IDEスクエア

世界を見る眼

ラオス人民革命党第11回大会――第9次5カ年計画の方向性

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051965

2021年2月

(4,444字)

所得4倍増計画に急ブレーキ

2021年1月13日から15日まで開催されたラオス人民革命党第11回全国代表者大会(以下、党大会)において、第9次経済・社会開発5カ年(2021~2025年度)計画案(以下、5カ年計画案)が報告された。2016年に承認された第8次5カ年(2016~2020年度)計画からの大きな転換は、成長目標の大幅な引き下げである。第8次5カ年計画の国内総生産(GDP)年間平均成長率目標は、長期目標である2030年までの所得4倍増計画に向けて、7.5%に設定されていた。7.5%は高い成長目標であるが、所得の評価基準は米ドルであるため、為替効果がなければ所得4倍増計画を達成するには十分な成長率ではない。しかし第9次5カ年計画案では、GDPの年率成長目標が4%台に大きく引き下げられた。これは2000年度1以降の計画では類をみない低さであり、この水準では所得4倍増計画の達成はほぼ不可能である。

本稿では、第8次5カ年計画および第9次5カ年計画案を比較し、このような大きな転換に至った経緯と党の本意を読み解く。

写真:2020年12月20日に開通した初の有料高速道路(ヴィエンチャン=ヴァヴィエン区間約109㎞)のトンネル。

2020年12月20日に開通した初の有料高速道路(ヴィエンチャン=ヴァヴィエン区間約109㎞)のトンネル。
当初からのつまずき

第8次5カ年計画の高い成長目標の達成は当初からつまずいた。計画の初年度である2016年度のGDP成長率が7%にとどまったことから、2017年度から2020年度までの年間成長率目標は7.2%に引き下げられた。しかしその後も成長率は6.9%(2017年度)、6.3%(2018年度)、5.5%(2019年度)と下降トレンドをたどった(Pasason, January 14, 2021)。そして政府は新型コロナウイルスが発生した2020年度の成長率を約3.3%とし、5カ年の平均年間成長率を5.8%と予測している(後掲表1参照)。

政府は成長率が低下を続けたおもな理由として、中国やタイなどの主要貿易相手国における経済成長の減速や、ラオス経済の脆弱性、慢性的な財政赤字、頻発した自然災害、建設中のダムの決壊2、そして、新型コロナウイルスを挙げている。

しかし、もっとも大きな要因はサービス業の急激な減速である。2016~2020年度の産業別平均年間成長率は農林業が2.1%(計画3.4%)、工業が9.1%(同9.3%)、サービス業は4.8%(同8.1%)であった。すべての産業で目標が未達成となっている。しかしながら、目標達成率が約9割を超えた工業部門は通期で国内生産に占める割合を増加させ続けた。なかでも経済成長への貢献度が高い資源・エネルギー部門はほぼ予定どおりに拡大した。工業部門の拡大が年間平均5%台の経済成長を維持できた要因とみてよいだろう。

これに対してサービス業の目標達成率は6割未満と著しく低かった。第8次5カ年計画開始時点のサービス業のGDPシェアは40%台を推移する最大の産業であったため、サービス業の大幅な低下が全体の成長率を引き下げる要因になったといえる。

サービス業が減速したおもな原因は外国人観光客の減少だと考えられる。1990年から2015年までの年間外国人入国者数は、アメリカで同時多発テロが発生した2001年とSARS(重症急性呼吸器症候群)が発生した2003年を除き2桁から3桁成長を続け、1991年の約1万5000人から2018年の約470万人まで300倍以上拡大した。ところが、2016〜2017年の外国人入国者数はそれぞれ前年比10%および8.7%減となった。2018年は回復の兆しをみせ、2019年には479万人となったものの、第8次5カ年計画の目標であった600万人には届いていない。2020年は新型コロナウイルスの発生により98万人にとどまった。

内訳をみると、隣接しているタイとベトナムからの入国者数の減少がもっとも顕著であった。例えば、タイからの入国者数は2015年に約230万人に達した後、2018年には約190万人まで落ち込んだ。ベトナム人入国者数も2015年に約119万人となったが、2018年には約87万人にまで減少した(The Tourism Development Department 2019)。

ラオスにとって東西に隣接する両国からの入国者数が外国人入国者数全体の7~8割を占めている。同じく隣接国であるカンボジア、ミャンマー、中国からの入国者数は増加傾向を維持しているが、地理的条件やインフラの未整備による連結性の脆弱さから、2018年にそれぞれ約1万9000人、約2万2000人、そして、約80万人にようやく達したところである。特に人口がはるかに多い中国からの入国者数は、両国が観光年と位置づけてイベントを開催した2019年にやっと100万人に達した(Vientiane Times, July 30, 2019)。このように、主要な市場であるタイとベトナムの縮小と中国市場の開拓の遅れが、2016~2020年度までの外国人入国者数の減少、ひいてはサービス業の成長の鈍化をもたらしたといえる。

第9次5カ年計画の方向性
第9次5カ年計画案は経済成長が鈍化し、新型コロナウイルスの蔓延が世界経済に影響を及ぼすなかで発表された。以下では、政府系の新聞等で大会中または直後に公表された5カ年計画の内容から、今後のラオスの方向性を考えてみたい。

表1 第8次5カ年計画の目標・結果と第9次5カ年計画案の目標

表1 第8次5カ年計画の目標・結果と第9次5カ年計画案の目標

(出所)Pasason, January 14, 15, 18, 19, 21, 2021.

最重要かつその他の経済目標にも影響を及ぼすGDPの年間平均成長率目標は、第8期の約半分となる4%に引き下げられた(表1)。産業別成長率では農林業が前期実績に近づける形で2.5%、工業は前期実績から半分以上引き下げられ4.1%となった。工業の低い成長目標は、資源需要回復時期の不透明性を反映したものと推測される。一方サービス業は前期目標と実績の間である6%と定められた。前期実績に比べると工業が大幅に引き下げられ、農業とサービス業の緩やかな成長が目指される形であるが、全体的に低い成長目標となっている。 2000年以降から右肩上がりの経済成長を遂げ、コロナ禍でも3.3%の成長率を維持できたことから考えても、この目標値は著しく低い。

これまでの党大会では野心的な成長目標を掲げる傾向にあったが、なぜ今大会ではより現実的な目標が提示されたのだろうか。以下に示す2021~2025年度の大きな方向性となる6つの大目標に、党の意図が表れていると考えられる。

① 経済が継続的、良質的、安定的、持続的に成長
② 科学技術を研究、応用し、製造、サービスの付加価値を生み出せる人材の育成
③ 国民の物的、精神的な生活水準の一歩ずつの改善
④ 自然環境の保全と災害リスクの低下
⑤ インフラ整備の強化、地の利を生かした積極的な地域または国際的な協力枠組みへの参加
⑥ 国家運営の効率化、法治の権威と厳格性によって守られる平等かつ公正な社会の構築

そしてより中長期的な目標として、後発開発途上国からの脱却や持続的開発目標2030に向けたグリーン成長戦略の実現などが掲げられている。これらの中長期の目標からは、ラオスが「高度」成長から「持続可能」な成長に転換しようとしているとみることができる。言い換えれば、一時的に高い成長率を実現するよりも、低い成長率でも成長し続けることを目指そうとしているのである。持続的発展は一般的に、経済、社会、環境が融和した開発の概念だが、上述の6大目標に置き換えれば、経済開発、社会開発と環境保全目標である②から⑥を通して、持続可能な発展である①の実現を目指そうとしているみることができる。

第9次5カ年計画案では所得4倍増計画への言及は見当たらない。また、具体的な経済政策の目標としては、経済危機を回避すべく経済構造改革を通して、重債務および外貨準備高不足問題の解決に取り組むとしている。第9次5カ年計画案をみる限り、増え続ける債務と不足する外貨準備高をよそに経済開発を優先させてきた政府の方針は明らかに軌道修正されたが、コロナ禍でさらに落ち込んだ経済を回復させるには相応の時間を要すると考えらえる。

持続的発展への転換の道は険しい
このようにラオスの第9次5カ年計画案では、開発の目標が高度成長から持続的発展に切り替わった。しかし、持続的な成長は高度成長と同様、あるいはそれ以上に難しいのが現実であろう。持続的発展にシフトした結果、社会、環境、財政などに大きな負荷をかける事業を推進し、所得4倍増を目指した開発の圧力は緩和されるかもしれない。しかし、近年の成長の原動力は、資源・エネルギーや大規模な交通インフラ整備などであり、それらの開発分野はラオス経済の持続的発展においても欠かせない。したがって鉄道、高速道路、水力発電所建設事業など、中国を中心とする海外資本が進めている大型プロジェクトが中止されることはないだろう。これまでのような強引な経済開発プロジェクトは減少するだろうが、それでも社会、環境、財政に大きな負担を伴う経済開発に頼らざるを得ない。前指導部に続き、新指導部も難しい舵取りを迫られることは間違いない。
写真の出典
  • ケオラ・トンマラー氏撮影(2012年12月29日)。
参考文献
著者プロフィール

ケオラ・スックニラン アジア経済研究所開発研究センター経済地理研究グループ長代理。専門はメコン地域経済研究。主な業績は"Monitoring Economic Development from Space: Using Nighttime Light and Land Cover Data to Measure Economic Growth," (with Magnus Andersson and Ola Hall), World Development, Vol 66, pp 322-334, 2015. 等。


  1. ラオスは2017年からそれまでの10月~9月だった会計年度を暦年に変更した。
  2. 2018年7月23日にラオスのチャムパーサック県パクソン郡のホアイマクチャン川、セーピアン川、セーナムノイ川に韓国のSKエンジニアリング・アンド・コンストラクション (SK E&C)によって建設中であったセーピアン・セーナムノイダムの副ダム(D)が決壊した事故である(Japan Times, July 25, 2018)。
この著者の記事