採用・募集情報
研究者インタビュー
ダルウィッシュ ホサム(2011年入所 新領域研究センター グローバル研究グループ)
地域研究と国際関係をつなぐ
簡単な自己紹介をお願いします。
私の専門は、エジプト政治を中心とする中東・北アフリカの現代政治で、地政学、比較政治、国際関係の観点から研究を行っています。特に、政治・経済・国際関係がどのように相互に影響し合いながら展開しているのかを、実証的に分析しています。
シリアのダマスカス大学では英文学を専攻していましたが、当時から政治学への関心を持っていました。しかし、言論や表現の自由が制約された環境では自由に研究することが難しかったため、日本に留学しました。東京外国語大学大学院では修士課程の「平和構築と紛争予防コース」で学び、その後、同大学の博士課程に進学し、2009年に地域文化研究科の博士号を取得しました。同大学院で研究員として1年過ごした後、2011年にアジ研に入所しました。
現在は、自身の経験も踏まえながら、中東の政治をより多角的に理解する研究に取り組んでいます。
アジ研研究職への応募のきっかけを教えてください。
アジ研を知ったのは、東京外国語大学の学生時代です。アジ研OBの大学教員や現役のアジ研研究者が担当する授業を履修するなかで、その研究に触れ、地域に根ざしながら国際的視点を持つ研究のあり方に強い関心を持つようになりました。
また、修士・博士論文の執筆ではアジ研図書館を頻繁に利用しました。特にアラビア語の一次・二次資料に体系的にアクセスできる環境は非常に貴重で、自身の研究の基盤となりました。さらに、中東関連の研究会やセミナーに参加するなかで、分野や地域を越えた知的交流の場であることも実感しました。
こうした経験から、地域研究と国際関係を架橋しながら、実証的かつ国際的に発信できる研究に取り組める環境がアジ研にはあると考え、応募しました。
いま、どのような研究に取り組んでいますか。特に、地域研究と国際関係の架橋という点から取り組んでいる研究テーマについて教えてください。
ナイル川流域における越境水資源問題に取り組んでいます。エジプト、スーダン、エチオピアの間で、水資源をめぐる協力と対立がどのように展開しているのかを分析しています。ナイル川は地域の生活・経済・安全保障に直結する重要な資源であり、その動向は地域の安定や紛争予防の観点からも重要な研究テーマです。
そのほか、中東・北アフリカ地域、特にエジプトの現代政治を対象に、権威主義体制の維持メカニズムと社会の変動を分析しています。なかでも、社会運動、特にムスリム同胞団に注目し、体制との関係のなかでどのように変容し、抑圧や分断に対応してきたのかを研究しています。
また、軍・司法・宗教機関といった国家制度にも着目し、単なる抑圧という側面にとどまらず、制度と社会の相互作用のなかで権力がどのように形成・維持されているのかを分析しています。
これら地域研究の知見やアプローチは、資源をめぐる地域紛争の背景や要因をより深く理解する上でも有用であると考えています。
ダルウィッシュさんが考えるアジ研の魅力とは何ですか。
アジ研の魅力は、地域に根ざした実証研究と国際的視点を結びつけられる点にあります。特に、現地調査や在外研究を通じてフィールドに深く入り込み、その経験をもとに研究を進められる環境は大きな強みだと感じています。
アジ研の研究会や図書館利用を通じて実感したのは、豊富な資料やデータの蓄積だけでなく、そこから新しい議論や視点が生まれてくる研究環境の豊かさです。異なる地域や分野の研究者が日常的に交流し、研究がより立体的に深まっていく点に大きな魅力を感じています。
また、アジア・アフリカ・中東・ラテンアメリカなど、さまざまな地域の専門家が集まっているため、一国にとどまらない比較や対話が自然に生まれるのも特徴です。私自身も、アジ研の研究者や海外の研究者とともに、中東やアジアにおけるイスラーム政治、また権威主義体制に関する国際共同研究に参加してきました。オーストラリアやチュニジア、インドネシア、マレーシア、トルコ、イラン、中国など、さまざまな地域の研究者との議論を通じて、比較の視点が大きく広がったと感じています。現在は、越境水資源問題に関する共同研究に取り組んでいて、ナイル川流域に関する自身の研究を、メコン川など他地域の研究と比較する機会にも恵まれています。上流域でのダム開発や気候変動、水需要の増大といった共同の課題を踏まえながら、地域を超えた視点で考えることの重要性を日々実感しています。こうした視点は、エジプトの国内政治や社会運動、ナイル川をめぐる国際関係を考えるうえでも欠かせません。
このように、現地に根ざした実証研究と、分野や地域を越えた共同研究・知的交流が有機的に結びついている点に、アジ研ならではの魅力があると感じています。
山田 浩成(2022年入所 新領域研究センター 環境・資源研究グループ)
ディシプリンを越えた交流から新たな研究アイディアが生まれる
簡単な自己紹介をお願いします。
専門は環境法・政策と現代中国法です。大学院から現在にかけて、特に中国の環境司法改革や環境再生(修復)に関する法制度を中心に研究をしています。アジ研には博士課程在籍中だった2022年4月に入所しました。
アジ研に入るまでの経緯や研究職応募のきっかけを教えてください。
学部時代に第二外国語として中国語を学ぶなかで、中国の人々が自国の法や政治体制について何を考えているのか知りたいと思ったのが、研究者を目指したきっかけでした。
中国語スピーチコンテスト(南京大学杯:当時通っていた名古屋大学が南京大学と開催しているコンテストで、現代詩の朗読が課題でした)で優勝したのが嬉しかった勢いで中国(北京)に交換留学したのですが、そこで深刻な大気汚染と環境規制の強化、司法制度改革をリアルタイムで目の当たりにし、公益訴訟や環境損害に関する裁判をテーマに研究の道に入りました。
その後、一橋大学と中国人民大学で修士ダブルディグリーを取得し、一橋大学の大学院博士課程で研究を続けながらポストを探していたところ、アジ研の公募があることを偶然知って応募し、採用されました。正直なところ応募前には、アジ研に在籍している研究者と接点もなかったし、そもそも「経済研究所」に法学部出身者が入れるのか、という考えも脳裏をよぎりました。
その一方で、アジア法の研究者が在籍していたり、中国をはじめとするアジアの環境ガバナンスに関する優れた研究成果が出ていたりと、「なんだかここの人たちとは気が合いそうだし、一緒に研究をしたい」という思いの方が勝り、応募することにしました。
いま、どのような研究に取り組んでいますか。
環境法・政策が中心になっていますが、大きく3つに分けられると思います。
ひとつは中国の環境法政策で、特に環境再生に関する法政策がどう形成されてきたのか、またそれが裁判所や行政によってどう適用・実施されるのか、というところです。大学院時代からやっている研究ですが、最初は裁判所(法令の適用)中心だったのが、検察・公安・行政との連携も見るようになったり、党・政府の内部統制の仕組みに目を向けるようになったりと、見る範囲に広がりが出てきている気もします。この辺は、アジ研で環境ガバナンスや中国政治に詳しい研究者と関わるなかで変わってきたところです。また、同じく中国の環境法政策のなかでも、少し馴染みのなかった部分についても、調査を担当する過程で手を広げています(化学物質審査や再エネ・リサイクルなど)。
二つ目は、環境ガバナンスのなかでの法や司法の役割、という視点から他の国家・地域を対象にした研究プロジェクト(太平洋島嶼国の気候変動法・政策)にも参加しています。現地語や現地資料が直接読めない歯がゆさはありますが、気候変動の緩和・適応のようなグローバル課題の解決のために環境法・政策が何をできるのか、できていないのか、探求する機会と捉えて取り組んでいます。
三つ目は、中国の裁判例研究への大規模言語モデルの応用(Large Language Model: LLM)で、これは新たな手法の構築に向けたチャレンジと位置付けています。これは裁判の結果をLLMに抽出させて、それを使ったデータセットを作り、司法にアプローチする上で計量分析ができるようにしよう、というものです。ここしばらくは、LLMが正確に結果を読み取れるのか、人(法学教育を受けた人)と照らし合わせて検証し、精度を上げるための調整を重ねているところです。
山田さんが考えるアジ研の魅力とは何ですか。
働き方の自由さ、海外派遣の機会など、挙げればきりはないのですが、最初に「ボトムアップでの自己研鑽・研修へのサポートがあること」を挙げたいと思います。私の場合は博士課程に在籍したまま入所したため、所内での業務をこなしつつ博士号を取得できるかが一番心配でした。しかし、アジ研には研究・自己研鑽を補助する制度に加え、業務とバランスを取れるような配慮もあり、昨年無事に博士論文を書き上げることができました。執筆する過程で、所内で似た経験を持つ先輩研究員に相談できたことも大きな助けになりました。
さらに、「途上国・新興国に対する関心を共有しつつ、専門領域、分野の異なる研究者とフラットに関われる」という点も大きな魅力です。大学だと教授・研究室単位で固まることが多いかもしれませんが、所内に自発的な勉強会、多数の研究プロジェクトが走っていて、興味関心があれば、参加したり、オブザーバーになったり、または正規のメンバーになったり、様々な関わり方が認められています。もちろん、一定の成果が求められる場合には、自身のテーマ・専門性との関係上、入れるものとそうでないものありますが、刺激に満ちた日々になること間違いなしです。
私は一人でこもっている期間、オープンになる期間が切り替わるタイプなので、集まりなどへ呼ばれても、最初は「自分の研究にとって何になるんだろう」などと思うこともありました。ただ、しばらくいると他の人がやっている研究やその背景にある関心・専門領域の事情も少しずつ分かってくるので、それ自体の面白さや自身の研究とのつながりも見えやすくなり、楽しくなってくる、という変化がありますね。昨年度からは、所内で共同研究プロジェクトのメンバーになり、太平洋島嶼国の気候変動法政策やアジア・アフリカにおけるネイチャーポジティブといったテーマに取り組んでいます。こうした共同研究は、自分の専門性(環境法政策)を軸にしつつ、新たなフィールドにチャレンジし、これまでの研究をより大きな枠組みのなかに置く良い機会になっています。
手法の点では、計量政治学や経済学を専門とする同僚たちから大いに刺激を受けています。先ほど触れた、裁判例研究に量的テキスト分析やLLMを応用する取り組みを始めたのも、同僚が開いてくれたワークショップがきっかけでした。その後、研修・自己研鑽への補助制度を利用して、新たな手法を使うために必要な統計やプログラミングの基礎を学んだことも、大きな前進につながりました。「こんなことができそう!」という思いつきが、時間をかけて少しずつ形になっていく楽しさは研究者なら誰でも欲するものですが、その最初のアイディアが出てくる機会や実行に移すきっかけというのは、思うように巡り会えるものではなかったりします。こうした成長はアジ研ならではのフラットな関係性と頻繁な異分野との交流、さらに研修・自己研鑽へのサポートがあってこそのものだったと、いま振り返って思うところです。
松下 知史(2025年入所 地域研究センター 中東・南アジア研究グループ)
実務から研究へーーアジ研での新たな挑戦
外交実務で得た経験を活かしつつ、長年関心を持ち続けてきたイラン現代政治を学術的に探究する道を選び、アジア経済研究所での研究に取り組んでいます。異なる職務経験を経て研究者に転向した経緯と、現在の研究活動について簡単にご紹介します。
私は現在、アジア経済研究所(以下、アジ研)でイラン現代政治を比較政治の視点から研究しています。アジ研の研究者の多くが大学院やポスドクを経験し、入所するのに対し、私は外交官から研究者に転職するという形で入所しました。とはいえ、この転職は決して唐突なものではありませんでした。なぜなら、外務省入省前の大学院の修士課程に在籍していた時期から、研究者と外交官のどちらを目指すかという選択で悩んでいたからです。一方で、極めて流動的な国内・国際情勢の中で日々目まぐるしく変化していくイラン現代政治の実像をより深く理解したいという思いを抱いていました。そのためには深い情勢認識を持ちつつ、学術研究実績を積み、社会の知的関心のニーズにも対応できる研究者になりたいと考えていました。他方で、自らの現地語能力を活かし、外交の舞台に立って日イラン外交の発展に貢献したいという考えも持っていました。外務省関係者から話を聞く中で、そうした思いを強く抱くようになりました。
いずれの道に進むかを長く悩んだ末、最終的に私は外務省に入り、ペルシャ語の専門職員として9年間勤務しました。外交実務の仕事はイランの外交を最戦前で考察するという意味で非常に刺激的で、かつ国益に直結する責任ある仕事でもあり、高いやりがいを感じていました。しかし、日々の業務を通じて、次第に「より長期的な視野に立ち、諸外国との比較の視点からイラン政治を俯瞰的に分析し、日本と世界のイラン理解の増進に貢献したい」という思いが強くなっていきました。心の奥底では、研究者になるという夢を断ち切れずにいたのです。
そんな折、偶然 SNS でアジ研の採用案内を目にし、長年心の奥底でくすぶっていた研究者になりたいという思いが一気に高まりました。実務から研究という畑違いの転職に不安がなかったわけではありませんが、家族が背中を押してくれたこともあり、一念発起し転職を決意しました。もっとも、長く研究から離れていた私にとって、採用試験の準備は容易ではありませんでした。最終的には、実務経験という私の強みを最大限アピールすることを考えて試験に臨み、何とか研究職として採用されることになりました。
現在、私は外交実務で得た現場感覚と学術的な分析枠組みの間でバランスのとれた分析を行うことを常に意識しながら研究を進めています。当然のことながら前職時代に培った人脈や実務経験、対象国に対する知識、そして言語能力が、研究遂行上の大きなアセットとなっています。今後は、研究成果を学術貢献や政策提言という形で活かし、外交官時代とは異なる形で、日本の対イラン外交のさらなる発展に微力ながら尽力していきたいと考えています。
アジ研で実務家から研究者への転身は、近年は少ないようです。しかし、アジ研には私のように異なるキャリアを経て研究の世界に飛び込んだ者であっても活躍できるよう支えてくれる環境が用意されています。研究者としてのキャリアに興味のある方は、ぜひチャレンジしてみてください。
松原 優華(2025年入所 地域研究センター アフリカ・ラテンアメリカ研究グループ)
入所をきっかけに広がった研究領域
入所1年目を振り返るとどのような1年でしたか?
私は2025年4月に入所し、ナイジェリアを担当しています。もともとアフリカの内戦やその後に行われる国家建設に関心をもち、これまでは内戦経験国であるシエラレオネを主な研究対象としていました。入所をきっかけにナイジェリアが新たな研究対象国に加わることになり、入所1年目の2025年度はナイジェリアの政党政治について『アフリカレポート』の原稿を執筆しました。また、業務に加えて、現在はシエラレオネで内戦後に行われてきた地方統治制度改革に関する博士論文も執筆しているため、忙しい1年でした。
その一方で、この期間はこれまでの研究活動が成果に結びついた時期でもありました。とくに、入所前から取り組んでいた論文の『アジア経済』掲載と、2023年度から参画していたアジ研の研究者も含む科研プロジェクトの成果本『アフリカの国家建設』の刊行は、大きな励みになりました。この科研研究会を含め、入所前からアジ研の研究者と関わりがあったこともあってアジ研にはすぐに溶け込めたように思います。
入所1年目はどのような業務(研究活動)に従事してきましたか?
1年目の中心的な業務は、地域研究センターの新入職員研修として行われた担当国の新聞講読と時事解説記事の執筆でした。ナイジェリアは地域大国であるがゆえに政治や経済、治安状況の動きが目まぐるしく、事実の見極めも難しいです。日々の出来事を大局的にとらえるためには、過去の報道にさかのぼって経緯を整理するだけでなく、ナイジェリアの基礎情報として政治史を中心にインプットする必要もあります。夏ごろまでは、これらの作業に取り組むだけで精一杯でした。
ナイジェリアのことを丹念に調べていくなかで、シエラレオネと同じ西アフリカ英語圏の国であり、ともに内戦を経験していながらも、両国が全く違うことに驚きました。ナイジェリアは地域大国として圧倒的な人口と経済規模を誇り、300以上ともいわれる民族が存在し宗教や文化が極めて多様な国です。それゆえに政治史と政治制度もとても複雑で、勉強するほどにその奥深さに圧倒されます。少しずつ理解を深めながら、研究テーマを探すことには大きなやりがいを感じています。
経済都市ラゴスの本屋。国内出版の本も多い。
学術都市イバダンのイバダン大学図書館。
また、時事解説記事のテーマを決めた11月にはナイジェリアに初めて渡航しました。入所1年目から担当国、しかも必ずしも安全とはいいがたいナイジェリアへの渡航は、アジ研とJETRO現地事務所から危機管理面でのサポートを最大限に受け、時には警護も手配してもらい実現しました。西アフリカの学問の中心地である地方都市を含む3つの都市を訪問し、街の様子や大学の雰囲気、学術書を含む国内の出版状況を把握し、現地の研究者とも面談できました。この出張は、来年度以降の調査研究への期待を高める貴重な機会になりました。
出張後からはナイジェリアの時事解説記事の執筆を進めましたが、学術論文とは異なり時事を追いかけながら書き進めることに苦戦しました。原稿に対しては、研修担当の研究者から内容面や文章表現に対して手厚いコメントをもらいました。初年度から読み手に伝わりやすい文章の書き方を学べることは、今後の糧になると思います。
業務と博士論文とはどのように両立していますか?
時事解説の執筆と修正を進めた時期は、ちょうど博士論文関連の投稿論文執筆と査読対応に重なってしまい、業務と博論の板挟みに苦しみました。しかし、ナイジェリアとシエラレオネの両方の原稿で行き詰ったときには、アフリカ地域の研究者たちにも相談しながら何とか切り抜けることができました。また、境遇が似ている同期や先輩方が周りにいたこともとても心強かったです。
来年度は、ナイジェリアの時事解説執筆と博論執筆に加えて、地域横断的な研究会にも参加する予定です。私の関心にも近く、かつアジ研に出願したときから魅力に感じていたさまざまな地域を対象とする研究会に参加できることはとても楽しみです。来年度もナイジェリアの面白さに翻弄されて博論が後回しになってしまいそうですが、自分なりに博論との折り合いをつけながら業務と両立していきたいと思います。
内藤 寛子(2020年入所 地域研究センター 動向分析グループ)
アジ研で広がる研究者としての可能性
入所(2020年4月)から現在にいたるまで、アジ研でどのような業務に関わってきたかを教えてください
アジア経済研究所(アジ研)の研究者の方々とは、入所前から学会などを通じて交流がありました。公募の際にも、アジ研の研究環境について密かに(?)情報収集を行なっていたため、入所後は比較的円滑に環境に馴染むことができたと感じています。
入所1年目から担当している主な業務は、『アジア動向年報』の執筆および編集です。私は中国を研究対象としているため、毎年、中国の国内政治および対外関係の動向を整理、分析しています。この業務を通じて、中国の政治・外交の動向を日常的にフォローすることが習慣化され、研究テーマの着想を得やすくなっているように感じます。
こうした日々の作業の積み重ねは、他の業務にも活かされています。たとえば、『IDEスクエア』というウェブマガジンの編集業務です。研究者による学問的知見に基づく時事分析は、複雑化する国際情勢を読み解くうえで大きな意義を持ちます。それを適切なタイミングで、最適な研究者に執筆してもらうためには、日頃から情勢を継続的に把握しておく必要があります。
その一例として、私が企画を担当した2022年開催の中国共産党第20回全国代表大会(党大会)特集があります。同党大会は、習近平政権が前例を破って3期目に入るという、現代中国政治における歴史的な転換点でした。本特集では、所内外の第一線で活躍する研究者に執筆を依頼し、多角的な分析を掲載しました。その結果、各論考は多くの読者に読まれ、現代中国政治への理解を深めるうえで一定の反響を得ました。
また、『IDEスクエア』では、コラム企画も担当しています。アジ研の地域研究は三現主義(現地語、現地資料、現地調査)を重視していますが、現地での体験がすべて研究成果として結実するわけではありません。そこで、語学やファッション、食といった切り口から対象地域の魅力や面白さを伝えるコラム企画を展開しています。その一環として、現地でのトイレ体験から社会的課題を読み解く『アジア・トイレ紀行』を山田七絵さんとともに企画し、2025年12月には白水社より書籍として出版しました。
以上のような業務と並行して、より個人的関心にもとづく研究活動にも取り組んでいます。「権威主義体制における第一線レベル(street-level)の『法治』の選好」という研究課題で科研費(若手研究)の助成を受けています。アジ研は外部の競争的資金の獲得も推奨されており、研究課題を自由に決定できる環境があります。また、同じく現代中国政治を専門とする任哲さんの呼びかけで、「中国の反汚職キャンペーンとは何か?紀律委員会文書のテキスト分析および裁判例との比較」をテーマとする所内研究会に参加しました。この研究成果は、2024年のアジア政経学会で報告しており、現在はジャーナルへの投稿に向けて加筆・修正を進めています。
それでは今後はどのようなことに取り組んでみたいと思っていますか?
今後挑戦したいことは、主に三つあります。第一に、単著の出版です。博士号を取得して以来、ジャーナルや編著書を通じて研究成果を発表してきましたが、体系的な単著としての学術書は、まだ出版できていません。現在、アジ研の編集アドバイザーに相談しながら、出版に向けた準備を進めております。アジ研には、学術書の出版をさまざまな形で支援する制度がありますので、それらを活用しつつ、単著の出版をより具体的な目標として進めていきたいと考えています。
第二に、在外研究です。アジ研では、海外派遣制度を利用した2年間の在外研究を、原則として2回行うことができます。とくに入所後に専門とする地域が定まる研究者にとって、最初の海外派遣は、語学能力の向上やネットワークの構築という点で非常に重要です。私の場合は、博士号取得後に入所したため状況はやや異なりますが、2年間の在外研究を通じて新たなネットワークを獲得するとともに、研究手法をアップデートし、新たな研究を進めていきたいと考えています。
第三に、トップジャーナルへの論文掲載です。これまでも複数の査読論文を発表してきましたが、より多くの読者に研究成果を届けるためには、トップジャーナルへの掲載が重要になります。研究を進めること自体が目的であり、掲載はその結果であるという関係は取り違えないよう留意しつつ、これまで以上に意識的に目指していきたいと考えています。アジ研にはすでにトップジャーナルへの論文掲載を実現させている研究者もいますので、そうした先行事例からノウハウを学びながら、取り組んでいきたいと思います。
吉﨑 日菜子(2024年入所 地域研究センター アフリカ・ラテンアメリカ研究グループ)
担当国ガーナを初訪問
入所から1年近く経ちましたが、この間どのような業務(研究活動)に従事してきましたか?
この1年は、アフリカでの調査や研究の経験がない私にとって、今後アジ研でアフリカ研究を行うための準備期間だったといえます。具体的には、担当国であるガーナの報道や関心のあるテーマの先行研究などを読み、担当国や研究テーマへの理解を日々深めています。
それ以外に、アジ研の定期刊行物である研究雑誌『アフリカレポート』の編集委員会幹事として、編集委員長のもとで掲載予定の原稿のチェックや編集委員会の開催補佐を担当しています。また、他の編集委員の方々とともにアフリカに関連する本や論文の資料紹介を年2回執筆しています。アジア担当の研究者と異なりアジア動向年報の執筆がない一方で、これらの業務はアフリカ担当ならではといえます。
特に印象に残った業務(研究活動)には何がありますか?
やはり現地への訪問は印象に残っています。ありがたいことに今年度は、現地調査研修でエチオピア、現地調査(現調)でガーナを訪問できました。
現地調査研修とは入所歴の浅い職員を対象とした制度です。私は先輩研究員のエチオピア現調に同行し、聞き取り調査や家計調査のパイロットサーベイに立ち会いました。アフリカへの渡航経験がほとんどない私にとって、この研修は現調の進め方を学ぶだけでなく、アフリカ地域の人々の暮らしぶりを知る貴重な機会となりました。
また、1月には担当国であるガーナで現調を行いました。この現調では、シンクタンクや大学等でヒアリングを行い、2024年12月の大統領選挙の後の情勢を探るとともに、研究者とのネットワーキングを図りました。今回は私にとって初のガーナ訪問だったため、当時取り組んでいた『アフリカレポート』時事解説(「ガーナ新大統領が掲げる24時間経済政策と背景にある経済課題」)の執筆にあたり、同国の実情についてより明瞭なイメージをもつことができました。また、現在関心があるインフォーマル労働者の状況を探るべく、労働組合関係者との面会や市場および周辺コミュニティの視察も行いました。現地の知り合いも少ない中で一から現調を計画するのは簡単ではありませんでしたが、コミュニティの訪問等における人々との何気ない会話から彼らの暮らしぶりを知り、担当国への理解を深めることができました。
首都アクラ中心と郊外を結ぶ道路の整備が進行中
初のガーナ料理のレッドレッド(Red Red)、ボリュームがあって美味しい
2年目(2025年度)にはどのような業務(研究活動)に従事する予定ですか?
2年目は先輩研究員が主査となる研究会に参加し、より本格的に研究活動をスタートする予定です。なお、アジ研の研究会は毎年秋ごろに次年度の研究課題案を募集し、その後審査を通じて採択の可否が決まります。とくにアジア動向年報を担当しない場合、それに代わる成果物が必要となるため、研究会を通じた論考や論文の執筆が重要となります。
所属予定の研究会のテーマはアフリカにおける都市部の労働市場と、個人的に研究実績がないものの関心のあった内容なので、これからどのように研究を進めるか考えつつ、現在は担当国の同テーマに関する情報や先行研究を集めています。
工藤 太地(2024年入所 地域研究センター 動向分析研究グループ)
入所初年度の活動を振り返って
今年度の業務は、アジア動向年報の原稿執筆と「IDEスクエア——世界を見る眼」の記事執筆の二つでした。入所して最初の5か月間はアジア動向年報執筆の準備として、担当国の新聞報道の取りまとめを行い、毎月一回、研修担当の先輩研究者に報告しました。
アジ研に入所してからパキスタン担当になりました。それまでインドやバングラデシュの調査は行ってきましたが、パキスタンには行ったことがなく、現地事情も全く分からない状態でのスタートでした。入所後からパキスタンの新聞を読み始めたのですが、最初の1~2か月はその内容が全く頭に入ってきませんでした。文章としての意味はとれるものの、現地社会に関する基礎知識がないので、報じられる人物や団体・組織、起こっている出来事の重大さなどが分からず、記事全体として理解できた感覚がありませんでした。また、記事を読み解くには、それまでの経緯を把握する必要もあるため、過去の新聞も遡って読んでいました。そのため、一日中新聞しか見ていないのに、一日分の報道すら読み切れない日もありました。この時期はかなり大変でした。
先輩研究者への報告は、1~2か月の間に起きた内政・経済・外交の特筆すべき出来事をまとめて発表するというものでした。まとめといってもそれなりの深さが求められ、先輩研究者からの質問やコメントに対しても対応できるように準備しました。この作業を5か月ほど続けたおかげで、その時々で何が重要な問題なのかを判断できるようになったと思います。2025年1月からアジア動向年報の原稿を書き始めましたが、それまでの報道の取りまとめの経験が非常に役に立ちました。この一年で現地報道を整理して理解する力をある程度、習得できたのではないかと思います。
建国の父ジンナーのモニュメント(パキスタン・カラチ)
IDEスクエアの「世界を見る眼」に総選挙後のパキスタン政治を解説する記事が掲載されました。
毎回の報告内容の中から関心のあるトピックを選んで、IDEスクエア用の解説記事として執筆することが決まっていました。そこで今回は、選挙後に与野党対立の焦点となっていた留保議席問題とその後成立した憲法改正を取り上げました。
解説記事は、「いつだれが何をしたか」「その結果どうなったのか」という事実関係を列挙するだけでは成立しません。「なぜその事象が起きたのか」「その事象がその社会でどのような意味を持つのか」といった分析や解釈が求められます。また、読者を引き込むために、記事の構成や問いの設定を工夫する必要があります。問いの設定という意味では学術論文と同じですが、その問いを「不思議だな」「なぜだろう」と一般読者の心をつかむような構成にすることがポイントです。執筆当初は何を説明したいのかを明確に意識できず冗長な文章しか書けませんでした。しかし、先輩研究者の指導や助言を受けて、記事の大きなストーリーを描き、それを念頭に置きながら最終的に一つの形にすることができました。
郡 昌宏(2024年入所 地域研究センター 動向分析研究グループ)
今後の研究へとつながる日々の作業
基本的には、午前中に専門地域である朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の現地新聞などの報道をチェックしてその日の出来事や重要記事の内容を記録する作業を行い、午後は研究書・論文を読んだり、執筆作業を進めたりしています。ただ、原稿の締め切りが近い時はそれにかける時間を増やすなど、状況に応じて日々の研究活動の内容を自分で調整しています。
この一年間の業務(研究活動)はどのようなスケジュールで進みましたか?
新入研究員向けの研修が業務進行のペースメーカーとなっていました。9月までは、各自の担当地域の1~2カ月ごとの動向について毎月発表し、研修担当の研究員からフィードバックを受けていました。これを通じて担当地域の動向をまとめる習慣や着眼点を身につけていきました。また、8~9月頃には北朝鮮の『アジア動向年報』(『動向』)バンドル版(1980年代)の「解説」を書く業務も行いました。
10月以降は、『IDEスクエア』での解説記事(「『地方発展20×10政策』とは何か――金正恩の戦略を読み解く」)の執筆にあたり、テーマ設定や構成、一般読者にとって読みやすい文章の作成法について個別にアドバイス・添削を受けました。
年が明けると、主要業務である『動向』の執筆が本格的に始まり、これまで蓄積してきた報道・重要事項の記録をもとに、1年間の担当地域の動向をまとめました。
北緯38度線付近を流れる臨津江(2013年撮影)
(インタビュー時点では)今はちょうど『動向』の執筆に取り組んでいるとのことですが、実際にその準備から執筆に至るまでの間で、予想以上に大変だったことには何がありますか?
『動向』業務に関しては、これまで日々記録をつけていたことがもちろん有益ではあったのですが、実際に執筆してみると、自分の記録の情報量やまとめ方に不十分な部分があることに気づき、報道を再確認するなどの手間が生じてしまいました。また、執筆ページ数があらかじめ決まっているので、それに収まるよう、内容を取捨選択しながら書くことも難しかったです。
総じて、1年目は毎日の報道の整理や解説記事の執筆など、慣れていないことの連続で、それらに予想以上に時間を使ってしまったように思います。そのため自身の研究を思うように進めることができず、もどかしい気持ちもありました。ただ、これらの業務を通じて研究テーマの材料が見つかることもあり、今後の研究につなげることを意識して日々のタスクに向き合っています。同様の業務を行ってきた先輩方には「1年目は大変だけれども、慣れれば普通にこなせるようになる」と励まされており、そうなるように努力を重ねたいと思っています。
高橋 尚子(2021年入所 地域研究センター 北東・東南アジア研究グループ)
入所後のサポートで心機一転、基礎から研究に取り組む
日本を対象とした研究から東南アジア研究の世界へ
地域研究センター 北東・東南アジア研究グループの高橋尚子です。2021年4月にアジ研に入所しました。現在はタイの動向事業を担当し,農村・農業分野に興味を持って研究に取り組んでいます。
私は,国内大学の農学研究科修士(農業経済)を修了してすぐにアジ研に就職しました。就職活動では,博士課程進学を金銭的な問題等で早々に諦め,大学院の分野と関わりをもてそうな自治体向けのコンサルやシンクタンク,メーカーを受けていたところ,アジ研の修士卒研究員募集をSNSで知りました。もともと農学を志したきっかけが飢餓問題に触れたことだったので,途上国の事業や研究にも興味があり,応募を決めました。
しかし,その後内定の連絡をいただいた時は,本当に地域研究の研究者になれるのだろうか,という不安がありました。というのは,まだまだ研究技術は未熟だと感じていましたし,自身の修士論文は日本を対象にしており,タイや東南アジアについて研究の土台となる知識はほとんどなかったためです。確かに学ぶことは多いですが,入所後は心機一転して基礎から研究に取り組めていると感じており,周囲の先輩方からたくさんサポートをいただいています。
入所後は個室もしくはブースが与えられ、研究に集中して取り組めます。
刺激が多く、学びの溢れる日々。タイ語の勉強も一から。
アジ研で過ごして1年たち,コロナ禍でなかなか現地に渡航できない現状が少し残念であるものの,少しずつ土台作りをしている最中です。研究分野が近い先輩にチューターとしてついてもらい,定期的に基礎理論や関連論文について勉強しているほか,所内外のタイ研究者の方との勉強会を開催していただき,学びが多い日々です。
アジ研は同じ国や地域に関わる研究者の先輩が多く所属しているので,自身の研究分野以外の話を聞き,議論できることがかなり刺激的だと思います。コロナ禍でなければ先輩の現地調査に同行する研修制度もあり,さらに研究員間では分野や地域も違う方とも,年次や役職に関係なく議論をし,アドバイスをもらえるフラットな関係性だと実感しているので,そのあたりは大学院と雰囲気が異なるかもしれません。これから新人の研究員の方が増えてきたら,分野や地域をまたいで,ぜひ一緒に基礎理論などの勉強会を開催したいです。
また,地域研究は現地語での調査や資料読解が必須なので,所内の研修制度を利用してタイ語の語学学校に通い始めました(現在はオンライン授業です)。アルファベットを使わない言語の習得は初めての経験で,一文字の読み書きに1分かかるような状態から始めましたが,近い将来,現地調査や海外派遣に行くことをモチベーションに楽しく学んでいます。
年次や役職に関係なく議論をし,アドバイスをもらえるフラットな関係性
研究は自分のペースで。タイ農村への現地調査を目標に。
今のところ,研究のペース感は修士学生のころとあまり変わっていない気がします。研究職員は裁量労働制が適応されるので,柔軟に出勤時間を調整でき,朝が弱い私のような人間にも優しい勤務体制になっています。
日々の業務では,毎年出版される『アジア動向年報』の執筆が大きな仕事になりますので,だいたい午前中に現地新聞やメディアで情報収集して日誌を付け,各種政策の整理をします。午後から本や論文を読んだり,勉強会の準備をしたり,提出する原稿がある場合は文献を探し,執筆を行っています。午前中の情報収集で引っかかることがあれば,午後にかけてその背景を調べていることもあります。
入所してはじめて執筆したのは『アジア動向年報』のバンドル版(一国の動向年報を10年分まとめる新企画)の概論で,先行文献や統計を参考にしながら,曲がりなりにも2010年代のタイ経済を見渡しました。一つの国について点でとらえる以上に,一連の線,そして面でとらえることの難しさを実感したと同時に,地域研究の奥深さを垣間見た仕事でした。今は,コロナ禍の制限緩和を待ちつつ,タイへの理解を深め,現地の農村に足を延ばせるよう研究計画を練ることが目標です。
研究所図書館には貴重な現地の新聞・書籍があり、研究には欠かせません。
水野 祐地(2021年入所 地域研究センター 北東・東南アジア研究グループ)
担当した仕事が自分の研究に直結
研究業務を行いながら博士号取得を目指す
はじめまして。地域研究センターにて研究員をしている水野と申します。2021年に入所し、インドネシアを担当国として政治について研究を行っています。もともと、修士の頃からインドネシアの政治について関心を持っており、そのまま博士課程に進学する予定だったのですが、アジ研が修士卒の募集を行っていると耳にして、応募してみたというのが入所のきっかけです。
アジ研の名前は私が学部生だった頃から聞いたことがあったのですが、当時は修士卒の募集が行われていなかったこともあり、入所するのが難しい研究機関であるとのイメージを持っていました。しかし、14年ぶりに修士卒の募集が行われるようになったうえ、入所してからも研究所の業務をこなしながら博士号の取得が可能であると聞いて、「この機会を逃す手はない」とダメ元で応募しました。
研究ブースにはすでにたくさんの資料が。
担当した業務の経験が、自分自身の研究の深化に
入所してからは、自分が想像していた以上に研究環境が整備されていて、与えられた業務をこなしながら、思う存分研究に打ち込むことができています。私の場合、現在の主業務はインドネシアの政治と経済の動向を追い、『アジア動向年報』と呼ばれる年報のインドネシアの章を執筆することです。そのため、毎日現地メディアを読み込み、時事の背後にある政治・社会問題や経済課題について、現地の人々の目線に立って理解するようにしています。
この業務をこなしていくだけでも、自分の研究内容と深い関わりがあり、それをさらに深化させてくれるものなのですが、それに加えて、自分が関心を持っている研究テーマについて資料や文献を読み込んだり、チューターの指導の下でディシプリンを勉強して基礎作りを行っています。
また、アジ研では業務の一環として科研費プロジェクトの実施が可能であることも大きな強みだと思います。2021年は新型コロナウイルスの影響で現地調査ができませんでしたが、その分の研究費で図書や資料を収集したり、PCなどの機器を整備したりすることができました。
アジ研の業務をこなすうえで根幹となるのが、担当国の言語の習得ですが、私の場合、学部の頃にインドネシアへ留学を行うなどして基礎を習得したことがあったため、入所後は研修費を使って個人講師とのプライベートレッスンを受けて、より高い語学力を身につけられるよう勉強を続けています。
さらに、アジ研内には非常に多様な国・地域の専門家が集まっているので、異なる国の専門家の方々との交流を通して、自分の担当国を観察するだけでは気づけなかった新しい視点を学ぶことができます。研究所の調査費で担当国以外の国々も訪問できるので、新型コロナウイルスの感染が落ち着いたら、是非ともこれまで訪問したことがなかった国々を訪れ、比較材料として異なる国・地域の事情を観察してみたいと考えています。
同じインドネシアを研究する濱田開発研究センター長と。気軽に相談できる雰囲気の組織です。
成果発信の機会を生かして
アジ研の研究員にとって最も大事なタスクのひとつが、研究成果や報告書の発信です。私の場合、『アジア動向年報』の執筆が主業務ですが、その前の段階として入所後最初に執筆したのが、『IDEスクエア』と呼ばれるアジ研のウェブ・マガジンに投稿した記事です。私が執筆した記事では、2021年のインドネシアを振り返った時に特に重要な政治問題として政府による市民社会に対する圧力があったため、これに関する現地の動向を整理し、問題となっている法律や現地の人々の声を取り上げました。
今後の私の課題は、博士号の取得に向けて研究課題を設定することです。 修士卒でアジ研に入所しても、博士課程にて調査を実施したり論文の執筆を行うスキルを習得したりする重要性は変わらないので、アジ研で働いている強みを生かしながら取り組めるテーマを探っていきたいと考えています。
研究所図書館は最大限活用しています。
三浦 航太(2022年入所 地域研究センター アフリカ・ラテンアメリカ研究グループ)
研究職として入所後、所内研究会と並行して博士論文を執筆
地域研究センター アフリカ・ラテンアメリカ研究グループの三浦航太です。2022年4月に入所しました。社会運動論(特に社会運動の政治的影響・帰結について)と、チリの社会・政治を専門としています。学部時代にチリに留学した際、大規模な学生運動を目の当たりにしました。そこで衝撃を受けたことが、私を研究の道へ、また社会運動論や地域研究の世界へといざないました。
私は入所前、博士課程を満期退学したのち、博士論文の執筆を進めながら、助教として大学に勤めていました。大学の公募にも何度か応募していましたが、その一方で、若手のうちに研究に没頭できる環境に身を置きたいとも考えていました。アジ研でラテンアメリカ研究に携わられてきた先輩方には、博士課程の時代からお世話になる場面が多かったこともあり、思い切ってアジ研の研究職採用に応募しました。
入所後は、所内研究会と並行して博論の執筆を進めました。アジ研の先輩方は、業務と博論執筆のバランスや、博論の進捗に常に気を配ってくださり、安心して業務と博論執筆を両立することができました。先輩方に進捗や目標を口に出して言うことで、自分自身に対して適度にプレッシャーをかけることもできたと思います。そのおかげで「チリにおける高等教育のパラダイム転換―学生組織、政治、社会の関係に着目した学生運動の政治的結果に関する分析」というタイトルで無事に博論を提出し、優秀学位論文賞をいただきました。
受賞式でのスピーチの様子。
アジ研に入って1年目の収穫は、何よりも、所内研究会を通じて自身の研究の世界が広がったことです。私の場合、入所した時点で博論が終盤に差しかかっており、ひたすらアウトプットを進めるという状況でした。一方で、所内研究会では、博論とはまた異なる様々なテーマについてインプットする機会となり、新しい問題意識や研究課題を見出すことができました。そうした新しい学びによって、博論を広い文脈の中に位置づけ直すこともできました。博論にとにかく集中する道もあったのかも知れませんが、多少きつくとも、並行して新しい研究テーマに向き合えたことは、今後のキャリアに必ず生きてくると思っています。
実は現在、現地調査でチリに滞在中!
さて、実はこの文章、現地調査で滞在中のチリの首都サンティアゴで書き進めています。今回の現地調査では、近年の社会運動や、社会運動から生まれた新しい政党について、関係者や研究者への聞き取りを行うほか、アーカイブや図書館での資料収集を行っています。また、空き時間には書店巡りもしています。私が研究する分野のチリの学術書の多くは、5年ほど前からだいぶKindleで読めるようになりましたが、知らなかった本に出会え、最新の出版動向が一目で把握できるのが、現地書店の変わらぬ魅力でもあります。
南米で最も高いビルGran Torre Santiagoから見たサンティアゴ市街地
研究職としてアジ研に入所し、博論を書き終えて、研究者のキャリアとしては第二段階に入るところです。ここから数年は、引き続き所内研究会への参加を通じて、自身の研究の世界を深め・広げたいと思っています。また、博論を書籍化すると同時に、第一段階では達成できなかった、論文を英語やスペイン語でも発表することにも励んでいきたいと考えています。

