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植村 仁一 研究員インタビュー

「アジア各国のアジ研版『マクロ計量モデル』とは?」


所属:開発研究センター マクロ経済分析グループ長
専門分野:マクロ経済学、計量経済学
[略歴] [主な著作]
  • アジ研に入られたきっかけは?
    早稲田大学経済研究科の修士の時、先輩の横田一彦さん(翌年アジ研入所、現・早稲田大学商学部准教授)と親しくなりアジ研を知りました。彼の紹介で、アジ 研の国際シンポジウムの手伝いのアルバイトをしたのが、大型のデータベースからデータを抽出、加工する作業でした。当時の学生にとっては、大型コンピュータを使って大量データを高速に扱えるというのはすごいことでした。私の就職時期はバブル崩壊の直前で、まだ銀行や証券会社が人気でしたが、私にとっては、 「大型コンピュータが使える」、「インフラが揃っている」ということでアジ研は魅力的な職場に映ったわけです(実際、入所直後の新人研修の空き時間などはコンピュータばかりいじって「遊んで」いました)。

    1990年4月にアジ研に入所し、統計調査研究部・経済予測統計課でマレーシアかタイのマクロ予測を担当するよう言われて、マレーシアを選びました。実は、中学校の英語の教科書にマレーシアについて書かれていたのをふと思い出し、なんとなく決めただけなんです。私の場合、専門は計量経済学ですから、まず「道具」を先に身につけて、アジ研に来てから「途上国」に興味を持ったということになります。それ以来、ほぼ毎年1~3週間程マレーシアに出張に出ていま す。

  • 「マクロ計量モデル」とは?
    『マクロ計量モデル』を簡単に言うと、消費、投資、貿易などのお互いの関係を「連立方程式」で表すということです。「鶴亀算」は「頭の全体の数と足の全体の数が分かって、鶴と亀がそれぞれ何匹ずついるか」を求める問題ですが、例えば、「頭が3つで足が8つ」ならば「頭の数をx、足の数をy」してxとyを解けば鶴の数と亀の数はかっちり決まりますよね。同じように消費、投資などの関係式を求めておき、全体を一つの連立方程式として見ることによって、どの式にもあてはまる消費や投資という整合性が保たれた答えを得られるというのが『マクロ計量モデル』の利点・特徴なのです。さらに、「その国の特色を取り込んでいる」モデルを作る必要があります。例えば、韓国のモデルとマレーシアのモデルでは同じ消費関数でも式の形(定式化、といいます)は全然違います。マクロ計量モデルは大別すると、主に農工業、サービス業等の生産額の総体として決める『供給(決定)型モデル』と、消費・投資・輸出入といった需要項目から決める『需要(決定)型モデル』がありますが、その国の発展度合いや特色などで違ってきます。アジアNIES諸国では70年代以降、ASEANでは80年代以降に、適用されるモデルが供給型から需要型に移っています。いったんモデルが組み上がれば、様々な条件を外から変えることにより、その変化に対応す る消費や投資といった新しい「答え」が得られます。それを元の(条件を変えない場合の)消費や投資と比較する、というのが、マクロ計量モデルを用いたシミュレーション分析です。

    その昔「信長の野望」という戦国「経営」シミュレーションゲームが流行りました。そこでは、例えば「年貢率」を上げると税収が上がり、戦に備える軍資金が 潤沢になる一方で領民は貧困に陥り、農民一揆が起こったりして国内経済が破綻に向かう、などということがありました。これは「条件を変えた場合の新しい答え」です。「信長の野望」の他にも、町を運営するとか鉄道会社を運営するという「経営」シミュレーションゲームがありましたが、それらには多分にマクロ計量モデルの要素があるのではないかと密かに睨んでいます。

  • アジ研の『マクロ計量モデル』とは?
    公的機関や研究者が自国に関して『マクロ計量モデル』を使って経済予測をすることはよくありますが、アジ研のようにアジアの複数国を横並びにして20年以上も継続して各国の『マクロ計量モデル』を構築・更新し、予測分析している例はないと思います。アジ研では1981年から『マクロ計量モデル』を使った予 測事業を開始し、経済構造予測事業(1981~1990)、そしてその後継として「アジア工業圏経済展望」(1991~2006)および「東アジア地域のマクロ計量モデル開発」(2007)と四半世紀以上にわたってプロジェクト研究として各国の「マクロ計量モデル」が引き継がれてきたわけで、この蓄積はアジ研にとって大きな財産だと思います。

  • 今年刊行した「カンボジアのマクロ計量モデルと経済・社会統計」について
    基本的にカンボジアは、統一的な条件下で得られるものとしては1992年以降のデータしか存在しないので標本サイズが小さい。『マクロ計量モデル』を作る には、標本数(年数)が大きいほど安定した結果が得られます。また、推計式の説明要因を多くしようとするほどデータも長く必要になり、年次モデルでは30 年~50年分のサンプルがほしいところです。その意味で、今回のカンボジアモデルは サンプル数が限られるためあくまでも試行的に構築したものという位置づけです。また、本書の前半では、カンボジア政府機関が公開している経済・社会統計に ついてどんな出版物・ウェブサイトがあるかを紹介しています。カンボジアの経済・社会状況がどんな発展段階にあるか常にイメージしてマクロ計量モデルを構築する必要があるので、私が直接・間接的に利用した統計資料ですが、一般の方にも有用だと思います。

  • いま手がけている研究は?
    今年度は「政策評価のためのマクロ計量モデル研究」(野上裕生主査)研究会で、これまでアジ研が構築してきた『マクロ計量モデル』について総括し、今後の展望についてまとめる予定です。これまではモデルを使って予測した数値だけが公表され、モデルそのものについては研究者から研究者へ直伝するという、いわば職人技的な継承でした。でも、そろそろこれまでの手法を整理し、「アジ研モデル」として公開してもよいのではと思っています。「アジ研モデルによる」などという分析結果がメディアで取り上げられるようになると面白いですね。

    また、3年ほど前から取り組んでいる貿易リンクシステムを精緻化し、『東アジア地域モデル』を作りたいと思っています。これは部品となる各国モデルを貿易構造によって接続し、地域全体を統合的に分析できるモデル、という最終型を想定しています。

(取材:2009年4月20日)