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IDEスクエア

海外研究員レポート

東南アジアにおけるデジタル資料のアクセシビリティ向上を目指して

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051493

土佐 美菜実

2019年10月

(3,473字)

東南アジアにおける資料のデジタル化と情報共有

東南アジア諸国連合、通称アセアン(ASEAN)と呼ばれる地域機構において、その主な目的が経済協力や安全保障協力であることはよく知られているところである。このほか、ASEANという枠組みの中では、域内の文化を促進することも、各国の経済発展と同様に大きな使命として認識されている。各地域の文化や歴史を尊重するためにも、学術研究の発展を支援することが重要であると考えられている。また、東南アジア諸国の歴史を記した貴重な資料を後世に伝えることも、当該地域の発展に大きく貢献するものである。

このような考えのもと、東南アジアの各国立図書館等の機関では、貴重資料のデジタル化が着実に進んでいる1。そのなかで、ASEAN地域内でデジタル資料の情報を共有することを目的として結実した協力関係がASEAN Digital Library(アセアン電子図書館)である。

ASEAN Digital Libraryの役割

ASEAN Digital Library(以下、ADL)はASEAN各国の国立図書館が所蔵・公開しているデジタル資料の情報を共有し、世界中から容易にアクセスできるようにすることを目的としたプラットフォームである。これはシンガポール国立図書館とニュージーランド国立図書館とが中心となった「アジア太平洋国立図書館プロジェクト」が発端となり、ASEAN文化情報委員会の支援を受けて、構築が始められた。

2013年よりスタートしたこのプロジェクトにより、プラットフォームの作成とメタデータの収集が行われ、2016年にADLの運用が開始された。これによって、各国立図書館が保有する貴重資料を同時に検索することができるようになった。また、リンクによって資料を閲覧できるよう導線が引かれているため、利用者は各国横断的に資料にアクセスすることができる(図1)。現在は8万件以上の資料情報を検索することができる。

図1 ASEAN Digital Libraryトップページ

図1 ASEAN Digital Libraryトップページ

(出所)ASEAN Digital Library

ADLの検索範囲はASEANに加盟するすべての国に及んでいる。資料は主に歴史的に価値の高いものが中心であり、ASEAN諸国に関心のある人であればたいへん興味深い情報収集ツールである。

検索の仕方はとてもシンプルで、ホーム画面の検索窓にキーワードを入力するだけである。このほか、資料の種類(書籍、新聞、画像、官報など)と言語を選択することで検索結果を絞ることもできる。言語はタイ語、ベトナム語、インドネシア語、などの現地の言葉はもちろんのこと、欧米諸語やアラビア語資料までさまざまだ。

キーワード検索以外に、国ごとに資料情報を網羅的に確認することができるページがすでに設けられている。ホーム画面の検索窓の下に各国のサムネイルが用意されているので、関心のある国をクリックするだけである(図2)。初めて利用する場合には各国の検索できるデジタル資料の状況を見てみるのがいいかもしれない。

以下では、ADLで検索可能なデジタル資料情報の状況についていくつかの国をとりあげて概説したい。

図2 各国ページ用のサムネイル

図2 各国ページ用のサムネイル

(出所)ASEAN Digital Library
【インドネシア】  

インドネシア関連の資料はおよそ250件と少ないが、植民地期の風景スケッチや独立期の重要人物たちの写真が閲覧できて興味深い。スケッチは現在のジャカルタにあたるバタビアの様子を描いたもの、写真は初代正副大統領のスカルノやハッタをはじめとする独立直後の要人たちのものなどである。ADLで資料情報を得た後、個々の資料情報の詳細画面に表示される“Link to Content”をクリックすることで当該資料を所蔵する図書館のデータベースへアクセスするという仕組みだ(図3)。

図3 資料情報の詳細。左下のLink to Contentからデジタル資料の閲覧へ

図3 資料情報の詳細。左下のLink to Contentからデジタル資料の閲覧へ

(出所)ASEAN Digital Library
【シンガポール】

シンガポール国立図書館が提供するデジタル資料は非常に豊富である。ADLでは2万6000以上ものコレクションが検索可能となっており、その多くは16~19世紀の古地図やシンガポールの歴史を物語る写真である。写真は1950年代から近年に至るまでのシンガポール国内各地の風景を撮影したもので、都市国家シンガポールにおける時代の移ろいを知るうえでとても重要な資料といえる。

【フィリピン】

フィリピンは現時点での収録件数が9000以上あり、その半数以上が官報である。刊行初期である1900年代から、最近のものでは2000年代のものまで、英語版とスペイン語版の双方の情報が検索可能である。検索結果の後、“Link to Content”をクリックするとフィリピン国立図書館が提供するデジタルコレクションのデータベースで検索したデジタル資料を閲覧することができる。

【マレーシア】

1000件以上の資料情報があり、そのなかで、ジャウィ文字2で書かれた写本の情報も多く収録されている。内容は歴史や文学、法律、そしてイスラム教に関するものなど多岐にわたる。これらはマレーシア国立図書館のマレー語写本コレクション(Koleksi Manuskrip Melayu)で公開されている資料の情報である。同データベースでは16世紀から20世紀にかけて書かれたジャウィ語の写本を公開している。他の資料と同様に、ADLで検索した後に結果画面の“Link to Content”からデジタル資料を実際に閲覧することができる。

【ラオス】

ラオス関連のデジタル資料として1万2000件以上の情報が提供されている。これらはすべて写本である。ラオス国立図書館ではラオス全域から収集した写本をデジタル化し公開するデータベース(Digital Library of Lao Manuscripts)を提供しており、その資料情報をADLで検索することができる(図4)。

図4 デジタル化された貝葉写本を閲覧できる

図4 デジタル化された貝葉写本を閲覧できる

こうしたプラットフォームは各国の貴重資料のアクセシビリティ向上を促してくれるありがたいツールである。また、東南アジアに関心を持つ筆者としては、各国がどのような資料のデジタル化に力を注いでいるのか、それぞれの特色をうかがうことができて興味深いと感じた。

一方で、ADLのプラットフォームはとてもシンプルで誰でも検索しやすいようになっているものの、資料が年代別に検索できなかったり、ADLから実際のデジタル資料へのリンクが切れている場合もあったりと、改善の余地も見受けられた。今後も、東南アジア全域の文化・歴史について理解を深めるための情報源として、ますます活用できるサービスになっていくことを期待したい。

今回紹介した情報以外にも、多種多様なデジタル資料の発掘の可能性は十分にあるので、ぜひアクセスして新しい発見をしてほしい。

参考文献
著者プロフィール

土佐美菜実(とさみなみ)。ジェトロ・アジア経済研究所海外研究員(在シンガポール)。2013年ライブラリアンとしてアジア経済研究所に入所。東南アジア地域を担当。

  1. 例えば、シンガポールの状況は筆者の「シンガポールのデジタル資料横断検索サービス“OneSearch”を使ってみよう」(IDEスクエア、2019年7月)で紹介している。
  2. イスラム教とともに伝来したアラビア文字を、マレー語表記に対応させた文字で、マレーシアやインドネシアなどで使用されてきた。
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