ライブラリアン・コラム
アジ研図書館の地方志コレクションを再検討する
PDF版ダウンロードページ:https://hdl.handle.net/2344/0002001620
村田 遼平
2025年12月
昨年、筆者はアジア経済研究所図書館(以下、当館とする)で所蔵する中国本土の地方志、中でも中華人民共和国が成立した1949年以後に刊行された、いわゆる新編地方志(以下、地方志とする1)に関するコラムを書いた(村田 2024)。地方志は、特定地域に着目する調査・研究を行う際に有用な資料とされる(田原 2024 : 188)。したがって、国内有数のコレクションといえる当館蔵の地方志に、研究リソースとしてどのような意義があるのか検討することは意味を持つだろう。
そこで本記事では、前稿ではできなかった、当館蔵の地方志が国内大学図書館および国立国会図書館(以下、NDLとする)でも所蔵されているのかについて調査を行い、当館地方志コレクションの特徴を改めて考えてみたい。
データの説明
まず、本記事で扱うデータについて述べる。当館蔵の地方志については、(村田 2024)で扱ったデータをもとに、2025年10月6日に当館図書館システムより取得したデータによって更新した(以下、基礎データとする)。複数巻からなる資料の重複を除外した、当館所蔵地方志のタイトル数は5,576である2。この基礎データにより、以下の取得作業を行った。
大学図書館の所蔵状況については、国立情報学研究所の目録所在サービスであるNACSIS-CAT(以下、NCとする)に登録されている書誌データを利用した3。NCには、当館を含め約1300の日本の大学図書館等が参加している。2025年10月20日にCiNiiのAPIを利用し、基礎データのNCIDを検索条件として書誌のxmlファイルを取得した4。
国立国会図書館の所蔵状況については、2025年11月5日に国立国会図書館サーチのAPIでSRUプロトコルを用いて、基礎データのISBNを検索条件として「国立国会図書館蔵書」のxmlファイルを取得した5。
xmlファイルから所蔵に関する情報を抽出する際には、Pythonを利用した。CiNii APIから取得したxmlファイルでは、所蔵館数を示すタグ「cinii:ownerCount」に該当する値を抽出した。NDLサーチAPIから取得したxmlファイルの場合は、所蔵有無を確認すべく、検索にエラーが生じた際のメッセージ(「message」)を抽出した。ここで抽出されたメッセージは、①“Record does not exist”、②“illegal query syntax”、③空値、からなる。①はISBNで検索したもののNDLに所蔵がない場合、②は基礎データにISBNが含まれておらずxmlファイルの取得そのものができなかった場合に表示され、所蔵がある場合はエラーにならないため③となる。②に該当する698タイトルについては、2025年11月17日にNDLサーチでタイトル等を検索し所蔵の有無を確認した。
集計結果と当館地方志の特徴
前節の作業により得られたデータを総合することで判明した、当館蔵の地方志に関する国内大学図書館等およびNDLの所蔵状況は、表1の通りである。当館蔵の地方志のうち、国内大学図書館等では所蔵がないのは1,571タイトル(表1「NC所蔵アジ研のみ」、全体の28.1%)、NDLが所蔵しないのは2,861タイトル(51.3%)である。NC不参加の早稲田大学附属図書館等の所蔵分が反映されていないという留保が必要だが、国内では当館のみが所蔵する地方志のタイトル数は1,154タイトル、当館蔵全体の20.7%である。
表1 当館蔵地方志の国内図書館所蔵状況
この1,154タイトルについて、いくつかの観点に基づき確認する。まず、行政階層別にグラフに表すと、図1左が得られる。当館蔵の地方志全体のグラフも併せて示す(図1右)。ここから、省レベルよりも下の階層の方が、相対的に国内では当館のみが所蔵する割合が高くなっていることがわかる。省レベルはNDLが継続的に収集していることから(齊藤 2010 : 10; 丹治 2022 : 8)、当館のみ所蔵の割合が低くなっているのだろう。したがって、当館蔵地方志の特徴の一つは、省レベルより下層の行政階層(市レベル、県レベル、郷鎮レベル)のものである。

続いて、刊行年別である。当館所蔵地方志の刊行年別タイトル数を棒グラフに、そのうち当館のみが所蔵するタイトル数の割合を折れ線グラフに示したのが、図2である。タイトル数全体としては2000年代前半までに刊行されたものが多いものの、そのほとんどは他館でも所蔵されている。当館のみが所蔵するタイトルの割合は、2002年刊行分以降に上昇を続ける。また、2011年刊行分は、所蔵タイトル数自体が減少傾向となった2000年代以降において、90年代と同等のタイトル数となっている。当館蔵の地方志に関するウェブページは2012年末頃に準備されたと聞き及んでいるが、もしかすると2011年から12年にかけて多くの地方志を入手したことがウェブページ作成の契機となったのかもしれない。しかし、2010年代半ばから割合はやや減少している。当館蔵地方志の第二の特徴は、2000年代以降の刊行分も収集を続けている点にありそうである。
図2 アジ研所蔵地方志タイトル数とアジ研のみ所蔵の割合(刊行年別)
しかしながら、2000年代前半以降に当館所蔵タイトル数自体が相対的に減少したものの、当館のみが所蔵する地方志の割合が上昇したことは、何を物語っているだろうか。国立国会図書館においては、少なくとも2010年時点で省より下のレベルの地方志を積極的に収集しなくなっていたこと(齊藤 2010 : 10)が影響したのかもしれない。大学図書館においては、刊行後あまり間を開けずに所蔵に至っていると仮定するならば、図書館資料購入費に占める図書購入費の割合が減少を続けていたことが関係しているのかもしれない6 。他にも諸要因があるだろうが、国内図書館全体において地方志収集の位置づけが相対的に低下したと推察される。
当館スタッフの話では、NACIS-ILLによる相互貸借サービスにおいて当館蔵の地方志はそれなりに貸出依頼があるといい、筆者自身も当館内の返却棚に大量の地方志が積まれているのを目にしたことがある。単純な所蔵タイトル数では90年代に及ばないものの、国内における研究リソースの提供という点では2000年代以降に当館蔵地方志の意義が高まったと、一面ではいえるかもしれない。ただし、地方志全体の刊行点数や受入情報等の他の要素も含めて検証する必要があるだろう。
本記事では当館が所蔵する地方志に限定した検討に留まったものの、NC参加館にとどまらない大学図書館等における地方志の全体像を明らかにし、国内における中国研究リソースの可視化にもつなげていきたい。
インデックス写真の出典
- 筆者撮影
参考文献
- 今満亨崇(2024)「コマンドプロンプトを使ってみよう(3)──大量のファイルダウンロード」、https://www.ide.go.jp/Japanese/Library/Column/2024/0723.html。
- 齊藤まや(2010)「地域の百科事典──中国の地方志と国立国会図書館における所蔵状況」『アジア情報室通報』8巻1号。
- 田原史起(2024)『中国農村の現在──「14億分の10億」のリアル』中央公論新社。
- 丹治美玲(2022)「中国の地方志と国立国会図書館における所蔵状況──2022 年 3 月時点」『アジア情報室通報』20巻2号、https://doi.org/10.11501/12307317。
- 村田遼平(2024)「アジ研ライブラリアン、「地方志」の森を歩く」、https://www.ide.go.jp/Japanese/Library/Column/2024/0709.html。
- 上海通志馆编(2016)『中国新方志10000种书目提要──上海通志馆藏』上海辞书出版社。
本記事で参照したウェブサイトの最終閲覧日は、2025年11月25日である。
著者プロフィール
村田遼平(むらたりょうへい) アジア経済研究所学術情報センター図書館情報課。担当は中華圏。最近の著作として、「中国語資料のレファレンスにどのように向き合うか ―アジア経済研究所図書館の事例」(『情報の科学と技術』75 巻3号、2025年)。
この著者の記事
- 2024.07 [ライブラリアン・コラム] アジ研ライブラリアン、「地方志」の森を歩く
- 2024.02 [ライブラリアン・コラム] 「アジア情報研修」後記
- 2023.06 [ライブラリアン・コラム] 電子化された満鉄関連資料とデジタルアーカイブ
- 2022.02 [ライブラリアン・コラム] (連載:途上国・新興国の2020年人口センサス)第6回 中国――大国としての自負とその行方
注
- 本記事では、中華人民共和国成立より前に刊行された地方志を対象としない。
- ここでは(上海通志館编 2016)にならい、省・市・県の各レベルで編纂刊行された地方志に限定せず、それより下層の郷鎮レベル等のものも計上した。なお、中国の上海通志館が2014年6月末までに集めた、1980年代以降に編纂された地方志は11300余タイトルである(上海通志馆编 2016: 凡例)。
- 早稲田大学や慶應義塾大学はNCに参加していないが、特に早稲田大学では一定数の地方志を所蔵しているものの、これらの所蔵状況については今回の検討対象外になる。
- 取得方法については、(今満 2024)を参照されたい。
- 取得するメタデータの形式は、「国立国会図書館ダブリンコアメタデータ記述(DC-NDL)」とした(https://ndlsearch.ndl.go.jp/renkei/dcndl)。
- 文部科学省「学術情報基盤実態調査」を基に、大学図書館コンソーシアム連合事務局が作成した「大学図書館資料費の推移」を参照のこと(https://contents.nii.ac.jp/justice/documents)。
(付記)本記事の基となる研究は、JSPS科研費25K16395の助成を受けたものである。