英国ショックの影響

ブラジル経済動向レポート(2016年6月)

地域研究センター 近田 亮平

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貿易収支:6月の貿易収支は、輸出額がUS$167.43億(前月比▲4.7%、前年同月比▲14.7%)、輸入額がUS$127.70億(同+14.7%、同▲15.4%)で、貿易黒字額はUS$39.73億(同▲38.8%、同▲12.2%)を計上した。年初からの累計は、輸出額がUS$559.48億(前年同期比▲40.7%)、輸入額がUS$426.99億(同▲53.6%)で、貿易黒字額はUS$236.35億(同+962.2%)となった。ブラジル経済は長く低迷した状態が続いているが、為替相場でのドル高レアル安傾向を追い風に、最近の貿易収支は黒字が続いている(グラフ1)。ただし、6月は為替が月の後半にドル安レアル高へ振れており(グラフ2)、不況の中で一縷の灯とも言える貿易に対して、英国ショックなどが及ぼす影響が懸念される。

輸出に関しては、一次産品がUS$78.21億(1日平均額の前年同月比▲21.7%)、半製品がUS$24.44億(同+3.7%)、完成品がUS$60.95億(同▲21.0%)であった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$42.88億、同▲16.2%)、2位が米国(US$20.62億、同▲13.0%)、3位がアルゼンチン(US$12.09億、同+5.1%、同▲9.5%)、4位がオランダ(US$8.35億)、5位がインド(US$4.02億)であった。輸出品目に関して、増加率ではエタノール(同+142.1%、US$1.13億)が100%、砂糖(同+53.6%、US$7.67億)が50%を超える伸びを記録し、減少率では燃料油(同▲51.6%、US$1.02億)が50%以上のマイナスとなった。輸出額では(「その他」を除く)、大豆(US$29.71億、同▲24.6%)、鉄鉱石(US$10.83億、同▲15.2%)、原油(US$9.66億、同▲36.2%)がUS$10億前後の取引額を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$26.68億(1日平均額の前年同月比+24.4%)、中間財がUS$72.60億(同▲19.6%)、耐久消費財がUS$3.73億(同▲50.9%)、非・半耐久消費財がUS$13.94億(同▲21.3%)、基礎燃料がUS$5.98億(同▲56.8%)、精製燃料がUS$4.61億(同▲36.0%)であった。主要輸入元は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$20.28億、同▲17.4%)、2位が米国(US$20.06億、同▲25.8%)、3位が韓国(US$13.49億、同+221.8%)、4位がドイツ(US$9.57億)、5位がアルゼンチン(US$7.76億、同▲28.6%)であった。

グラフ1 貿易収支の推移:2014年以降
グラフ1 貿易収支の推移:2014年以降
(出所)工業貿易開発省

物価:発表された5月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.78%(前月比+0.17%p、前年同月比+0.04%p)で、食料品価格が0.78%(同▲0.31%p、▲0.59%p)と昨年10月以来の0%台まで低下したものの、2カ月連続で前月比を上回る数値となった。年初累計は4.05%(前月同期比▲1.29%p)、過去12カ月(年率)は9.32%(前月同期比+0.04%p)であった。

食料品に関して、ジャガイモ(4月13.13%→5月19.12%)とタマネギ(同▲2.36%→10.09%)が10%を超える伸びを記録し、主食であるフェイジョン豆(mulatinho:同1.42%→9.85%、carioca:同4.00%→7.61%)も大きく値上がりした。ただし、ニンジン(同▲1.04%→▲23.08%)のように大幅に値下がりした品目もあった。非食料品では、エタノールや航空運賃が大きく下落した運輸交通分野(同0.03%→▲0.58%)はマイナスを記録したが、上下水道料金が大幅に値上がりした住宅分野(同▲0.39%→1.79%)、医薬品の価格調整が行われた保健・個人ケア分野(同2.33%→1.62%)、タバコの価格が引き上げられた個人消費分野(同0.81%→0.94%)で1%もの上昇となり、全体的な物価高につながった。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は8日、Selicを14.25%で据え置くことを全会一致で決定した。経済界を中心にSelic引き下げへの期待もあったが、同日に発表された5月のIPCAが2カ月連続で前月より高くなるなど、依然物価が高い水準で推移しているため、インフレ対策を優先させる判断が下された。なお、今回のCopomには参加しなかったが、Temer暫定政権が中央銀行総裁に指名していたIlan氏が正式に総裁に就任した。Ilan総裁はIMF、中央銀行理事、民間金融機関Itaú Unibancoのチーフ・エコノミストなどを歴任した経歴を持ち、インフレ抑制を優先し利下げに消極的との見方が多くなされている。

為替市場:6月のドル・レアル為替相場は、発表された第1四半期GDPが予想ほど悪くなかったこと、Temer暫定政権が提示した経済運営方針に対する期待、米国の雇用統計が予想を大きく下回ったこと、中央銀行の総裁がDilma政権のTombiniからTemer暫定政権のIlanへ正式に交代したことへの好感などから、月のはじめはドル安レアル高が進んだ。月の半ばになると、英国がEUを離脱する可能性への懸念からユーロが下落する一方でドルが買われ、対レアルでもドルが上昇した。また、Ilan中央銀行総裁が経済運営の3本柱(変動為替相場、財政と物価の目標設定)を維持すると表明したことで為替介入に消極的との見方が広がり、一時ドル高へと振れた。

しかしその後、英国のEU残留・離脱を決定する国民投票の行方が混乱したことで、それまで買われていたドルを売る動きが強まった。また、Ilan中央銀行総裁がインフレ抑制を優先し為替介入に消極的なの姿勢を明確にし、それには為替のレアル高やSelicの維持が貢献すると発言したことでドル安が加速した。さらに、英国ショックの影響により米国の利上げが先送りされるとの見方からドル安傾向が鮮明となり、月末は前月末比▲10.72%ものドル安レアル高であり、今年のレアル最高値となるUS$1=R$3.2092(買値)で6月の取引を終えた(グラフ2)。

グラフ2 レアル対ドル為替相場の推移:2014年以降
グラフ2 レアル対ドル為替相場の推移:2014年以降
(出所)ブラジル中央銀行

株式市場:6月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、月のはじめに値を上げて始まった。その要因として、Temer暫定政権が提案した財政緊縮を柱とする経済政策案が下院で承認されたこと、Dilma大統領の弾劾裁判の採決が予定(最大180日)より早い時期に行われる可能性が出たこと、4月の鉱工業生産指数が前月比で2カ月連続のプラスとなったこと、インフレ抑制に好影響となる為替のドル安レアル高が進んだことなどが挙げられる。また、中国の貿易統計が好調だったことや、原油をはじめとするコモディティ価格が上昇したことなど、海外の要素も株価上昇につながった。

しかし月の半ば、引き下げが期待されていた政策金利Selicの据え置き、英国のEU離脱可能性の高まり、コモディティ価格の下落などにより株価は下落。その後、英国でEU残留を主張する政治家が殺害されEU離脱の可能性が低下したことで上昇したが、ブラジル国内4番目の電話通信会社Oiが会社再生法を申請した影響で再び下落した。なおOiの再生手続きは民間企業としてはブラジルだけでなくラテンアメリカで最大であった。株価は月の後半、英国の国民投票で離脱派が勝利したことを受け大幅に下落した後、主要国の株価が買い戻される動きに連動して上昇し、英国ショックの影響を受け乱高下するかたちで6月の取引を終了した。月末の終値は51,527pで前月末比+6.30%の上昇であった(グラフ3)。

グラフ3 株式相場(Bovespa指数)の推移:2015年以降
グラフ3 株式相場(Bovespa指数)の推移:2015年以降
(出所)サンパウロ株式市場