出版物
アジア経済研究所 書籍復刻プロジェクト
(アジアを見る眼)「くらし」シリーズ

「すまい」と「くらし」――第三世界の住居問題――
- 著者/編者 堀井健三・大岩川嫩
- ISBNコード 978-4-258-11002-5
- 底本出版年月 1989年3月
- 復刻出版年月 2025年9月
- 判型・ページ数 B6変形・302ページ
編者によるご紹介
1987年は国連の呼びかける「国際居住年」であり、とくに第三世界の各国では家なき人々の問題がクローズアップされた。この課題に注目したのが、本書のなりたちである。
「快適な“すまい”を求めて苦悩し、闘う途上国の人々は、伝統から近代に移行しつつあるいま、より厳しい現実に直面しているようにみえる」とは、編者・堀井健三のことば(はしがき)であり、37名の研究者が、次の各国・地域の実情について執筆している。
東アジア(韓国、中国、香港)。東南アジア(フィリピン、シンガポール、マレーシア、タイ、ビルマ、ベトナム、インドネシア)、南アジア(インド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ)、中東(エジプト、トルコ、イラン、イスラエル、北イエメン)、アフリカ(コートジボワール、ケニア、ザンビア、南アフリカ)、ラテンアメリカ(ブラジル、アルゼンチン、コロンビア、チリ、メキシコ)、オセアニア(パプアニューギニア)。
これらほとんどの途上国・地域社会では、近代化にともなう人口の都市集中と住宅難が顕著であり、スラムの発生も社会問題化している。また農村部でも伝統的な住まい、家屋の多くは変貌を強いられつつある。1、2の例を挙げれば、社会主義国の中国では住宅は基本的に生産財として公有化されていたにもかかわらず、1980年代後半以降は実質的に私有化する制度改革が導入されてきているという。マレーシアのサラワク州(ボルネオ島)にみられるイバン族の住まいする伝統的なロングハウスは、焼き畑農業という生産構造の変化とあいまって、存続の危機を迎えている。
そのほか、各論にみられる人々の生活環境と住居問題の普遍的であると同時に多様な変化の様相が、生き生きと具体的に読者に迫ってくるのが本書の特徴である。
なお補章として「日本が途上国だったころ」がある。さきの『「こよみ」と「くらし」』にも付されていたように、日本についての「補章」は、編者によって途上国のそれに対して一種の“ものさし”の役割を果たすことを意図しているものである。(大岩川嫩, 2025年4月)
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目次
- はしがき(堀井健三)
- Ⅰ 東アジア
- 韓国 住宅問題――格差と不足(谷浦孝雄)
- 中国 福祉的低家賃から高家賃と持ち家制へ(小島麗逸)
- 中国 三つのマイホーム・プラン(木崎みどり)
- 中国 北方の住宅(早瀬保子)
- 香港 過渡期の住宅問題(山本裕美)
- Ⅱ 東南アジア
- フィリピン ミンダナオ島の海辺の地で(藤森英男)
- シンガポール 公共住宅と国民(岩崎育夫)
- マレーシア プミプトラ政策下の庶民と生活(堀井健三)
- マレーシア イバン族のロングハウス(木村陸男)
- タイ 点描・農村の家(野中耕一)
- タイ バンコク住宅事情(川上邦夫)
- ビルマ 伝統が生きる住居(桐生稔)
- ベトナム ハノイ――旧市街と新興住宅のコントラスト(竹内郁雄)
- インドネシア 伝統的様式の凋落(米倉等)
- インドネシア 西ジャワ・スンダ農村の住居(水野広祐)
- Ⅲ 南アジア
- インド 急成長するデリーの住宅事情(押川文子)
- インド 遠ざかる楽園――バンガロールの住宅問題(井上恭子)
- インド グジャラート農村部の住宅事情(篠田隆)
- パキスタン スラムとカッチー・アーバーディー(深町宏樹)
- バングラデシュ 深刻化する都市スラム問題(長田満江)
- スリランカ すまいと仕事場(中村尚司)
- Ⅳ 中東
- エジプト 都市問題の深刻化と住宅難(清水学)
- トルコ 首都アンカラの住宅問題(加納弘勝)
- イラン 泥の家とレンガの家――住宅と近代化(岡﨑正孝)
- イスラエル 「居住」の問題をめぐって(池田明史)
- 北イエメン 家は城なり(佐藤寛)
- Ⅴ アフリカ
- コートジボワール アビジャン市の一スラム街――ゼオ・ブルノ町(原口武彦)
- ケニア 東部農村の屋敷地(池野旬)
- ケニア ナイロビ郊外の簡易住宅に住む人々(吉田昌夫)
- ザンビア 低所得者層の住宅難(児玉谷史朗)
- 南アフリカ ソウェトのアフリカ人住宅問題(林晃史)
- Ⅵ ラテンアメリカ
- ブラジル 二つのすまい(小池洋一)
- アルゼンチン 首都の旧観保存と住宅問題(今井圭子)
- コロンビア 量から質へ――都市住宅政策の変容(幡谷則子)
- チリ サンチアゴ市の住宅問題(吉田秀穂)
- メキシコ 我が土地を求めて――ある大衆居住区の物語(米村明夫)
- Ⅶ オセアニア
- パプアニューギニア ニューギニア高地の家(塩田光喜)
- 補章
- 日本が途上国だったころ(大岩川嫩)
- あとがき(堀井健三/大岩川嫩)