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熱狂的な支持のなかで――ジョグジャカルタからの大統領選キャンペーン報告

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050847

土佐 美菜実

2019年4月

(3,623字)

支持宣言ラッシュ

2019年4月17日の大統領選挙を前に、インドネシアでは著名人や特定の団体による候補者への支持表明が注目を集めている。特に、インドネシアは国民の多くがイスラーム教を信仰しているため、著名なイスラーム指導者たちの支持宣言は彼らを敬う一般のイスラーム教徒たちに影響を与え、票の行方を左右するとされている。

 このほか、インドネシア大学やガジャマダ大学などの大学の同窓会も次々と支持宣言を出してきた。また、大学のみならずジャカルタやスラバヤといった大都市の高校の同窓生らも支持宣言を出している。当然ながら、こうした候補者への支持表明は該当する同窓生全員が賛同して行われているわけではない。実際にはひとつの同窓会の中にそれぞれの候補者の支持者が混在しており1、彼らはFacebookなどで激論を交わしている。そのため、宣言によって一概に同窓生らの票の行方が決まるわけではない。

こうしたなか、ジョグジャカルタ特別州では3月23日に同地域内の学校(中学校・高校・大学)を卒業したOB・OGらによる現職のジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)への支持宣言イベントが開催された。このイベントは趣旨に賛同したアーティストたちによるコンサートが主な内容である。さらにコンサートの後にはジョコウィ本人の登場と彼の前での支持宣言が行われる予定となっていた。この日、筆者もジョグジャカルタ出身の友人に同行し、その様子をうかがってみることにした。

ジョコウィ支持宣言イベント

前日に主催者側が用意したオリジナルTシャツ(写真1)を受け取り、当日はそれを着用して参加した。野外の会場は雨季のピークを迎える3月にしては珍しくきれいに晴れていた2

写真1 無料で配布されたオリジナルTシャツ(筆者撮影)

写真1 無料で配布されたオリジナルTシャツ(筆者撮影)
さて、会場に入ると老若男女、たくさんの参加者がすでに集まっていた(写真2、3)。先のオリジナルTシャツを着用している人もいれば、自分たちで用意したと思われる応援Tシャツを着ている人たちもいる。

写真2 会場入り口の様子(筆者撮影)

写真2 会場入り口の様子(筆者撮影)

写真3 開始前の会場内にて(筆者撮影)

写真3 開始前の会場内にて(筆者撮影)

イベントは朝8時開始の予定で、それまでは最近人気のポップスが流れていた。そのなかで、サンドリナという女性歌手のとある歌が流れ始めた時、筆者は思わずぎょっとした。この歌は“Goyang 2 Jari”というタイトルで、意味は「2本指のダンス」である。さらにサビの部分もタイトルと同様に「さぁ2本の指を動かして…」というフレーズで始まる。2本の指、これは今回の大統領選挙で候補者番号2番となった、ライバル候補者プラボウォを想起させるのだ3。以前この歌をYouTubeで検索したところ、コメント欄はプラボウォ支持派の応援メッセージで埋め尽くされていた。

余談だが、選挙前の時期、インドネシアでは写真に写るときも注意しなくてはならない。親指1本を立てるグッドマークまたは2本の指を立てるピースサインのポーズをとることで勝手にどちらかの支持者として捉えられる可能性があるからである。さらに言えば、携帯電話でメッセージを送る際の絵文字にも気を遣う。

話を件の歌に戻すと、歌詞はジョコウィを応援する「ジョコウィ版」にすっかり変わっていた。サビの部分も「さぁジョコウィを選ぼう…」から始まり、完全に応援ソングになっていたのである。後日、調べてみると最近のヒット曲が大統領候補者への応援歌として歌詞を書き替えてよく使われているようである。

そして8時を迎えると、ジョコウィ支持を鼓舞する軽快なリズムの曲「ジョコウィ親指ダンス」(Goyang Jempol Jokowi Gaspol)とともにイベントが始まった。参加者全員が準備運動代わりにこの曲で踊り始める(写真4)。ダンスでウォーミングアップを終えた後、次々とアーティストらが登場し、いよいよ本格的にコンサートが始まった。彼らも歌詞の端々をジョコウィの応援メッセージに替えて歌うなどして観客を沸かせていた。

写真4 ノリノリで踊る参加者たち(筆者撮影)

写真4 ノリノリで踊る参加者たち(筆者撮影)

コンサートで盛り上がりも最高潮に達した頃、ジョコウィが会場に向かっているという情報が司会者より伝えられた。イリアナ夫人と一緒に自転車で向かうジョコウィの映像が会場の巨大スクリーンに映し出され、この映像に会場の参加者たちはまさに狂喜乱舞である。

その後、まずイリアナ夫人がひとりで姿を現し、ステージ近くの参加者たちと次々に握手をし、挨拶を交わす(写真5)。イベントのオリジナルTシャツに黒のパンツ、そして腰にはウエストポーチを下げており、野外イベント向けのカジュアルな恰好をしていた。

次に、ジョコウィ本人の前に等身大の人形がそれらしい雰囲気でやって来るというインドネシアではよくある前置き(写真6)の後、いよいよ本人の登場である。ジーンズにこの日のオリジナルTシャツ、そして上にはブルゾンを着て、彼の飾らないイメージ通りの姿で現れた(写真7、8)。会場の真ん中に設置されたステージに上がるジョコウィに少しでも近づきたい参加者たちがどっと付近に押し寄せる。筆者の周囲はもはや自分の意志で移動することが不可能なほど人でごった返し、頭上から照り付ける太陽も加勢してほとんどサウナにいるような状態であった。

写真5 参加者と握手するイリアナ夫人(筆者撮影)

写真5 参加者と握手するイリアナ夫人(筆者撮影)

写真6 本人登場の前にいったんステージ脇に運ばれるジョコウィ人形(筆者撮影)

写真6 本人登場の前にいったんステージ脇に運ばれるジョコウィ人形(筆者撮影)

写真7 青空に人差し指を突き立てたポーズで登場したジョコウィ(筆者撮影)

写真7 青空に人差し指を突き立てたポーズで登場したジョコウィ(筆者撮影)

写真8 皆どうにかしてジョコウィとの2ショットを撮りたくて必死である(筆者撮影)

写真8 皆どうにかしてジョコウィとの2ショットを撮りたくて必死である(筆者撮影)

ジョコウィのスピーチが始まり、まずは巷に溢れる自身へのデマ情報や誹謗中傷への警鐘を鳴らした。また、公約のひとつである大学教育カード(Kartu Indonesia Pintar Kuliah)を掲げ、再選の暁にはこのカードを発行し経済状況の厳しい大学進学希望者への学費支援を行うと約束した。ジョコウィが発言をするたびに聴衆からは大きな賛同の声や声援がたびたび上がっていた。

スピーチが終わるとジョコウィはステージ付近の参加者ひとりひとりと握手をし、時には写真撮影にも応じていた。参加者たちは最後の望みをかけ、少しでもジョコウィに近づこうとますますステージ近くに押し寄せるのであった。その後、イベント主催者であるジョグジャカルタ同窓会の代表らによってジョコウィ支持宣言が粛々と行われ、イベントはインドネシアの大御所ロックバンド、God Blessの演奏で幕を閉じた(写真9)。

写真9 会場の外壁には投票を呼びかける絵が描かれていた(筆者撮影)

写真9 会場の外壁には投票を呼びかける絵が描かれていた(筆者撮影)
熱い支持の先には

今回のイベントに参加して、支持者たちの熱い声援を直に感じることができた。支持宣言イベントや集会はインドネシア各地で行われており、さらに言えば前回の2014年大統領選に比べると、大学や高校を中心とした同窓会メンバーによる支持表明が非常に目立つようになった。

2014年の選挙キャンペーンで盤石な後ろ盾のなかったジョコウィを支えたのは市民ボランティアであった。しかし、名もなき市民に支えられた前回とは異なり、2019年の選挙キャンペーンでは影響力のある集団に所属する者がその所属先の名の下に次々と支持を表明している。「庶民派」というジョコウィ自身のイメージは今年も変わらないが、名だたる学校の名前を冠した声援は今回、強力な支持勢力としてその存在感を示している。今後は大統領選挙の行方を決定づける新たな要因となるかもしれない。(写真10、11)。

写真10 プラボウォの選挙宣伝ポスター(筆者撮影)

写真10 プラボウォの選挙宣伝ポスター(筆者撮影)

写真11 支持政党の旗を掲げる地域。選挙が近づくにつれてあちこちで見かけるように(筆者撮影)

写真11 支持政党の旗を掲げる地域。選挙が近づくにつれてあちこちで見かけるように(筆者撮影)
著者プロフィール

土佐美菜実(とさみなみ)。アジア経済研究所海外研究員(在ジョグジャカルタ)。2013年ライブラリアンとしてアジア経済研究所に入所。東南アジア地域を担当。

写真の出典
  • 写真1~11 すべて筆者撮影。
  1. 今回の大統領選挙は前回の2014年の時と同様に、ジョコ・ウィドド(現職)とプラボウォ・スビアント(グリンドラ党首)の一騎打ちである。
  2. インドネシアでは大事な行事には雨雲を操る職能者、パワン・フジャン(Pawang Hujan)に晴れ乞いをお願いする。この日、実際にパワン・フジャンが呼ばれたかどうかは不明だが、「優秀なパワン・フジャンに頼んだのではないか」と口にする者もいた。
  3. 昨年の9月に総選挙委員会本部にてこの候補者番号を決定する抽選会が開催された。これによりジョコウィ組が「1」、プラボウォ組が「2」となった。これらの数字は選挙キャンペーン開始から投票の時まで、それぞれの候補者を象徴する重要な数字となる。