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佐藤 章 研究員インタビュー

「アフリカの政治研究を通じて地域研究と政治学との橋を架ける」 


所属:地域研究センター アフリカ研究グループ長代理
専門分野:地域研究、アフリカ政治
[略歴] [主な著作] [その他]
  • アジ研に入られたきっかけは? アフリカ研究はいつごろから始めましたか?
    修士課程では現代フランスの移民問題を勉強していました。途上国のことはあまり意識しておらず、アジ研のこともほとんど知りませんでした。たまたま指導教官の伊豫谷登士翁(現一橋大学)先生から、アジ研で仏語ができる人材を探しているらしいから採用試験を受けてみたらと勧められ、受験してみたところ、幸運にも採用していただきました。1993年のことです。サハラ以南の仏語圏、特にコートジボワールを担当することになりました。フランスへの移民の送り出し地域ということ以外に十分な予備知識はなく、アフリカ研究はほとんどゼロからの出発でした。

  • コートジボワールはどんな国ですか?
    入所翌年の1994年に初めて海外出張があり、コートジボワール、セネガル、フランスを4週間一人で回りました。生まれて初めての海外は大変でしたが、コートジボワールの熱気に惹かれました。この国は、西アフリカ仏語圏の中では面積・人口、そして経済規模でも最大の拠点国です。独立以来、国籍に関わらず 農地を新規に開墾した人が無償で土地を所有できる制度があり、ブルキナファソやマリなどの近隣諸国から何十万もの人々が移り住んで、カカオ栽培をするようになりました。コートジボワールは現在世界一のカカオ生産国です。初代国家元首のウフェ=ボワニは33年間政権を維持し、旧宗主国のフランスと政治・軍事・経済などあらゆる面で密接な関係を築きましたし、フランスにとっても最重点国の一つですね。

  • これまでの研究について教えてください。
    大学生の時、とても刺激を受けたのがスチュワート・ヘンリ(本田俊和、現放送大学)先生の人類学の授業でした。その頃から一貫して民族問題に関心があります。90年代のアフリカでは、「民主化のなだれ現象」が起きていました。冷戦崩壊前までに民主化していたのは48カ国のうち8カ国だけでしたが、その後の10年間でほとんどが「民主化」に向いました。複数政党制が導入され選挙が実施される段階で、政党と民族の結びつきや民族対立などの問題が起こり、いくつかの国では武力紛争にまで発展していくことになりました。私の研究関心もこうした流れを追うように、民族問題から「民主化」を中心とした現代政治、紛争の研究に移ってきました。1997~98年に武内進一さんを主査とした現代アフリカの紛争に関する研究会(その成果は『現代アフリカの紛争』(研究双書500))に参加できたのが、その後の自分の研究にとって転機となりました。また、この研究会は、地域研究者、政治学者、人類学者が共同でアフリカの紛争を解明しようとする野心的な試みでもありました。ディシプリンの異なる研究者で、アフリカ現代政治の問題に取り組む試みは、自分が初めて主査を行った研究会でも活かされています(『統治者と国家—アフリカの個人支配再考—』(研究双書564))。

  • アジ研で研究するメリット、あるいはアジ研のアフリカ研究の特色は?
    最大のメリットは研究に集中できるすぐれた研究環境です。IT機器などのインフラが充実していますし、なにより、図書館がすばらしいです。分野にもよりますが、図書館にいるだけで博士論文があらかた書けるといっても過言ではありません。アジ研のアフリカ研究は、政治、経済、社会、国際関係など、専門領域をはばひろくカバーしている点が特色でしょうか。領域横断性は、日本のアフリカ研究全体の特徴でもありますし、大きな研究上の利点があります。ことアフリカ に関しては、先進国の事例を中心に練り上げられてきた理論を即座に適用できないことが多く、まずは現実をしっかり見ていくことが重要です。「アフリカで起きている紛争をどう理解したらいいのか」といった具体的な問いを出発点として、専門の異なる様々な研究者と共同研究をすることで、現実をより立体的、より複眼的にみることができ、新しい発見が得られます。こういったかたちでの発見と総合を積み重ねていくところに、地域研究の存在意義があると思っています。

  • この本は、我々地域研究者と政治学者全体との「橋を架ける」作業ができればと、やや野心的に取り組んだものです。「民主化」後のアフリカ政治を研究していて、一口に政党と言っても、そのあり方が先進国でのそれとはかなり異なることや、そのため比較政治学での理論的な成果を直接適用するのが難しいことを痛感 していました。この「異形さ」に焦点を当てて、その実態を解明したり、理論的な研究にも貢献したりできるような研究をしたいと考えました。2007~2008年に共同研究を実施しましたが、アフリカ、中東、ラテンアメリカ、アジアの4地域の研究者で、それぞれの地域の特徴を述べ合う研究会は いつも驚きと発見の連続でした。「アフリカで政党、民主主義ってそんな感じですか?」、「政党が武装部門を持っているんですか?それで政党といえますか?」といった感じです。特定地域の当たり前が、他地域ではそうではない。そしてその背景には、世界の中での置かれた位置や歴史の違いがある。政党に関してはもちろん、民主主義や政治体制の大きな多様性を知ることができた刺激的な研究会でした。ただ、理論的な知見をより適用しやすい国とそうでない国の差が際立ち、本としての統一感を出すのは容易ではありませんでした。これは主査にとっては反省点です。この反省を教訓として、今後も地域研究と政治学との橋を 架ける作業に意識的に取り組んでいきたいと思っています。

  • 今後の研究については?
    いま実施している研究会「アフリカ・中東における紛争と国家形成」は、先行研究会での議論の中で共通性が高いと感じられた、アフリカと中東に絞っての研究 です。90年代以降、世界各地で紛争が多発し、社会的関心も非常に高まっています。紛争は破壊と殺戮の現象であり、人間性に照らしてけっして好ましいものとは言えません。とはいえ、紛争は一定の政治過程の帰結として起こるものであり、紛争をとおしてもまた政治は実践されています。「紛争=悪」という前提に立って、解決されるべきものとしてのみ紛争を見る視点は、政治過程としての紛争という姿を的確に捉えることはできません。紛争が起きている時、どういった変化が起きているのかをしっかり見ることが、紛争を理解するうえで重要であるというのが、この研究会の基本的視点です。外部介入者ではなく、争い合っている当事者同士が何らかの新しい秩序を作り出すしか解決はありえないでしょう。その過程に知性をもって伴走し、歴史と社会に対する深い理解とともに描き出すことに、地域研究ならではの有効性とメリットがあると考えています。

(取材:2010年3月12日)