skip to contents.

伊藤 成朗 研究員 インタビュー

「集めたデータを検証し、問題の原因とその背景となっているメカニズムを探る」


所属:開発研究センター 開発戦略研究グループ長
専門分野:開発経済学、応用ミクロ経済学、応用時系列分析
[略歴] [主な著作] [その他]
  • 途上国研究を志したきっかけ、アジ研に入られた経緯は?
    高校受験の勉強中にラジオから、難民キャンプで赤ん坊が毎日何百人も死んでいるというニュースが流れてきて、「こんな受験勉強している場合じゃないな」と問題意識を持ちました。単なる現実逃避だったのですが。いま考えると、その時ぼんやりと「途上国に関わりたいな」と意識したように思います。僕は勉強嫌いでしたが、大学で経済学部に入り、生まれて初めて勉強が面白いと思ったのが経済学でした。特に、経済史の授業で赤羽裕先生の著作『低開発経済分析序説』に感動し、ゼミでは高梨和紘先生の開発経済学に入りました。そこでとても幸運だったのが、同じゼミの一つ上に小島道一さん、澤田康幸さん(東京大学経済学部准教授)、もっと上に山形辰史さんという非常に志の高い方々と知り合えたことです。ゼミのOB・OG会で小島さんと山形さんに再会した際、他の方たちは非常に疲れた顔をしているのに、お二人の顔がとっても輝いていて、いま開発の分野でどういった議論があり、ご自身がどう考えているのかといったことを色々話してくださいました。僕はバブルの最後の時期で、すでに就職も決まりかけていたんですが、僕も何か研究をやりたいなと、お二人に背中を押された感じでアジ研の採用試験を受けました。ですので、研究というものが何か分からないまま研究所に入ってしまったという感じです。

  • 伊藤さんの研究スタイルは?
    僕は海外派遣先を途上国ではなく米国にしました。途上国の知識よりも、まずちゃんと自分の分析道具を持ちたかったからです。米国で自分の指導教官の先生と巡り会い、いまの研究スタイルを学びました。つまり、理論を使いながら特定の問題に関する仮説を立て、計量経済学とデータを使いながらそれを検証し、得られた結果から、「こういうことをすれば、より貧しい人の生活や仕事が良くなる」といったような議論をするスタイルです。僕にとってこの理論と実証をうまく組み合わせた研究スタイルが難しく、かつ面白いものでした。米国ではオーソドックスな研究スタイルですが、日本では大塚啓二郎さん(GRIPS教授)や黒崎卓さん(一橋大学経済研究所教授)などが先駆者ですね。

  • データを収集する際、どんなことに注意されていますか。
    最初は他の方が収集したデータを使っていたのですが、やはり変なデータがあったりしました。統計学的な処置である程度質の悪さを取り除くことができるので、なんとかなるかなと思ったのですが、やはりどこかぼけてしまいがちでした。データというものは、その収集者が分析目的を定めて集めていますし、彼らが一番おいしい部分、使い手のある部分をすでに使っているので、それと同じことをしても全く意味がありません。しっかりした分析をするには、データを自分で集めることがやはり重要だと改めて思いました。また、最初にパキスタンのデータを扱ったのですが、収集した地域に出向いて実際、質問をぶつけてみたら、明快な答えが返ってきたんですね。それまで数ヶ月もデータの意味がわからず悩んでいたのですが、「行って聞けばいい」ということだったんです。非常に単純なことでした。

    それと、僕の研究のようなミクロ経済分析では大規模なデータを使いますが、重要な点は満遍なくデータを集めることと、対象としているものの代表的な情報を得ることで、常に「母集団が何か」をはっきりさせる必要があります。例えば「インドの農村」といっても色々ありますから、大都市との距離、主な栽培作物、住民集団、といったことを事前に十分理解し、調査する母集団を確定した上で、その地域の全体像を描く様なサンプルを選ぶということです。また、質問の仕方が重要で、データを取る場合、主観的な評価に頼ってはいけないのが原則。我々は「行動」で判断します。例えば、水道の水について「こんなの飲めたものじゃない」といいながら、健康被害も出さずに毎日飲んでいる。あるいは、「美味しい水のためならX円払っても良い」と言いながら、実際にはX円以下の安全な水源を利用することなくその水道から飲んでいる、といったこと。この場合、何か不都合はあるけど、健康を害するほどのことでもなく、お金を多く払うよりもその水道で満足しているのです。主観的な評価は問題の所在を調べるには良い手がかりになりますが、それに頼ってしまうと危険です。ですから、うまく行動が割り出せるように質問を設計し、そこから見えてくるものを炙り出すようにしています。

  • どんな点でご苦労されていますか。
    大量のデータを収集するにはかなりの資金、人手、時間が必要です。本来なら教育、保健といった特定分野を軸にした上で、いろんな国について比較分析するのが理想的ですが、今はとにかく、予算がある大型プロジェクトに参加して、集められるところでデータを集めるしかない状況です。「対アフリカ投資誘致型実証事業」やJICAのプロジェクトに参加したり、科研費の助成(「フィールド実験によるインドの貧困削減政策の分析」)を受けたりして、複数年にわたるデータを集 めているところです。僕の場合、現地の知識を持っていませんので、データを取る際の委託先であるNGOの方たちから現地の事情を詳しく伺って、問題の全体像を把握するようにしています。その問題を浮かび上がらせるにはどんなサンプルを取ればよいか、この地域ではどういう聞き方をすれば有効な情報にたどりつけるか、といったことをNGOの方たちと一緒に考えながら質問票を作っています。ただ、彼らは調査のスキルをほとんど持っていませんので、調査のための指示を残していっても、現地に我々がいないとその通りにやってくれるとは限りません。インターネットでコミュニケーションが容易になってはいますが、リモートコントロールで人を動かす難しさに常に苦労しています。

  • 今興味を持っている研究、今後研究したいテーマは?
    この2~3年ずっとデータ収集ばかりやっていて、自分の分析ができていないんですね。だから、ちゃんと今集めたデータと向き合って課題を整理しなおし、論文にまとめたいと思っています。その後にもう少し分野を特化してやりたいですね。それと、ODAの政策実施主体にフィードバックできるような研究がしたいですね。最近、援助のためのプロジェクトや政策に対して、厳密な評価をしていこうという流れがあります。日本ではまだですが、先進国の援助機関ではかなり 浸透してきています。日本のODAはもっと評価されるべきで、他の国が学べば役に立つことが多いはずですが、評価の体制ができていない状況です。プロジェクトの中に専門評価者を配置して事業を進める体制が必要だと思います。また、これからはいろんな事業を評価していく中で、アカデミックな立場から評価方法を知識として積み上げていくことも重要だと思っています。

(取材:2010年9月27日)