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坂田 正三 研究員インタビュー

「農村調査を基に農村部の工業化からベトナムの経済発展を検証する」


所属:地域研究センター 主任調査研究員
専門分野:ベトナム地域研究

[略歴] [主な著作] [その他]
  • アジ研に入所したきっかけ、ベトナム研究を始めた動機は?
    私が大学を卒業した1988年は丁度バブルの真只中でした。すぐに就職するよりもいろんな経験を積みたいと思い、青年海外協力隊に参加しパプアニューギニアに行ったのが、途上国との関わりの始まりです。その後もタイ、カンボジアでユネスコの「学校外教育」分野で識字教育などの支援に携わりました。特にカン ボジアでは、帰還兵・帰国難民を対象にしたプロジェクトに参加していました。30歳まで途上国の援助の現場にいて充実していたのですが、開発援助の勉強を する必要性を感じ、アジ研の開発スクール(IDEAS)に入学しました。最初は「また現場に戻るための勉強」のつもりだったのですが、研究の面白さを感じるようになったんです。IDEAS修了後、ロンドン大学 London School of Economicsで一年間勉強し、その後JICAとJBICで調査関係の仕事をした後、1998年にアジ研に入所しました。私の場合、援助の現場を経験 した後、30歳過ぎに研究者を志したわけです。ベトナム研究については、入所前にJICAでベトナムの市場経済化支援のプロジェクトに関わっていました が、アジ研に入所してから本格的にはじめました。

  • これまでの研究について
    最初しばらくは、現場の経験を踏まえて開発援助研究に軸足を置き、『援助と社会関係資本 -ソーシャルキャピタルの可能性—』、『参加型開発の再検討』に 援助理論に関する考察をまとめました。その後、海外派遣員・調査員として貧困削減を研究テーマにしてベトナムに滞在し、実際に山岳地域の農村に入って調査をしました。この研究成果は、ASEDPシリーズで"Impact of Socio-economic Changes on the Livelihoods of People Living in Poverty in Vietnam, IDE ASEDP Series No. 71, 2005 ""Actors for Poverty Reduction in Vietnam, IDE ASEDP Series No. 73, 2006."にまとめています。

    これで援助研究・貧困削減の研究について一区切りついたこともあり、最近はベトナム経済研究、特に農村工業化の研究に軸足を置いています。最初は農村で農業中心の調査をしていたのですが、農業以外の経済活動の重要性に気づきました。この分野はこれまでほとんど研究されていなかったんですが、私の場合、3年 間現地に滞在して言語や人間関係などいろんな蓄積ができていたおかげもあって現地調査を積み重ねることによって多くの情報を得ることができました。また、2002年くらいからベトナム統計総局が農村の事業主の統計データを公開するようになり、全国規模でデータが取れるようになったことで研究がやりやすくなった面もあります。

  • 農村研究の難しいところは?

    農村工業の一例(竹細工村)
    ベトナムで農村調査をする場合、場所によっては調査許可が必要だったり、時には公安に届ける必要があったりします。そもそも外国人が一人で村に入ることは かなり嫌がられるので、基本的には一人では調査しません。私の場合、ベトナム社会科学院の研究者らと一緒に調査することが多いのですが、我々が考える学術研究の方法論とは調査の仕方が異なる場合も多いです。たとえば、かなりベテランの研究者でも数軒の農家を調査して同じ答えだと「この村はこういう村だ」と決めつけてしまう。私が数十人に聞いていると「また聞くの?」という顔をします。また、彼らが直接調査するのではなく、村役場の人に依頼するのがほとんどという点でも、調査方法のギャップを感じることがあります。調査委託をする際も、アンケートの質問内容などすべて自分で準備して、事前調査にも同行するようにしています。海外派遣員・調査員としてベトナム滞在中、ずいぶんベトナム語のスラングやことわざを教わったのですが、それを調査で使うと非常に受けるんです。日本ではセクハラになりそうな危ないギャグでも会話の潤滑油になり、調査がやりやすくなります。私の場合、ベトナム現地調査の3点セットは「お土産、コネ、セクハラギャグ」といったところでしょうか。

  • 最近刊行された『変容するベトナムの経済主体』について
    この本は、企業や自営業者、農家といったベトナムの経済活動を行う主体に焦点を当て、その実情や行動原理について論じたものです。日本の場合、90年代の 終わりごろからベトナム研究が蓄積されてきましたが、「ドイモイの成果」と一括りにして経済発展が論じられがちで、外資との接点を持つような鉄鋼産業とか繊維産業といった産業研究が中心でした。しかし、現地からみていると、たとえば同じ産業の中でも欧米的なコーポレートガバナンスを導入している企業、あるいは昔ながらの国営企業的な経営のままの企業、また、儲かることなら何でもやるといった経営多角化に走る企業など、企業間の多様性や階層性が拡大していることがわかります。こういった動きは、産業研究の枠組みではとらえきれない。また、「合作社」や「生産組」といった協同組合、あるいは零細な自営業者などの存在も、その歴史的な発展の経緯も含め、今日のベトナム経済の独自性を形作っています。これらの多様な経済主体は外部環境の激しい変化をいろんな戦略で生き残ろうとしています。そんな彼らの戦略を見ていくことで、経済発展の現状を再評価する必要性を感じたわけです。

  • 今関心を持っているテーマ、今後取り組みたいテーマは?
    今後はベトナム全体の農業・農村の工業化、近代化について研究したいと思っています。経済学の古典理論として「経済が発展するとある程度の賃金になるまで人口が農村部から都市部へ移動する」というルイスモデルがありますが、ベトナムでは農村人口が全然減っていません。2000~2006年までGDPが年平 均7.5%も伸びているのですが、農村人口は微増の状態が続いています。総人口の60%以上を養い続けるポテンシャルが農村にはあるんです。農村から農村への人口移動も多いです。工業化が興っている農村も多いのですが、とくに北部と中部では、小規模な経済主体による工業生産が無視できない規模で発達しています。一方、南部に行くと農業生産が近代化していて品質も良くなり、輸出もどんどんできるようになってきています。特に一番南のメコンデルタ地域の農業が近代化しています。これまでは北部の農村部を中心にみてきましたが、南部についても調査を行い、もう少し詳細な比較研究をしたいと思っています。

(取材:2009年11月11日)