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山形 辰史 研究員インタビュー

「途上国に還元できる研究を目指して」 


所属:新領域研究センター 貧困削減・社会開発研究グループ長, 開発スクール教授
専門分野:開発経済学、バングラデシュ経済、繊維産業、保健と開発、障害と開発
[略歴] [主な著作] [その他]
  • 開発経済学に関心をもったきっかけ、アジ研の研究者になったきっかけは?
    大学1年の時に三留理男の「アコロ『喰うものをくれ!』」というエチオピアの飢餓の写真集を見て大きな衝撃を受け、開発経済学に関心を持ちました。それで人口問題とか食糧問題とかに興味を持って学部時代を過ごし修士課程に進んだ後、親に心配をかけないように早く自分の将来を決めた方がよいと思い、就職活動をしていたところ、幸い第一志望のアジ研に受かり入所したわけです。アジ研のことは学部の頃から知っていて、途上国に関する文献を探そうとすると、大学や古本屋でもアジ研出版物が本棚にずらりと並んでいて、すごいところなんだと思っていました。学生時代、アジ研の図書館にもよく通い親切にしてもらいました。

  • これまでの研究について
    大学の時には、飢餓や貧困の解決策として人口抑制や労働力移動、労働需給に関心を持ったのですが、結局、産業が労働需要を決めていることに気づき、多くの国で工業化の出発点となっている繊維産業の研究に興味が移ったわけです。でも、アジ研に入所した1988年頃は、外国人労働者がどんどん日本に入ってきた時期でしたので、外国人労働者の出稼ぎ問題について研究することになったのですが、同時に台湾、タイ、フィリピンの繊維産業の調査にも取り組んでいました。

    1990年代初めに、村山真弓さんがバングラデシュの縫製産業について「バングラデシュからの輸出の半分以上を占めている」と所内研究会で報告され、すごく刺激を受けました。学生の頃、渡辺利夫先生の著書『成長のアジア  停滞のアジア』の中で東アジアは成長のアジアで、南アジアは停滞のアジアとして描かれていたのですが、その頃と変わっていて、バングラデシュはこれから絶対東アジアのパターンを辿って成長すると感じたのです。現在の東アジアに至る前段階の経済が観察されるかも知れないということと、貧困について近くで見たい、南アジアを知りたいという思いがあり、2000年に約1年間ダッカで研究したわけです。帰国後は、産業発展の鍵の一つとして技術進歩、中でも薬の特許、それも貧困層がかかるような病気の治療薬の特許についても研究しました。

    同時に、1980年代からマスコミの政府開発援助バッシングがあって、援助しない方がいいかのごとく言われていましたが、そんなはずはないと思っていて、途上国の開発についてきちんと理解してもらう必要性を痛感しました。それで、一般向けの入門書として『やさしい開発経済学』を 出版したのですが、刊行後何人かの読者からの反応があり嬉しかったですね。開発をやっちゃだめと言われて、じゃあ何をやればいいんだとジレンマを感じてい た人たちがこれを読んでホッとしたり、勇気づけられたりしたようです。多少なりともお役に立てたのではないかと思っています。

  • 独自の研究スタイル、アジ研ならではの研究について
    アジ研の「現地主義」研究というのは、現地の言葉を覚え、現地の資料を使って、現地を実地調査することが基本ですが、最近では、現地の研究者と共働研究し、現地の関心を把握し、現地で発言や発表する方向に発展しておきており、現地の研究に対する貢献度が高くなっているように思います。私の場合、現地の研究機関にミクロデータの収集を委託するのですが、まず最初の2~3週間は一緒にフィールドを回り、調査の難しさや痛みを共有し、問題の解決策を一緒に検討 して信頼関係を築くようにします。その結果として、現地の研究者と共著の論文を書くといった対等な関係になり、現地の問題関心を反映することができたと思っています。このやり方で繊維産業や障害者の調査もやりました。

    アジ研で研究をする優位性は、地域研究、経済、社会、政治等いろんな分野の研究者がいて、各自その国の全体像を把握していて、それぞれの国についての常識がある点だと思います。例えば、何か分析した結果を発表した時、地域研究者に「なるほど」と言ってもらえると安心します。逆に、それはおかしい、無理でしょう、と言われると、自分の分析結果は違うのかもしれないと反省するのです。地域研究者からはまず直感で反応があり、その理由も説得力があります。毎日、別の分野の研究者と顔を合わせてコミュニケーションが取れるので自分の研究と相対化ができます。

  • 今関心を持っていること、これから挑戦したい研究について
    バングラデシュで道の辻々で障害者が物乞いしているのを見たとき、自分の想定している貧困削減のプロセスは、こうした働けない人を取り込んでいないことに気づかされました。それで、自分が今まで見ていなかった部分の貧困について知りたいと思い、森壮也さんと「障害者の貧困削減」に関する研究会を立て、昨年はフィリピンの障害者の生計(経済生活)調査をしたわけです。今年度は「南アジアの障害者当事者と障害者政策」研究会の中で、バングラデシュの障害者について研究する予定です。

    近い将来、仏語圏アフリカを研究したいと思ってフランス語を勉強しています。以前から東アジアを知っている人間としてアフリカを研究したかったのですが、一足飛びに東アジアからアフリカでは説得力がないので、南アジアをみておくべきだという意識もあってバングラデシュに行きました。この道に入った最初のきっかけは(行ったことはありませんが)エチオピアですし、原点に戻った感じです。テーマとしては、これまでやってきた縫製産業や障害者、保健問題といっ た問題からのアプローチがあり得ると思っています。

(取材:2009年7月24日)