不安材料の多い五輪前の明るい兆し

ブラジル経済動向レポート(2016年7月)

地域研究センター 近田 亮平

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貿易収支:7月の貿易収支は、輸出額がUS$163.31億(前月比▲2.5%、前年同月比▲16.8%)、輸入額がUS$117.52億(同▲8.0%、同▲22.2%)で、貿易黒字額はUS$45.78億(同+15.2%、同+1.1%)を計上した。年初からの累計は、輸出額がUS$1,065.84億(前年同期比+13.0%)、輸入額がUS$783.53億(同▲14.9%)で、貿易黒字額はUS$282.30億(同+1168.8%)となった。6月以降、為替相場が若干ドル安レアル高となったが、7月の貿易黒字額は前月より増加し、不安材料の多い五輪前のブラジルであるが貿易では明るい兆しが見られている。

輸出に関しては、一次産品がUS$70.29億(1日平均額の前年同月比▲14.7%)、半製品がUS$23.99億(同+10.1%)、完成品がUS$65.63億(同+7.3%)であった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$35.35億、同▲8.1%)、2位が米国(US$18.98億、同▲4.3%)、3位がオランダ(US$17.09億)、4位がアルゼンチン(US$10.24億、同▲7.4%、同▲9.5%)、5位がドイツ(US$3.94億)であった。輸出品目に関して、増加率では鉄鋼管(同+160.9%、US$1.76億)が100%を超える伸びを記録し、減少率では銅(同▲49.4%、US$0.97億)や圧延板(同▲42.2%、US$1.05億)が顕著だった。輸出額では(「その他」を除く)、大豆(US$24.25億、同▲17.6%)がUS$20億超で突出しており、その他に鉄鉱石(US$9.96億、同▲20.1%)、前年同月にはなかった石油採掘プラットフォーム(US$9.23億)、原油(US$9.07億、同▲0.9%)がUS$10億前後の取引額を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$17.32億(1日平均額の前年同月比▲21.1%)、中間財がUS$73.69億(同▲13.5%)、耐久消費財がUS$3.67億(同▲44.6%)、非・半耐久消費財がUS$13.10億(同▲24.2%)、基礎燃料がUS$4.21億(同▲59.0%)、精製燃料がUS$5.46億(同▲9.4%)であった。主要輸入元は、1位が米国(US$20.04億、同+0.6%)、2位が中国(香港とマカオを含む)(US$18.23億、同▲39.7%)、3位がアルゼンチン(US$7.54億、同▲7.6%)、4位がドイツ(US$7.50億)、5位が韓国(US$6.04億、同+51.0%)であった。

物価:発表された6月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は、0.35%(前月比▲0.43%p、前年同月比▲0.44%p)と市場の予想より低い数値であった。食料品価格は0.71%(同▲0.07%p、+0.08%p)で、物価全体とともに今年の最低レベルを記録した。この結果、年初累計が4.42%(前月同期比▲1.75%p)、直近12カ月(年率)が8.84%(前月同期比▲0.48%p)となった。ブラジルは8月5日に開幕するオリンピックを前に、政治経済だけでなく社会面でもジカ熱や治安など不安材料の多い状況に陥っているが、物価に関しては最近高かった傾向と異なり明るい兆しが見えてきたといえる(グラフ1)。

食料品に関して、不作の影響でフェイジョン豆(carioca:5月7.61%→6月41.78%、mulatinho:同9.85%→34.15%)が大幅に上昇したことをはじめ、物価高の傾向はまだあるものの、ニンジン(同▲23.08%→▲23.72%)やタマネギ(同10.09%→▲17.78%)など10%以上値を下げた品目もあった。非食料品では、燃料価格や航空運賃の下落した運輸交通分野(同▲0.58%→▲0.53%)が引き続きマイナスを記録した。また依然高い値のものもあるが、5月に1%超と高騰した住宅分野(同1.79%→0.63%)、保健・個人ケア分野(同1.62%→0.83%)、個人消費分野(同1.35%→0.35%)でも6月は相対的に数値が低下した。

グラフ1 物価(IPCA)の推移:2011年以降
グラフ1 物価(IPCA)の推移:2011年以降
(出所)IBGE

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は20日、Selicを14.25%で据え置くことを全会一致で決定した。今回は中央銀行のIlan新総裁をはじめとする新メンバーによる初のCopomであったが、Ilan総裁の方針がインフレ対策重視と見られていることもあり、一部の市場関係者が期待する金利引き下げに関して、短期的には尚早との見方を示し、Selicは8回連続で据え置かれることになった。なおSelicは、Dilma政権が発足した2011年以降、現行制度で最も低い7.25%まで一時引き下げられたが、経済がスタグフレーション状態に陥ったこともあり、現在は最も高い水準が最も長く維持されている(グラフ2)

グラフ2 政策金利(Selic)の推移:2011年以降

グラフ2 政策金利(Selic)の推移:2011年以降

(出所)ブラジル中央銀行

為替市場:7月のドル・レアル為替相場は、ほぼ横ばいの展開となった。月のはじめ、6月に急激に進行したドル安レアル高に対して中央銀行が連続して為替介入を行った結果、7日に月内のドル最高値となるUS$1=R$3.3388(売値)までドル高が進んだ。しかし、英国の新首相が予想より早く決定したことや、日本や中国の新たな経済対策への期待から、リスクテイクの動きが強まりレアルが買われた。また国内的にも、Temer暫定政権陣営が推すMaia(DEM:民主党)下院議員が新しい下院議長に当選したことで、政府の議会運営が円滑になるとの見方が高まり、レアル高の要因となった。

月の後半になると、政府が議会に提出した公務員の給与増額の調整案に関して、財政目標に影響はないと政府は説明したものの、市場では政府財政の悪化要素と捉えられ、レアルが売られた。またMeirelles財務大臣が、政府の財政支出を抑制する法案が議会で否決される可能性や、更なる増税を実施する必要性に言及し、このことがレアル安の要因となった。そして月末は、ドルが前月末比+0.91%と先月末とほぼ同じレベルとなるUS$1=R$3.2384(買値)で7月の取引を終えた。

株式市場:7月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、英国のEU離脱をめぐり金融システムに対する不安が増大し、月のはじめは値を下げて始まった。しかし、国内の6月の物価(IPCA)が予想より低い0.35%へ低下したことや、英国ショックが落ち着いたことで世界主要国の経済に対して楽観的な見通しが強まったことで、株は上昇する展開となった。また、汚職疑惑等で辞任に追い込まれた下院議長をめぐる選挙が行われ、Temer暫定政権が推すMaia下院議員がCunha前下院議長やDilma大統領の労働者党(PT)の候補を破り当選したことも、株価の押し上げ要因となった。月の後半、派生商品の過剰供給に起因する原油の国際価格の下落などを受け、Petrobrasを中心に株は一時売られる場面も見られた。

しかし、Temer暫定政権の経済運営が市場でポジティブに評価され、物価が低下傾向を示すなど、不安材料の多いオリンピック前のブラジルでも、経済の一部に明るい兆しが見え始めたことから株価は再び上昇。月末の終値は、前月末比+11.22%で今年の最高値となる57,308pまで上昇し、7月の取引を終了した(グラフ3)。

グラフ3 株式相場(Bovespa指数)の推移:2016年
グラフ3 株式相場(Bovespa指数)の推移:2016年
(出所)サンパウロ株式市場