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山岡 加奈子 研究員インタビュー

「キューバを取り巻く情勢変化を現地経験を基に分析する」


所属:地域研究センター ラテンアメリカ研究グループ
専門分野:ラテンアメリカ研究(キューバ)、国際関係、政治学
[略歴] [主な著作] [その他]
  • キューバ研究を始められたきっかけは?
    アジ研に採用された時、第一希望は中国だったのですが、ラテンアメリカの配属になりました。アメリカ留学時代は、ラテンアメリカからの留学生が大勢いて友人も多くいましたので親近感を持っていましたが、なかなか担当国を決められませんでした。そんな時上司に、大学院で勉強した国際関係だったらラテンアメリカの中で一番面白いのはキューバだと勧められ、あっさりキューバにしました。実は、社会主義国については中学2年生のときから関心があったんです。夏休みに「新聞の社説を読む」宿題があり、そのとき偶々チェコスロバキアの「プラハの春」事件から10周年という社説があり、「ソ連ってこんなひどいことをする国だったんだ」と思ったのがきっかけです。高校2年生のときに一念発起して、岩波新書の社会主義に関する本を全部読むという目標を立てて、一年間でなんとか読破しました。今考えると稚拙だったのですが、自分の中では社会主義について一応納得し「これはダメだ」と決別したつもりでした。キューバ研究をやることになったのは偶然でしたが、また戻ってきたんだという感慨がありました。

  • 1994年にキューバに赴任された時、どんな経験をされたのですか?
    首都のハバナにある「キューバ共産党中央委員会附属アジア・オセアニア研究所」に2年間籍を置きました。ソ連崩壊から3年目ぐらいでしたので、キューバは経済的に一番どん底の時期でした。社会主義国って本当に物が無いと実感しましたね。人々が闇市場で何とか生き延びている状態でした。戦後の日本の闇市のような市場を想像していたのですが、そうではなくて、売ってくれる人を知っていないと何も手に入らないということがわかりました。だから、最初は闇市場がほとんど利用できないし、ドルショップでも手に入らないものがたくさんありました。生鮮食料品が少なく、特に野菜が手に入りませんでした。4カ月間一片の野菜も口にできない日々が続いて本当につらかったですね。受入機関の職員はみなさん共産党員で、外国人に闇市の商人を紹介できない立場でしたので、聞くこともできず困りました。最初はいろんな場面で建前と本音のさじ加減がなかなか分からず、試行錯誤でした。それと、最初の半年間で一番つらかったのは、なかなか友達ができないことでした。まじめなキューバ人は、外貨を持つ外国人に、外貨目当てで近づいていると思われるのが嫌で、敢えて外国人から距離をとります。その辺のバリアが取れ始めるのに半年かかりました。最悪の時期を脱するのに半年、生活が軌道に乗るまで1年かかりましたね。

  • 社会主義国を研究する場合のアプローチ方法は? 資料・データ収集に苦労されるのでは?
    社会主義国に共通だと思うのですが、いわゆる内部資料はもちろんのこと、普通の研究者のフィールド調査のデータすらなかなか手に入りません。キューバの研究者でも調査許可が下りなかったり、出版できずにいたりすることが結構多いようです。入手できた少ない資料でできる範囲でなんとか議論を組み立てるようにしています。政府が発表したデータは往々にして不十分だったり、建前を説明するものに過ぎなかったりしますので、データで裏付けていく実証研究は非常に困 難です。特に帰国後の数年間は、キューバで出されている資料をどう扱ったらよいか悩みました。帰国後に書いた『アジア経済』(「米国の対キューバ経済制裁 - ヘルムズ・バートン法成立以降の米国政府内の議論を中心にpdf )も、結局全部アメリカの資料で書きました。アメリカのキューバ研究者はキューバ系の人が多く、たとえ現地に行かなくてもいろんなチャネルを使って資料や情報を収集することができますし、現地経験では、2年いただけの私なんか足元にも及びません。海外派遣でキューバにどっぷり浸かって帰った後、改めて彼らの書いたものを読むと、そのすごさが分かりました。

    昨年まで政治・国際関係研究からちょっと離れて、社会政策関連の研究をしていました。この分野はキューバ革命の光の部分であり、比較的資料も集まりやすかったからです。たとえば、去年の宇佐見主査「新興諸国における高齢者の生活保障システム」研究会では、社会構築主義的な言説分析を行いました。社会主義国を研究する場合、「行間を読む」作業、ちょっとした表現の差から汲み取るといったことが重要になるとされています。私も新聞記事や指導者の演説、専門家の論文などを読み込むようにしています。限られた情報の中から自分なりに議論を組み立て、解釈を引き出すためには、やはりキューバでの現地経験が役に立っていると思っています。

  • 今後の研究のご予定は?
    昨年から「キューバ総合研究——ラウル新政権下の政治・経済・社会」 研究会を実施しています。私の各論の担当はキューバ・米国関係で、キューバ政府の発表する言説がどのような意味を持つかを中心に分析しています。これまで キューバ研究の傾向は、現地に入れないこともあってか現実を分析するよりも、マルクス主義のような理論研究の一類型としてキューバを取り上げるか、社会主義国を理想化する傾向がみられたと思います。ところが実際行ってみると、実態はそれらの文献とかなり違っていました。それで現地経験のある新しい世代の研究者たちを集めてキューバを総合的に分析しようと思ったわけです。まずこの研究成果をきちんとまとめる必要があります。

    その次の研究として来年度から「コスタリカの総合研究」を考えています。私自身が社会主義国のキューバを基点にして途上国を見てきましたので、「強い国家」が当然だとつい思い込みがちなのですが、ラテンアメリカ諸国では伝統的に国家が弱いのが特徴です。なぜキューバが強い国家たり得たのかを知るため に、今度はラテンアメリカの枠組みの中でコスタリカと比較してみようと思っています。コスタリカはキューバと体制が違いますが、社会的にも経済的にも政府の執行能力が高く、パフォーマンスが良い国です。両国が強い国家を樹立しえた要因を探りたいと思っています。また海外調査員時代からの研究課題として、ベトナムとの比較研究があります。キューバから見るとベトナムは同じ社会主義国でも国家がかなり弱くみえます。それは国家の成り立ちや社会構造が全然違うということもありますが、単なる文化や歴史の違いで片付けるのではなく、社会主義国としての制度からきちんと比較してみたいと思っています。これらの研究を通じて、理論的な枠組みを用いて、キューバでの経験をもっと普遍的な立場から説明できるようになることが、今後の課題です。

(取材:2010年11月19日)