図書館
  • World Document Discovery蔵書検索
  • 蔵書検索(OPAC)
  • アジ研図書館の蔵書や電子ジャーナル、ウェブ上の学術情報を包括検索
  • アジ研図書館の蔵書を検索
    詳細検索

ライブラリアン・コラム

2026台北國際書展(台北国際ブックフェア)――読書を通じて思考を深める

澤田 裕子

2026年7月

アジア経済研究所図書館の現地語資料の収集は、国内代理店を通じた資料購入、海外書店からの直接購入のほか、現地の関係機関や書店を訪問して資料事情の把握および資料収集を行う現地調査によって進められている。筆者は2026年2月7日から11日にかけて行なった台湾・台北での現地調査において、台北國際書展に参加し、関連資料を収集した。

台北國際書展は、台湾の文化部が主催する国際的なブックフェアで、2月3日から8日まで台北世界貿易センターで開催された。本年のテーマ「閱讀泰精彩: Reading is Amazing」は、読書の楽しさとゲスト国であるタイ(泰)の文化的魅力を掛け合わせたものである。会場では多様な参加型イベントが開催され、読書や出版文化にとどまらず、台湾社会や国際社会について考えを深める工夫もみられた。本稿では、台北國際書展の国際性と社会性に着目しながら、出展ブースの一部を紹介する。

文化を体験する読書空間

TiBE台北國際書展ウェブサイトによると、会期中の来場者は延べ約58万人に達し、29カ国・地域から509の出版社が参加した。また、海外から748名のゲストが招かれ、1,300件以上の読書関連イベントが開催されるなど、盛況を博した。

会場は9つのエリアに分かれており、このうちゲスト国エリアでは「泰式創意生活: CreaTHAIvity」をコンセプトに掲げた泰國館が展開された。会場中央にはタイの地図を模した展示台が設置され、その周囲には水上マーケットをイメージした舟形の展示棚が配置されるなど、タイの雰囲気を体感できる空間が演出された。創造性とタイらしさをテーマにタイ人作家や出版関係者が参加し、出版物の紹介のほか、映画やテレビ、食文化など、タイ文化の多面的な魅力に触れるプログラムも提供されていた。

泰國館「CreaTHAIvity」

泰國館CreaTHAIvity
デジタル展示がもたらす新たな読書体験

総合エリアでは、商業出版社や書店に加え、國家圖書館中央研究院國史館といった公的機関も出展していた。なかでも國家圖書館のブースは、「金華蔵龍賀興盈(金の華に龍が宿る繁栄の祝い)」をテーマに、所蔵資料をデジタル技術によって紹介する工夫が施されていた。赤いフィルム越しに映像をのぞくと赤字が消え、青い龍が浮かび上がる仕掛けとなっており、視覚体験を通じて資料の魅力を伝える新しいアプローチは、ブックフェアの可能性を広げるものと感じられた。

また、台南市に建設中の國家図書館南部分館・國家合同収蔵センターを紹介する映像も投影されていた。國家図書館の蔵書資源を活用して雲林・嘉義・台南地域へのサービスを拡充するとともに、紙媒体とデジタルの両方を保存・管理する大規模なアーカイブの整備が進められていることが示されていた。

さらに、本展示は國家圖書館が主催する国際ワークショップと連動しており、海外のライブラリアンとの交流の場としても活用されていた。国際協力部の職員が常駐して来場者対応にあたっていたことからも、同館が担う国際的な役割の一端がうかがえた。

國家図書館「金の華に龍が宿る繁栄の祝い」

國家図書館「金の華に龍が宿る繁栄の祝い」
知と歴史の共有の場

次に、中央研究院のブースを訪問した。中央研究院は、政府直属の学術研究機関であり、33の研究所・研究センターを擁し、基礎研究を中心に人文・社会科学から自然科学まで幅広い分野を担っている。2028年に創立100周年を迎える同院は、知の設計図を意味する「藍圖: Blueprint」をテーマに掲げ、学術書や歴史資料集の展示と割引での販売を行っていた。また、テーマに関連した講演も実施されており、研究成果を広く社会に発信する場としての役割も果たしていた。

総統府の下に置かれている國史館は、国家の歴史に関する記録・編纂を担う公的機関であり、歴代総統や政府の公文書の整理・保存を行っている。台北國際書展では、國史館臺灣文獻館と共同で「為國存史(国家のための歴史継承)」をテーマに出展し、関連書籍の割引販売や特別講演会を実施していた。

中央研究院「Blueprint」

中央研究院Blueprint

國史館・國史館臺灣文獻館「国家のための歴史継承」

國史館・國史館臺灣文獻館「国家のための歴史継承」
読書がつなぐ社会との関わり

独立書店・NGOエリアには、獨立出版聯盟台灣獨立書店文化協會台灣勞工陣線および複数のNGOによる共同企画が展開されていた。「讀字公民(読書する市民)」を全体テーマに据え、読書を通じた社会参加を促す3つのキュレーション展示が行われていた。

まず、獨立出版聯盟が企画した「讀字塞車(読書渋滞)」をテーマとする展示では、本物のバスやトラックを会場内に設置し、会場全体を渋滞した道路に見立てることで、読書を通じて現代社会の閉塞感を乗り越えようというメッセージを発信していた。獨立出版聯盟は、小規模出版社や個人クリエイターが集まり、多様な出版活動を支援する団体である。同聯盟ウェブサイトによると、出版後2年以内の新刊は値引きを行わない方針で販売を行ったにもかかわらず、売上高は前年比53%増を記録したという。

獨立出版聯盟「読書渋滞」

獨立出版聯盟「読書渋滞」

次に、台灣獨立書店文化協會による「閱讀轉運站(読書乗り換えステーション)」をテーマとした展示では、「変奏路線」「散歩路線」「夜行路線」「乗り間違い路線」「折り返し路線」の5種類の読書ルートが設定されていた。参加した独立書店は、各路線のコンセプトに沿って書籍やZINE1を選書し、書名を駅名に見立てて読書の経路を構成していた。プラットフォームとなるパネルの前には、関連書籍が展示されており、来場者はパネル間を移動しながら複数の路線を乗り換えることで、自分なりの読書の旅を楽しめる仕掛けとなっていた。台灣獨立書店文化協會は、独立書店の運営者や読者によって設立された非営利団体であり、独立書店文化の継承と発展を目指すとともに、読書を通じた社会との新たな関わり方を模索している。

台灣獨立書店文化協會「読書乗り換えステーション」

台灣獨立書店文化協會「読書乗り換えステーション」

「乗り間違い路線」(駅名に見立てた関連書籍を展示)

「乗り間違い路線」(駅名に見立てた関連書籍を展示)

最後に、台灣勞工陣線NGOが共同で企画した「閱讀青紅燈(読書信号機)」では、歴史と社会運動の視点から読書の意義が示されていた。戒厳令下の抑圧的な時代を表す赤信号と、言論・出版の自由が保障されるようになった民主化後の青信号との対比を通じて、台湾社会の歩みが表現されていた。また、会場に設置された鏡は、社会問題の見えにくさや盲点を可視化し、社会に問いを投げかけるNGOの役割を象徴するものとして展示されていた。台灣勞工陣線は、より公正な社会の実現を目指し、労働問題への支援や労働政策の提言・改革活動などに取り組む市民団体である。

これらの展示が組み合わさることで、読書は単に知識を得る行為にとどまらず、思考を更新し、社会と関わるための実践であることが示されていた。

台灣勞工陣線「読書信号機」

台灣勞工陣線「読書信号機」
ベストブースデザイン賞

最終日には、「最佳展位設計獎(ベストブースデザイン賞)」の授賞式が行われた。本賞は、一般来場者によるアプリ投票と専門家による審査によって選定される。本稿で取り上げた獨立出版聯盟らの共同企画展は、その社会的意義と展示内容の完成度が評価され、金賞を受賞した。また、國家図書館の展示は中小規模ブース部門で銅賞を受賞している。これらの展示に共通していたのは、来場者が体験を通じて企画のコンセプトに触れ、自らの視点で思考を深めることができる空間づくりであった。今回の台北國際書展への参加は、資料収集のみならず、多くの示唆を得る機会となった。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。

写真の出典
  • すべて筆者撮影

※特に言及のない限り、本コラムで参照したウェブサイトの最終閲覧日は2026年7月13日である。

著者プロフィール

澤田裕子(さわだゆうこ) アジア経済研究所学術情報センター図書館情報課主幹。担当は中華圏。著作に「第4章 中国──世界水準と「中国の特色」──」(佐藤幸人編『東アジアの人文・社会科学における研究評価──制度とその変化──』アジア経済研究所、2020年)、「中国のオープンアクセス出版に関する報告書」(国立国会図書館『カレントアウェアネス-E』No.456 2023.05.18)など。

  1. ZINEは、個人や小規模グループが自主制作する冊子で、台湾における多様な声を発信する媒体となっている。