変化への期待によるブラジル買い

ブラジル経済動向レポート(2016年3月)

地域研究センター 近田 亮平

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貿易収支:3月の貿易収支は、輸出額がUS$159.94億(前月比+19.8%、前年同月比▲5.8%)、輸入額がUS$115.59億(同+12.2%、同▲30.0%)であった。この結果、貿易収支はUS$44.35億(同+45.8%、同+864.1%)の黒字となり、為替相場のドル高レアル安や国内消費の減退による輸入の減少に加え、閏年で営業日が多かったことも影響し、3月として過去最高の黒字額を計上した。年初からの累計は、輸出額がUS$405.84億(前年同期比▲5.1%)、輸入額がUS$321.86億(同▲33.4%)で、貿易黒字額はUS$83.98億(同+251.3%)となった。

輸出に関しては、一次産品がUS$73.87億(1日平均額の前年同月比▲1.8%)、半製品がUS$21.13億(同▲14.1%)、完成品がUS$61.70億(同▲5.6%)であった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$39.73億、同+12.3%)、2位が米国(US$19.12億、同▲8.2%)、3位がアルゼンチン(US$11.61億、同+5.1%)、4位がオランダ(US$7.52億)、5位がドイツ(US$4.18億、同▲7.3%)であった。輸出品目に関して、増加率では遠心分離機・フィルター機器(同+813.2%、US$1.62億)とトウモロコシ(同+154.2%、US$3.38億)が3桁の伸びを記録し、減少率では鋳造鉄(同▲48.1%、US$0.43億)や鉄鉱石(同▲44.0%、US$7.76億)が顕著だった。輸出額では(「その他」を除く)、大豆(US$29.25億、同+32.2%)が唯一US$10億を超え突出していた。

一方の輸入は、資本財がUS$15.17億(1日平均額の前年同月比▲26.8%)、中間財がUS$69.96億(同▲28.3%)、耐久消費財がUS$4.13億(同▲47.2%)、非・半耐久消費財がUS$15.07億(同▲24.7%)、基礎燃料がUS$5.85億(同▲52.4%)、精製燃料がUS$5.37億(同▲19.5%)であった。主要輸入元は、1位が米国(US$20.99億、同▲19.7%)、2位が中国(香港とマカオを含む)(US$19.63億、同▲39.8%)、3位がドイツ(US$8.53億)、4位がアルゼンチン(US$8.45億、同▲23.7%)、5位がフランス(US$3.36億、同▲39.3%)であった。

物価:発表された2月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.90%(前月比▲0.37%p、前年同月比▲0.32%p)で、食料品価格が1.06%(同▲1.22%p、+0.25%p)と4カ月連続で1%を超えたこともあり、前月および前年同月に比べ低下したものの、依然高い数値となった。年初累計は2.18%(前月同期比▲0.30%p)で、過去12カ月(年率)は4カ月連続の10%超となる10.36%(前月同期比▲0.35%p)であった。

食料品に関しては、ニンジン(1月32.64%→2月23.79%)、マンジョッカ粉(同7.33%→11.40%)、アサイー(同0.41%→10.06%)が10%を超える伸びを記録したことをはじめ、主食であるフェイジョン豆(mulatinho:同9.75%→9.76%、fradinho:同3.71%→8.72%、carioca:同7.26%→6.82%)など多くの品目で値上がりが顕著だった。非食料品では、住宅分野(同0.81%→▲0.15%)がマイナスを記録したものの、カーニバルが終了し新学期の始まった教育分野(同0.31%→5.90%)で高い伸びとなった。また、家財分野(同0.45%→1.01%)と健康・個人ケア分野(同0.81%→0.94%)が1%前後上昇し、全体的な物価高につながった。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は、3月2日にSelicを14.25%で据え置くことを決定した(前月レポート掲載)。次回のCopomは4月26日と27日に開催予定。

為替市場:3月のドル・レアル為替相場は、大統領の弾劾や政権交代への期待によりレアルが買われる展開となった(グラフ1)。月のはじめ、米国の経済指標が良かったことや、海外主要国での追加景気策への期待を背景にリスクテイクの動きが強まり、原油の国際価格の上昇とともにドル安レアル高が進んだ。そして、ペトロブラス汚職疑惑に関して、大手ゼネコンが2010年大統領選でDilmaの選挙費用を直接支払ったと関係者が証言したため、経済運営が批判されているDilma政権が窮地に追い込まれるとの見方からレアルは上昇。さらに、Lula前大統領が警察に身柄を拘束され事情聴取を受けるとともに、自宅が家宅捜査されたり逮捕請求が出されたりしたため、これを好感しレアルは買われた。また、ブラジル全土で大規模な反政府デモが開催されたこともレアル高に拍車をかけた。

月の半ば、Lulaが自身の逮捕回避やDilma大統領救済のため政府要職への就任を受諾したと報じられると、レアルは一時下落する場面も見られた。しかし、米国が金利を引き上げず据え置いたことによるドル売りに加え、Lulaの政府官房長官就任が一時取り止めになったことや、Dilma大統領の失脚の可能性が取り沙汰されるようになり、現状からの変化への期待からレアルが買われた。また、Tombini中央銀行総裁がインフレとの関連から政策金利の引き下げに否定的な発言をしたことも、高金利のレアル高につながった。急激なドル安レアル高の進行に対して中央銀行が為替介入を行ったが、最大の連立与党PMDB(ブラジル民主運動党)所属の観光大臣が辞任したことに加え、PMDBが連立政権を離脱する決定を下したため、月末は前月末比▲10.57%ものドル安レアル高であり、月内のレアル最高値となるUS$1=R$3.5583(買値)で3月の取引を終えた。

グラフ1 レアル対ドル為替相場の推移:2015年以降
グラフ1 レアル対ドル為替相場の推移:2015年以降
(出所)ブラジル中央銀行

株式市場:3月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)も為替相場と同様、労働者党政権交代への期待によるブラジル買いの展開となった(グラフ2)。月のはじめ、米国の個人消費支出などの経済指標の改善に加え、ペトロブラス汚職事件に関して、Dilma大統領やLula前大統領が直接関わったと与党労働者党の議員が証言したことや、Lulaに対して逮捕請求が出されたため、現政権を取り巻く状況が厳しさを増すとの見方から株価は大きく上昇した。

ただし月の半ば、政府は財政難打開のため外貨準備を使う可能性を示唆するとともに、景気回復策として連邦政府による地方開発向け融資の利息低下などの対策を打ち出した。このような更なる財政悪化を招きかねない施策に加え、汚職問題で窮地に追い込まれたDilma政権が疑惑の主役の一人であるLulaを政府要職に就ける方向で調整したため、左派的な「大きな政府」へと経済政策が転換する懸念が高まり、株価は大幅に下落した。その後、米国が金利の据え置きを決定したこと、また、Lulaの官房長官就任に対して最高裁判事が差し止めの判断を下したことや、Dilma大統領の弾劾裁判が再び現実味を帯びたことを好感し、株価は上昇した。

月末に向け、Lulaの入閣をめぐる攻防で政府に有利な動きが強まったことに加え、ペトロブラス汚職事件で大手ゼネコン(Odebrecht)取引に関与していた疑いが、連立与党だけでなく野党も含めた24政党、279人もの政治家に上ることが判明すると、株価は再び下落。その後、Lulaと連立最大与党PMDBのTemer副大統領が会談を行ったが、PMDBの連立離脱が決定的になると株価は上昇した。ただし月末は、発表された中央銀行のレポートにより政策金利Selicの引下げ可能性が後退したため、若干値を下げて3月の取引を終了した。

ただし、月末の終値は50,055pで前月末比+16.97%もの上昇となり、このような政局の変化への期待によるブラジル買いは、カントリー・リスクの低下にも表れている(グラフ3)。

グラフ2 株式相場(Bovespa指数)の推移:2015年以降
グラフ2 株式相場(Bovespa指数)の推移:2015年以降
(出所)サンパウロ株式市場
グラフ3 ブラジルのカントリー・リスクの推移:2015年以降
グラフ3 ブラジルのカントリー・リスクの推移:2015年以降
(出所)J.P.Morgan