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ライブラリアン・コラム

中国の第5回全国経済センサス――デジタルが語る新時代

PDF版ダウンロードページ:https://hdl.handle.net/2344/0002001545

澤田 裕子

2025年10月

中国の経済センサスは「全国経済センサス条例」の規定により、5年に一度実施されている。2024年12月26日、国務院は記者会見を行い、第5回全国経済センサスの結果を発表した。記者会見では、法人数・従業者数の増加、法人資産の拡大、営業利益の成長、科学技術イノベーション力の強化、労働生産性の向上などのプラス面が強調された。また2023年のGDPが129.4兆元(暫定推定値126.1兆元から2.7%増加)に上方修正された。『第5回全国経済センサス公報』(以下、第5回公報)でも概要が報告されている。本稿では、記者会見、公報、『中国経済普査年鑑』(以下、年鑑)からセンサスの概要とデジタル経済の現状について紹介する。

※年鑑は国家統計局のウェブサイトで、第1回(2004年)、第2回(2008年)、第3回(2013年)、第4回(2018年)、第5回(2023年)の各年版が全文公開されている。

調査概要

第5回全国経済センサスの調査基準日は2023年12月31日、対象期間は2023年度、調査対象は中国で第二次・第三次産業1活動を行う全ての法人、産業活動単位2、個人事業主である。新たな試みとして、経済センサスと投入産出調査(産業連関構造調査)を連携して実施したこと、デジタル経済に関する内容を追加したことの二つが挙げられる。

今回は「一套表単位(大規模法人向けオンライン調査)」、「非一套表単位(一般法人向け訪問調査)」、「個体経営戸様本単位(サンプル個人事業主向け訪問調査)」、「投入産出調査単位(調査対象法人向け電子台帳のシステムアップロード)」の4つの調査方法でデータの登録が行われた。調査票は公開されていないが、公報(第一号)に具体的な調査内容が記載されている。

基本情報

2023年版、2018年版年鑑によると、2023年末時点の法人数は3,327万社(2018年比52.7%増)、従業者数は4億1,373万人(同比14.2%増)であった。個人事業主の事業所数は8,799.5万社(同比39.8%増)、従業者数は1億7,956.4万人(同比20.2%増)であった。

第5回公報(第二号)では、法人を含む産業活動単位は3,636万社に上り、その産業別割合は第二次産業19.9%、第三次産業80.1%であった。また、企業の営業利益は442.6万億元(同比50.2%増)で、そのうち第二次産業が188.8万億元(同比31.3%増)、第三次産業が253.8万億元(同比68.3%増)であった。

全体の従業者数3は2018年から11.9%増加したが、産業別には第二次産業が4.8%減少、第三次産業が25.6%増加している。記者会見で国家統計局担当者は、産業構造におけるサービス産業の拡大が、雇用構造の変化をもたらしていることが要因の一つだと説明した。

産業別状況

中国の統計上、各産業は『2017年国民経済産業分類(GB/T 4754—2017)』(以下、国民経済産業分類)に準拠し、A(農業、林業、畜産、漁業)からT(国際組織)の20部門に分けられる。さらに97の大分類、473の中分類、1,381の小分類に区分される。標準産業分類に基づいてデータを収集、整理することで、各種産業統計を相互に比較して分析することができる。

第5回と第4回公報(第二号)を基に産業部門別に見ると、企業数トップ3は下記の通りである。2018年と比較すると、2023年にリース・ビジネスサービス業は1.8倍となり、製造業を抜いて2位になった。また卸売・小売業は57%、製造業は24%増加している。

表1 産業部門別企業数トップ3

表1 産業部門別企業数トップ3
出所:第5回と第4回公報(第二号)より筆者作成

一方、産業部門別に企業の営業利益を見ると、2023年に卸売・小売業が1.7倍となり、製造業を抜いて1位になった。製造業は2018年と比較して26%、建設業は45%増加した。

表2 産業部門別営業利益トップ3

表2 産業部門別営業利益トップ3
出所:第5回と第4回公報(第二号)より筆者作成

参考までにリース・ビジネスサービス業は、国民経済産業分類上、L部門に区分され、大分類でリース業とビジネスサービス業に分かれる。以下、12の中分類、58の小分類から成る。

表3 リース・ビジネスサービス業の国民経済産業分類(抜粋)

表3 リース・ビジネスサービス業の国民経済産業分類(抜粋)
出所:『2017年国民経済産業分類(GB/T 4754—2017)』

年鑑では中分類までデータを参照できる。2023年版によると、12の中分類のうち、企業数、営業利益、従業者数のトップ3は以下の通りである。

表4 中分類別リース・ビジネスサービス業企業のトップ3

表4 中分類別リース・ビジネスサービス業企業のトップ3
出所:『中国経済普査年鑑2023』より筆者作成
デジタル経済の統計区分

ここからは、新設のデジタル経済について見ていきたい。国家統計局は、「デジタル経済及びその中核産業の統計分類(2021年)」によってデジタル経済の基本範囲を定義している。国家経済産業分類のうち、デジタル製品(商品またはサービス)の提供を目的とする関連産業部門を再分類したもので、5つの大分類、32の中分類、156の小分類から成る。

その産業活動は「数字産業化(デジタル産業化)」と「産業数字化(産業のデジタル化)」の二つに分けられる。「デジタル産業化」は、大分類01~04類のデジタル経済の中核産業、つまりデジタル製品製造業、デジタル製品サービス業、デジタル技術応用業、デジタル要素駆動業4を指す。「産業のデジタル化」は、大分類05類のデジタル効率改善産業、つまりデジタル技術とデータリソースを伝統的な産業に適用して、生産量の増加と効率の改善をもたらす経済活動である。2023年版年鑑には、デジタル経済の現状を示すデータとして、指定規模以上企業5の業種別・地域別データが収載されている。

「デジタル産業化」

第5回公報(第六号)によると、デジタル経済中核産業に従事する企業は291.6万社で、従業者数は3,615.9万人、営業利益は48.4万億元であった。2023年版年鑑には、指定規模以上のデジタル経済中核産業企業は1.2万社で、従業者数は1,954.8万人、営業利益は40.1万億元とある。これらを地域別に見ると、東部地域6の発展が著しい。地域別デジタル経済中核産業企業トップ3は以下の通りである。

表5 地域別デジタル経済中核産業企業(指定規模以上)のトップ3

表5 地域別デジタル経済中核産業企業(指定規模以上)のトップ3
出所:第5回公報(第六号)より筆者作成
「産業のデジタル化」

記者会見で国家統計局担当者は、「産業のデジタル化」は着実に進んでおり、センサスの結果はデジタル技術と実体経済の融合を反映していると述べた。指定規模以上企業の47%がクラウドコンピューティング、モノのインターネット、人工知能、インダストリアルインターネット等のデジタル技術を適用している。産業別には、第二次産業に従事する企業の54.1%、第三次産業に従事する企業の41.5%で導入が進んでいるとのことだ。

中国のデジタル化、デジタル経済の現状については、他にも政府や研究機関から報告書が出されている。例えば国家データ局『デジタル中国発展報告2024』、中国信息通信研究院『中国デジタル経済発展研究報告2024』、国家知識産権局『デジタル経済核心産業特許統計分析報告2024』などがある。デジタル経済が中国の経済政策の重要な位置を占めていることがうかがえる。

デジタル中国

2023年は、中国の第14次五カ年計画(2021~2025年)の中間の年にあたる。第5回経済センサスは、主な経済発展目標の達成度について確認する意味合いもあったと思われる。センサスから、デジタル経済を新たな経済成長の原動力として発展する中国の産業の変化が垣間見えた。デジタル化の先に、中国が目指す新しい時代のかたちはすでに現れているようだ。■

参考文献

※本コラムで参照したウェブサイトの最終閲覧日は2025年10月8日である。

写真の出典
  • 画像1:「経済大普査:数字が語る新時代」 :国家統計局ウェブサイト
著者プロフィール

澤田裕子(さわだゆうこ) アジア経済研究所学術情報センター図書館情報課主幹。担当は中華圏。著作に「第4章 中国──世界水準と「中国の特色」──」(佐藤幸人編『東アジアの人文・社会科学における研究評価──制度とその変化──』アジア経済研究所、2020年)、「中国のオープンアクセス出版に関する報告書」(国立国会図書館『カレントアウェアネス-E』No.456 2023.05.18)など。

  1. 『2017年国民経済産業分類』の部門分類では、第一次産業とは、農業・林業・畜産、漁業(関連する専門的、補助的活動を除く)、第二次産業は、鉱業(採掘に関連する専門的、補助的活動を除く)、製造業(金属製品・機械・設備修理業を除く)、電力・熱力・ガス及び水の生産と供給業、建設業を指し、第三次産業はサービス業、つまり第一次産業及び第二次産業以外の産業を指す。第三次産業には、卸売・小売業、運輸・倉庫・郵便業、宿泊・飲食業、情報通信・ソフトウェア・情報技術サービス業、金融業、不動産業、リース・ビジネスサービス業、科学研究・技術サービス業、水利・環境・公共施設管理業、住民サービス・修理・その他サービス業、教育、保健・社会事業、文化・スポーツ・娯楽産業、公共管理・社会保障・社会団体、国際機関、そして農業・林業・畜産・漁業に関連する専門的、補助的活動、鉱業の採掘に関連する専門的、補助的活動、製造業の金属製品・機械・設備修理業が含まれる。(https://www.stats.gov.cn/sj/tjbz/gjtjbz/202302/t20230213_1902749.htmlhttps://www.stats.gov.cn/xxgk/tjbz/gjtjbz/201804/t20180402_1758923.html参照)
  2. 法人は資産を所有し、負債を負い、独立して社会経済活動を行う権利を有する組織で、産業活動単位は単一の場所で一つまたは主として一つの社会経済活動に従事する組織または組織の一部のこと。(https://www.stats.gov.cn/zs/tjws/tjbz/202301/t20230101_1903701.html参照)
  3. 2024年12月の記者会見資料および経済センサス公報では法人の従業者数は42,898.4万人と報告されている。一方2025年3月出版の『中国経済普査年鑑2023』には413,731,652人と掲載されていて数字が一致しない。公報各号の間でも数字の不一致が見られる。本稿の数値は各出典元による。
  4. 要素駆動とは、土地、労働力、資本、データ等の生産要素の投入を通じて経済成長を促し、生産要素に対する市場の需要から発展の原動力を得る方法を指す。デジタル要素駆動は、データ要素の投入と市場のデータに対する需要を通じて経済成長を実現し、発展の原動力を獲得する産業を指す。(http://stats.gd.gov.cn/fwytj/content/post_4061100.html参照)
  5. 指定規模以上企業とは、規模以上の工業、資格を有する建設業、一定額以上の卸売・小売業、一定額以上の宿泊・飲食業、開発経営活動を行う不動産開発経営業、規模以上のサービス業の法人単位を指す。具体的な規模や額は参照先にて確認されたい。(https://www.stats.gov.cn/zt_18555/zthd/lhfw/2021/rdwt/202302/t20230214_1903925.html参照)
  6. 東部地域には、北京市、天津市、河北省、上海市、江蘇省、浙江省、福建省、山東省、広東省、海南省の10省(直轄市)が含まれる。(https://www.stats.gov.cn/zt_18555/zthd/sjtjr/d12kfr/tjzsqzs/202302/t20230216_1908940.html参照)