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朝鮮最高人民会議第14期第1次会議で組織された政権機関
PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051418
2019年6月
(4,545字)
最高人民会議
表1 道・直轄市および軍事部門の代議員数
代議員の入れ替わりについては、第10期がその前の選挙から8年という長い期間があったためとくに新人の数が多く6割に達したのを除けば、これまで新人の割合は5割ほどであり、今回の第14期も同様であった(表2)。
なお、4月11日に開催された最高人民会議第14期第1次会議では代議員の社会成分別構成、年齢別構成、男女比も発表された。第10期から今回の第14期までの社会成分別構成に関して発表された数字は表3のとおりである。
表2 代議員の新人および再選者数
表3 代議員の社会成分別構成
表3では第10~11期で労働者が3割を超しているのに対して、第12期以降はそれが1割程度になっている。これは筆者が代議員名簿を調べたところ、第10~11期は工業部門に属する代議員をすべて労働者に分類したのに対して、第12期以降は工業部門に属する代議員のうち、支配人など経営陣の人物を除いたためであることがわかっている。したがって、これまでのところ、社会成分別の構成に関して大きな変化は生じていないことが確認される。
このほか、年齢別構成、男女比についても発表されているが、その数値を見る限り、これまでに代議員に関して構成上の大きな変化は確認されない(表4、5)。
表4 代議員の年齢別構成
表5 男女比
国務委員会のメンバー
表6 国務委員会メンバー名簿(2019年4月11日)
今回の国務委員会は委員長金正恩以下、副委員長1人と委員11人で構成されている。うち、新たに委員になった者は3人であり、今回新たに内閣総理になった金在龍、人民軍総政治局長の金秀吉、外務省第1副相(第1次官)の崔善姫である。
新たな内閣総理である金在龍は、前職が慈江道党委員長であり、その前は平安北道の党秘書(党書記)であったことがわかっているが(『労働新聞』2010年9月30日)、それ以前の経歴は知られていない。人民軍総政治局長である金秀吉は、2018年5月にその職にあることが判明したが、その前は平壌市党委員長、それ以前は人民軍総政治局組織担当副局長である。この2人の異動はそれぞれ総理の交代と人民軍総政治局長の交代によるものである。
崔善姫の場合はこれらと異なっている。崔善姫は1990年代にクアラルンプールでアメリカとの会談が行われているときに現地で記者発表をしばしば実施したことで知られ、2016年には外務省米州局副局長として北京での国際会議にも出席し、2018年には外務省副相としてアメリカとの交渉で実務交渉を担当した。崔善姫の国務委員会委員就任は、崔善姫が直接金正恩から指示を受ける立場にあることを示すとともに、対米交渉を金正恩が重く見ていることを示したものである。
内閣のメンバー
表7 内閣メンバー名簿(2019年4月11日)
今回の人事の特徴
新たに発足した第14期最高人民会議の代議員構成、その下に組織された国務委員会と内閣のメンバーからみてとれることは以下のとおりである。
第1に、最高人民会議代議員の構成からは政治権力に関する大きな社会的変化を見出すことができない。金正恩にすべての国家の権限が集中した体制は強い安定性を示している。
第2に内閣総理の交代にもかかわらず、大きな政策の変更を示すものはない。前総理の朴鳳柱が国務委員会副委員長という総理よりも上位の地位についていることは、新たな内閣は朴鳳柱が進めてきた政策を継承するということを意味している。
第3に国務委員会のメンバーに崔善姫外務省第1副相が入ったことは、最高指導者の金正恩が対米政策を重視していることを示している。
なお、今回の最高人民会議代議員選挙では金正恩が名簿になかったという特異な現象があった。これに関しては、代議員にならなくても最高指導者の権威と権限が不変であることを示したものであると思われる。
写真の出典
- 最高人民会議が開会される万寿台議事堂:North Korea-Pyongyang, (stephan) [CC BY-SA 2.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0)]
著者プロフィール
中川雅彦(なかがわまさひこ)。アジア経済研究所在ソウル海外調査員(2017年3月~)。主要著書は、『朝鮮社会主義経済の理想と現実――朝鮮民主主義人民共和国における産業構造と経済管理』アジア経済研究所 2011年、『アジアは同時テロ・戦争をどう見たか』(編著)明石書店2002年、『アジアが見たイラク戦争』(編著)明石書店2003年、『朝鮮社会主義経済の現在』(編著)アジア経済研究所 2009年、『朝鮮労働党の権力後継』(編著)アジア経済研究所2011年、『朝鮮史2』(共著)山川出版社 2017年。
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