資料紹介:崩壊国家と国際安全保障——ソマリアにみる新たな国家像の誕生——
アフリカレポート
資料紹介
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■ 資料紹介:遠藤 貢 著 『崩壊国家と国際安全保障——ソマリアにみる新たな国家像の誕生——』
■ 佐藤 章
■ 『アフリカレポート』2016年 No.54、p.85
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1990年代初めに実効支配を担う中央政府が消滅したのち、崩壊国家と呼ばれる状況が続いてきたソマリアでは、様々な勢力が交錯するきわめて変化に富んだ政情が展開され、それとともに、海賊問題やイスラーム主義組織アッシャバーブの活動などが国際安全保障上の関心を引きつけてきた。このダイナミックな情勢を綿密に追跡してきた著者が、これまでの研究を集大成したのが本書である。大幅な加筆修正が施された既発表論考をベースに、新たに書き下ろされた複数の章を含む。ソマリア情勢が提起する様々な論点を一望できる、待望の一冊である。
練り上げられた理論的な視座を設定し、混迷を極めるかにみえる現地情勢を清明に見通そうとする著者の考察は読み応えがある。中央政府が存在しないという意味ではたしかに「無政府状態」と呼びうるソマリアだが、そこにあるのは決して野放図な無秩序ではない——本書から読みとれるのはこの明快なメッセージである。クラン、宗教、経済的利権などに基盤を持つ様々な勢力は、ときに戦闘につながるような競合関係を持つ一方で、中央政府に代わり住民の生存と安全に関わる公共財を提供する、自生的な秩序の担い手としての性格も持ってきたという。著者はこの様相を、国家のあり方をめぐる交渉の過程として捉え返し、そこに理念型としての主権国家の概念に再考を迫る、新たな国家の類型が立ち現れているとの問題提起を行っている。
この問題提起は、ソマリアをめぐる、また、そこから導かれる国際秩序をめぐる論点に照らしてだけでなく、アフリカ政治研究に対しても新たな問題設定の契機を提供する潜在力を持つ。民主化後のアフリカでは、民主的改革を意図した政治制度の整備が進められる一方で、制度が必ずしも有効に政治家や政治勢力の行動を統制していない状況が存在してきた。この状況はしばしば、「制度に手なづけられないアフリカ政治の荒々しさ」といったように、制度と政治の現実という二項対立として捉えられてきた。これに対し、本書が提起する理論的視座は、制度と政治の現実という二項対立のあいだに、将来的な秩序形成や制度を支える社会的基盤のような、いまだうまく名づけられていないインフォーマルな領域があることに注意を促すものといえる。アフリカ政治研究における新たな研究領域が、本書をとおして開けてくるように感じられる。
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