スタートした第2期Dilma政権の経済状況

ブラジル経済動向レポート(2015年1月)

地域研究センター 近田 亮平

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貿易収支:1月の貿易収支は、輸出額がUS$137.04億(前月比▲21.7%、前年同月比▲14.5%)、輸入額がUS$168.78億(同▲1.9%、同▲16.0%)であった。この結果、貿易収支は▲US$31.74億(同▲1183.3%)の赤字となり、赤字額は過去最高だった2013年(▲US$40.59億)より21.8%減少したものの、新たに発足した第2期Dilma政権にとって厳しい経済状況でのスタートとなった。

輸出に関しては、一次産品がUS$58.49億(1日平均額の前月比▲19.7%)、半製品がUS$24.74億(同+3.1%)、完成品がUS$49.66億(同▲24.5%)であった。主要輸出先は、1位が米国(US$19.75億、同▲15.3%)、2位が中国(US$13.45億、同▲32.5%)、3位がアルゼンチン(US$8.52億、同▲11.2%)、4位がオランダ(US$7.72億)、5位がドイツ(US$4.44億)であった。輸出品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では小麦(+2068.2%、US$1.14億)と銅石(+253.6%、US$2.52億)が突出して高く、減少率では自動車(▲58.0%、US$1.49億)や燃料油(▲49.6%、US$1.30億)が顕著だった。輸出額では(「その他」を除く)、鉄鉱石(US$11.97億、同▲49.5%)と原油(US$11.89億、同+12.0%)がUS$10億を超える取引となった。

一方の輸入は、資本財がUS$40.63億(1日平均額の前月比+17.8%)、原料・中間財がUS$77.14億(同+11.7%)、非耐久消費財がUS$14.29億(同+1.4%)、耐久消費財がUS$14.11億(同+6.3%)、原油・燃料がUS$22.61億(同▲32.0%)であった。主要輸入元は、1位が中国(US$37.03億、同+43.6%)、2位が米国(US$25.42億、同▲0.7%)、3位がドイツ(US$9.01億)、4位がアルゼンチン(US$7.83億、同▲31.0%)、5位が韓国(US$6.12億)であった。輸入品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では飲料とタバコ(+9.3%、US$0.51億)が一桁ながら大きく、減少率では原油(同▲81.7%、US$1.90億)のマイナス幅が顕著であった。輸入額では、その他の燃料(US$20.71億、同▲2.3%)、原料・中間財である化学薬品(US$23.16億、同▲1.0%)など4品目、資本財である工業機械(US$10.75億、同▲16.2%)の1品目がUS$10億を超える取引額を計上した。

物価:発表された2014年12月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.78%(前月比+0.27%p、前年同月比▲0.14%p)で、食料品価格が1.08%(同+0.31%p、+0.19%p)と伸び率が拡大した影響から、前月より高い数値となった(グラフ1)。この結果、2014年の物価は6.41%(前年比+0.50%p)と前年より上昇したが、政府目標4.50%(中央値)の上限である6.50%内には収まることとなった。また、2014年通年の食料品価格は8.03%(前年比▲0.45%p)で、2年連続で前年より低い伸びとなった(グラフ2)。

12月の食料品に関しては、主食の一つであるフェイジョン豆(carioca:12月0.14%→1月12.62%、mulato:同▲2.67%→7.49%、fradinho:同1.07%→5.18%)が大幅に上昇したことに加え、物価動向への影響が大きい牛肉(同3.46%→3.73%)の値段が12月も高止まりしたことが、全体の価格を押し上げる要因になった。一方の非食料品では、年末で旅行や娯楽の需要が高まった関係から、運輸交通分野(同0.43%→1.38%)、個人消費分野(同0.48%→0.70%)、衣料分野(同0.39%→0.85%)が高い上昇率を記録した。

また2014年通年では、食料品に関してサッカーW杯の影響もあり家庭用(7.10%)より外食用(9.79%)の値上がりが大きかった。品目としては、需要が増加傾向にあるアサイー(2013年8.01%→2014年29.73%)など多くの品目で価格が上昇したが、特に牛肉(同4.57%→22.21%)の値上がりが消費量の多さから全体への影響が最も大きかった。また非食料品に関しては、通信分野(同1.50%→▲1.52%)がマイナスとなったが、住宅分野(同3.40%→8.80%)の伸びが拡大したほか、個人消費分野(同8.39%→8.31%)と教育分野(同7.94%→8.45%)が高止まりするなど、全体的に大きな伸びとなった。

グラフ1 2014年の月間IPCAの推移
グラフ1 2014年の月間IPCAの推移
(出所)IBGE
グラフ2 過去10年間の年間IPCAの推移
グラフ2 過去10年間の年間IPCAの推移
(出所)IBGE
(注)目標値(4.5%)の上下幅は2005年が±2.5%、それ以降は±2%。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は21日、Selicを11.75%から12.25%へ0.50%p引き上げることを全会一致で決定した。Selicの引き上げは昨年の10月以降3回連続、引き上げ幅0.50%pは2回連続で、いずれも市場関係者の予想通りであった。物価が辛うじて2014年の政府目標の範囲内だったとはいえ、直近および近年は高いレベルで推移しているため(グラフ1・2)、Selicの引き上げは低迷している景気にとってマイナス要素だが、インフレの進行を阻止することを優先する結果となった。今後のSelicについては利上げがしばらく続くとの見方が強いが、1月後半に公開されたCopomの議事録では利上げ幅縮小の可能性も示された。

政府財政:2014年の政府財政に関して、プライマリー・サープラス(利払い費を除く財政収支黒字)が12月としてリーマンショック発生時の2008年(▲R$210億)に次ぐ▲R$129億、通年としては▲R$325億となり、現在の算出方法になった2002年以来で初めて赤字を記録することとなった。対GDP比も▲0.63%のマイナスとなり、2013年の2.3%から2014年に1.9%へ引き下げられた政府目標を大きく下回る結果に終わった(グラフ3・4)。

第2期Dilma政権ではスタート直後から、Levy財務大臣を中心に緊縮財政政策が試みられている。しかし、ブラジル経済の中心であるPetrobrasが汚職事件や原油の国際価格下落で危機を迎え、長引く旱魃により電力と水道の供給懸念が高まっている。また、格付け会社によるブラジルの信用格付けの引き下げの可能性も高いため、政府財政の健全化の道は険しいと考えられる。

グラフ3 政府財政の月毎の推移:2012年以降
グラフ3 政府財政の月毎の推移:2012年以降
(出所)中央銀行
(注)左軸がプライマリー・サープラス、右軸が対GDP比(政府目標は2013年まで2.3%、2014年が1.9%)。グラフはマイナスが黒字(支払いに充当しない余剰額)、プラスが赤字(支払いに必要な額)を示す。
グラフ4 政府財政の年毎の推移:2002年以降
グラフ4 政府財政の年毎の推移:2002年以降
(出所)中央銀行
(注)左軸がプライマリー・サープラス、右軸が対GDP比。グラフはマイナスが黒字(支払いに充当しない余剰額)、プラスが赤字(支払いに必要な額)を示す。

為替市場:1月のドル・レアル為替相場は、前年末の流れを引き継いでドル高で始まり、ギリシャがユーロを離脱する可能性が再浮上したことで、5日にUS$1=R$2.7102(売値)の月内ドル最高値を記録した。その後、月の後半に向け、ドルは緩やかに下落しレアル高が進む展開となった。レアル買いの要素としては、中央銀行が為替介入を継続的に行ったこと、Levy財務大臣が増税を計画していると発言し、実際に個人融資の金融取引税(IOF)、ガソリンとディーゼルの燃料負担金(Cide)、化粧品の工業製品税(IPI)、輸入品の輸入税(PIS/Cofins)など総額R$206億に上る増税策を発表し、これらの政策が投資家により歓迎されたこと、ブラジル中央銀行が政策金利のSelicを引き上げた一方、欧州中央銀行が発表した金融緩和策により市場に流通する資金の増加が見込まれたこと、などが挙げられる。一方ドル買いの要素としては、原油価格の下落によりレアルをはじめとする新興およびコモディティ輸出諸国の通貨が売られたこと、ブラジルで猛暑による大規模な停電が発生し電力供給の問題が経済に悪影響を与えるとの見方が強まったこと、米国が既定通りに利上げを年内に実施する観測が高まったこと、公開されたブラジルのCopom議事録で今後の利上げ幅が縮小する可能性が示唆されたこと、などが挙げられる。

そして、月末にLevy財務大臣が為替市場に対して人為的な操作を行うべきではないと発言し、為替介入に関する消極的な姿勢を表明したことでドル高に振れ、US$1=R$2.6623(売値)で1月の取引を終えた。ただし、月末の終値は前月末比+0.23%のドル高レアル安であり、その差は僅かなものであった。

株式市場:1月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、Dilma大統領が就任演説で表明した経済や財政政策に対して懐疑的な見方が大半を占めたことや、原油の国際価格の下落やPetrobrasをめぐる汚職疑惑の進展を受け同社株が大幅に売られたことで、月のはじめは値を下げる展開となった。その後、中国が134兆円規模のインフラ投資を加速させると発表したことを好感し、Valeなど鉄鋼関連株が買われ、8日には月内最高値となる49,943pまで上昇した。

しかし月の半ばに向け、Petrobrasをめぐる汚職事件の捜査が金融部門にも及ぶとの情報から銀行などの株が売られるとともに、原油の国際価格の下落が止まらないことからPetrobras株が大幅安となった。また、世銀がブラジルの2015年のGDP予測を2.7%から1.0%へ下方修正した影響も加わり、株価は下落傾向を強めた。月の後半は、欧州中央銀行が景気対策を実施するであろうとの期待感および実際に大規模な金融緩和策を発表したことへの好感から、株価は上昇する場面が見られた。その一方、連日の猛暑により経済の中心である南東部など多くの州で電力と水道の供給に支障が出たため、関連分野の株が売られたこと、ブラジルの国際収支が2001年以降で最大の赤字となったこと、2014年の正規雇用の創出が過去12年間で最低だったことなどが、株価の下落要因となった。

そして月末になると、Petrobrasが延期していた決算発表を行ったが、汚職事件による損失が含まれておらず、市場の失望や不信感を高めたため同社株が大幅に売られた。また、Moody’sが過去4か月で3回目となるPetrobrasの格付けを引き下げたことも影響し、月末は前月末比▲6.20%ものマイナスとなる46,908pで1月の取引を終了した。