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キューバ研究者が見たハイチ(3)・終――美味なハイチの料理

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050806

2019年3月

(4,260字)

ハイチ料理はおいしい!

これまで2回にわたって現地調査報告を綴ってきたが、最後にハイチの食事について触れておきたい。  

ハイチは日本外務省の安全情報で危険度2に入れられており、基本的に外を出歩くのが不自由である。アジア経済研究所では出張手続きの最初に、安全対策として、外務省の勧告に従うことを約束する。24時間武装警護のついたホテルに宿泊し、運転手つきの車輛を借り上げ、さらに銃を持ったボディーガード(ただしとてもカジュアルな服装をしておられるので、銃は素人目にはどこに持っておられるのかわからない)を雇用することを義務付けられる。ここまでする必要があるのか疑問に思う向きもあるかもしれないが、少なくとも政府系機関であるアジ研に奉職している限り、外務省が安全と判断する基準に従うことになる。  

そんなわけで、レストランに夜間出かけるというのは、かなり大ごとになる。自分一人だとホテルの中で食事を済ませがちだ。その場合でも、ホテルにレストランがあればそちらを使えるが、私が3回の滞在で宿泊したホテルは、昨年3回目に行くまで自前のレストランを持っていなかった。そのため外にあるレストランに電話でオーダーし、ホテルまで配達してもらった。

筆者は酒を飲まないのでもっぱら食べ物を楽しむだけだが、まず、「アメリカ大陸最貧国」のレッテルを張られたこの国の料理が実は非常に上質だということを申し上げたい。もちろんドル払いの外国人が行くような場所の食事の材料の多くは輸入品だ。しかもクリントン政権とIMFのせいで、ハイチは1990年代前半に関税を大幅に引き下げさせられ、主食であるコメの自給率が激減、現在10%しかない。クリントンの地元アーカンソーで生産されるコメがハイチへ流れ込んでいるのだ。クリントンは後にこの件について謝罪したが、大統領が謝罪しても関税は下がったままで、ハイチ国民の多数を占める農民の所得も下がったままである。

もっとも高級なレストランはフランス人がやっているフレンチレストランである。だが私が行くようなレストランでは、ハイチ人シェフが、アフリカと新大陸の食材、それにフレンチのフュージョン料理を出す。一見キューバとよく似た料理に見えるのだが、味のレベルは、キューバには申し訳ないがこちらのほうがずっと高い。まず盛り付けが非常にきれいである。ハイチ人は手先が器用なのか?とも思うが、ハイチは美術(とくに油絵)が世界的に高い評価を受けており、芸術の水準の高さから来る美意識の高さなのかもしれない。

日本のラテンアメリカ研究者の間では、中央アメリカではメキシコ料理、南アメリカではペルー料理がおいしい、と一般に言われている。どちらも先住民の帝国があったところであり、複雑な味付けを誇っている。私はここに、「カリブ地域ではハイチ料理がおいしい」というコメントを付け加えたい。筆者は数多いカリブ海の島々の半分も行っていないが、スペイン語圏(キューバとドミニカ共和国)、英語圏(バルバドスとトリニダード・トバゴ)と比べると、ハイチ料理は断然、もっともおいしい。  

ただ、ハイチのこういう外貨で支払うようなレストランは、非常に高い。ホテルも高いが食事も高いのである。そして今年は3年前に最初に行ったときよりさらに食事の値段が上がっていた。下の写真にある3年前の食事はだいたい25米ドル前後だった。しかし今回は、写真には撮っていないのだが、半円形に盛り上げたマッシュポテトの上に、ハイチ人が大好きなヤギ肉の煮込みを載せた料理が30ドル、新設されたホテルのレストランで食べたクレオールのグラタンが、前菜扱いで12ドル、サラダと合わせてこれまた25ドルである。このクレオールのグラタンは、写真のクレオールの朝食にも使われているトウモロコシ粉に香辛料を入れてペーストにし、ベーコンを混ぜて、上からチーズをのせてグラタンにしたもので、おいしくて2日連続で食べたものである。  

30ドルのヤギ肉とマッシュポテトの料理を一緒に食べたT教授は、ハイチ国立大学の給料が安いので食事は1日1回にしている、とおっしゃっていてびっくりした。「いや、大丈夫だよ。食事を1回にすると健康にもいいんじゃないかな」とおっしゃるが、彼はもともとフランスのソルボンヌ大学の先生で、2010年のハイチ大震災のときに、祖国の力になりたいとフランスの職を捨ててハイチに戻った人である。そんな優秀な研究者が1日1食の生活にどれだけ耐えられるのだろう。家族も1日1食だそうである。

キューバもソ連崩壊後の経済危機で公務員の生活が大きく悪化し、食事は1日1回と聞いている。ハイチはジニ係数が0.60、格差大陸のラテンアメリカの中でももっとも格差がひどい部類に入る国だが、大学を卒業したエリートでも、公務員になると生活水準はぐんと悪化する。2015年に会った高血圧の専門医であるベテラン医師は、国立病院に務めていると1カ月の給料が500ドルで、通勤のためのガソリン代で消えてしまう額だとおっしゃっていた。  

ハイチの本当の富裕層は、独占ビジネスで稼ぐ。公務員でもたぶん、国連の仕事を請け負うなど副業ができればいい生活ができるのだろう。そうでなければ先進国に移住するしかない。ハイチの高学歴層の大多数は国外に移住してしまう。頭脳流出のひどさは、計算方法にもよるが、世界で最悪ともいわれている。

ハイチ国立大学のT先生は、前述した高血圧の専門医の先生と同様、そんな中で先進国からハイチへ帰った数少ない貴重な人材なのだ。所属先の外で仕事(副業)はしていない、ときっぱりおっしゃった。彼は自家用車を持っていないようで、バイクタクシーで移動していた。1日1食でがんばる、という点で、彼はキューバの知識層や中間管理職レベルの公務員の人たちとよく似ている。政治は汚職で大変だが、少なくともハイチに残る知識層・専門職層の人々は、ハイチを立て直す可能性を秘めている。こうしたことは、筆者がハイチのことをよく知らないから言えるのかもしれない。あるいはギニア共和国のD先生がおっしゃるように、100年たってもハイチは変わらないのかもしれない。がやはり、私としては「ハイチがんばれ!」と言いたい。

ハイチの食事4選
最後に、筆者がハイチで食べた料理を写真で紹介しよう。

写真1

写真1

ハイチの伝統的なクレオール朝食(写真1。2015年8月筆者撮影、以下も同じ)。トウモロコシの粉のおかゆに、干し鱈と野菜を使ったスパイシーなソースをかける。それにトマトやアボガドのサラダがつく。おかゆの入ったボウル(中央奥)と、干し鱈のソース(右奥)の入った皿から、自分で大皿に盛りつけて食べるそうである。  

これはホテルの朝食で出たものである。準備に時間がかかるようで、前日に予約しないと食べられない。また2016年12月に再訪したときも、2018年11月に3度目の訪問を果たしたときも、同じメニューを注文しても干し鱈は使われていなかった。干し鱈は輸入品であり、鱈がとれるのは世界でも寒い地方である。そのためキューバでは革命後姿を消し、マイアミに行かないと干し鱈のキューバ料理は食べられない。同じ干し鱈がハイチで食べられるのは、干し鱈がもともと奴隷のための安価な蛋白源として輸入されていた歴史的経緯から来ている。ハイチでは各商品を決まった貿易業者が独占して輸入していることも多いので、たまたま干し鱈の輸入が何年か途切れたのかもしれない。

写真2

写真2

2015年8月、忘れもしない、ハイチに初めて到着した夜に食べた料理である(写真2)。当時ホテルの中にレストランがなく、外に出なくてもいいように、ホテルの中にいくつかのレストランのメニューが置いてあって、ケータリングしてくれていた。

黒インゲン豆のポタージュ(右手前)、白飯にメインの揚げた魚(右奥)にサラダ(左手前)である。魚と白飯の間にあるのはゆでたサツマイモ。サツマイモはカットの仕方が秀逸である。黒インゲンのポタージュは、複雑な香辛料のコンビネーションで、キューバのものと同じ味を想像して口にしたら、あまりのおいしさに涙が出そうになった。このポタージュは、キューバで食べてもそれなりにおいしいが、これほど感動する料理とは知らなかった。  

魚をまるごと揚げたメインも、今思い出してもまた食べたくなるほどのおいしさだった。ハイチ近海でとれたであろう新鮮な魚を、香辛料をきかせて香ばしく揚げてあった。しかし残念なのは、ハイチでは(キューバでもそうだが)、いい店だからといって長続きするとは限らない。翌年12月に再訪した際、同じホテルに宿泊したが、このレストランはケータリングになかった。

写真3

写真3
豚肉のステーキにプランテンバナナのフライ、サラダ、黒インゲン豆の入った米飯(左手前)(写真3)。一見キューバにもある料理なのだが、味の複雑さが段違いである。

写真4

鶏肉のグリルと温野菜、白飯の夕飯。揚げた魚の料理を配達してくれた店の別の日の料理(写真4)。

これも、一見するとキューバにもある料理である。見かけが同じなのに(ただし盛り付けはハイチに軍配)、味は全然違ってハイチのほうがずっとおいしい。鶏肉のグリルには、複雑な、ちょっとフランス風でもあり、しかしスパイシーなソースを塗ってあった。もともとハイチと同じフランスの植民地だった米国ルイジアナ州のケイジャン料理に近いかもしれない。ただ私はルイジアナに行ったことがないので、本場のケイジャン料理とハイチ料理を比べることができない。同じソースが左手前に添えられており、これをつけて鶏肉を食べる。温野菜は、米国から輸入された冷凍野菜に違いない。これを米国のカフェテリアより段違いにおいしく仕上げているのがシェフの腕。結構量が多いのだが、あまりにおいしいので完食。

著者プロフィール

山岡加奈子(やまおかかなこ)。アジア経済研究所地域研究センターラテンアメリカ研究グループ長代理。修士(国際関係論)。専門は国際関係、比較政治、キューバ地域研究、カリブ研究。おもな著作に、『ハイチとドミニカ共和国――ひとつの島に共存するカリブ二国の発展と今』(共編著)アジア経済研究所(2018年)、『岐路に立つキューバ』(共編著)岩波書店(2012年)など。

書籍:アジ研選書

書籍:アジア経済研究所叢書

写真の出典
  • 写真1~4 筆者撮影