研究者のご紹介

武内 進一 研究者インタビュー

「異なる地域や分野の研究者と”異種格闘技的な共同研究”を実施」

武内 進一 研究員
所属: 独立行政法人 国際協力機構に出向
JICA研究所 上席研究員
専門分野: アフリカ研究(中部アフリカフランス語圏諸国)、国際関係論

これまでのアフリカ研究

高校生の頃、ベトナム難民の問題から発展途上国に関心を持ったのですが、それなら旧宗主国の言葉をやるべきだというアドバイスもあって、大学ではフランス語学科に進みました。途上国でフランス語となるとアフリカに目が向いて、学生時代には2年間チュニジアの日本大使館で働いたこともあります。アジ研に就職した時は、担当者がいた西アフリカ以外のフランス語圏ということで中部アフリカの担当となり、ザイール(現在のコンゴ民主共和国)の農業・農村問題から研究を始めました。人々が何を食べ、それがどう作られ運ばれるかといった食料作物の生産流通に関わる問題が、その地域を理解するために重要だと思ったのです。

アジ研の海外派遣では、ザイールの政情悪化のため、隣国のコンゴ共和国に行くこととなり、首都のブラザヴィルの市場で主食のキャッサバなどの実態調査をしたのですが、今度はコンゴ共和国が内戦状態となり1年3カ月で出国せざるを得なくなりました。その後隣国のガボンに赴任し市場や農村の実態調査を始めた頃、ちょうどルワンダで大統領暗殺や大量虐殺が起きました。当時はそれほど意識しなかったのですが、ブラザヴィルでの自分の経験とあわせて、心の深いところで衝撃を受けたのだと思います。帰国後、日本では自衛隊のルワンダ難民支援派遣の是非が議論となっていたのですが、当時のアフリカに関する報道ではアフリカの紛争がしばしば単なる部族対立で片付けられてしまうことに違和感を覚えました。結局、自分でやるしかないと考えて紛争に関する研究を始めたのですが、周りに同じような問題意識を持つ研究者がいたことや、アジ研が研究テーマを自由に選ばせてくれたことも、紛争研究に方向転換する上では重要な要因だったと思います。

調査研究スタイルとアジ研ならではの研究会体制

コンゴの公用語はフランス語で農村にもわかる人がいますが、中部アフリカの共通語であるリンガラ語が広く流通していて、両方の言語を使って農村調査をしていました。自分の紛争研究においても、コンゴで農村調査をしたことが活きていると思います。1997年から2年にわたって実施した最初の紛争に関する研究会では、地域研究者と人類学者にメンバーになってもらいました。アフリカを専門とする人類学者のなかには、自分のフィールドが紛争に巻き込まれた経験を持つ人もいて、現地の実態をよく知っています。私もブラザヴィルでは似たような経験をしたのですが、そこから出てくる問題意識も共通していると感じました。

近年集中的に研究しているルワンダに関して、私は農村調査をしながら紛争を考えるというスタンスをとってきました。土地問題や難民の動きを現場で調査しながら、普通の人々が紛争の間どう生きたか、当時のことを今どう考えているのかといった点を明らかにしようと考えたのです。このような調査スタイルを取るのは、人々の考えや暮らし方、生き方に関心があるからだと思います。また、紛争に関する研究会では、1回目は人類学者との研究会、2回目はアジア、中東の紛争との比較研究でしたが、異なる地域や分野の研究者と一緒に"異種格闘技"的な研究をするのは非常に勉強になり刺激になります。こんな人と一緒に研究会をやったら面白そうだと思ったとき、それを実行に移せるのは、アジ研の研究会制度のいいところです。

今回刊行した「 戦争と平和の間 」について

この本は紛争に関する3回目の研究会の成果です。アフリカでは2000年代に入って紛争の件数が減り、また1990年代にルワンダで起こったような激しい虐殺も少なくなっていますが、その要因の一つとしてPKOなど国際社会のコミットがあげられます。そこで、アフリカの紛争解決や平和構築に関して、今度は国際政治学や国際法の専門家と"異種格闘技"をやろうと思ったわけです。紛争解決や平和構築の世界的潮流に詳しい彼らと、アフリカの現場で何が起きているのかを専門に研究する我々地域研究者とで、欧米が中心を占める国際社会の考えがアフリカに適用されたときにどういう齟齬を引き起こすのかといった問題を議論し、一冊の本にまとめました。良い本になったと思っています。

現在取り組んでいる研究テーマ

ポスト・コンフリクトの問題に関心を持っています。紛争を経験したアフリカの国家や社会がどのように変わっていくのか、紛争を繰り返さないためにどうすればよいのかといった問題です。例えば、ルワンダでは普通の人々が裁判官となって虐殺に加担した人々を裁くなど新しい裁判制度が始まっており、これが私の短期的な研究課題になっています。この裁判制度の研究を通じて、紛争後の社会改革のなかで、普通の人々が主体となった裁判がどういう意味を持つのかを明らかにしたいと考えています。近代化や民主化、紛争後の諸改革といった多様な動きのなかでアフリカの社会は大きく変わりつつありますが、その動きをフォローしながら、紛争を乗り越えるための方策が見えてくることを期待しています。

(取材:2008年12月19日)