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ベトナム共産党第13回大会に寄せて(1)政治路線と人事の見どころ

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051946

2021年1月

(8,298字)

政治的文脈からみる第13回党大会

2021年1月25日から2月2日までベトナム共産党第13回大会が開催される。5年に1度開催される党大会では、前回党大会決議の実施結果の総括がなされ、今後10カ年の発展戦略および5カ年の方向性・任務が採択される。また、中央執行委員会(以下、中央委員会)が選出され、新たに選ばれた中央委員会によって、政治局、書記長、書記局、中央検査委員会などが選出される。共産党の一党支配体制をとるベトナムにおいて、党大会は最も重要な政治イベントである。

本稿は党大会の見どころを紹介する前編として、主として国内政治分野での第12期党指導部の統治の軌跡を振り返り、それを踏まえて第13回党大会で提示される政治路線および人事の注目点について検討する。なお、経済分野の見どころは次回配信の後編で紹介する予定である。

写真:第13回党大会が開催される国家会議センター周辺の看板

第13回党大会が開催される国家会議センター周辺の看板
第12期党指導部による党の「再建」

1986年の第6回党大会で採用されたドイモイ路線では、党と国家の分離が強調され、計画経済システムのもとで形骸化していた国家機関の再生が図られた。ベトナムの経済発展が軌道に乗り、対外開放が進むと、許認可権限をもち予算を管理する政府や、法律を作り政府を監視する国会の役割が大きくなり、党の役割は国家の背後に退いていった。特に2006年から10年にわたり首相を務めたグエン・タン・ズンは最も力のある首相ともいわれ、国有企業の大規模化や多角化を推進し、大規模投資プロジェクトを相次いで承認するなど、経済運営に指導力を発揮した。党内の序列では党書記長が第1位であり、国家主席、政府首相など国家幹部はそれに次ぐとされるが、ズンは実力では書記長をしのぐとも評されていた。

2016年の第12回党大会では、72歳のグエン・フー・チョン第11期党書記長が再選された。強力なライバルであるズン首相を抑え、また前回に引き続き年齢規定の適用除外を承認されての書記長再任には意外性があったが、その他の主要幹部人事はおおむね順当といってよいものであった。

この5年間を振り返ってみると、第12期党指導部の任期中にはドイモイ期の国内政治史上前例のない出来事が相次いだ。大きくいえば、党と国家の二重性のなかで相対的に低下してきた党の権威が改めて強調され、党が理論上だけでなく実際にも国家を指導する立場にあることが再び示されたのである。

「聖域なき」反汚職闘争

チョン書記長は、自身2期目となった第12期の任期において、大方の予想を超えた強力なリーダーシップを発揮した。その手腕が最も際立ったのは、「党建設」の名のもとに展開された反汚職闘争においてである。すでに第11期中の2012年、チョン書記長はそれまで政府のもとに置かれていた中央汚職防止指導委員会を党政治局直属の機関とし、その長に就任していたが、第12期に入ると、党が反汚職闘争の主導権を握り、これを強力に推進していく姿勢が一層明確になった。そのなかで、従来は表に出ることが少なかった党中央検査委員会1や党書記局2などの党機関も脚光を浴びるようになった。

第12期党指導部のもとで確立された反汚職闘争のひとつの顕著なパターンは以下のように要約される。党・国家高級幹部が絡む汚職等の事案の摘発においては、まず検査委員会が対象者の違反の所在を認定して、その役職に応じ人事管理を管轄する政治局や書記局に処分を勧告し、これらの機関により党内での処分が決定される。対象者が国家幹部である場合には、政府首相や国会もそれぞれの権限にもとづき相応の処分を決定する。さらに当該事案が刑事事件を構成すると判断される場合には、公安や検察、裁判所等による刑事司法手続きへと進む。中央汚職防止指導委員会はこれらの動きを総括し、主要な汚職事件に関する捜査や公判手続の進度の目標を設定するなど関係各部を指導する。

このようなトップダウンの手法により、第12期党指導部はその5年の任期の間に、現職の政治局員、現・元政府閣僚、省級党委員会幹部3、軍・公安幹部を含む多くの高官に対する処分を行ってきた4。現職の政治局員が経済管理に関する違反により解任され、刑事訴追を受けたことや、ハノイ、ホーチミン、ダナンの三大都市の党委員会書記がすべて処分を受け、任期半ばで交代したことは、いずれも前例のないことであった。

党・国家組織運営の制度化・合理化

第12期においてはまた、党・国家組織運営の制度化や合理化がすすめられた。党指導部は、党員の規律や党内の監察活動、党幹部の人事管理などにかかる多くの文書を公布した。2017年の党中央委員会90号規定(2020年の214号規定により改正)は、四柱5をはじめとする党・国家高級幹部選任のための評価基準を初めて明文化した。その他にも幹部のローテーションや党員の懲戒処分等に関する規定が整備され、資質や政治姿勢に問題がある幹部・党員を発見し、処分する態勢が整えられた。

国家機構の再編も始動した。2017年には「政治システムにおける組織・機構の簡素化に関する党中央委員会18号決議」が公布された。同決議の施行後2年で中央行政組織では4000余り、地方行政組織では1万6000余りの幹部ポストが削減されるなどの成果が報告されている6。また、政府が2001年以来取り組んできた行政改革プログラムでは、地方行政単位の分割・細分化の進行が問題と認識されつつも歯止めをかけられずにいたが、2019年には党主導による県・社級行政単位の整理・再編が開始され、行政単位数はドイモイ開始以降初めて減少に転じている。

社会活動への統制強化

第12期党指導部の任期においては、国家を通じて、さまざまな分野の社会活動に対する統制・管理も強化された。第12期党指導部と同年に選出された第14期国会は、信仰・宗教法(2016年)、サイバーセキュリティ法(2018年)、改正環境保護法(2020年)など、議論の多い法律を成立させてきた。

ことにサイバーセキュリティ法施行以来、ソーシャルメディアを通じた体制批判とみられる言論への体系的な抑圧が強まっている。インターネット上で比較的自由に発展してきた言論フォーラムは、近年、軍のサイバー部隊や「世論工作員」7による監視や攻撃の対象となっている。情報通信省はFacebookやGoogleに圧力をかけて、反体制的とみなされる投稿の削除やアカウント停止などの措置をとらせている。アムネスティ・インターナショナルの2020年12月の報告書によれば、ベトナムには現在、同団体がモニタリングを始めて以来最多となる少なくとも170人の「良心の囚人」8がおり、うち69人はソーシャルメディア上の発信がもとで投獄されているという(Amnesty International 2020, 7)。

国家の独占分野である正規のマスメディアも統制強化の対象となった。情報通信省が2015年に打ち出した2025年までの新聞・雑誌発展管理計画は、印刷媒体や電子媒体の発行主体の数を減らして指導、管理を容易にすることを目指している。同計画は2019年の首相決定により実行段階に入り、紙媒体のものだけでも850を超えるといわれた新聞・雑誌の大規模な整理・統合が始まっている。

反汚職闘争の成果と限界

上述のような第12期党指導部の政治面における実績は、全体としてどのように評価できるであろうか。

第12期党指導部の取り組みのうち、その看板ともいうべき反汚職闘争は、国民の党への信頼を回復するという「党建設」の目的を一定程度達成することに貢献したとみられる。2020年1月に公表された「ベトナム腐敗バロメーター」報告書(Towards Transparency 2020)によると、2019年時点の調査では、回答者の約半数が政府の汚職撲滅への取り組みが有効であると考えており、2016年時点での約2割から顕著な改善がみられた。また、過去12カ月間に汚職が増えたと感じている回答者の割合は3年前よりも下がり、汚職が減ったと感じている回答者の割合は上がっている。しかしながら、2019年においてもなお、過去12カ月間に汚職が増えたと感じている回答者の割合(43%)は、減ったと感じている回答者の割合(26%)を大きく上回っている。

このような調査結果はそれほど意外なものではない。多くの人が汚職撲滅の必要性を認識し、反汚職闘争を支持しているのは確かであろう。しかし、汚職は、長年にわたりベトナムの政治・経済・社会システムの一部となってきた(Gainsborough et al. 2009)。このシステムのなかにいる限り、好むと好まざるとにかかわらず汚職に加担するのを避けることは困難であるといってもよい。反汚職闘争の激化を受けて、各級行政機関では、責任を問われることを恐れる幹部が決定を回避し、行政事務が停滞したという報告もある。いかに老練な指導者でも、このようなシステムを5年や10年で簡単に変えられるものではない。

党・国家幹部の任用についても同様の問題がある。第12期党指導部は、その任期中に処分を受けた幹部の多くが前回党大会で任命されていることの反省を込めて、人事に関する基準の明確化や手続きの厳格化を図ってきた。しかし、人事の刷新は一朝一夕には進まない。全国レベルの党大会に先立って2020年に開催された地方レベルの党大会における幹部人事をみても、すでに被任命者の適格性に疑問が呈されているケースも見受けられる。あからさまなネポティズム(縁故主義)のため、半月で撤回された幹部人事もある。

残された課題と新たな懸念

他方、綱紀粛正運動に期待して、土地収用や司法手続きにおける不正を訴え、公正を求める声を上げた人々が救済を受けられない事例も目立った。2020年には、長年地方当局による土地収用に抵抗してきた村を約3000人の公安勢力が急襲し、84歳になる村のリーダーをテロリストの首領として射殺した。また、2008年に逮捕され、翌年殺人罪で死刑判決が確定した男性の事案(ホー・ズイ・ハイ事件)9について、捜査や審理の過程で多くの問題があったという指摘を受けて、監督審裁判10が行われたが、最高人民裁判所は判事18人の全員一致で死刑判決を支持した。

統制の強化に伴う新たな懸念もある。第12期党指導部のもとでその方針や指示の実現を支える役割を担うことで存在感を増したのが公安部門である。第12期党指導部では、多くの公安部門出身者が、政治局以下、党・政府の主要機関で要職を占めている(石塚2017, 38)。ドイモイ期の歴代党書記長は党中央軍事委員会の長を兼務してきたが、チョン書記長はこれに加えて中央公安党委員会の常務委員も務めている。体制の守護者を自任する公安部門は、時に手段を選ばずにその任務を遂行し、国際人権団体や欧米諸国政府の批判の的となってきた。2020年11月には、在ベトナムEU大使が複数のEU諸国の大使らとともに公安省を訪れ、憲法上保証された表現の自由、言論の自由の尊重を要請している11

第12期党指導部の路線はいかに継承されるか

第13回党大会では、上述のような第12期指導部の路線が次期指導部にどのように継承されるかが注目される。反汚職闘争の成果を持続、向上させていくためには息の長い取り組みが必要となる。さらにいえば、現在のようにトップダウンで強権的な手法に頼るのではなく、公平性や透明性を重視した、より組織的な取り組みへ移行していくことが望ましい。反汚職闘争の恩恵が一般国民に裨益するためには、行政分野ごとの構造的な改革も必要になるであろう。

2020年10月に公表された第13回党大会の政治報告草案では、引き続き党建設の章が大きな比重を占めている。国家発展総括目標の冒頭は、「党の領導能力、政権担当能力、および闘争力を向上させる。清廉で全面的に強靭な党および政治システムを建設する。党、国家、社会主義制度に対する人民の信念を強固にする…」となっている。第12回党大会政治報告の同部分が「清廉で強靭な党建設を強化し、党の領導能力および闘争力を向上させ、強靭な政治システムを建設する…」となっていたことと比べると、党建設の課題が基本的に踏襲されつつ、より敷衍され、強調されていることがうかがわれる。

党建設に関する章のなかでは、「人民の信念を強固にする」ための方針や手段がより具体的に述べられている。草案の新しい点のひとつは、従来から用いられている「人民が知り、人民が議論し、人民が行い、人民が検査する」という方針に「人民が監察し、人民が享受する」という2つの内容が加わったことである。草案は、国民の政治システムへの信頼を強固にし、経済社会発展と国防・安全保障に全民族の団結力を発揮するために、宣伝、動員の内容や方式を刷新し、マスメディアやソーシャルメディアを効果的に用いることを謳っている。他方、党建設は人民に依拠して行われる必要があること、政治システムの組織機構や幹部・党員の質を評価するにあたっては人々の満足度や信任を重要な基準とすること、人々の正当で合法的な願望に速やかに対処することなども言明されている。

党大会でこの政治報告草案が基本的に承認されるとすると、第13期党指導部にとっては、党建設の推進とそれを通じた国民の信頼回復が引き続き最重点政治課題になるとみられる。

人事の見どころ

人事に関してまず注目されるのはチョン書記長の後任選びである。党条例上、書記長の在任は連続2期までとされている。チョン書記長は、その清廉な人柄と政治的手腕で、他の指導者たちからも一目置かれ、恐れられる存在となったが、同様の資質を後継者にも期待するとなると候補者へのハードルは高い。また、ベトナムの制度上、指導者の後任選びには本人の意向が強く影響すると考えると、候補者には社会主義に対する強い信念をもっていることが要求されるであろう。チョン書記長は、2018年10月以降は国家主席を兼務しており、次期党指導部でもこれら2つの職位を1人の指導者が兼務することになるのかどうかも注目される。

経済社会政策を主導する首相の人選も重要である。グエン・スアン・フック首相は、チョン書記長のもとで、民間企業主体の高い経済成長を実現させ、新型コロナウイルス感染症への対応でも大きな成功を収めてきた(後編参照)。ドイモイ期には、首相が交代する場合には、前期の筆頭副首相が新首相に就任するのが通例となってきたが、今回の指導部交代にあたっては、首相、筆頭副首相ともに再任のための年齢制限を超えている。

四柱以外の政治局員の人選にも注目したい。第12期では、政治局員のなかからも3人の処分者をだした。第13期指導部の人選は、第12期指導部の綱紀粛正、党建設事業の到達点を示し、その将来を占う上で重要な意味をもつ。第13期指導部でも第12期に引き続き公安部門出身者が重要な位置を占めることになるのか。COVID-19予防対策国家指導委員会の委員長として手腕を発揮したヴ・ドゥク・ダム副首相や、ホー・ズイ・ハイ事件の死刑判決見直しを長く働きかけてきたレ・ティ・ガー国会司法委員会委員長などの国民に人気のある政治家は政治局入りするのか。さらに、第12期政治局は北部出身者の比重が高かったが、より地域バランスを重視した構成になるのかどうかにも注目が集まる。

写真の出典
  • Nguyen Khac Hung氏撮影(2021年1月)。
参考文献
著者プロフィール

石塚二葉(いしづかふたば) アジア経済研究所新領域研究センター・ガバナンス研究グループ。専門はベトナム地域研究(政治・行政)。おもな著作に、『ベトナムの「第2のドイモイ」――第12回共産党大会の結果と展望――』(編著)アジア経済研究所(2017年)など。


  1. 党中央検査委員会は、党内の検査、監察を担当する党中央委員会の機関である。
  2. 書記局は、党の日常的な政策執行の監察を行う党中央委員会の機関であり、中央委員会の委任により一定の事項につき決定を行う。書記局のトップは党書記長であり、書記局員の一部は政治局員の兼任である。
  3. ベトナムの地方政府は、上から省級、県級、社級の3層となっている。省級行政単位には58省と5中央直属市(ハノイ、ホーチミン、ハイフォン、ダナン、カントー)が含まれる。
  4. "Hội nghị toàn quốc tổng kết công tác phòng, chống tham nhũng giai đoạn 2013-2020(2013-2020年段階の反汚職工作総括全国会議)," Báo Nhân Dân điện tử(電子版ニャンザン紙), 2020/12/12.
  5. 四柱とは、党書記長、国家主席、政府首相、国会議長の4つの職位を指す。
  6. "Tinh gọn bộ máy, tăng hiệu quả hoạt động(機構の簡素化、活動の効果向上)," Báo điện tử Đảng Cộng sản Việt Nam(ベトナム共産党電子新聞), 2020/1/8.ここで「行政組織」とは、ベトナムでいう「事業単位」(公共サービス提供組織)を含む。
  7. 軍のサイバー部隊および党中央宣教委員会管理下の世論工作員についてはAmnesty International (2020, 51-55)を参照。
  8. 良心の囚人とは、アムネスティ・インターナショナルが提唱している概念で、非暴力であるが言論や思想、宗教、人種、性などを理由に不当に逮捕された人をいう。
  9. 2008年1月、南部ロンアン省の郵便局で職員の若い女性2人が殺害され、約2カ月後に当時23歳のホー・ズイ・ハイが容疑者として逮捕された。同事件の裁判では、ハイの自白以外に有力な証拠がなく、また捜査段階でさまざまな法令違反があったにもかかわらず、ハイは死刑判決を受け、同判決は確定した。2014年、当時のチュオン・タン・サン国家主席は、国内外の世論の反対を受け、捜査において重大な法令違反があった疑いがあるとしてハイの死刑執行の一時停止を命じた。
  10. 監督審とは、一旦確定した判決について、重大な法律違反が発見された場合等に、上級裁判所の所長や上級人民検察院の院長の申立てにより、その判決を破棄するかどうかを決定する裁判である。
  11. "Đại sứ EU nêu vấn đề Phạm Đoan Trang bị bắt với Bộ Công an Việt Nam(EU大使、ベトナム公安省に対しファム・ドアン・チャン逮捕の問題を提起)," VOA Tiếng Việt(ベトナム語版VOA), 2020/11/6.
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