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重冨 真一 研究員インタビュー

「130村もの農村調査を通じてタイの農民組織、社会構造を研究する」


重冨 真一 研究員
所属:地域研究センター 東南アジアⅠ 研究グループ長
専門分野:タイ地域研究、農村社会、農業経済、農村開発
[略歴] [主な著作] [その他]
  • アジ研に入られた当初、先輩研究者からなにかアドバイスがありましたか?
    入所当初、滝川勉先生や梅原弘光先生を中心とした東南アジア農村研究グループの研究会に参加しました。「農村を歩き回ってデータを集めなければ、研究にならない」という研究者ばかりでしたので、非常に勉強になりました。同時に平島成望先生には、「理論的にきちっと位置づけなければいけない、多くの農村研究は一村で一国を語っているが、一村だけではだめだ。ただし、一年間の農業のサイクルを見なければ農村のことは分からない。」とアドバイスされました。また一方で、すさまじいデータを集めて、それを再構築していく末廣昭さんの研究スタイルを目の当たりにしていました。さてどうすれば諸先輩のアドバイスを活かせるのか、といったところからスタートした感じです。

  • タイの農村ではどんな調査をされているのですか?
    重冨 真一
    僕の専門は農村社会研究で、簡単に言うと「タイの農村の人たちがどうやって組織を作るのか」ということです。1988年から2年間海外派遣員として タイに滞在した際は、東北タイの貧しい村を選んで1年間で住み込みました。一つの村でタイを語ってはいけないという意識もあったので、チェンマイとチャオ プラヤーデルタの村と、東北タイの別の村にそれぞれ一ヶ月住み込み、全戸調査をしました。また、機会を見つけては各地の農村を短期訪問し、村のリーダーに インタビューしました。1989~96年の間に回った村は、約130村にもなりました。僕の調査のユニークな点は、こうした3つの調査を組み合わせたこ と。少なくとも僕が始めたときには、同じような調査事例はなかったと思います。タイでの調査の様子については、DVD「映像で見るアジ研:現地調査の現場」をぜひご覧ください。

    これまでの通説は「タイの農村はルースな社会で、個人と個人の関係はあるけれども集団・組織はきちっと作られていない」というものでした。ところが、住み 込んでみると組織は結構存在するのです。村の柱や鎮守があって、村という「我々意識」があって、ある程度集団的な行動もとっている。ライスバンク、貯金組 合が村に入っていて成功例もあるわけです。これまでのようなタイ農村の理解ではまずいと思いました。やはり、実際に農村に住み込んでみたからこそ新しい発 見ができたのです。この研究成果は『タイ農村の開発と住民組織』(研究双書No.467)にまとめました。

  • 2008年の食料危機でコメの値段が急騰しましたが、コメは貧困者が多いアジア・アフリカの重要な主食。途上国に重大な影響を与える恐れがあるため、急 きょ研究会を組織しました。実にタイ、インド、ベトナムの3カ国で世界のコメ輸出の約6割を占めます。今はアフリカが一番の輸入国。単に「食料危機がなぜ 起きたのか」といった国際貿易に関する分析ではなく、3カ国の事情をしっかり押さえること。つまり、なぜベトナムとインドは輸出規制をしたのか、またタイ の場合、国内価格が約2倍に高騰したのですが、その後価格が下がり出した際に、なぜ価格支持政策を取ったのか、といった各国の動きや対応策、またそうした 政策を取った背景について、久保研介研究員、塚田和也研究員と ともに議論し、この本にまとめました。たとえば、インドでは「コメの生産者が貧困」であると同時に、「コメを食べる人も貧困」です。値段が上がれば消費者 は飢える、価格を抑えれば生産者は貧困のままといった状況の中で、さらに国際市場のインパクトが入ってくる。そういうことを理解した上で、インド政府の政 策を評価する必要があるわけです。この分野ではアジ研の知的インフラがかなりあります。ミャンマー、フィリピン、ナイジェリア、ペルー、イラン、ベトナム の研究者らも議論に参加してくれ、ずいぶんコメントをもらいました。これだけ各国の専門家から話を聞けるのはアジ研ならではです。この本は、3カ国のコメ の生産構造、技術構造、施策について一般読者にもわかりやすく解説しました。常に現地を見据えた発信をしている、アジ研らしい本になったと思います。

  • 現在興味を持っている研究、これからやりたい研究については?
    今回、タイのコメ政策について研究し興味深かったのは、国内の政治構造が農村の社会構造や農村の経済構造と非常に密接に結びついて政策が出てきているのを 実感したことです。タイは世界有数の農産品輸出国として成長してきました。僕は農村研究と同時に、天然ゴムなど農産物の流通や貿易も研究してきたのです が、僕が今までやっていた二つの研究が結びついているわけです。コミュニティを研究していても、コミュニティの中に市場がどんどん入ってきて市場のメカニ ズムが働くし、政治の問題も入ってきます。コミュニティの中で解決できない政治の問題もたくさんあるのです。常に実態が繋がっているので、研究も繋げてい かなければなりません。

    これからやりたい研究テーマは3つあります。まず1つは、これまでタイについて考えてきた住民の組織化や下からの農村開発、参加型農村開発をより広いコン テキストで適用させるにはどうすればよいかということ。これは実践的な政策にも反映できると思います。2000年頃に僕がタイで作った調査のフレームワー クをインドネシアとフィリピンで使ってみて、結構役立つことが分かりました。その後、中国やミャンマー、インドでも使ってみると、結構農村の仕組みが理解 できるんですね。このフレームワークをアジアだけでなく世界全体で使えるものにしたいと思っています。2つ目は、どうしたらコミュニティが高い範囲での公 共性、力になっていくのかということ。社会運動として農民がコミュニティの単位を超えて声を出していくには何らかの組織や仕組みが必要ですが、タイではそ れが出てきている。NGOや社会運動の研究をしてきた中でいくつかデータを集めていますので、これを調べたいと思っています。3つ目としては、農産物・農 産加工品輸出の成功と農村コミュニティ、農村開発との密接な関係をしっかりまとめておきたいと思っています。

(取材:2009年12月8日)