経済成長よりもインフレ抑制

ブラジル経済動向レポート(2013年1月)

地域研究センター 近田 亮平

PDF (317KB)

貿易収支: 1月の貿易収支は、輸出額がUS$159.68億(前月比▲19.1%、前年同月比▲1.1%)、輸入額がUS$200.03億(同+14.3%、同+14.6%)で、中央銀行が経済成長よりもインフレ抑制を優先し、為替相場がドル安レアル高に振れたことも影響して、輸入額が輸出額を大幅に上回った。この結果、貿易収支は過去最大の赤字額となる▲US$40.35億(同▲279.5%、同▲408.8%)を記録した(グラフ1)。今までのブラジルは主に経済成長の著しい中国向けのコモディティ輸出で貿易を伸ばしてきたが、世界経済の長期にわたる停滞などの影響を受け、2012年の経常収支も▲US$542.46億の赤字と過去最大を記録した。

輸出に関しては、一次産品がUS$65.46億(1日平均額の前月比▲35.9%)、半製品がUS$26.68億(同▲11.5%)、完成品がUS$62.61億(同▲22.5%)であった。主要輸出先は、1位が米国(US$19.15億、同▲11.8%)、2位が中国(US$17.05億、同▲51.5%)、3位がアルゼンチン(US$13.99億、同▲5.5%)、4位がオランダ(US$8.80億)、5位が日本(US$6.97億)だった。輸出品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率ではトウモロコシ(+289.6%、US$9.47億)、エタノール(+219.8%、US$2.30億)、小麦(+127.6%、US$1.32億)、冷凍オレンジジュース(+126.2%、US$1.33億)が100%を超える高い伸びを記録した。また減少率では、原油(▲69.5%、US$4.74億)と燃料油(▲54.9%、US$1.68億)が50%を超えるマイナス幅となった。さらに輸出額では(「その他」を除く)、鉄鉱石(US$22.58億、同+23.1%)や前述のトウモロコシ、粗糖(US$8.15億、同+45.2%)の取引額が大きかった。

一方の輸入は、資本財がUS$43.22億(1日平均額の前月比▲0.3%)、原料・中間財がUS$84.21億(同▲2.3%)、非耐久消費財がUS$15.60億(同+0.8%)、耐久消費財がUS$16.26億(同▲14.8%)、原油・燃料がUS$40.74億(同+43.4%)であった。主要輸入元は、1位が米国(US$33.50億、同+20.6%)、2位が中国(US$31.07億、同+11.7%)、3位がアルゼンチン(US$12.75億、同▲26.0%)、4位がドイツ(US$11.54億)、5位がナイジェリア(US$8.22億)で、輸出入とも米国が1位で中国は2位へと後退した。輸入品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では輸送機器(+95.3%、US$5.50億)とその他の燃料(+91.0%、US$28.6億)の伸びが顕著であった。また減少率では、自動車(同▲31.9%、US$6.24億)のマイナス幅が大きかった。さらに輸入額では、前述のその他の燃料や原油(US$12.14億、同+8.5%)、化学薬品(US$24.21億、同+14.1%)や工業機械(US$13.97億、同+7.3%)など、7品目がUS$10億を超える取引額を計上した。

グラフ1 貿易収支の推移:1996年1月~2013年1月

グラフ1 貿易収支の推移:1996年1月~2013年1月

(出所)商工開発省

物価: 発表された2012年12月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.79%(前月比+0.19%p、前年同月比+0.29%p)で、2012年で最も高く12月としては2004年の0.86%に次ぐ高い数値となった。前月伸び率が縮小した食料品価格が1.03%(同+0.24%p、▲0.20%p)と再び大きく値上がりしたことに加え、非食料品価格も0.71%(同+0.17%p、+0.43%p)と年内の最高値となったことが影響した(グラフ2)。この結果、2012年の物価は5.84%(前年比▲0.66%p)と前年よりも低下し、政府目標4.5%の上限(+2%p)である6.50%を下回ったが、3年連続で政府目標の中心値を上回った。2012年通年の食料品価格は米国の旱魃による農作物の不作の影響から9.86%(前年比+2.68%p)と前年より上昇したが、非食料品価格は4.64%(前年同期比▲1.65%p)と前年より低下した(グラフ3)。

12月の食料品に関しては、ブラジルで多様な用途で消費されるマンジオッカ芋の粉(11月:20.01%→12月:9.47%)やトマト(同▲20.90%→同6.26%)など、クリスマスや年末の影響もあり多くの品目で価格が上昇した。一方の非食料品も同様に、旅行や娯楽の需要が高まった関係から、個人消費分野(同0.53%→1.60%)、衣料分野(同0.86%→1.11%)、運輸交通分野(同0.68%→0.75%)の物価上昇が顕著だった。

また2012年通年では、食料品に関して家庭内消費(2011年:5.43%→2012年:10.04%)では、マンジオッカ芋の粉(同▲3.67%→91.51%)やフェイジョン豆(mulatinho)(同3.75%→53.80%)が高騰した一方、砂糖や牛肉は値下がりした。また家庭外消費(同9.51%→10.49%)では、ビール(同14.72%→12.80%)や軽食(同9.24%→11.23%)の伸びが顕著だった。さらに非食料品では、個人消費部門(同8.61%→10.17%)や教育部門(同8.06%→7.78%)の価格が大きく上昇した一方、運輸交通部門(同6.05%→0.48%)や通信部門(同1.52%→0.77%)の伸びは小幅なものに止まった。

グラフ2 2012年の月間IPCAの推移

グラフ2 2012年の月間IPCAの推移

(出所)IBGE
グラフ3 過去10年間の年間IPCAの推移

グラフ3 過去10年間の年間IPCAの推移

(出所)IBGE
(注)目標値の上下幅は、2003年~05年が±2.5%、それ以外は±2%。

金利: 政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は16日、Selicを7.25%で据え置くことを全会一致で決定した。Selicの据え置きは2回連続で、市場の予想通りであった。ただし、24日に公開されたCopomの議事録において、中央銀行が経済成長よりインフレ抑制を優先することが表明され、為替相場がドル安レアル高へと振れる要因となった。前述の1月の貿易収支の大幅な赤字や、2012年の鉱工業生産指数が▲2.7%を記録するなど(2012年12月は前月比0.0%、前年同月比▲3.6%)、ブラジル経済の景気回復の足取りは依然として重い。しかし、過去にブラジルはハイパー・インフレに悩まされた苦い経験があるため、景気回復を後押しするが一方でインフレを再燃させる可能性のあるSelicの引き下げに対しては、非常に慎重だといえる。

為替市場: 1月のドル・レアル為替相場は月のはじめ、ブラジルの物価上昇傾向を反映した金利の高まりからレアルが一時買われたが、ブラジルの電力供給や財政目標の達成を意図した政府の会計操作をめぐる問題への懸念からレアルは弱含みとなり、中央銀行が為替介入を行わないとの情報が伝わったこともありドルが上昇。しかし、2012年12月のIPCAが0.79%と昨年一年間で最も高く、2012年通年でも5.84%と政府目標の中心値4.5%を上回ったことや(目標範囲4.5%±2%p内)、ブラジルの物価上昇を示す新たな指標が発表されたことでレアルは再び上昇した。さらに、中央銀行が経済成長よりもインフレ抑制を優先するとのCopomの議事録が公開されたことに加え、実際に中央銀行が物価上昇を抑えるべくドル安レアル高誘導の為替介入を行ったことで、レアルは2012年7月以来となるUS$1=R$2台を割り込んで上昇。そして月末に向け、米国のマイナスGDPの発表に加え中央銀行がさらなるドル売り介入を行ったこともあり、月末はドルが前月末比▲2.70%となるUS$1=R$1.9877(買値)までレアル高が進行し、1月の取引を終えた。

株式市場: 1月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)、米国の「財政の崖」がとりあえず回避されたことへの好感や、低迷していた原油の国際価格が上昇に転じ始めPetrobras株が買われたことから、3日に63,312pまで上昇した。しかし、2012年11月の鉱工業生産指数が前月比▲0.6%、前年同月比▲1.0%と予想を下回る数値だったこと、2012年のブラジルの自動車生産台数が334万台にとどまり前年比▲1.9%と10年ぶりにマイナスを記録したこと、ブラジル全域での降雨不足により電気供給問題が浮上したこと、2012年の財政目標を達成しようとする政府の会計操作への懸念が高まったことなど、ブラジル経済に対する悲観的な見方が強まり下落。その後、政府が降雨不足による電力供給問題を解消すべく、火力発電を少なくとも4月まで使用するとともに、電気料金に関して必要であれば予定していた値下げを延期し、消費量を抑えるべく値上げをすると発表したことが好感され、株価は下げ止まり横ばいでの推移となった(実際には24日から電気料金は一般家庭で18%、企業で32%と、去年9月に公表された値(16%と28%)より大きく値下げされた)。しかし、米国Apple社の悪い決算報告を受け米国などの株式相場が下落した影響や、為替相場がドル安レアル高となったことでコモディティ関連の輸出企業の株が売られたこと、さらには、米国の第4四半期GDPが予想に反して▲0.1%とマイナスだったことなどから、60,000pを割り込んで下落した。そして、月末は前月末比▲1.95の59,761pで1月の取引を終了した。