金利引き下げで景気は回復するか

ブラジル経済動向レポート(2012年4月)

地域研究センター 近田 亮平

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貿易収支: 4月の貿易収支は、輸出額がUS$195.66億(前月比▲6.4%、前年同月比▲3.0%)、輸入額がUS$186.85億(同▲1.1%、同+2.0%)で、貿易収支はUS$8.81億(同▲56.4%、同▲52.7%)の黒字となったものの、前月および前年同月に比べその額は大幅に減少した。また年初からの累計は、輸出額がUS$746.46億(前年同期比+4.5%)、輸入額がUS$713.28億(同+7.4%)で、貿易黒字額はUS$33.18億(同▲33.7%)となり、前年同期と比べマイナス幅が前月より拡大した。

輸出に関しては、一次産品がUS$100.75億(1日平均額の前月比+9.3%)、半製品がUS$22.01億(同+0.8%)、完成品がUS$68.52億(同▲4.4%)で、4月も一次産品への依存と完成品の減少という傾向に変化はなかった。主要輸出先は、1位が中国(US$39.90億、同+12.4%)、2位が米国(US$20.94億、同▲0.7%)、3位がオランダ(US$13.78億)、4位がアルゼンチン(US$13.51億、同+4.1%)、5位が日本(US$6.73億)であった。輸出品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では大豆油(同+99.0%、US$1.55億)や航空機(同+92.5%、US$4.70億)が高い伸びを記録した。また減少率では、平面薄板(同▲96.8%、US$1.13億)、紙・カード(同▲95.2%、US$1.06億)、薬剤(同▲94.2%、US$1.04億)などのマイナス幅が大きかった。さらに輸出額では、鉄鉱石(US$25.66億、同▲22.1%)、大豆(US$22.61億、同▲11.1%)、原油(US$22.50億、同+39.2%)がUS$20億以上を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$39.36億(1日平均額の前月比+9.0%)、原料・中間財がUS$79.57億(同+4.4%)、非耐久消費財がUS$12.60億(同▲16.1%)、耐久消費財がUS$17.31億(同+2.0%)、原油・燃料がUS$38.01億(同+38.5%)であった。主要輸入元は、1位が米国(US$28.80億、同+11.8%)、2位が中国(US$23.42億、同▲1.1%)、3位がアルゼンチン(US$13.50億、同+14.6%)、4位がドイツ(US$12.08億)、5位がナイジェリア(US$10.51億)であった。輸入品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では飲料・タバコ(+15.0%、US$0.51億)や輸送用機器(+14.1%、US$5.96億)、減少率ではその他の農業原料(同▲45.5%、US$4.86億)や非食糧農牧畜品(同▲31.1%、US$0.54億)などの増減が大きかった。さらに輸入額では、化学薬品(US$22.35億、同▲3.0%)や鉱物品(US$18.96億、同+8.3%)などの原料・中間財、資本財である工業機械(US$12.36億、同▲3.3%)、その他の燃料(US$21.57億、同+25.3%)と原油(US$16.44億、同▲3.9%)がUS$10億を超える取引額を計上した。

物価: 発表された3月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.21%(前月比▲0.24%p、前年同月比▲0.58%p)で、年初から2カ月連続の鈍化となった。食料品価格が0.25%(同+0.06%p、▲0.50%p)と前月より若干上昇したものの、非食料品価格は0.20%(同▲0.33%p、▲0.60%p)と落ち着いた数値となった(グラフ1)。また、年初来累計は1.22%(前年同期比▲1.22%p)、過去12カ月は5.24%(前月同期比▲0.60%p)と、それぞれ2月より数値が低下した。

食料品に関しては、家庭内消費の食料品(2月:▲0.03%→3月:+0.21%)が値上がりしたものの、家庭外消費の食料品(同+0.59%→同+0.31%)の価格上昇が鈍化したため、全体的な価格は抑制されることとなった。一方の非食料品では、学校の始業シーズンとの関係で前月に高騰した教育分野(同+5.62%→+0.54%)が大幅に低下したことに加え、家庭用品(同+0.06%→▲0.40%)、衣料(同▲0.23%→▲0.61%)、通信(同▲0.17%→▲0.36%)の3つの分野でマイナスを記録し、さらに、その他全ての分野で価格上昇が鈍化したことが、全体の物価を押し下げるかたちとなった。

金利: 政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は18日、Selicを0.75%p引き下げ、9.75%から9.00%にすることを決定した(グラフ1)。Selicの引き下げは昨年9月から6回連続で、今回も引き下げ幅は前回同様0.75%pだったが、前回と異なり全会一致での決定であった。今回のSelic引き下げを受け、政府と民間の主要銀行はすぐに金利の引き下げを実施するとともに、今後の更なる引き下げも示唆した。

グラフ1  政策金利(Selic)と物価(IPCA)の推移:2010年以降

グラフ1  政策金利(Selic)と物価(IPCA)の推移:2010年以降

(出所)IPCAはIBGE、Selicは中央銀行。
(注)IPCAは左軸、Selicは右軸。

前月発表された2011年GDPで減速が明らかになった景気を回復すべく、政府は金融機関に対して貸出金利の引き下げやスプレッド幅の縮小を実施し、融資を活性化するよう訴えてきた。実際、政府系の金融機関は政府の意向を受け、民間より融資を活発化しており、このような傾向はリーマンショックの2008年以降より鮮明になっている(グラフ2)。また、3月時点のデータのため今回のSelic引き下げ分は反映されていないが、直近の銀行融資の金利とスプレッド幅は若干ながら縮小傾向を示している(グラフ3)。

グラフ2 民間と政府系の金融機関の融資残高と政府系の割合の推移:2007年以降

グラフ2 民間と政府系の金融機関の融資残高と政府系の割合の推移:2007年以降

(出所)中央銀行
(注)民間と政府系の金融機関の融資残高は左軸、全融資残高に占める政府系金融機関の割合は右軸
グラフ3 銀行の対顧客金利と貸出スプレッドの平均の推移:2007年以降

グラフ3 銀行の対顧客金利と貸出スプレッドの平均の推移:2007年以降

(出所)中央銀行

しかしDilma大統領は、ブラジル経済にとっての足かせとして為替と税金とともに高金利を挙げ、メーデーの集会でも民間金融機関の貸出金利の高さを批判し、政府系金融機関が率先して実施している更なる金利の引き下げを断行すべきだと主張した。また、Copomの議事録もSelic引き下げを今後も継続する可能性に言及している。したがって、物価が落ち着きを見せる中、景気が低迷の度合いを増すようであれば、Selicがリーマンショック時の過去最低(8.75%)を更新する可能性は大いにあると考えられる。

ただし、景気回復を目的とした金利引き下げによる融資活性化は、銀行の不良債権問題も誘発することとなる。直近3月のデータでは若干低下したものの、銀行の全体の融資額に占める不良債権の割合は、15日以上返済が滞っている融資の場合、最近では10%以上でリーマンショック時の数値を上回っている(グラフ4)。したがって、景気のより堅調な回復に関しては、融資活性化のマイナス側面も注視する必要があり、さらには、高金利是正だけではその達成は困難な点を熟慮しなければならないといえる。

グラフ4 銀行の不良債権割合の推移:2007年以降

グラフ4 銀行の不良債権割合の推移:2007年以降

(出所)中央銀行

為替市場: 4月のドル・レアル為替相場は、政府による為替誘導や欧州危機の再燃により、ドル高レアル安の展開となった。今月はじめに政府が景気対策を発表したが、その中に為替対策が明確に打ち出されなかったため、3日にUS$=R$1.825(買値)の月内ドル最安値をつけた。しかしその後、Mantega蔵相が「US$1=R$1.80くらいが適切なレベル」と口先介入したことや、欧州信用不安の再燃でドルが対ユーロや新興国通貨で買われたことから、レアル安が進行した。そして、欧州政局の先行き不透明感が増す中、中銀がSelicを引き下げるとともに断続的なドル買い介入を行ったことから、ドル高レアル安傾向が強まった。月末は連休の谷間で取引が閑散とする中ドルが買われ、前月末比で2ヵ月連続のプラスとなる3.83%のドル上昇となり、US$=R$1.8918(売値)という今年のドル最高値で4月の取引を終了した。

株式市場: 4月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、政府の景気対策への期待感から上昇して始まった。しかし、発表されたものが融資拡大、製造業への減税、輸入品への増税など、工業部門を主な対象とした内容で、初年度に発表したBrasil Maiorの2年目版といった趣が強く、特に目新しいものが見られなかったことから失望感が強まり、さらに、スペイン国債の入札不調を受け欧州信用不安が再燃したことから下落。国内物価(IPCA)の落ち着きを好感し一時上昇する場面も見られたが、米国の雇用状況の悪化、中国のインフレ懸念や予想を下回る第1四半期GDP(8.1%)、スペインやイタリアの国債利回り急上昇などを嫌気し、11日には月内最安値となる61,293pまで値を下げた。その後も、フランス大統領選やオランダ内閣の総辞職表明といった海外要因に加え、国内でも大手銀行Itaú Unibancoが不良債権の増加を見込んでいると発表し、金融部門への不安が高まったこともあり、株価は軟調に推移し、月末は前月末比で▲4.17%と2ヵ月連続のマイナスとなる61,820pで取引を終えた。