新興国・途上国のいまを知る

IDEスクエア

世界を見る眼

ソマリアの「正常化」を阻むもの

What is preventing Somalia from becoming "normal"?

PDF版ダウンロードページ:https://hdl.handle.net/2344/0002002008

2026年8月

(4,598字)

崩壊国家からの脱却?

ソマリアは「アフリカの角」のリスクという汚名を返上できるか。現在、その真価が問われている。1990年代以降、内戦による国家の崩壊と人道危機を経て、2000年代以降は海賊とアッシャバーブによる暴力的過激主義に直面してきた。それでも、2012年9月の連邦政府樹立後は大統領選挙と議会選挙を複数回実施し、2025年12月25日には首都モガディシュで1969年以来の地方選挙を実施した。国際社会もソマリアの国家再建に呼応し、国連安全保障理事会(安保理)は2023年12月1日に決議2714を採択した1。これは1992年1月23日の安保理決議733以来約30年間続いた対ソマリア武器禁輸を解除するものであった。さらに、ソマリアは2025年1月から2026年12月まで安保理の非常任理事国を務めている。

一連の動きをみると、国際社会はソマリアが崩壊国家から脱し「正常」になったというストーリーを語ろうとしているかのようである。しかし、ソマリアは依然として複合的危機に直面しており、少なくとも6つの課題を抱えている。むしろ、国連や欧州連合(EU)、アフリカ連合(AU)が同国への治安・安全保障支援から徐々に手を引き、ソマリア連邦政府に移管するお膳立てをしているとみえなくもない。そこで、本稿では課題を整理し、国際社会の期待がソマリアの実態や「アフリカの角」情勢とどのようなギャップがあるかを考察する。

写真1 2023年6月22日、国連安全保障理事会でソマリア情勢を説明するスエフAU委員会委員長ソマリア問題特別代表兼ATMIS代表

写真1 2023年6月22日、国連安全保障理事会でソマリア情勢を説明するスエフAU委員会委員長ソマリア問題特別代表兼ATMIS代表

国内政治の緊張

まず挙げるべきは、ソマリアの国内政治が現在も流動的であり緊張に満ちているということである。2025年12月25日の地方選挙は、ソマリア連邦政府が長きにわたり取り組んできた “one-person, one-vote” の実現であり2、国連、AU、EUや各国政府から歓迎された。しかし、実施対象は首都モガディシュを中心とする限定された地域にとどまり、AU委員会のマフムード・アリ・ユスフ委員長はソマリア連邦政府に対して国内対話の促進を求めるなどくぎを刺した3。しかも、2026年3月にソマリア連邦議会に暫定憲法改正案が提出されると、これが大統領任期の延長や2026年5月に予定されていた選挙の遅延につながるとして連邦政府に対する反発が強まった。南西部(South West State)では連邦政府との協力停止を表明した地域があるとの報道もある4。緊張はさらに高まり、モガディシュでは2026年6月3日夜から4日にかけて政府軍と野党系民兵とが交戦するに至った5

暴力的過激主義

ソマリアの安定と国家再建を阻む最大要因は活発な暴力的過激主義組織「アッシャバーブ」である。非営利の国際紛争・データ分析機関であるArmed Conflict Location & Event Data(ACLED)の2026年4月付アフリカ概況によると、アッシャバーブは3月にソマリア南部と中部で民間人に対する攻撃を行い、少なくとも47人が死亡した。アッシャバーブは同組織に対しスパイ行為をはたらく人物がいると主張しており、暗殺が主な目的であった。このほかにも、アッシャバーブは地方行政関係者やラマダン期間中に断食をしていないと同組織が主張する人々を標的にしたり、幹線道路で物資や人の移動に対する検問所を設置し金銭を強要したりしている6。前者については、4月23日付のACLED報告書によると、2018年以降の長期スパンでみれば地方公務員への攻撃は減少しているものの予断を許さない7。また、国連は1月から4月にかけて干ばつによる深刻な水・食料・家畜不足を警告しており、AP通信によれば、2026年初頭時点で約650万人が深刻な食料不足の状態にあり、5歳未満児約184万人が急性栄養不良に陥るとみられていた8。このようななか、アッシャバーブによる検問は人道危機をさらに悪化させる人的要因になっている。

ソマリア北東部のプントランドに拠点を置く「ISIS-Somalia」の動向も注視を要する。2025年以降、プントランドではISIS-Somaliaに対する掃討作戦が本格化した。しかし、ISIS-Somaliaは今もプントランドのバリ(Bari)地域に勢力を維持しているとみられる9。プントランドは独立よりもソマリア連邦制のもとで自治を志向する地域だが、ISIS-Somaliaの存在はソマリア連邦政府主導の暴力的過激主義対策はもちろん、国家としての一体性にも影響を及ぼす要因である。AU平和・安全保障理事会(PSC)はソマリア連邦政府の一体性を強化することが必要とみており、2026年2月、連邦政府とプントランド、ジュバランドに対し、国家再建プロセスの促進に関する対話を求めた10。国内政治の不安定化は暴力的過激主義組織による勢力拡大の好機となるため、連邦政府の正当性確保は最優先課題である。

AUミッションから連邦政府への治安維持機能移行

こうしたなか、AUAUソマリア支援安定化ミッション(AUSSOM)をいつ終了し、治安維持機能をソマリア連邦政府へ完全に移管できるかが注目されている。2007年2月以降、AUPSCの決定のもと国連とパートナーシップを維持しつつ、平和支援活動をAUソマリアミッション(AMISOM)からAUソマリア暫定ミッション(ATMIS)、そしてAUSSOMへと改変しながらアッシャバーブ掃討や治安部門の能力構築支援に従事してきた11AMISOMからAUSSOMに至る一連のミッション設置は各取り組みをAU主導からソマリア連邦政府へ徐々に移管していくことを企図したものであり、AUSSOMは2025年1月に活動を開始した。主なマンデートは暴力的過激主義組織の無力化に関する連邦政府支援、治安部門の能力構築を通じた安定化支援、文民保護、人道支援活動のための環境確保である12。安保理は2025年12月23日に決議2809でAUSSOMの任期を2026年12月31日まで延長したが、その際、AUSSOM側は同ミッションがソマリアの治安維持や国家再建を連邦政府主導へ移管する重要な段階にあるとの見解を示した13。その背景には、AUAUSSOMの資金繰りに行き詰まっている現状がある。ロシア・ウクライナ戦争の長期化や中東情勢の悪化、トランプ政権の対外援助削減などにより、主要国や国際機関からソマリアへ振り向けられる資源が減少しているのである。2026年4月23日に欧州対外行動庁(EEAS)が過去最大の7500万ユーロをAUSSOMに拠出することを表明したが14EUのソマリア関与は出口戦略に基づき縮小傾向にある。PSCはソマリア連邦政府がAUSSOM支援のもとアッシャバーブから奪還した地域を確保し続けられるかが課題であると指摘しており15、人的・物的・金銭的資源が限られるなか、AUSSOM自身の能力維持も目下の課題である。

海洋安全保障

ソマリアの現状は国際社会にとってもリスクであり続けている。特に注視が必要なのが海洋安全保障、なかでも海賊行為である。ソマリア沖では2007年からEU、北大西洋条約機構(NATO)を中心に、日本を含む多国籍の海賊対処作戦が実施されてきた。一時は年間数件にまで減少したが、国際海事局(IMB)の2025年の報告によれば、ソマリア沖・アデン湾・紅海でハイジャックが3件、航行船舶への乗船が1件、発砲事件が1件発生した16。これらの海域がイエメン情勢の緊迫と相まって不安定化していること、プントランドにおけるISIS-Somaliaの台頭、さらには米国によるイラン攻撃を受けたホルムズ海峡の緊張も背景となり、海賊行為の再活性化が懸念される17。2026年4月、ソマリア北東部のプントランド沖でタンカーが武装集団に乗っ取られた18。これはソマリランドのベルベラ港を出発しモガディシュへ石油を輸送していた船であり、ソマリアの経済活動にも悪影響を及ぼしている。

写真2 2024年2月、インド海軍がソマリアの海賊に拘束されていたイラン船籍の船舶に乗船検査を実施した

写真2 2024年2月、インド海軍がソマリアの海賊に拘束されていたイラン船籍の船舶に乗船検査を実施した

ソマリランド承認をめぐる地域秩序

ソマリアの連邦政府主導の国家再建と「正常化」をさらに揺るがすのが、ソマリランド承認問題である。これはソマリア国内問題を超えて「アフリカの角」、ひいては東アフリカと中東にまたがる地域秩序のリスクへと発展している。

2025年12月26日、イスラエルがソマリランドを国家承認したと報じられると19、ソマリア連邦政府は激しく反発した。AU委員会は2026年1月6日付でイスラエルに対し承認の撤回を求めた20PSCもユスフAU委員会委員長の明確な承認拒否を支持し、ソマリランドの一方的承認が地域の安定を損なうと懸念を表明した21。東アフリカの準地域機構である政府間開発機構(IGAD)もソマリアの主権・統一・領土保全を再確認するとともにソマリランドの一方的承認を地域的安定のリスクとみなし警告を発した22

イスラエルのソマリランド承認は紅海をめぐる関係国間の複雑な事情が背景にある23。かねてより「アフリカの角」ではトルコやアラブ首長国連邦(UAE)の政治的・経済的進出が目覚ましく、エチオピアのルネッサンス・ダム建設をめぐってエジプトとエチオピアの間にも緊張が生じていた。ソマリランドの承認問題は紅海沿岸諸国、トルコ、イスラエルをも巻き込んだ地域秩序をめぐるパワーゲームと化している。

もっとも、ソマリランド承認の動きはこれが初めてではない。2024年1月1日にエチオピアがソマリランドの港湾使用と紅海へのアクセスと引き換えにソマリランド承認の交渉を行っていることが明らかとなった。ソマリア南部をはじめとする他地域が旧イタリア領であったのに対し、ソマリランドは旧英領地域であり、1991年のソマリア内戦勃発に乗じて一方的に独立を表明した。ソマリアが国家の崩壊状態に陥るなか、ソマリランドはハルゲイサを首都とし独自の「政府」や通貨、法律を運用し安定的な統治を行ってきた。台湾が外交関係を持つものの、国連やEU、AUなどによる和平交渉やソマリアの国家再建支援では、ソマリランドの分離独立を認めず連邦制に基づくソマリアの領土保全原則と国家の一体性を前提としてきた。それだけに、エチオピアのソマリランド承認は「アフリカの角」諸国にとっても受け入れがたく、最終的にはトルコの仲介でエチオピア政府とソマリア連邦政府が和解することで決着したという経緯がある24

ソマリアが抱えるリスク

一連の動向に照らせば、ソマリアの「正常化」は国内・国際情勢いずれとも連動しながら遠のいている。国内では連邦政府の治安維持機能強化と政治的安定が急務である。AUSSOM撤退を見据えた場合、連邦政府によるアッシャバーブ、ISIS-Somalia対処の効果は不透明であり、海賊行為の再活性化も懸念される。2026年3月の憲法改正案をめぐる問題については、地方の政治勢力が連邦政府への反目や離反に至らないよう調整が求められる。さらに、中東、ホルムズ海峡の不安定化など国際情勢がソマリアに与えるインパクトは「アフリカの角」や東アフリカ、ひいては紅海沿岸諸国の安全保障をも揺るがすリスクである。AUSSOMへの資源提供やソマリランド承認問題など、ソマリアを舞台として国々がパワーゲームを展開し続けるならば、ソマリアの「正常化」はまだ遠いということなのかもしれない。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
写真の出典
参考文献

(日本語文献)

(外国語文献)

著者プロフィール

井上実佳(いのうえみか) 東洋学園大学グローバル・コミュニケーション学部教授。専門は国際関係学、国際安全保障、平和構築。主な著作に、“The Japanese Peace Cooperation Policy in the Horn of Africa,” ROLES Report, No. 47, pp.87-106, January 1, 2026、『国際平和活動の理論と実践――南スーダンにおける試練』(共著、法律文化社、2020年)など。


  1. UN Doc. S/RES/2714, December 1, 2023. ただし、ソマリア連邦政府に対し武器禁輸を解除した安保理決議2713もアッシャバーブに対しては継続としている(UN Doc. S/RES/2713, December 1, 2023)。
  2. 有権者が1票を投じる普通・直接選挙をさす。ソマリアでは地方議会の議員をクラン(clan)に基づく協議で選出してきた[Elmi 2021]。
  3. AU Press Release, “Chairperson of the African Union Commission Congratulates the Somali People on the Municipal Elections in Mogadishu,” December 26, 2025. より正確には、モガディシュが属するバナディール地域(Banadir region)の地方選挙。
  4. Reuters, “Somalia's South West state says it has severed ties with the federal government,” March 17, 2026.
  5. Al Jazeera, “Fighting in Somalia’s capital as anger over election delay erupts,” June 4, 2026; AP, “Clashes erupt in Somalia’s capital ahead of a planned anti-government rally,” June 5, 2026. 翌5日にはモガディシュ市内で反政府デモが予定されていた。
  6. 以上、ACLED, Africa Overview: April 2026, April 8, 2026.
  7. ACLED, “Africa: Non-state armed groups are the main drivers of violence targeting local officials,” April 23, 2026.
  8. UN Somalia, UN Humanitarian Programme Cycle 2026, January 26, 2026; AP, “UN data shows 6.5 million people in Somalia at risk of severe hunger from drought,” February 24, 2026. 4月の報道によれば、ソマリアの重度栄養不良児向け治療食の供給が滞るなど、ホルムズ海峡における船舶航行の混乱も脆弱国家の食料・医療物資輸送に深刻な影響を与えている。Guardian, “Calls for humanitarian corridor through strait of Hormuz as Iran war hits vital aid,” April 29, 2026.
  9. Office of the Director of National Intelligence, “ISIS-Somalia (as of February 2025).”
  10. AU Doc. PSC/MIN/COMM.1330.2 (2026).
  11. 井上[2025]を参照。
  12. AUSSOM website.
  13. UN Doc. S/RES/2809, December 23, 2025; AUSSOM Press Release, AUSSOM PR/21/2025, December 24, 2025.
  14. EEAS, “European Union confirms the largest contribution to the AU mission in Somalia (AUSSOM),” Delegation of the European Union to the African Union, April 23, 2026. この資料ではEUが過去20年間、ソマリアのAUミッションに累計約28億ユーロを支援してきたことも付記されている。
  15. AU Doc. PSC/MIN/COMM.1330.2 (2026), February 12, 2026.
  16. ICC-IMB, “Global maritime piracy and armed robbery increased in 2025,” January 25, 2026.
  17. Al Jazeera, “Why is piracy risking off Somalia again — and is the Iran war responsible?” May 1, 2026.
  18. AP, “Suspected Somali pirates hijack oil vessel headed to the capital,” April 25, 2026.
  19. BBC, “Israel recognises Somaliland as independent state, Netanyahu says,” December 27, 2025.
  20. AU Commission, “Statement by the African Union Commission on Israel’s Reported Decision Regarding ‘Somaliland’,” April 19, 2026.
  21. AU Doc. PSC/MIN/COMM.1324 (2026), 6 January 2026. 詳しくは、ISS, “Can the African Union reassert authority in the Somaliland debate?,” April 16, 2026.
  22. IGAD, “IGAD Secretariat Reiterates Its Firm Commitment to the Federal Republic of Somalia’s Unity, Sovereignty, and Territorial Integrity,” December 27, 2025.
  23. 遠藤[2024]と篠田[2024]を参照。
  24. トルコの仲介によって両国間で「アンカラ宣言」が締結された。エチオピアの紅海へのアクセス模索については、ソマリアの主権のもと協議すべしとした。Ministry of Foreign Affairs, Republic of Türkiye, “Ankara Declaration by the Federal Democratic Republic of Ethiopia and the Federal Republic of Somalia facilitiated by the Republic of Türkiye,” December 2024.