現状を象徴する2015年の終わり方

ブラジル経済動向レポート(2015年12月)

地域研究センター 近田 亮平

PDF (595KB)

貿易収支:12月の貿易収支は、輸出額がUS$167.83億(前月比+21.6%、前年同月比▲4.0%)、輸入額がUS$105.43億(同▲16.4%、同▲38.7%)で、貿易収支はUS$62.40億(同+421.3%、同+2029.7%)となった(グラフ1)。2015年通年では、輸出額がUS$1,911.34億(前年同期比▲15.1%)、輸入額がUS$1,714.53億(同▲25.1%)で、貿易収支はUS$196.81億(同+600.8%)と、14年ぶりの赤字となった2014年から黒字へと転じた。

輸出に関しては、一次産品がUS$64.70億(1日平均額の前月比+0.3%)、半製品がUS$24.69億(同+11.4%)、完成品がUS$74.88億(同+22.2%)であった。主要輸出先は、1位が中国(US$21.84億、同▲3.7%)、2位が米国(US$21.81億、同+15.5%)、3位がアルゼンチン(US$8.86億、同▲22.3%)、4位がスイス(US$8.73億)、5位がオランダ(US$8.45億)だった。輸出品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では大豆(+282.9%、US$2.82億)、鉄鋼管(+179.4%、US$2.17億)、大豆油(+108.9%、US$1.06億)が100%、減少率では鋳造鉄(▲59.3%、US$0.58億)が50%を超える増減率を記録した。また輸出額では(「その他」を除く)、鉄鉱石(US$12.75億、同▲36.0%)とトウモロコシ(US$10.36億、同+67.0%)の2品目がUS$10億を超える取引高を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$25.54億(1日平均額の前月比▲13.0%)、原料・中間財がUS$49.45億(同▲27.1%)、非耐久消費財がUS$10.13億(同▲13.6%)、耐久消費財がUS$7.05億(同▲30.1%)、原油・燃料がUS$13.26億(同▲32.6%)であった。主要輸入元は、1位が米国(US$17.96億、同▲21.8%)、2位が中国(US$15.36億、同▲29.0%)、3位がドイツ(US$4.16億)、4位がアルゼンチン(US$6.19億、同▲33.0%)、5位がナイジェリア(US$9.34億)だった。輸入品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では輸送機器(+50.0%、US$6.22億)、減少率ではその他の燃料(同▲66.0%、US$7.58億)、自動車・オートバイ(同▲55.7%、US$2.74億)、家庭用機器(同▲55.1%、US$1.07億)が顕著だった。また輸入額では、原料・中間財である化学薬品(US$14.85億、同▲31.4%)のみがUS$10億を超える取引額を計上した。

グラフ1 2015年の貿易収支の推移
グラフ1 2015年の貿易収支の推移
(出所)工業貿易開発省

物価:発表された11月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は、1.01%(前月比+0.19%p、前年同月比+0.50%p)と今年3月以来の1%台を記録した。食料品価格も1.83%(同+1.06%p、+1.06%p)と、2014年3月(1.92%)に次いで高く今年の最高値となった。この結果、年初累計は9.62%(前年同期比+4.04%p)、過去12ヵ月(年率)は2003年11月(11.02%)以来の10%台となる10.48%(同+0.55%p)まで上昇した。

食料品に関しては、ジャガイモ(10月▲10.69%→11月27.46%)、トマト(同0.14%→24.65%)、砂糖(氷砂糖:同4.43%→15.11%、精糖:同1.91%→13.15%)、タマネギ(同▲32.64%→10.39%)が2桁の伸びを記録するなど、多くの品目で高い上昇率となった。非食料品に関しても、ガソリン(11月3.21%)やエタノール(同9.31%)などの燃料費が高騰した運輸交通分野(10月1.72%→11月1.08%)、および、通信分野(同0.39%→1.03%)が1%を超える伸びを記録したことをはじめ、その他の分野でも高い上昇率となった。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は、12月に開催されなかった。次回のCopomは2016年1月19日と20日に開催予定。

為替市場:12月のドル・レアル為替相場は、Dilma大統領の弾劾裁判、Levy財務大臣の辞任、ブラジルの信用格付けの引き下げなどの出来事に大きく左右されるかたちとなった。月のはじめ、2015年の財政目標引き下げ案(R$1,199億、対GDP2.1%までの赤字)を議会が可決したことや、経済の低迷などを要因として支持率が約10%と低いDilma大統領に対し、弾劾裁判手続きが開始されたことを好感しレアル高に振れた。しかし、Dilma大統領の弾劾裁判手続きに関する特別委員会委員の選出投票が行われ、賛否両勢力が入り乱れての混乱となった末に野党側が過半数を占めたが、投票などの行為の有効性を最高裁が審査するまで弾劾手続きが一時中断されるなど、政治的混乱が深まりレアルは売られた。その後、弾劾は困難とされるDilma大統領にとって不利な特別委員会が設置される可能性が高まり、このことを好感して一時レアル高となった。

しかし、ブラジルや鉄鋼大手Valeの信用格付けの引き下げ、景気悪化にとってマイナスとなる金利引き上げの可能性が示されたことで、再びレアル安となった。さらに、来年の財政目標に関して、財政緊縮を推し進めるLevy財務大臣と政府の間での対立が表面化したことで、同大臣が辞任する可能性が取り沙汰されレアルが売られる中、米国のゼロ金利政策の終了を受けドル買いが強まった。月の後半にかけ、最終的にLevy財務大臣が辞任したことから、ブラジルの財政がさらに悪化するとの見方が強まりレアルが売られ、月末は、ドルが前月末比+1.41%の上昇となるUS$1=R$3.9048(売値)で2015年の取引を終えた。なお2015年のドル・レアル相場は、ドルが前年末比+47.01%も上昇しレアルが売られるという、ブラジルの現状を象徴する終わり方となった(グラフ2)。

グラフ2 2015年のレアル対ドル為替相場の推移
グラフ2 2015年のレアル対ドル為替相場の推移
(出所)ブラジル中央銀行

株式市場:12月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)も為替相場と同様、ブラジルが置かれた政治経済の現状を象徴するものとなった。月のはじめ、第3四半期GDPが前年同期比で▲4.5%と2期連続で現行方式による過去最低を記録したことや、汚職疑惑のあるCunha下院議長に対して、議員剥奪決議に賛成票を投じることを政府与党PTが決定したことを受け、Cunha下院議長がDilma大統領の弾劾裁判手続きを開始し、ブラジル政治の混迷度が深まったことで株価は下落した。

しかし、経済運営が批判されているDilma大統領が退く可能性が出たことや、大統領の弾劾裁判を審査する特別委員会が野党有利なかたちで進んだことを受け、株価は上昇する場面も見られた。その後、中国の11月の貿易が輸出入とも不調だったことや、原油や鉄鉱石の国際価格の下落を受けコモディティ輸出関連企業を中心に株は売られた。そして、格付け会社のMoody’sがブラジルの信用格付けを“投資適格”の最下位となるBaa3に引き下げることを決定した。3カ月以内での見直しも予定されており、ブラジルは投資適格級を失う可能性もある。また、鉄鋼大手のValeも同様に投資適格級の最下位へと格下げられた。

さらに、Tombini中央銀行総裁が次回CopomでのSelic引き上げの可能性に言及したことに加え、13日(日)に反政府抗議デモが全国の主要都市で行われたことや、原油の国際価格が下落していることを受け、株価はさらに値を下げた。ブラジルの連邦最高裁がDilma政権による弾劾手続きの取り消し申請を却下したことで、株価は一時上昇する場面も見られた。しかし月末にかけて、Levy財務大臣がついに辞任し、後任にBarbosa予算企画大臣が就任することが決定。Barbosaは就任に際して緊縮財政の継続を明言したが、同氏は成長主義者であり財政均衡には積極的ではないと見られており、同氏の就任に関して、PTやLula前大統領が歓迎の意を表したことも影響し、市場はネガティブに反応した。また、11月にミナスジェライス州にあるVale関連の鉱物採掘場で大雨が降り、堤防が決壊して大量の泥流が近辺の町に流入し、多数の死傷者が出るとともに下流域の自然環境が大きな打撃を被った事故に対して、裁判所がValeに営業の一部停止や多額の損害賠償を求めたことから、Bovespaの取引に占める割合の高い同社株が大きく売られた。その結果、月末は43,350pと前月末比で▲3.92%、前年末比では▲13.31%の下落で2015年の取引を終了した(グラフ3)。

グラフ3 2015年の株式相場(Bovespa指数)の推移
グラフ3 2015年の株式相場(Bovespa指数)の推移
(出所)サンパウロ株式市場