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第1期蔡英文政権の環境政策――環境影響評価制度と大気汚染対策を中心に

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051768

2020年6月

(9,648字)

環境政策は成果を挙げたのか?
2020年1月11日に台湾総統選挙が行われ、現職の蔡英文総統が再選された。本稿では、2016年5月からの第1期蔡英文政権の環境政策に関する取り組みを振り返ることによって、2020年5月に発足する第2期政権の課題を明らかにしたい。第1期蔡英文政権は、環境、資源・エネルギーに関わるさまざまな政策課題に取り組んだ。以下では、政権発足当初に重点課題としてあげられていた、環境影響評価制度の改革とPM2.5などによる大気汚染対策を中心に取り上げて検討し、そのいずれもが当初期待された成果を十分に挙げるに至らなかったことを指摘する。

写真:台湾電力台中火力発電所

台湾電力台中火力発電所
政権発足時の人事と重点課題

2016年5月に成立した蔡英文政権第1期では、林全が行政院長に指名され、李應元が環境政策の主務官庁である行政院環境保護署の署長に就任した。また、環境保護署の副署長の1人に詹順貴弁護士が就任した。

李應元署長は、1980年代、アメリカ留学中に台湾独立運動を行い、国民党政権のブラックリストに載って帰国できなくなったが、密入国により帰国して逮捕された経歴を持つ。出獄後は立法委員、陳水扁政権(2000-2008年)で行政院秘書長、行政院労工委員会主任委員(大臣に相当)等を歴任し、民進党でも秘書長などを経験した与党の幹部であり、労働運動等の社会運動と長年にわたって連携してきた。閣僚との兼任は認められないため、李應元は立法委員を辞職して環境保護署長に就任した。

副署長に着任した詹順貴は、弁護士として数多くの環境問題に関わる訴訟に取り組んできた、環境運動家であった。後述のように、詹順貴が弁護士時代に取り組んだ環境訴訟の多くは環境影響評価に関わる行政訴訟であり、中央政府で環境影響評価制度を担当する環境保護署を被告とするものであった。

馬英九政権期(2008-2016年)の2名の環境保護署長はいずれも技術系官僚の内部昇格であった。歴代の署長を見ても、政治家の任命は例外的で、官僚の内部昇格が多く、外部からの登用も学者がほとんどであった。

これに対して、蔡英文政権は、馬英九政権下の環境保護署を厳しく批判していた環境保護運動家を副署長の1人に登用し、その後ろ楯として与党の有力な政治家を署長に任命することにより、環境行政の改革を行う姿勢を見せた。その背景としては、1980年代半ばの民進党結党前後から続く同党と社会運動、なかでも反原発運動、環境保護運動との長年にわたる連携と、蔡英文政権が目指していたエネルギー政策の転換、開発政策の見直しがあった。蔡英文政権の発足時には、他の政府機関でも大臣に次ぐ副大臣クラス(次長、副主任委員、副署長)で、社会運動関係者の登用が見られた。

人事の狙い

蔡英文は、2016年総統選挙に向けたキャンペーンのなかで、2025年までに脱原発を実現するという「非核家園」構想を打ち出していた。馬英九政権がすでに2014年に建設を凍結していた第4原発をそのまま廃止するとともに、既存の原発を順次停止して脱原発を実現するという内容であった。そのためには、省エネルギーの推進とともに再生可能エネルギーなどによって原発に依存してきた電力供給を代替する必要があった。

2016年6月10日、蔡英文は、林全行政院長と関係閣僚らとともに、李應元環境保護署長と詹順貴副署長を自宅に招き、重点として取り組むエネルギー政策、経済建設計画と環境影響評価、および住宅政策について協議し、指示を行った。エネルギー政策については、再生可能エネルギーへの転換、省エネルギーの推進に加えて、温暖化対策の推進を協議した。経済建設計画については「グリーン・エネルギー」を含む「5大イノベーション計画」と、関連する環境影響評価制度の改革とその運用効率の改善を指示した。

このように政権の重点となった脱原発政策であったが、その実現のためには省エネルギーと再生可能エネルギーの推進だけでは不十分であることは明らかであり、将来に向けた繋ぎとして、既存の火力発電所の維持だけでなく、新規の火力発電所建設も選択肢として残す必要があった。しかし、火力発電所の多くは石炭を燃料としており、PM2.5などの大気汚染の主要な汚染源のひとつとなる。PM2.5による大気汚染は、重化学工業や多くの石炭火力発電所が立地する南部から中部にかけて特に顕著になっており、健康への被害が懸念されていた。脱原発と大気汚染対策は、短期的には両立が困難であった。

このように、蔡英文政権は2016年5月の発足時に、2025年までの脱原発の実現のためのエネルギー転換と5大イノベーション計画の推進を重点課題として取り上げていたが、その推進のためには、環境影響評価制度の改革が必要であった。再生可能エネルギーについても、大規模プラントの建設を推進するためには環境影響評価の効率的な運用が必要となる。蔡政権は、環境保護署の署長、副署長に有力な政治家と環境保護運動家をそれぞれ配置し、社会運動との連携を深めながら、社会的な意思決定を広く開かれた形で行うことを目指していたと考えられる。

環境影響評価制度の改革――野心的な改革案とその挫折

台湾の環境影響評価制度は、1994年に制定された環境影響評価法に基づく。その後の法改正、行政手続きの改革等を経て、情報公開や公聴会などによる市民参加が行われている。さらに、開発計画に対する行政訴訟を通じた反対運動の重要な手段のひとつともなってきた。蔡政権が取り組んだ環境影響評価制度の改革では、前任の馬英九政権期におきた中部科学工業園区建設計画をめぐる紛争が、その背景として重要である。

台中市にある中部科学工業園区は、中央政府が推進するハイテク工業団地であり、その第3期建設計画は、2006年に環境影響評価が通過して、建設が進められていた。しかし、農業や健康への影響を懸念した周辺住民たちは、より詳しい環境影響評価を行うべきであると主張して2006年に行政訴訟を提訴した。2010年1月に最高行政法院で住民たちの勝訴が確定し、第3期計画の環境影響評価は無効となった。

ところが、環境影響評価を担当する環境保護署の沈世宏署長は、この判決を批判し、判決が求めるより詳しい環境影響評価をすぐには行おうとせず、工業団地の建設と操業をそのまま続けさせた。司法を公然と批判し無視する環境保護署の対応は、環境行政と環境影響評価制度に対する社会的な信用を失墜させるものであった。詹順貴は弁護士としてこれらの行政訴訟を担当し、環境保護署の対応を批判していた。

蔡英文政権は、環境行政に対する社会的信頼を取り戻すために、環境保護運動団体と政府との関係も改善しながら、環境影響評価制度を重点とする改革を進めようとした。環境影響評価への市民の参加の拡大と情報公開は、環境保護運動団体からの長年の要望を受けたものであった。一方で、開発プロジェクトの当事者からは、環境影響評価の手続きに要する時間の短縮が求められていた。蔡英文政権が推進する5大イノベーション計画の実施のためにも、環境影響評価の手続きの効率化が必要であった。

詹順貴は、環境保護署の副署長への就任直後の2016年6月28日、環境影響評価制度の改革案を発表した1。そのなかには、環境影響評価法の改正案を9カ月以内に作成し、社会影響評価の技術規範の草案を1年半以内に作成することが盛り込まれていた。それまでの制度での評価手続きの遅延は、事業者による環境影響評価説明書作成の段階で生じていた。改革案は、環境影響評価説明書の作成以前に、案件ごとに設置する小委員会で現地調査を行って必要な情報を収集して公開し、より早い段階で市民参加を行えるようにし、さらに小委員会の開催回数を制限することによって運用の効率化と時間の短縮を目指すというものであった。

環境影響評価法の改正案は2017年9月20日に公告され、一般からの意見が募集された2。改正案の主な内容は、上記の小委員会設置に加えて、政府が実施する開発行為や政策について環境影響評価を行う範囲を明確にする、審査を通過し開発を実施した後の検証を強化する等、多くの項目を新たに盛り込むものであり、全32条の条文を66条に拡大する大幅な改革であった。

しかし、環境保護署が公告した法案が行政院によって立法院に提出されることはなかった。他の政府機関との調整、合意形成が進まなかったことが原因と推測される。政府による開発行為や政策の環境影響評価は、行政の活動の環境への負荷を引き下げることを目的とするものであったが、他の政府機関の政策を大きく制約することに繋がる内容でもあり、その調整には強い政治力が必要であった。その後も、2020年6月現在、環境影響評価法の改正は行われていない。環境影響評価法の改正が進まなかった一方、同法の「作業ガイドライン」が2017年12月8日に、「施行細則」、および環境影響評価を実施する際に調べる影響の範囲と項目を定める「認定標準」が2018年4月11日に改正、発布され、一部の手続きの簡素化、効率化が行われた。

結局、環境影響評価制度の改革は十分な成果をあげられないまま、2018年10月8日、詹順貴は環境保護署副署長を辞任した。原発を代替する火力発電を増やすための国営企業中国石油による液化天然ガス(LNG)受入基地の建設計画に対する環境影響評価を環境保護署が承認する直前の辞任であった。「非核家園」政策のために政府は短期的には火力発電所を増設させようとしたが、環境保護運動団体は温室効果ガスの排出増や大気汚染の悪化とプラント建設による生態系破壊も批判していた。LNG受入基地の他、石炭火力発電所の建設計画でも、環境影響評価の過程で開発に慎重な姿勢を示さなかった環境保護署は、環境運動団体から厳しく批判されていた。また、辞任に際して詹順貴は、前年の2017年9月に林全行政院長が辞任し、台南市長だった賴清德が行政院長に就任した際にも環境保護署副署長の辞任を申し入れたが、蔡総統から慰留されてその時には職に留まっていたことを明かした。賴清德が台南市長として推進した鉄道の地下化による再開発計画によって移転を余儀なくされる住民運動に詹順貴弁護士として加わっていた経緯があり、詹順貴は賴清德の政治的姿勢に疑問を感じていたという。実際、賴清德が行政院長に就任して以後、詹順貴が取りまとめた環境影響評価法案は立法院に提出されず棚上げにされてしまった。

詹順貴らが取りまとめた環境影響評価法の改正を含む制度改革案は、政府の政策の環境影響評価等の急進的な内容を含むだけではなく、手続きの簡素化、評価に要する時間の短縮といった、制度の効率化につながる内容を含むものであった。しかし、急進的な内容と一体として提示されたために、効率化につながる制度改革も十分に実現しない結果となった。

大気汚染対策――地方選挙での敗北という落とし穴

蔡英文政権の発足直後の2016年5月26日、環境保護署の李應元署長と詹順貴副署長は立法院で報告を行った。その際、取り組むべき重点項目として、環境影響評価制度の改革とともに挙げられたのが、PM2.5等の大気汚染対策の推進である。馬英九政権が6年かけて取り組むとしていた対策を前倒しして4年で達成することを目指すという内容であった。数値目標として、全国の大気汚染のモニタリング・ステーションでの測定結果を指数化した「AQI(Air Quality Index: 空気質指標)」で示される「紅色警戒日」の延べ回数を4年以内に半減させることを表明した。「紅色警戒日」は、モニタリング・ステーションで測定されるPM2.5を含む複数の大気汚染物質の健康への影響を評価した指標によって算定される6つの区分の下から3番目である「紅」よりも悪い結果が示された日である。6つの区分は清浄な順に、良好が「緑」、普通が「黄」、大気汚染に敏感な人々にとって不健康な「橘」、一般の人々にも不健康な「紅」、非常に不健康な「紫」、有害の「褐色」である。このうち一般の人々に対しても不健康な「紅」よりも悪い3つの区分が観測された日が「紅色警戒日」とされる。李應元署長の公約は、すべてのモニタリング・ステーションでの「紅色警戒日」の延べ回数を4年以内に半分以下にするというものであった。PM2.5排出削減の手段としては、自動車等の移動汚染源の取り締まり強化、石炭火力発電所等の固定排出源の稼働率の引き下げ等が挙げられていた。

さらに李應元署長は2017年11月30日、半年後の翌年5月20日までに全国のモニタリング・ステーションの測定結果が「紅色警戒日」に区分される延べ回数が20%低下しなければ、辞任すると表明した。翌2018年5月18日のPM2.5の測定結果では、就任1年目(2016年5月から2017年5月)の延べ632回から、2年目(2017年5月から2018年5月)は延べ376回と、1年目に23.9%、2年目までに54.8%の低下を達成し、その時点で公約を実現して辞任を免れた。

法制度の整備においては、2018年6月25日に「空気汚染防制法」の大幅な改正が立法院で成立し、8月1日に施行された3。空気汚染防制法は大気汚染対策のための法律で、1975年5月に公布された。2018年は8回目の改正であった。過去の改正では、1992年の第2次改正、1999年の第3次改正、2002年の第4次改正が大幅な改訂であった。2018年の第8次改正は、2002年の第4次改正以後、最も大幅な改訂となった。改正の主な内容は、出荷後10年以上の古い車両等の排出規制強化、違反に対する科料の大幅な引き上げ、車両と船舶等の燃料中の不純物に関する規制の強化、特定の区域を指定した総量規制による車両等の規制強化、等であった。主に車両を対象とした規制を強化しただけでなく、手続きにおいても、中央政府が4年毎に全国の大気汚染防止計画を見直す際に、行政区を越える汚染に配慮した地方政府間での協議の導入等、新たな制度が導入された。また、市民による違反者の通報等、環境保護運動団体の意見も一部取り入れた。

このようにPM2.5をはじめとする大気汚染対策では一定の成果が見られたにもかかわらず、また空気汚染防制法の大幅な改正の成果が大気の状況に十分に現れる前に、大気汚染問題は2018年11月の統一地方選挙で争点のひとつとなり、大きな政治問題と化した。その象徴となったのが、2018年の台中市長選挙であった。

台中市では、2014年の統一地方選挙で民進党の林佳龍が国民党の現職、胡志強を破って市長に初当選していた。2016年5月に蔡英文政権が成立すると、李應元署長はたびたび台中市を訪れて、林佳龍市長と大気汚染対策、河川浄化対策等で連携する姿勢を示し、成果をアピールした。

2018年の市長選挙に際して、国民党は対立候補に立法委員だった盧秀燕を立てた。国民党は、蔡英文政権の脱原発政策が原子力以外の電力への依存を高めることにより、PM2.5の主要な排出源となる石炭火力発電所である台湾電力台中発電所の稼働率が上がり、台中市の大気を悪化させていると主張した。台中火力発電所は1986年に建設が始まり、1989年に運転を開始した。その後の増設により550MWの石炭火力発電ユニットが合計10基設置されており、2020年現在、世界第2位の規模を持つ石炭火力発電所である。実際、蔡英文政権が取り組む再生可能エネルギーへの転換だけでは、短期的には原子力発電の減少分を代替するには十分ではなく、脱原発路線の推進が台中火力発電所の稼働強化につながる可能性は高かった。

国民党候補の盧秀燕は、「民進党の林佳龍市長は蔡英文政権の脱原発政策に反対できない」とし、自らが当選したら規制により台中火力発電所の稼働率を低下させると公約した。さらに国民党は、成立要件が引き下げられて成立させやすくなった「公民投票」で石炭火力発電所の大気汚染を取り上げて争点化し、選挙戦略に利用した。具体的には、統一地方選挙に合わせて台湾全体で実施された公民投票に、「火力発電所の発電量を毎年平均少なくとも1%削減する」という議案をかけた。

2018年11月24日に統一地方選挙が行われ、台中市長には、国民党の盧秀燕が得票率56.8%で、民進党の現職、林佳龍を破って当選した。同時に行われた公民投票では、全部で10の議案が対象とされ、このうち、上記の火力発電所の発電量に関するものを含む7つの議案が成立した。火力発電所の発電量削減に関する議案は、賛成795万5753、反対210万9157、無効71万5140で、有効投票の79.0%の賛成を集めて成立した4。台中市では同議案は有効投票の81.2%の賛成を集めた。市長選挙での「市長人換、空氣換新」(市⾧を代えて、空気を入れ換えよう)という国民党の選挙キャンペーンは効果を奏したといえる。

統一地方選挙に合わせて行われて成立した公民投票の議案には、他にも与党民進党の資源エネルギー、環境政策に対する不信感を背景に、国民党関係者が提案したものがあった。「『火力発電所の新たな建設、拡充工事を停止する』というエネルギー政策の策定」(有効投票の76.3%の賛成で成立)、「日本の東日本大震災の放射能汚染地域、福島県及びその周辺4県からの農産品や食品の輸入禁止を続ける」(有効投票の76.7%の賛成で成立)、および「『電業法』第95条第1項の条文『台湾にある原子力発電所は2025年までにすべての運転を停止しなければならない』を削除する」(有効投票の59.5%の賛成で成立)、という3つの議案である。3つめの議題は、蔡英文政権の2025年までの脱原発という政策を否定するものであった。しかし、蔡英文は法律の条文が削除されても政府の政策は制約されないとして、2025年までの脱原発という政策を変更しなかった。

この統一地方選挙で与党民進党は、台中市の他にも、高雄市、彰化県、雲林県、嘉義市、宜蘭県、澎湖県で首長のポストを失い大敗した。22ある県と市のうち、民進党の首長は13から6に減り、国民党は6から15に倍以上増やした。資源エネルギー、環境政策は、公民投票として連動することによって、統一地方選挙の争点のひとつとして政治問題化したのであった。

統一地方選挙での大敗を受けて、李應元環境保護署長は、林聰賢行政院農業委員会主任委員、および吳宏謀交通部長(いずれも大臣に相当)とともに、2018年12月1日に辞任した。李應元の後、2019年1月13日までの40数日を蔡鴻德が代理署長となり、同年1月14日に張子敬が環境保護署長に就任した。いずれも李應元署長の時期に副署長だった技術系官僚の内部昇格であった。

残された課題

蔡英文政権発足時に就任した李應元環境保護署長と詹順貴副署長は、それぞれ与党の有力な政治家と著名な環境保護運動家として、協力して環境行政を改革することが期待されたが、2018年10月に詹副署長が、12月に李署長が相次いで辞任し、政権1期目の任期4年の途中、2年半あまりで、いずれも環境行政の表舞台を去った。詹順貴は副署長退任後、弁護士として環境保護運動の現場に戻り、しばしば環境保護署の政策を批判する側に立っている。政治家と運動家という外部の力を導入した環境行政の改革は挫折した。環境保護運動と政府、環境行政との関係改善も必ずしも進まなかった。環境影響評価制度の改革も、法改正という主要目標を達成できなかった。大気汚染対策は法制度を改革したが、その成果が状況を改善したと人々に評価される前に、統一地方選挙の争点として政治問題化され、与党の大敗の一因となった。

2018年11月の統一地方選挙での大敗により、2020年1月の総統選挙での与党民進党の敗北は不可避と予想されていた。しかし、2019年に香港情勢の緊迫をはじめとする対中関係をめぐる大きな外部情勢の変化が生じたことにより、政権への支持は回復し、蔡英文は2020年1月、総統に再選された。香港情勢や中国問題に光があたり、2018年の統一地方選挙で争点となった資源エネルギー、環境に関わる政策は、総統選挙ではあまり重視されなかった。しかし、政権1期目の目標の多くは十分に達成されておらず、2期目に課題として積み残されている。

本稿で取り上げた環境影響評価制度は、蔡英文政権が取り組む再生可能エネルギーの推進のためにも、その運用の効率化を含む改革が求められている。またPM2.5を含む大気汚染対策も、排出源は多様であり、長期的な取り組みが必要とされる政策課題である。再生可能エネルギーへの転換が十分に進むまでは、今後もしばらくは石炭を含む火力発電への依存が続くかもしれない。蔡英文政権第2期でも、これらの課題は重要であり続けるであろう。

写真の出典
  • Chongkian, Taichung Power Plant, Longjing District, Taichung City, Taiwan(CC-BY-SA-3.0).
参考文献
著者プロフィール

寺尾忠能(てらおただよし) アジア経済研究所新領域研究センター環境資源研究グループ。専門は資源環境経済学、政策史。おもな著作に、『環境政策の形成過程――「開発と環境」の視点から――』(編著)アジア経済研究所(2013年)、『「後発性」のポリティクス――資源・環境政策の形成過程――』(編著)アジア経済研究所(2015年)、『資源環境政策の形成過程――「初期」の制度と組織を中心に――』(編著)アジア経済研究所(2019年)など。

書籍:資源環境政策の形成過程

  1. 行政院環境保護署環保署綜合計畫處(2016)「將調整行政措施及修正法規、提升環評制度功能與審查效率」(2016年6月28日)。
  2. 行政院環境保護署(2017)「行政院環境保護署公告:預告「環境影響評估法」修正草案」(2017年9月20日)。
  3. 行政院環境保護署空保處(2018)「空污法修正案經總統公布 空污防制增利器」(2018年8月3日)。
  4. 中央選舉委員會(2018)「107年公民投票第7至16案投票結果(全國性公民投票專區)」(2018年12月3日)。