IDEスクエア

世界を見る眼

(新型コロナの韓国経済への影響と政府の対策)第2回 新型コロナが韓国の小商工人と中小企業に与えた影響と政府の対策

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00052117

金 炫成

2021年4月

(5,726字)

三極化するCOVID-19の影響

2020年1月に初の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の患者が発見されて以来、韓国の中小企業、とりわけ約315万人(2016年末基準)と推計される小商工人(自営業者など小規模事業者)1に深刻な影響を与えている。2021年2月、インバウンド向けと国内のファッション市場をリードしてきた東大門市場にある床面積4m2のミニ店舗が、鑑定評価額の6%に過ぎない565万ウォンで落札されるなど2、とくに内需の委縮が浮き彫りになっている。1年間(2020年第1四半期~2020年第4四半期)の商業用ビルの空室率を見ても、中・大規模ビルにおいては11.7%から12.7%に、小規模ビルにおいても5.6%から7.1%に上昇している3

写真:「COVID-19によって臨時休業します。申し訳ございません」と記された伝統喫茶店の貼り紙。

「COVID-19によって臨時休業します。申し訳ございません」と記された伝統喫茶店の貼り紙。

小商工人と中小企業の景況判断を示す図1からもその深刻さは見てとれる。2020年1月に比べて2021年1月は規模を問わず下がっており、特徴的なのは規模別に三極化している点である。中企業より小企業のほうが、小企業より零細な小商工人のほうが景気展望は暗く、その変動率も激しい。2021年1月の中小企業の景況判断を業種別に見ると、宿泊・飲食業(30.6)、芸術・スポーツおよびレジャー関連サービス業(33.6)をはじめとする内需関連のサービス業(平均61.1ポイント)への打撃が大きい半面、製造業への影響(平均で74.1)は比較的に小さい。製造業においても、皮・かばん・靴(51.6)と繊維製品(59.6)など、COVID-19以前から斜陽化してきた業種は暗い状況が続いている。さらに、中小企業中央会がソウル市の小規模事業者1021人を対象に2020年9月に実施したアンケート調査4によると、89.2%が「2019年上半期に比べて、2020年上半期の売上額が減少した」と回答しており、小規模であればあるほど、より深刻な影響を受けている。

図1 小商工人・小企業・中企業の景況判断(2020年1月~2021年1月)

図1 小商工人・小企業・中企業の景況判断(2020年1月~2021年1月)

(注)100以上は前月比「景況改善」、100未満は「景況悪化」。SBHIはSmall Business Health Indexの略。BSIはBusiness Survey Indexの略。
(出所)中小企業中央会「中小企業景気展望調査(実感)」ならびに小商工人市場振興公団「小商工人市場景気動向調査」をもとに筆者作成。
小商工人向け対策――普遍・少額・迅速さ重視の現金給付

小商工人を対象とするCOVID-19対策は、2020年8月までは低利資金の融資支援や政府系金融機関の裏付けによる保証など、従来型の金融支援が軸になっていた。2020年3月24日の「第2次非常経済会議」で発表された金融安定パッケージ案には、小企業・小商工人・自営業者に対し計20.5兆ウォン規模の金融支援策が盛り込まれるなど、2021年1月8日までの9カ月間で約18.3兆ウォンの低利資金の融資と保証支援を行った5

表1 小商工人向け現金支給(2020年9月、2021年1月)

表1 小商工人向け現金支給(2020年9月、2021年1月)

(出所)中小ベンチャー企業部の報道資料および国会予算政策処(2020年9月)『2020年度第4回補正予算案の分析』などに基づき筆者作成。

転機となったのが、第2回緊急災難支援金の一環で2020年9月に始まった、約3兆2000億ウォンの「新たな希望資金」と名付けられた給付金であり、小商工人を対象とする初の現金支給である。一般業種(前年同期比で売上額減少)、COVID-19によって営業制限がかけられた特別被害業種(集合制限業種6と集合禁止業種7)を指定し、約290万人に100万~200万ウォンを支給した(表1)。2000年代からの電子政府化の推進によって蓄積した国税庁と地方自治体のデータベースを活用し、中小ベンチャー企業部と小商工人市場振興公団が該当する小商工人の携帯電話にSMS(Short Message Service)案内8を発信し、それに基づいてオンラインで申請する仕組みをとった。2021年1月からは、第3回緊急災難支援金の一環として、小商工人を対象とする第2弾の現金支給である「支え木資金」が給付されている(表1)。対象者は「新たな希望支援」とほぼ同じで、前回より増額した100万~300万ウォンを約270万人に支給する内容である。2021年2月末時点で、第3弾の現金支給が検討されており、予算制約の兼ね合いから支給対象者をより絞ろうとする政府案と幅広い支給を維持しようとする与党案が、それぞれ浮上している。

他に、COVID-19の影響で廃業に踏み切らざるを得ない小商工人を対象に、2020年9月に50万ウォンを支給する「再チャレンジ奨励金」制度を導入している。しかし、1時間のオンライン研修を義務付けるのに対して支給額があまりにも少額であることから、実績は乏しい状況に留まっている。なお2020年12月には特別被害業種を対象に、約1兆ウォン規模の特別賃料融資を発表したほか、各種税金と社会保険料の納付期限を猶予するなどの臨時措置をとっている。

中小企業向け対策――融資支援の拡充とポストCOVID-19への布石

中小企業一般に関しては、既存の雇用維持支援金の上限引き上げ(2020年2月に休業前の67%から75%に引き上げ、2020年4月には90%に引き上げ)と融資支援枠の拡大といった従来型の金融支援が軸になっている。初期のCOVID-19対策として、政府は2020年2月28日に計3兆1500億ウォンの金融支援策を発表した。そのうち、1兆4200億ウォンが小商工人向けの「経営安定資金」、6250億ウォンが中小企業向けの「緊急経営安定資金」の融資にそれぞれ振り分けられた9。それに加え、計1兆1050億ウォンの融資保証も発表した。いずれも補正予算の編成によって既存の政府融資の枠を大幅に拡充したものであるが、あくまでもCOVID-19の拡散によって資金繰り難に陥りかねない業種をターゲットとした内容である。 特筆すべき取組みとして、2020年7月に発表した「韓国版ニューディール事業」の一環で実施している「非対面(オンライン)バウチャー制度」をあげることができる。COVID-19の長期化を念頭に、中小企業のテレワークやオンライン研修に使えるクーポン券を支給する内容である。

2020年8月に告示した事業計画によると、計2880億ウォンの予算で約8万社に400万ウォン分を支給するとした。2021年には計2160億ウォン規模で約6万社に支給する計画を立てている。使途が「非対面(オンライン)サービス券の購入」に限定されているものの、現金支給に近い支援なので予想以上にニーズが多く、2020年11月時点ですでに約10万社強が申請している10。韓国の中小ベンチャー企業部の年次業務計画によると、2020年度から「デジタル化」と「スマート化」が関連施策の重点項目に位置付けられており、COVID-19対策と相まってさらに拍車がかかる形となっている。中小ベンチャー企業部の2021年予算要求案においても、「デジタル経済」と「非対面(オンライン)」が5大重点分野になっている(表2)。 このような中小企業政策においては、従来型の金融支援とポストCOVID-19を見据えたDX(デジタルトランスフォーメーション)を中心とするインフラ支援が両輪になりつつある。

表2 中小ベンチャー企業部の予算:5大重点分野(2019~2021年案)

表2 中小ベンチャー企業部の予算:5大重点分野(2019~2021年案)

(注)当初予算ベース。
(出所)中小ベンチャー企業部の報道資料(2020年9月1日)p.10に基づき筆者作成。
創業増のアイロニーと制度・慣行要因

COVID-19のパンデミックにさらされているなか、韓国では創業がむしろ増えている。2020年1月~9月の創業者数は、前年同期比21.9%増加した。2019年からの税制変更によって急増した不動産賃貸業を除いても、2020年7月~9月には前年同期比11.4%増となった。業種別では、卸小売業、専門・科学・技術業、情報通信業および不動産業が増加し、宿泊・飲食業と教育サービス業が減少した。2020年1月~6月まで前年同期比8.8%減だった製造業も、2020年7月~9月には同3.5%増に転じた。年齢別では30代未満と60代以上の創業が増えた11。巣ごもり需要の拡大に加え、デジタル化の進展とオンライン市場の拡大を新たなビジネスチャンスに活かすための創業増と考えられる。しかし、いわゆる「不況型創業」の増加に過ぎないという見方もある。長期化するCOVID-19の影響で働き先からリストラされたり、不本意ながら事業転換をせざるを得なくなったりした小商工人が増えた結果という指摘である。

一方、地方自治体の許認可データベースによれば、休・廃業者数は2019年の約28万人から2020年に約24万人へと、1年間で15%も減っている。首都圏の京畿道の場合、2020年3月~10月に地域密着型の業種(食品・生活・文化業種)において創業者数が前年同期比38.5%増、廃業者数が9.4%減になっている12。休・廃業が減少している理由としては、制度上の要因と韓国特有の慣行要因から読み解くことができる。これまで続けてきた営業をたたむには、少なくない撤去費用と権利金(賃借人同士で支払われるプレミアム料)13の放棄などサンクコスト(sunk cost)が発生する。それだけでなく、廃業しようとする小商工人が金融機関からの貸付を抱えている場合、廃業の申告と同時にその貸付金を返済しなければならないため、やむを得ず営業を続けるケースが少なくないのが現状である。

弱者保護という方向性とデジタル行政

現政権は、2018年から中小企業政策の枠組みの中で、より弱者である小商工人にフォーカスをあてた支援に注力している。COVID-19対策においても、現金支給のような直接支援を行っている。それに対して、中小企業一般に対しては従来の金融支援が主な内容になっている。政権のスタンスとして、「手厚い弱者保護」が全面に出ているといえる。今後の方向としては、追加の現金支給が検討されるなど弱者支援のさらなる強化と、DXを布石としたインフラ支援に重点が置かれるとみられる。

一方、2回にわたる小商工人への現金支給において、すべての対象者に携帯電話のSMS案内が発信されるなど、デジタル行政情報をベースにした積極行政が全面に活かされている点は示唆に富むものである。個人番号である「住民登録番号」と事業者コードに該当する「事業者登録番号」がすでにデジタル化されており、それに代表者の携帯電話と紐づけしたシステムが構築されていたため、少額ながらも迅速な支給14を可能にした。

写真の出典
  • 蔚山広域市にて著者の知人(キム・イムソン氏)が撮影(2021年2月6日)。
著者プロフィール

金炫成(きむひょんそん) 中京大学国際学部教授。博士(経済学)。専門は中小・ベンチャー企業分析、韓国研究。最近の著作に、「企業間格差と韓国中小企業の脆弱性――日本との比較――」(韓国語)(『国家と政治』第26輯、2020年)、「4大集積地の比較からみたG-Valleyの特徴と広域クラスター」(『国際教養論叢』第11卷第1号、2018年)、「第4章.韓国:人口の高齢化と高まる長寿リスク」(末廣昭・大泉啓一郎編『東アジアの社会大変動――人口センサスが語る世界』名古屋大学出版会、2017年)など。


  1. 韓国で「中小企業」は小商工人を含む概念である。小商工人保護法は「小商工人」を、中小企業基本法が定める小企業(業種によって売上額10億ウォン~120億ウォン以下)のうち、従業員数が一定未満(業種によって5人~10人未満)の事業者と定めている。一般的に韓国では、小商工人は自営業者と零細企業というイメージで通用している。推計――関係部処合同(2018年12月20日)「自営業者とともに作り上げた『自営業成長・革新総合対策』」p.28より。
  2. アジア経済新聞(2021年2月21日Web版記事)。
  3. 韓国不動産院「商業用不動産賃貸動向調査」。中・大規模は3階建て以上または床面積330m2以上のビル。
  4. 中小企業中央会(2020年9月)「コロナ19危機対応――小企業・小商工人経営実態調査」
  5. 金融委員会の報道資料(2021年1月12日)p.5より。
  6. 一般飲食店、喫茶店、カフェなど。
  7. 遊興飲食店、ビュッフェレストラン、カラオケ、大型学習塾、スポーツジム、ネットカフェなど。
  8. SMSの内容――「貴下は小商工人支え木資金の申請対象者です。申請期間は~~~。申請方法は~~~。支援内容は~~~。」。
  9. 関係部処合同(2020年2月28日)「コロナ19の波及影響の最小化と早期克服のための民生・経済総合対策」p.12より。
  10. 中小ベンチャー企業部の報道資料(2020年11月26日)p.2より。
  11. 中小ベンチャー企業部の報道資料(2020年11月24日)p.2より。
  12. edaily誌(2021年1月11日Web版記事)。京畿日報(2020年12月23日Web版記事)。
  13. 法的には認められないものの、韓国社会に根付いているユニークな慣行である。営業権の引受、施設の引受、商圏(立地)の引受などの名目で新しい賃借人が現賃借人に支払うお金である。賃貸人は一切介入しない。権利金が発生しない店舗やオフィスもある半面、繁華街・繁盛店であればあるほど高くなる。
  14. 京畿道で小規模学習塾を営むA氏の場合、政府から届いた「支え木資金」のSMS案内に従ってオンライン申請を行ったところ、わずか3時間後に300万ウォンの入金が確認できた。中小ベンチャー企業部「2021年度中小ベンチャー企業部の業務計画」p.9より。