リーマンショック以来のマイナスGDP

ブラジル経済動向レポート(2013年11月)

地域研究センター 近田 亮平

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第3四半期GDP: 12月3日に発表された2013年第3四半期のGDPは、前期比▲0.5%、前年同期比+2.2%、年初累計比+2.4%、直近4四半期比+2.3%であった(グラフ1)。これらの数値は市場関係者の事前予測の最低値であり、リーマンショック後の2009年第1四半期(▲1.6)以来、前期比が初めてマイナス成長を記録した。この大方の予想を下回る第3四半期GDPを受け、市場関係者のGDP予測は2013年が2%前半、2014年が1%前半から2%半ばへとそれぞれ下方修正された。来年の大統領選挙の駆け引きが本格化しようとする時点で、景気後退とも捉えられるGDPの結果は、Dilma現政権にとって少なからぬ痛手となったといえる。ただし、2012年のGDPは0.9%から1.0%へと上方修正された。

グラフ1 四半期GDPの推移

グラフ1 四半期GDPの推移

(出所)IBGE
(注)GDPの成長率(%)は右軸、時価額(R$)は左軸。

第3四半期GDPの需要面を見ると、家計支出(前期比+1.0%、前年同期比+2.3%)と政府支出(同+1.2%、同+2.3%)は堅調な推移となった。しかし、最近好調に伸びていた総固定資本形成(同▲2.2%、同+7.3%)が、前年同期比では大きく伸びたものの前期比でマイナスとなり、投資の後退が懸念材料の一つとして指摘された。また、輸出(同▲1.4%、同+3.1%)と輸入(同▲0.1%、同+13.7%)ともに前期と比べ後退し、特にブラジルの主要輸出産業の一つであるアグロ・ビジネスを含む農牧業のマイナス成長を受け、輸出のマイナス幅が顕著であった。

一方の供給面は、大豆の収穫期が終了した影響もあり農牧業(同▲3.5%、同▲1.0%)が前期と前年同期比ともにマイナスとなった。しかし、工業(同+0.1%、同+1.9%)は主に鉱業(同+2.9%、同+0.7%)が好調だったこと、サービス業(同+0.1%、同+2.2%)は情報サービス業(同+0.7%、同+4.6%)が伸びたことなどから、両者とも前期比0.1%と辛うじてではあるがプラス成長を確保するとともに、前年同期比では相対的に高い伸びを記録した(グラフ2と3)。

グラフ2  2013年第3四半期GDPの受給部門の概要

グラフ2  2013年第3四半期GDPの受給部門の概要

(出所)IBGE
グラフ3 四半期GDPの受給部門別の推移:前期比

グラフ3 四半期GDPの受給部門別の推移:前期比

(出所)IBGE

貿易収支: 11月の貿易収支は、輸出額がUS$208.62億(前月比▲8.6%、前年同月比+1.9%)、輸入額がUS$191.22億(同▲17.0%、同▲7.4%)であった。この結果、10月に赤字だった貿易収支はUS$17.40億(同+876.8%、同+1029.0%)と大幅な黒字へと転じた。また年初からの累計は、輸出額がUS$2,213.33億(前年同期比▲0.7%)、輸入額がUS$2,214.22億(同+7.7%)で、貿易収支は▲US$0.89億(同▲100.5%)と依然赤字ながらも、その金額は大幅に縮小した。

輸出に関しては、一次産品がUS$91.29億(1日平均額の前月比+9.0%)、半製品がUS$24.84億(同+0.9%)、完成品がUS$87.79億(同+2.7%)であった。主要輸出先は、1位が中国(US$31.33億、同▲1.0%)、2位が米国(US$18.09億、同▲9.0%)、3位がアルゼンチン(US$15.09億、同▲4.8%)、4位がオランダ(US$12.58億)、5位がパナマ(US$12.46億)であった。輸出品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では銅陰極版(同+504.9%、US$0.76億)、原油採掘プラットフォーム(同+173.5、US$18.34億)、大豆(同+110.2%、US$3.49億)が100%を超える伸び率を記録した。減少率では綿(同▲58.3%、US$1.05億)やエタノール(同▲47.4%、US$1.14億)が大きく減少した。また輸出額では(「その他」を除く)、一次産品の鉄鉱石(US$30.09億、同+14.1%)と原油(US$15.74億、同±0.0%)、完成品である前述の原油採掘プラットフォームの3品目が、US$10億を超える取引額を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$42.30億(1日平均額の前月比+1.0%)、原料・中間財がUS$89.02億(同+1.5%)、非耐久消費財がUS$14.63億(同▲3.8%)、耐久消費財がUS$18.30億(同▲12.0%)、原油・燃料がUS$26.97億(同▲22.5%)であった。主要輸入元は、1位が中国(US$29.96億、同▲7.1%)、2位が米国(US$29.86億、同+0.8%)、3位がドイツ(US$13.36億)、4位がアルゼンチン(US$11.78億、同▲2.0%)、5位が韓国(US$7.67億)であった。輸入品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では家財類(+49.3%、US$1.09億)や工業資本財部品(+23.5%、US$7.12億)、減少率では原油(同▲43.1%、US$9.45億)やその他の耐久消費財(同▲16.4%、US$0.53億)の増減が顕著だった。また輸入額では、化学薬品(US$24.47億、同+5.2%)や鉱物品(US$14.77億、同+14.9%)などの原料・中間財5品目、および、工業機械(US$12.69億、同▲2.9%)がUS$10億を超える取引額となった。

物価: 発表された10月のIPCA(広範囲消費者物価指数:月率)は0.57%(前月比+0.22%p、前年同月比▲0.02%p)で、為替のドル高レアル安や食料品価格が1.03%(同+0.89%p、▲0.33%p)と大幅に上昇した影響から、前月よりも高い数値となった。ただし、年初来累計は4.38%(前年同期比±0.00%p)と前年同期と同じとなり、過去12ヶ月(年率)は5.84%(前月同期比▲0.02%p)と前月より若干数値が低下した。

食料品に関しては、大幅に値上がりしたトマト(9月▲8.54%→10月18.65%)に加え、消費量の多い牛肉(全般:同0.88%→同3.17%、加工肉:同0.31%→同2.23%)や鶏肉(一羽:同3.04%→同3.44%、部位:同0.29%→同2.48%)の上昇が大きく影響した。ただし、タマネギ(同▲7.18%→▲10.71%)とニンジン(同▲13.41%→▲10.34%)が10%を超えて値下がりするなど、一部の食品では価格が下落した。一方の非食料品では、衣料分野(同0.63%→1.13%)の上昇が顕著だったことに加え、家具類が値上がりした家財分野(同0.65%→0.81%)も高い数値となった。ただし、航空運賃の上昇が低下した影響で運輸交通分野(同0.44%→0.17%)や教育分野(同0.12%→0.09%)では伸び率が低下し、落ち着いた数値となった。

金利: 政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は27日、今年最後となる会合において、Selicを9.50%から10.00%へ0.50%p引き上げることを全会一致で決定した。Selicの引上げは4月以来6回連続で、引き上げおよびその幅は市場関係者の予想通りであった。ただし今回のCopomの声明文から、利上げによるインフレ抑制効果に関する文言が削除されたこともあり、来年1月14日と15日に開催されるCopomから、金融引き締め策が緩和されるとする見方もされている。

為替市場: 11月のドル・レアル為替相場は、ブラジルの10月の貿易収支が大幅赤字だったことや、政府が今年の財政目標を達成できないとの見方が強まったことに加え、米国の第3四半期GDP(年率換算2.8%)や雇用統計が予想を上回ったため、米国の金融緩和政策の変更可能性が再び高まったことから、月の前半はドル高レアル安が進行した。12日には月内のドル最高値となるUS$1=R$2.3362(売値)を記録した。

月の半ばになると、米国の金融緩和政策の変更は当面ないとの見方が優勢となり、ドルは下落に転じた。しかし、公開された米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録や発表された経済指標が好調だったため、金融政策の変更が近いとの観測が強まりドルは再び上昇。ブラジルの2つの空港入札が予想を上回る額になったことを好感して、レアルが一時買われる場面も見られた。ただし月末は、前月末比で+5.55%ものドル高レアル安となるUS$1=R$2.3246(売値)で取引を終了した。

株式市場: 11月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、米国が予想以上に良好だったGDPなどを受け、年末にも金融緩和政策を変更し先行き不透明感が強まるとの懸念に加え、ブラジルの財政状況に対する懸念から先物金利が上昇したため、月の前半は値を下げる展開となった。ただし月の半ばには、Yellen次期FRB議長が金融緩和政策の即時変更に否定的な見解を示したこともあり、株価は上昇に転じ月初のレベルまで値を戻した。

月の後半、ブラジルのリオとベロオリゾンテの空港入札が行われ、リオの空港の落札額がR$190億とサンパウロのGarulhos(R$162億)空港を上回り、合計でR$208億もの収益が上がったことを好感し、一時上昇する場面も見られた。しかし、米国の金融政策が緩和から引き締めへ転じるとの見方が根強く、また、Bovespaで取引量の大きいValeとPetrobrasに関して、Valeは納税方法(Refins da Crise)との関連から支出が増加する可能性、Petrobrasは国内の燃料価格調整をめぐる不透明感が高まり、株価は下落。その後も、予定されていたガソリン価格の引き上げ調整を政府が見送ったことで、Petrobras株が大幅に売られるとともに、Selicの引上げも影響し、26日には月内最安値となる51,447pまで下落した。しかし月末になると、政府が燃料の生産価格の引き上げ(ガソリン4%、ディーゼル8%)を決定したことを好感し、Petrobrasが大幅に買われたため株価は若干上昇した。ただし月末の終値は、前月末比▲3.27%となる52,482pで取引を終えた。