2009年3月 2008年の年間と第4四半期GDP

月間ブラジル・レポート

ブラジル

地域研究センター 近田 亮平

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2009年3月
経済
2008年GDP:

2008年の年間と第4四半期GDP(速報値)が発表され、年間が5.1%、第4四半期は前期比が▲3.6%で前年同期比が1.3%となった。今回のGDPは2008年後半からの急速な景気減退を裏付けるものとなったが、世界金融危機発生前までの貯金(第3四半期:年初累計6.4%、前年同期比6.8%)のおかげで、年間としてはGDPの5%成長を確保する結果となった。また、2008年時点の人口が約1億8,960万人(推計)であることから、1人当たりGDPは4.0%となった(グラフ1と2)。ブラジル経済への世界同時不況の影響は相対的に小さいが、第4四半期の前期比▲3.6%という落ち込みは今後の景気回復プロセスに少なからぬインパクトを及ぼすとの見方が、専門家などの間では多く見られている。したがって、2009年GDPに関して、政府は3~3.5%、ブラジル政府の研究所IPEA(応用経済研究所)は2%、中央銀行は1.2%、専門家の大半は0%かマイナス成長、ECLAC(国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会)は▲1%とするなど、多くの予測が下方修正された。

グラフ1 過去10年間の年間および1人当たりGDPの推移

過去10年間の年間および1人当たりGDPの推移
(出所)IBGE

グラフ2 四半期GDPの推移:2007年第4四半期以降

グラフ2 四半期GDPの推移:2007年第4四半期以降
(出所)IBGE

内訳および部門別GDPに関して、2008年は▲0.6%となった輸出を除き、各項目とも2007年とほぼ同程度の伸びとなった(グラフ3)。内訳の中では、労働者賃金の7.9%上昇(実質ベース)や、個人向け信用市場(融資分野に制限のない自由枠)の30.3%拡大(名目ベース)により、家計支出が5年連続プラスの5.4%を記録した。また、政府支出と総固定資本形成(投資)も、それぞれ2007年を上回る5.6%と13.8%という高い伸び率となった。輸入は2008年半ば過ぎまで為替相場でドル安レアル高が進行したことなどから18.5%と大きく伸びたが、輸出は海外市場における需要減少の影響を受け1996年以来のマイナスとなった。部門別では、小麦(47.5%)、コーヒー(25.0%)、サトウキビ(13.3%)などが好調であった農牧業が5.8%、住宅などの公共事業により建設業(8.0%)が順調であった工業が4.3%、金融や情報分野の成長に牽引されたサービス業が4.8%と、いずれも好調な伸びを記録した。

しかし、第4四半期の数値は、2008年後半から深刻化した世界金融危機の影響を受けたものとなった(グラフ4)。GDPは前年同期比で1.3%のプラスであったが、前期比(季節調整済み)では▲3.6%とマイナス成長となった。内訳では、前期比で総固定資本形成が▲9.8%と大幅に減少したのをはじめ、輸入が▲8.2%(2005年第3四半期以来のマイナス)、輸出が▲2.9%、家計支出も▲2.0%(2003年第2四半期以来のマイナス)を記録した。前年同期比は、輸出が▲7.0%と大きく落ち込んだが、景気対策などにより前期比でも0.5%の伸びを記録した政府支出を含め、輸出以外の項目ではプラスとなった。また部門別では、前年同期比で▲18.9%の鉄鉱石生産や▲4.9%の自動車を含む組立産業において金融危機の打撃が深刻であったため、工業が前期比と前年同期比ともにマイナスとなった。農牧業とサービス業に関しては、それぞれ前年同期比はプラスであったが、前期比ではマイナス成長となった。

グラフ3 2008年の内訳および部門別GDP:2006・2007年との比較

グラフ3 2008年の内訳および部門別GDP:2006・2007年との比較
(出所)IBGE

グラフ4 内訳および部門別2007年第4四半期GDP

グラフ4 内訳および部門別2007年第4四半期GDP
(出所)IBGE
貿易収支:

3月の貿易収支は、取引日が22日間と2月より4日多かったこともあり、輸出額がUS$118.09億(前月比23.2%増、前年同月比▲6.4%)、輸入額がUS$100.38億(同28.3%増、▲13.7%)と輸出入とも前月比で増加した。また、貿易黒字額はUS$17.71億(同0.3、79.3%増)であった。この結果、年初からの累計は輸出額がUS$311.77億(前年同期比▲19.4%)、輸入額がUS$281.65億(同▲21.6%)、貿易黒字額が前年を上回るUS$30.12億(同9.1%増)となった。

輸出に関しては、一次産品がUS$46.01億(1日平均額の前年同月比14.2%増)、半製品がUS$13.43億(同▲25.8%)、完成品がUS$56.00億(同▲27.1%)であった。各項目で最も輸出額の大きい品目は、前月比で大幅増となった鉄鉱石(US$13.19億、同124.6%増)、大豆(US$9.73億、同57.5%増)、砂糖(US$2.54億、同59.9%増)、前月比マイナスとなった航空機(US$4.71億、同▲26.6%)などである。また、海外市場での自動車需要の落ち込みにより、自動車(US$2.53億、同▲38.8%)や自動車部品(US$1.90億、同▲37.8%)はマイナスとなる一方、金の国際価格が上昇したこともあり、金半製品(US$16.7億、同100.6%増)の増加が著しかった。なお、主要輸出先は1位が中国(US$17.37億、同134.6%増)、2位が米国(US$12.70億、同▲40.4%)、3位がアルゼンチン(US$8.95億、同▲39.6%)、4位がオランダ(US$7.51億)、5位がドイツ(US$4.01億)で、鉄鉱石の輸出増加分の大半を占めた中国が米国を上回った。
 
一方の輸入に関しては、資本財がUS$25.79億(同2.5%増)、原料・中間財がUS$44.21億(同▲26.1%)、非耐久消費財がUS$9.99億(同24.6%増)、耐久消費財がUS$8.00億(同▲18.7%)、原油・燃料がUS$12.39億(同▲50.5%)であった。主要な品目では、化学薬品(US$13.08億、同▲10.6%)や工業機器類(US$9.49億、同44.7%増)の輸入額が大きく、増減率に関しては、その他の原料・中間財(US$4.12億、同356.4%増)の増加率、鉱物(US$7.58億、同▲39.5%)の減少率が顕著であった。なお、主要輸入元は1位が米国(US$18.17億、同▲1.4%)、2位が中国(US$12.29億、同▲13.0%)、3位がアルゼンチン(US$9.15億、同▲18.5%)、4位がドイツ(US$7.52億)、5位が日本(US$4.42億)であった。

物価:

発表された2月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は、前月比0.07%p増、前年同月比0.06%p増の0.55%であった。0.27%(前月比▲0.48、前年同月比▲0.33%p)となった食料品価格に比べ、非食料品価格は0.63%(同0.23、0.17%p増)とより大きな上昇を記録した(グラフ5)。

食料品価格の落ち着きは、トマト(1月▲9.05→2月▲11.12%)、カリオカ・フェイジョン豆(同3.47→▲3.35%)、牛肉(同0.23→▲2.14%)、果物類(同2.98→▲0.84%)など、主要な食料品の値段が下落したことによるものである。一方の非食料品は、新学期に当たる教育分野の価格上昇(同0.34→4.77%)という季節要因が大きく影響したが、通信分野(同0.05→0.15%)を除くその他の各分野(住宅、家具・家電、衣料品、交通、保健医療・ケア用品、人件費)の価格は、前月比で小幅な上昇または下落となった。

金利:

中央銀行の Copom(通貨政策委員会)は11日、政策金利Selic(短期金利誘導目標)を12.75%から11.25%へと引き下げることを全会一致で決定した。発表された第4四半期GDPにより製造業を中心とした景気後退色の鮮明化が裏付けられたこともあり、今回のSelic引き下げ幅は1.50%pと前回の1.00%pを上回った。しかし、実質金利(約6.5%)が世界で最も高いレベルにある一方、IPCAなどの物価指数は落ち着いて推移していることから、更なる金利引き下げを求める意見が政労使や専門家の間で依然として強い(グラフ5)。

グラフ5 物価(IPCA)と政策金利(Selic)の推移:2006年以降

グラフ5 物価(IPCA)と政策金利(Selic)の推移:2006年以降
(出所)ブラジル中央銀行
(注)単位:IPCAは左軸、Selicは右軸。
為替市場:

3月のドル・レアル為替相場は、月の前半は世界経済の景気回復が遅れるとの見通しが強まったことなどから、新興国の通貨レアルを売る動きが活発化し、3日には昨年12月以来のUS$1=R$ 2.4台となるUS$1=R$ 2.4218(売値)までドル高が進んだ。しかしその後は、ブラジルの株価上昇やSelicの引き下げ、カントリー・リスクの低下などからドル安レアル高の展開となり、26日にはUS$1=R$ 2. 2.2367(買値)までレアル高が進行した。月末には米国株式市場の下落やG20を前にしたポジション調整などから、US$1=R$ 2.3台前半までドルが値を戻すかたちとなり、今月の取引を終えた。

株式市場:

3月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、前月末比で昨年4月の11.32%に次ぐ7.18%の上昇と、景気回復の兆しを感じさせるものとなった。月のはじめのBovespaは、米国における金融不安の再燃や自動車産業に対する先行き不安などから値を下げ、2日には今年の最安値を更新する36,467pまで下落した。しかし、特に月の前半に原油や穀物の国際価格が上昇したことから、Bovespaを牽引する双肩であるPetrobrasやValeなどの資源関連銘柄が買われ、さらに米国でも政府の景気対策を好感して株価が回復に転じたことなどから、Bovespaは値を上げる展開となり、1ヶ月ぶりに40,000pを回復すると26日には42,589pまで上昇した。その後、米国自動車メーカーGMの会長辞任などの影響で値を下げたものの、月末は40,000pを若干上回るレベルで3月の取引を終了した。

景気対策:

政府は30日、昨年12月から適用し3月末で期限が切れる予定だった新車に対する工業製品税(IPI)の減税を6月末まで延長すると発表した。IPI減税により2009年第1四半期の新車販売台数は、前年同期比3.14%増の66.8万台(3月は史上2番目となる27.1万台)を記録しており、景気回復のため同減税措置を延長すべきとの声が高まっていた。ただし、自動車関連産業で多くの失職者が出ているため、減税期間中は自動車メーカーが従業員の雇用を維持すること(契約が終了する期間労働者は対象外)を条件に、政府は今回の減税延長の実施を決定した。

政府はまた、自動二輪車への税金(Cofins)の減税も同時に発表し、さらに、25日に100万戸の低所得者向け住宅建設計画「私の家、私の人生(Minha Casa Minha Vida)」を打ち出したが、それと関連させるかたちで建築資材に関する税金(RET)の減税も決定した。ただし、これらの減税による税収減の一部を補填するため、タバコに関する諸税(IPI、PIS/Cofins)を20~30%増税すると発表した。またこの他の景気対策として、2008年末に解雇された特定部門の失業者に対して、失業手当の受給限度を5回から7回へと2か月分延長することを決定した。このことにより約10.4万人が恩恵を受けるとされる。

政治
ブラジル・米国首脳会談:

米国を訪問したLula大統領は14日、ワシントンでObama大統領就任後初となる首脳会談を行った。世界経済危機をめぐり4月2日に開催されるG20会議に関する両国の対策や利害調整について協議したほか、世界の金融システムや両国の貿易関係、エタノールなどのエネルギー問題が議題に上ったとされる。Lula大統領はホワイト・ハウスに招待された外国首脳としては、日本、英国に続く3人目で、ラテン・アメリカとしては最初となった。

米国のこのような外交戦略から、米国がブラジルをラテン・アメリカ諸国のリーダーとみなし、同国との関係を重視していることがわかる。特に、ラテン・アメリカ諸国の中には依然として反米的な政権があるが、Lula大統領はこれらの政権やリーダーとも良好な関係を維持しているため、米国はブラジルに政治的な仲介者としての役割を期待しているとされる。しかし、ブラジルと米国は特に経済において競合する分野があり、今回の首脳会談で両首脳がアピールしたような良好な関係は、全体像の一部であることも確かである。このことは、Obama大統領が首脳会談でエタノールに対する自国の関税をすぐに引き下げることはないと明言した一方、Lula大統領が後日「世界金融危機は目の青い白人たちによって引き起こされた」と米国を皮肉的に非難したことにも、端的に現れているといえる。ただし、政治的イデオロギー色が後退した両国は、今後より実利に基づく関係を構築していくと思われ、問題が発生しても交渉による解決の道が模索されていくと考えられよう。

社会
MST:

「土地なし農民運動(MST:Movimentos dos Trabalhadores Rurais Sem Terra)」と総称される社会運動の一派の「Vila Campesina」は9日、全国各地で大規模な同時抗議活動を展開した。MSTの抗議活動は“赤い4月”と呼ばれる4月実施のものが多いが(2007年3・4月レポート参照)、今回は3月8日の国際女性デーに合わせたものであり、約6,500人に上った参加者の大半が女性であった。カラフルなハンカチなどで口元を覆った参加女性たちは、首都ブラジリアの農業畜産省をはじめ、各地の農業関連の公的機関や企業、農場の占拠を行い、反アグリビジネスを掲げ、農地改革の遅れなどを非難する抗議活動は、時として暴力的な行為に発展する場面も見られた。また、その衣装だけでなく行動形態が非常に組織されたものであり、参加者には実際に土地を持たない女性農民よりも、NGO関係者や学生などの外部者が多かったとの報道もなされている。