジア経済研究所長)