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鈴木 有理佳 研究員インタビュー

「フィリピン独自の経済パラダイムを探りたい」


所属:地域研究センター 東南アジアⅠ研究グループ
専門分野:フィリピン経済
[略歴] [主な著作]
  • アジ研に入所されてからフィリピンの研究を始められたのですか?
    アジ研に入った後、業務命令でフィリピン担当になりました。大学院では経済成長メカニズムに興味をもち、理論中心のゼミにいましたので、実は開発経済学についてはあまり勉強していませんでした。修士2年目の時にたまたま就職課にあった求人広告でアジ研を始めて知ったんです。特に驚いたのは、福利厚生の欄の一番上に「産前産後休暇、育児休業制度」と書いてあったこと。すごく良さそうなところだと思い、何をしているのかよく知らずに受験してしまいました(笑い)。慌てて『アジ研ワールド・トレンド』を見ると、ちょうど川中豪さんのフィリピンに関するエッセイ(『カルチャーショック』)pdfがあり、興味深く読んだのを覚えています。私は中学生時代、80年代前半のマルコス政権の終わりの時期に3年間フィリピンでインターナショナルスクールに通っていました。結果的にはそれがご縁でアジ研に入れたのかなと思います。フィリピンにはずっと親近感がありましたので、担当になるからには何でも知ろうと決めました。

  • これまでの研究は?
    1997年から『アジア動向年報』のフィリピン担当になり今も続けています。この仕事から始められたのが非常に良い経験になりました。学生時代はずっと経済理論ばかりで基本的に数式を追っていたのですが、現実とかけ離れているような違和感があり、このまま大学にいることに疑問があって就職しました。『アジア動向年報』を書く場合、政治、経済、外交、なんでも知っている必要があり、結果的には視野が広がってきて、フィリピンに対する理解を少しずつ深めることができたと思っています。

    戦後のフィリピンは、教科書的には成長するための初期条件がそろった国でした。教育レベルも高く、一人当たりの国民所得も日本の次に高かったので成長が期 待されていたのですが、今ではタイやマレーシア、インドネシアにも抜かれています。教科書では「経済が成長する要因は資本と労働と技術である」と学ぶので すが、フィリピンを知れば知るほどこのメカニズムがうまく働いていない。実際にはフィリピンが抱えている特有の問題があり、資本が増えなかったり、技術進 歩が遅かったりと、教科書ではあたかも簡単に書かれていることが、簡単ではないんです。もし資本が増えないなら、資本が増えるような政策をとれば良い。ですが、フィリピンでは政策が決まるまでにとても時間が掛かり、結果的にできた政策が議会に出された最初の法案と全く違う形になっていたりすることがわかり ます。実はそれができる過程で様々なアクターがそれぞれの利害関係の中で議論され調整されてできます。そして、さらに政策を実行する段階で様々な邪魔が入り、政府側が予期していたとおりの結果になるとは限りません。むしろならない方が多い。経済学の教科書では政策は所与として扱われる場合が多いのですが、 現実には政策形成過程にも様々な問題がある。そういうことを知ったのも、アジ研でフィリピン担当になったおかげです。

    これまで地域研究者としてフィリピンのことなら何でも知ろうという心構えで、財政、税制、民営化や貿易、産業政策の研究会に参加したり、つい直近では技術者について調査したりと、テーマに拘らす研究してきました。一つのテーマから新たな疑問が次々出てきます。一見違うテーマでも調べていくと、根源的な部分 に共通性があったりします。また、フィリピンは近隣の東アジア、東南アジア諸国と別のパラダイムで動いている国なのではないかと最近強く感じるようになってきました。海外就労者も多い。製造業中心の経済発展モデルをフィリピンに求めようとしても恐らく無理だろうと思います。思い切って既成概念を取り払ってフィリピンを見ていく必要があるのではないかと考えています。

  • フィリピンに関する先行研究やデータなど、研究環境はどうですか?
    タイやインドネシアに比べると、フィリピンに関する先行研究は少ないほうかもしれませんね。経済分野の論文でも、我々の知りたいことに関し、まさにどんぴ しゃ!というのにはあまりお目にかかったことがありません。日本人のフィリピン研究者は各分野に少なからずいます。でも、フィリピン全般を広く把握している人は少ないようです。以前マスコミの方から問い合わせがあったとき、「アジ研に問い合わせると専門家がいるんだよね。まさに有事のアジ研だ」と言われま した(笑い)。

    資料を集めようとする場合、アジ研図書館が非常に便利です。経済関係ではセンサス類から金融、農業のあらゆる統計がアジ研図書館の統計コーナーにありますし、法令や官報も揃っています。こんなにいろんな分野の資料が時系列に、それも一カ所で調べられる図書館はフィリピン国内にもありません。研究テーマを決 めさあ始めようと思ったとき、アジ研図書館はベストですね。実際に現地に行くしかないだろうと思っていた資料が、すでにアジ研図書館にあって驚いたことがあります。過去の新聞も見られますし、研究環境としてありがたいですね。

  • 1月に海外調査員としてフィリピンに赴任されますが、どんな研究をされるのですか?
    調査研究課題は「フィリピン企業の投資行動について」です。今までの研究ではどちらかというと政府側に注目してきたのですが、次は民間セクターに視点を移 さなければならないと思っていました。今回2年間現地に滞在する機会を利用して、企業について調べる予定です。マクロレベルでは、確かに他の国と比べてフィリピンの投資動向は良くないのですが、ミクロレベルで見ると、繁栄している企業もありますので、そこをきちんと押さえるために業界関係者や企業家にヒアリングし、投資行動を検証したいと思っています。

    自分でもフィリピンの経済パフォーマンスが悪いと言っていますが、中学生の時の記憶からすると、フィリピンなりにずいぶん発展しています。フィリピン独自の成長モデルがあると実感していますので、それについて研究したいと思っています。

(取材:2010年11月11日)