出版物
アジア経済研究所 書籍復刻プロジェクト
(アジアを見る眼)「くらし」シリーズ

「のりもの」と「くらし」――第三世界の交通機関――
- 著者/編者 吉田昌夫・大岩川嫩
- ISBNコード 978-4-258-11003-2
- 底本出版年月 1990年3月
- 復刻出版年月 2025年9月
- 判型・ページ数 B6変形・266ページ
編者によるご紹介
全世界のグローバル化とともに各国・地域の交通手段もまたその先端的な面では一挙に平準化してしまった観がある。しかし、近代化以前、ないし多くの途上国・地域の植民地化以前には、人々の生活のなかでの移動手段は多種多様であった。現地体験のなかでそれを実感した34人の研究者たちの報告は、次のとおりである。東アジア(韓国、中国、香港)、東南アジア(フィリピン、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ベトナム、ビルマ)、南アジア(バングラデシュ、インド、パキスタン、スリランカ)、中東(エジプト、イエメン・アラブ共和国、イラン、トルコ)、アフリカ(タンザニア、ケニア、ザンビア、南アフリカ、ナイジェリア、コートジボワール)、ラテンアメリカ(ブラジル、アルゼンチン、チリ、メキシコ、キューバ)、オセアニア(パプアニューギニア)。
特異な例としては、1930年までニューギニア高地に住む人々にとっては「交通機関としては彼ら自身の脚があるばかり」だったところへ、最初にやってきたのは飛行機だったという。未だに鉄道を知らないその人々とこと変わり、いっぽう、途上国への鉄道の建設・普及が列強の植民地支配と利権・収奪のためであった歴史が多くの各編で語られている。と同時に第二次大戦後の途上国における経済発展、近代化の波のなかで、民衆の労働移動・都市集中による交通手段の様変わりも目まぐるしい。これらの国々・地域の交通事情はいまも休むことなく発展、変化している。1987年の統計では人口当たり自動車の保有台数は世界最低だった中国は、38年後の2025年現在、世界最強の自動車生産・輸出国となって欧米市場に進出し、アメリカと中国の貿易摩擦は深刻である。そうした世界史の激動する姿に想いを馳せ得るのもまた、この小冊子をひもとく効果であろう。なお、補章として日本の事例も付している。(大岩川嫩, 2025年4月)
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<本書初版はPDF形式でリポジトリにて公開されており、ダウンロード可能です。>
目次
- はしがき(吉田昌夫)
- Ⅰ 東アジア
- 韓国 タクシーも庶民の足(桜井浩)
- 中国 転換期に事故多発(加々美光行)
- 中国 鉄道からみた交通事情(内田知行)
- 香港 都市社会の多様な交通機関(山本裕美)
- Ⅱ 東南アジア
- フィリピン メトロマニラの交通機関(福島光丘)
- フィリピン 安全管理が問われる島嶼間輸送(藤森英男)
- タイ バンコクの庶民生活とトクトク(重冨真一)
- シンガポール 「力車苦力」の街を走るMRT(清水元)
- マレーシア 当世“庶民の足”事情(堀井健三)
- インドネシア 親しまれる乗り物「ベチャ」(井草邦雄)
- インドネシア 大都会に活躍する庶民の足(佐藤百合)
- ベトナム 自転車の街ハノイ(竹内郁雄)
- ビルマ 乗り合いバスの群像(髙橋昭雄)
- Ⅲ 南アジア
- バングラデシュ ダッカの朝、通勤は“リキシャ”に乗って(長田満江)
- インド カルカッタの路面電車(佐藤宏)
- インド アジア最大の国有鉄道(多田博一)
- パキスタン 経済を支える「大幹線道」とトラック(深町宏樹)
- スリランカ 公営バスの赤字で村人の足に危機(中村尚司)
- Ⅳ 中東
- エジプト 早産した近代化(鈴木弘明)
- イエメン・アラブ共和国 出稼ぎ土産に日本車を(佐藤寛)
- イラン 交通手段の近代化(鈴木均)
- トルコ バス輸送が活躍(加納弘勝)
- Ⅴ アフリカ
- タンザニア ダルエスサラーム起点の二鉄道(吉田昌夫)
- ケニア 首都ナイロビの交通機関(池野旬)
- ザンビア 交通手段の不足が悩み(児玉谷史朗)
- 南アフリカ 鉄道建設小史(林晃史)
- ナイジェリア 「大量輸送」を模索するクルマ社会(望月克哉)
- コートジボワール 発達した近代的交通網(原口武彦)
- Ⅵ ラテンアメリカ
- ブラジル 交通小史(小池洋一)
- アルゼンチン 歴史を物語る鉄道(今井圭子)
- チリ サンチアゴ市のバス(吉田秀穂)
- メキシコ 階層別の交通手段(石井章)
- キューバ プランテーション経済と鉄道(今井圭子)
- Ⅶ オセアニア
- パプアニューギニア 文明のフロンティア・ニューギニア高地の道(塩田光喜)
- 補章
- 日本の「近代化」と「第二次交通戦争」(大岩川嫩)
- あとがき(吉田昌夫/大岩川嫩)