五輪Yearを迎えたThe Post-New Brazil

ブラジル経済動向レポート(2016年1月)

地域研究センター 近田 亮平

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貿易収支:1月の貿易収支は、輸出額がUS$112.46億(前月比▲33.0%、前年同月比▲17.9%)、輸入額がUS$103.23億(同▲2.1%、同▲38.8%)であった。この結果、貿易収支はUS$9.23億(同▲85.2%、同+129.1%)となり、為替相場のドル高レアル安傾向の影響もあり、1月として2011年以来の黒字を記録した。なお、今月より貿易収支の算出方法が改定された。

輸出に関しては、一次産品がUS$47.53億(1日平均額の前年同月比▲14.7%)、半製品がUS$18.53億(同▲21.3%)、完成品がUS$43.38億(同▲8.3%)であった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$15.79億、同+4.9%)、2位が米国(US$14.07億、同▲25.2%)、3位がアルゼンチン(US$8.26億、同+1.7%)、4位がオランダ(US$6.68億)、5位が日本(US$4.54億、同+12.3%)であった。輸出品目に関して、増加率では暖房・空調機器(同+1489.3%、US$0.97億)、大豆(同+341.6%、US$1.48億)、自動車(同+115.9%、US$2.34億)が高く、減少率では鋳造鉄(同▲67.0%、US$0.39億)が顕著だった。輸出額では(「その他」を除く)、1位の原油(US$8.11億、同▲28.3%)と2位のトウモロコシ(US$7.35億、同+30.0%)でもUS$10億未満の取引額となった。

一方の輸入は、資本財がUS$19.33億(1日平均額の前年同月比▲21.8%)、原料・中間財がUS$59.48億(同▲35.4%)、耐久消費財がUS$2.55億(同▲55.8%)、非・半耐久消費財がUS$13.34億(同▲19.4%)、原油・燃料がUS$8.41億(同▲60.6%)であった。主要輸入元は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$23.38億、同▲34.9%)、2位が米国(US$16.41億、同▲32.3%)、3位がドイツ(US$6.58億)、4位がアルゼンチン(US$4.87億、同▲34.7%)、5位がイタリア(US$3.16億)であった。

物価:発表された2015年12月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.96%(前月比▲0.05%p、前年同月比+0.18%p)で、食料品価格が1.50%(同▲0.33%p、+0.42%p)と2カ月連続で1%を超えたこともあり、引き続き高い数値となった(グラフ1)。この結果、2015年の物価は10.67%(前年比+4.26%p)で、政府目標4.50%の上限である6.50%を大きく超過し、2002年の12.53%に次ぐ高いレベルに達した。年間の食料品価格も12.03%(前年比+4.00%p)と前年より高い伸びとなったことに加え、為替のレアル安、公共料金の値上げ、政府財政の悪化などが物価高の要因となった(グラフ2)。国の威信を賭けた五輪の年を迎えた現在のブラジルは、インフレ高騰に悩まされた過去の姿さえ彷彿させる状況だといえよう。

12月の食料品に関しては、タマネギ(11月10.39%→12月13.71%)、トマト(同24.65%→11.45%)、精糖(同13.15%→10.20%)が10%を超える伸びを記録したことをはじめ、多くの品目で価格が上昇した。一方の非食料品では、年末で旅行や娯楽の需要が高まった関係から、運輸交通分野(同1.08%→1.36%)と衣料分野(同0.79%→1.15%)が1%超の高い伸びとなった。

2015年通年では、食料品に関してタマネギ(2014年23.61%→2015年60.61%)、ニンニク(同10.68%→53.66%)、トマト(2014年▲3.07%→2015年47.45%)、ジャガイモ(2014年3.75%→2015年34.18%)の値上がりが顕著であった。非食料品に関しては、住宅分野(同8.80%→18.31%)と運輸交通分野(同3.75%→10.16%)が10%超の値上がりとなったことに加え、個人消費分野(同8.31%→9.50%)、教育分野(同8.45%→9.25%)、健康・個人ケア分野(同6.97%→9.23%)も9%台の伸びを記録した。

グラフ1 2015年の月間IPCAの推移
グラフ1 2015年の月間IPCAの推移
(出所)IBGE
グラフ2 過去10年間の年間IPCAの推移
グラフ2 過去10年間の年間IPCAの推移
(出所)IBGE
(注)目標値(4.5%)の上下幅は±2%。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は20日、Selicを14.25%で据え置くことを決定した。ただし、景気回復を優先したい政府と与党労働者党がTombini総裁などに圧力をかけた影響もあり、8人のCopom委員のうち2人はインフレ懸念から0.50%pの利上げを主張したが、Selicは4回連続で据え置かれることになった。今回のSelic決定に対する政府と与党労働者党の政治的な介入に関して、中央銀行の独立性という観点から市場では懸念する意見が多く見られ、為替や株価も敏感に反応した。

為替市場:1月のドル・レアル為替相場は、原油の国際価格の上下に影響される展開となった。月のはじめ、中国経済の減速や中国元の下落、世界的な株安、中東情勢の悪化、北朝鮮の水爆実験などを要因としてドル買いが強まった。一方、コモディティの国際価格が下落傾向にあることや、Selicが政治的圧力もあり据え置かれたことを受け、さらにドル高レアル安が進行した。また、8~10月の全国失業率(Pnad:全国家計調査)が2012年3月の調査開始から最も高い9.0%を記録、2015年の新規正規雇用が150万人に止まり過去24年で最低、近年低下傾向にあった失業率(6大都市圏)が2015年は6.9%に上昇(グラフ3)など、ブラジルの雇用状況の悪化からレアルを売る動きは続き、21日にはUS$1=R$4.1558(売値)を記録した。

一時、原油の国際価格が上昇したことや、月末に日本銀行がマイナス金利政策を発表したことから、レアルが値を戻す場面も見られた。しかし、月末は前月末比+3.53%ものドル高レアル安となるUS$1=R$4.0428(売値)で1月の取引を終えた。ブラジルは21世紀のはじめに「新しいブラジル」とも称され評価が高まったが、五輪開催の年が明けた今、「ポスト新しいブラジル」の厳しい時期を迎えている。

グラフ3 6大都市圏の失業率の推移:2002年以降
グラフ3 6大都市圏の失業率の推移:2002年以降
(出所)IBGE

株式市場:1月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は月の後半を除き、基本的に値を下げる展開となった。月のはじめ、発表された中国の経済指標が弱かった影響で世界的な株安となり、ブラジルでも先行き不透明感が高まる中国経済への依存が高いValeをはじめ鉄鉱石などのコモディティ関連の株が売られた。12年ぶりにUS$30を下回るなど原油の国際価格の下落も影響し、Petrobrasが2015-19年の投資計画を2015年6月当初の予定からUS$319億も削減すると発表すると、同社株は大きく下落した。

一時、続落していた原油の国際価格が上昇したことで、株が上昇する場面も見られた。しかし、イランへの欧米による経済制裁が一部解除され、原油の市場への供給が増えるとの見方が強まると国際価格は再び下落。また、ブラジルの政策金利のSelicが政治的な圧力もあり14.25%に据え置かれると、市場はネガティヴに反応した。さらに、ブラジルの信用格付けが最近引下げられ利払いが増加していることもあり、2015年の純公的債務額が過去最高のR$2兆7900億を記録すると、財政懸念の高まりからBovespaは2009年3月以来となる37,496pまで値を下げた(グラフ4)。

ただし月の後半、米国が金利の引き上げを断念し据え置きを決定したことで上昇に転じた。月末には、日本銀行がマイナス金利政策を実施すると市場では好感や驚きを持って受け止められ、Bovespaは一日で4.6%もの大幅上昇となった。しかし、月末の終値は40,406pで前月末比▲6.79%ものマイナスとなった。

なお、近年のブラジルの目まぐるしい変化をまとめた『The Post-New Brazil』(英語)は、下記サイトから無料でダウンロードできます。
http://www.ide.go.jp/English/Publish/Download/Spot/35.html

グラフ4 純公的債務の推移:1995年以降
グラフ4 純公的債務の推移:1995年以降
(出所)サンパウロ株式市場