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(新型コロナの韓国経済への影響と政府の対策)第1回 感染拡大の雇用への影響と政府の対策

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00052097

2021年3月

(4,848字)

特集にあたって

韓国は新型コロナウイルスの感染を比較的低水準に抑えていると評価されている。しかし、政府による行動制限や国民の高い防疫意識は民間の消費を冷え込ませ、韓国経済は日本や欧米先進国と同様に打撃を受けている。本特集では感染拡大が経済の各セクターにどのような影響を与えているのか、そして政府はそれにどのように対応しようとしているのかを解説する。第1回の本稿では、雇用への影響と政府の対策をみていく(安倍誠)。

感染拡大により民間消費は低調

「K-防疫」と呼ばれる徹底的な検査・追跡を行い、韓国は、昨年4月には新型コロナ感染拡大を抑え込むことに成功した。また、8月中旬から9月上旬にかけて、若干規模の小さい第2波が来たが、これも抑え込むことに成功した。しかしこの韓国では、11月下旬から第3波に見舞われてしまい、12月中旬以降は1日1000人以上の新規感染者が出ることが珍しくなくなった。クリスマスである12月25日には1241人を記録した後、新年になっても1000人を超えていた新規感染者は、1月中旬にようやく峠を越え、2月に入ってからは300~600人台で推移している。韓国では抑えられたかにみえた感染拡大が、第3波によって再び拡大したこともあり雇用に大きな影響が出てきている。

まずコロナウイルス感染拡大が韓国のマクロ経済に与えている影響をみておこう。なお以下では経済指標が出てくるが、これら数値はすべて季節調整値である。GDP統計をみると、コロナウイルス感染拡大前である2019年10~12月期のGDPの水準を100とすれば、2020年4~6月期には95.6にまで水準が下がったが、10~12月期には98.7にまで戻った。ただし、韓国の潜在成長率は2.5%程度と考えられるので、景気が本調子であれば102.5ほどになったはずである。GDPはこの望ましい水準より3.7%も低い水準にとどまっているので、景気は依然として厳しい状態であると言わざるをえない。これを需要項目別にみてみよう。

設備投資や輸出は、それぞれ105.6、101.0にまで回復しており、景気を支えている。設備投資や輸出が相対的に好調な理由として世界的な半導体需要の増加が挙げられる。コロナウイルス感染拡大により、テレワークやリモート会議が増加した結果、コンピュータ需要が高まった。また通信環境改善のため設備拡充も行われた。コンピュータも通信環境改善のための設備も半導体が必要であり、世界的に半導体需要が増加した。半導体が主要な製品であり輸出比率も高い韓国にとって、この需要増はポジティブな要因であり、輸出増や半導体製造装置などへの設備投資の増加につながった。

一方、民間消費であるが、2019年10~12月期のGDPの水準を100とすると93.7にまでしか回復していない。民間消費については、規制などもあり外食や娯楽が低迷したことで主にサービス消費が落ち込む結果となった。このように、コロナウイルス感染拡大は需要項目のなかでも民間消費の低迷を招いており、特にサービス消費が打撃を受けている。よって、コロナウイルス感染拡大が雇用に与える影響も、民間消費、特にサービス消費に関連する産業に強く出ていることが予想される。

2021年1月の失業率は5%を大きく超える

ここからは雇用の動きについてみていくが、まずは全体の動きを確認する。コロナウイルス感染拡大による景気の不振は雇用に影響を与えている。これは失業率に顕著にあらわれている。現在の基準の下での失業率は1999年6月にまでさかのぼることができるが、それから現在までの失業率の平均値は3.7%である。そして、コロナウイルス感染拡大以前はおおむね3%台で推移していたが、コロナウイルスの感染拡大後に失業率は4%台に高まってしまい、さらに、2021年1月には5.4%を記録した。失業率はリーマンショックの後もそれほど上昇することはなく、おおむね3%台を維持していたことを勘案すれば、2021年1月の5%を大きく超えた数値は衝撃的な数値であるといえる。2021年1月は一時的な要因により失業率が高まったという事情もあるが、失業率が5%を大きく超える水準となったことは、コロナウイルス感染拡大が雇用に大きな影響をおよぼしていることを示唆している。

失業率の上昇は失業者の増加によってもたらされていることはいうまでもない。失業者の数は2020年1月には112.3万人であったものが、2021年1月には151.9万人と、39.6万人、割合にして35.3%増加している。念のために失業率の分母である労働力人口をみると同じ期間に2.2%減少しており失業率を高める方向に動いているが、失業率の変化に与えた影響は失業者の増加に比べて微々たるものである。そして失業者の増加は主に就業者の減少によりもたらされたと考えられる。

宿泊および飲食店業の就業者が大きく減少

詳しく産業別の就業者数をみてみる。コロナウイルス感染拡大以前を2020年1月、感染拡大以降を2021年1月とすると、その間に最も就業者数が減少した産業は宿泊および飲食店業であり36.5万人、割合にして15.7%の減少となった。またこれに続くのが卸売および小売業であり21.7万人、6.0%の減少であった。宿泊および飲食店業については外食や旅行の自粛によるものと考えられ、コロナウイルス感染拡大が大きく影響していることがうかがえる。

これら2つの産業とともに注目すべき産業は、公共行政、国防および社会保障行政、言うなれば公共サービス業である。この産業の就業者数は、2020年1月から2020年12月の間に8.8%増となり9.4万人の雇用が生み出された。しかし、2020年12月から2021年1月の間に6.1%減ることとなり、7.1万人の雇用が失われた。つまり、コロナウイルスの感染が拡大したなかでも増加した雇用のかなりの部分が1カ月で一気に消失した。これは政府により行われている財政支援働き口事業が大きく影響している。

この事業は、政府が財政支出を通じて、低所得層や長期失業者など就業が難しい階層を迅速に就業させるために支援するものであり、主な取り組みとしては直接働き口を創りそこで雇用することがある。この事業は昨年12月に昨年度の事業が終了し、今年は新しく新年度の事業が始まるが、1月は端境期となり直接雇用ができなかった。この理由により、公共サービス業の雇用者が1月に大きく減少してしまった。ただし新年度の事業が始まればまた雇用が増加することから、この影響は一時的なものといえる。

政府の財政支援働き口事業の端境期が過ぎれば、公共サービス業における就業者は増えると考えられ、これは失業率の高まりを抑える方向で作用する。第3波による感染拡大が一時期と比較して緩やかになっている。しかしサービス消費の回復は遅れており、当面は宿泊および飲食店業や卸売および小売業の就業者が増加に転ずるとは考えらず、韓国において失業率が回復するまでには時間がかかるだろう。

若年層の失業率は今後も高止まる予想

これら産業別の就業者数の動きにより、年齢階層別の失業率の動きに違いが出ている。2020年2月から2021年1月にかけて最も失業率が上昇した年齢階層は60歳以上であり、4.2%から6.2%と2.1%ポイントの上昇となっている(図1)。ただし、2020年11月まではおおむね3%台で推移してきたなか、12月以降に大きく高まった。高齢層については、政府支援働き口事業を通じて雇用される者が少なくなく、年末から1月はこの事業による雇用が一時的になくなったため高齢層の失業率が高まった。よって、高齢層の失業率の高まりは一時的にとどまる可能性がある。

深刻であるのは若年層である。15~29歳の失業率は、8.2%から10.1%と1.9%ポイントと大幅な上昇となっている。若年層については、宿泊および飲食店業や卸売および小売業で働く者が少なくない。よってこれら産業で大きく就業者が減少してしまったため、若年層で働き口を失う者が多く発生し、若年層の失業率が高まった。そしてサービス消費が回復し、宿泊および飲食店業や卸売および小売業の就業者が増えるまでには時間がかかると考えられ、若年層の失業率は今後も高止まることが予想される。

図1 年齢階層別失業率の推移(15~29歳および60歳以上)

図1 年齢階層別失業率の推移(15~29歳および60歳以上)

(出所)韓国統計庁データベースにより作成。
政府の雇用対策は全体的に雇用改善には力不足

韓国政府はこのような雇用の悪化に対して対策を講ずることにしている。企画財政部の報道資料である「21.1月雇用動向分析」(2021年2月10日)によれば、以下の対策が予定されている。第一に、中央政府や地方自治体間の協力を通じて、2021年の1~3月期には、90万+αの働き口を直接創出する。第二に、日本の雇用調整助成金に相当する雇用維持支援金の支給を強化することで雇用維持を図る。第三に、雇用安定支援金や国民就業支援といった制度の活用である。雇用安定支援金は、所得が大幅に減少したフリーランスなどに支援金を支払うものである。また、国民就業支援は、低所得の求職者、青年失業者、経歴が中断した女性、中年層などに対して就職支援や生計支援を行う制度である。雇用安定支援金や国民就業支援といった制度を活用することで、就職しにくい階層の生計安定を強化する。第四に、産業のデジタル化や社会の脱炭素化のため財政投資などを行う韓国版ニューディール計画を進めることで、質の高い民間の働き口を数多く創出する。そして第五に、2021年1~3月期に青年や女性に対する働き口対策の準備を早める。

しかしながら政府が打ち出した対策の実効性は未知数である。働き口の直接創出については昨年と同様、高齢層の雇用安定には資することが期待できるが、若年層などの雇用安定に対する貢献度は低い。よって、2021年1月には10%を超えてしまった15~29歳、すなわち若年層の失業率を下げることはあまり期待できない。また雇用安定支援金や国民就業支援金は、雇用を安定させるというよりは減少した所得を補填するための措置であり、これにより失業率が下がることを期待することは難しい。さらに、韓国版ニューディール計画は、壮大な計画であり長期的には雇用創出に資するかもしれないが、即効性があるとは考えられず、コロナウイルス感染拡大により高まった失業率を下げることは難しそうである。

おわりに
新型コロナウイルス感染拡大により、主にサービス消費を中心に民間消費の低調が持続しており、これが特に若年層を中心に失業率を押し上げている。これに対して政府は様々な対策を講ずるとしているが、効果に疑問符が付くものが少なくない。悪化した雇用の改善は、コロナウイルスの感染拡大が完全に抑えられる時まで待つしかなさそうである。
インデックス写真の出典
著者プロフィール

高安雄一(たかやすゆういち) 大東文化大学経済学部教授、1990年一橋大学商学部卒、2010年九州大学経済学府博士後期課程単位修得満期退学、博士(経済学)、専門分野は韓国経済、1990年経済企画庁(現内閣府)に入庁、調査局、在韓国日本大使館一等書記官、国民生活局総務課調査室長、筑波大学システム情報工学研究科准教授などを経て、2013年より現職。著書に、『韓国の構造改革』(2005年:NTT出版)、『解説 韓国経済』(2020年:学文社)など。