2009年2月 危機の中でもブラジリダーヂ

月間ブラジル・レポート

ブラジル

地域研究センター 近田 亮平

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2009年2月
経済
貿易収支:

2月の貿易収支は、輸出額がUS$95.88億(前月比▲2.0、前年同月比▲25.1%)、輸入額がUS$78.21億(同▲24.1、▲34.6%)であった。取引日が18日間と1月に比べ3日間少なかったこともあり、輸出入ともに前月比でマイナスとなったが、世界同時不況の影響から前年同月比でも大きく減少した。しかし、輸入額の減少が輸出額のそれを上回ったため、1月に赤字を記録した貿易収支はUS$17.67億(同437.2、107.9%増)となり、再び黒字に転じた。この結果、年初からの累計は輸出額がUS$193.70億(前年同期比▲25.7%)、輸入額がUS$181.27億(同▲25.4%)、貿易黒字額がUS$12.43億(同▲29.9%)となった。

輸出に関しては、一次産品がUS$34.89億(1日平均額の前年同月比▲2.9%)、半製品がUS$13.04億(同▲28.5%)、完成品がUS$46.31億(同▲26.9%)であった。各項目で最も輸出額の大きい品目は、鉄鉱石(US$9.94億、同13.9%増)、砂糖(US$2.76億、同55.8%増)、航空機(US$2.80億、同18.4%増)で、いずれも前年同月比の1日平均額を上回った。しかし、各項目で2番目の品目である原油(US$5.04億、同▲12.4%)、セルロース(US$2.47億、同▲12.5%)、自動車(US$1.82億、同▲34.2%)はいずれもマイナスを記録した。また、主要輸出先は1位が米国(US$11.44億、同▲39.9%)、2位が中国(US$9.21億、同27.9%増)、3位がアルゼンチン(US$6.90億、同▲44.8%)、4位がオランダ(US$6.00億)、5位がドイツ(US$3.87億)であった。

一方の輸入に関しては、資本財がUS$19.29億(同▲16.7%)、原料・中間財がUS$37.60億(同▲34.3%)、非耐久消費財がUS$6.55億(同▲5.4%)、耐久消費財がUS$6.05億(同▲9.9%)、原油・燃料がUS$8.72億(同▲54.4%)であった。主要な品目を見ると、工業機器類(US$7.16億、同0.8%増)、医薬品(US$2.23億、同▲1.6%)、自動車(US$2.10億、同▲8.9%)などは相対的に安定しているが、その他の原料・中間財(US$1.26億、同▲83.7%)、鉱物(US$6.09億、同▲47.0%)、オフィス機器(US$3.19億、同▲28.2%)などは輸入額が大きく減少した。なお、主要輸入元は1位が米国(US$15.30億、同▲4.3%)、2位が中国(US$10.38億、同▲17.4%)、3位がアルゼンチン(US$6.66億、同▲38.5%)、4位がドイツ(US$5.57億)、5位がナイジェリア(US$3.83億)であった。

物価:

発表された1月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は、前月比0.20%p増、前年同月比▲0.06%pの0.48%であった。食料品価格の上昇は、世界的に食糧品価格が高騰した前年の同月比では▲0.77%pとマイナスを記録したが、前月比では0.39%p増加の0.75%となった。また非食料品価格も、一部の耐久消費財などで価格が下落したものの、全体では0.40%(同0.14、0.12%p増)の上昇となった。

食料品では、ニンジン(12月7.75→1月18.24%)、ジャガイモ(同1.87→15.01%)、カリオカ・フェイジョン豆(同▲19.02→3.47%)などで価格が大きく上昇したが、トマト(同34.11→▲9.05%)や小麦粉(同0.06→▲2.58%)などの価格下落がそれらを相殺するかたちとなった。一方の非食料品では、前月に引き続き自動車(新車:同▲1.99→▲3.15%、中古車:同▲2.76→▲3.27%)で価格が下落したが、家電製品(同0.01→0.77%)や燃料費(同▲0.04→0.53%)などの価格は前月と異なり上昇に転じた。

金利:

2月は政策金利のSelic金利(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は開催されず。次回のCopomは3月10、11日に開催予定。

為替市場:

2月のドル・レアル為替相場は株式市場の値動きと類似したかたちで推移し、月の前半はドル安レアル高、月の後半はドル高レアル安の動きとなった。月内のレアル最高値は9日のUS$1=R$ 2.2438(買値)、最安値は20日のUS$1=R$ 2.3916(売値)で、カーニバルがあった月末にかけてはUS$1=R$ 2.3台後半の狭いレンジで推移し、取引を終えた。ただし、依然として底値が見えない状態の株式市場とは異なり、420前後で推移しているカントリー・リスクと同様に(グラフ1)、最近の為替市場は比較的落ち着きを取り戻しつつあるといえる。

グラフ1 カントリー・リスクの推移:2008年以降

グラフ1 カントリー・リスクの推移:2008年以降
(出所)J.P.Morgan
株式市場:

2月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、月のはじめは米国の株価が上昇したこともあり、6日に今年の最高値となる42,756pまで上昇した。しかし、発表された2008年12月の工業生産指数が前年同月比▲14.5%、前月比▲12.4%と、悪化の度合いが事前の予測を上回るとともに景気の急激な落ち込みを裏付けるものだったことなどから(グラフ2)、株価の上値は重く、月の半ばまでは41,000p前後で推移した。その後、米国でCitiグループが事実上政府の管理下に置かれたことや、GDPの確定値が速報値を下回ったこと、また、欧州でも金融機関や自動車産業などの経営不安が高まったことなどから、世界的な株安が進むと、その値動きとほぼ連動するかたちでBovespa指数も下落に転じた。国内的にも失業率の大幅な悪化(12月:6.8%→1月:8.2%)や、大手航空機メーカーのEmbraerが全職員の20%に相当する4,270人を一度に大量解雇するなど(Embraerが労働者側と事前交渉を行っていなかったことから、後日、地方労働裁判所が解雇の一時停止を決定)、明るい材料は乏しく、月の終盤はカーニバルで取引が閑散とする中、株価は軟調に推移した。そして、26日に月内最安値となる38,180pをつけると、ほぼ同じレベルで2月の取引を終了した。

グラフ 工業生産指数の推移:2007年以降

グラフ 工業生産指数の推移:2007年以降
(出所)IBGE
政治
上下院議長選挙:

2月2日に行われた上下両院の議長選挙において、上院議長に元大統領のJosé Sarney、下院議長にMichel Temerが選出され、上下院で最大の議席数を有するPMDB(ブラジル民主運動党)が両議長の座を獲得することになった。今回の選挙では、上院議長選挙に独自候補者を送り込んでいた政権与党のPT(労働者党)が、最大野党のPSDB(ブラジル社会民主党)と手を結ぶという、上院議長獲得のために形振り構わぬ戦略に出た一方、議会運営を優先する(さらには2010年の大統領選挙を見据えた)Lula大統領および大統領府は、連立政権の最大政党でありながら上院議長選挙で野党DEM(民主党)と共闘したPMDBのSarney支持に回るなど、政党や政治家の間での“ねじれ現象”に注目が集まっていた。そしてその結果は、近年のブラジル政治に特徴的である、“petismo”(PT主義)または政党政治に対する“Lulismo”(ルーラ主義)の優位性を象徴するものとなった。

また、1994年の選挙以降PMDBは独自の大統領候補を擁立していないが、今回の上下院議長選挙での勝利により、2010年の選挙に向けて独自候補を擁立すべきとの声も上がっている。しかし、政権与党のPTと最大野党のPSDBのどちらを支持するかは現時点ではわからないが、どちらの政党が政権を担うことになるにしろ、最大規模を誇るPMDBが連立与党として政権に参加することはほぼ間違いないであろう。そして、PMDBはその際に、政権No.2のポジションである文民官(Casa Civil)や副大統領のポストを要求するとの見方が、より現実的と考えられている。

汚職:

2月に下院議会の副議長および監査官(corregedor)に選出されたばかりのEdmar Moreira下院議員(DEM:民主党)に対し、同議員がR$2,500万もの豪邸の所有を選挙裁判所へ申告していなかったことに加え、約R$25万もの公的資金を私的な警護などに流用した疑いが持ち上がった。そして結局Moreira議員は、日に日に強まって行った事実追及や政治的圧力に屈するかたちで、8日ついに副議長と監査官の辞任に追い込まれることとなった。また最高選挙裁判所は、17日にParaíba州のCunha Lima知事(PMDB)と副知事、さらに3月に入ってすぐにMaranhão州のJacson Lago知事(PDT:民主労働党)と副知事に対して、2006年の知事選挙の際に不正な行為を行ったとして、同職から解任する決定を下した。なお、最高選挙裁判所はさらに6州の知事に対しても同様の審査および決断を下す予定であり、今回の選挙時の不正行為に関する疑惑事件では、27州および連邦区の知事の1/3弱にあたる8名に何らかの疑いが持たれたことになる。

ポルトガル語には、ブラジル“らしさ”を表現する“ブラジリダーヂ”(Brasilidade:ブラジル性)という言葉があるが、このブラジリダーヂの1要素として(残念ではあるが)汚職を挙げることができるであろう。そして、2月も上記のような“相対的に”話題となった汚職事件がいくつか発生した。ブラジルで汚職が頻発するのは、社会の透明性が高まったからという見方もできるであろうが、いずれにしろ、汚職という伝統的かつ悪癖なブラジリダーヂは依然として根深く息づいているといえよう。

社会
治安問題:

サンパウロ市にはParaisópolisと呼ばれる、同市で2番目の規模(住民数約8万人)のファヴェーラ(土地不法占拠の貧困層居住地区)が、Mrumbi地区の高級住宅街に隣接するかたちで存在している。このParaisópolisで2日、車を強盗したとされる住民が軍警察によって射殺されたことをきっかけに、住民側と軍警察の間で武力衝突が発生し、逮捕者や負傷者を出す事態となった。対立が沈静化した後も、400人もの武装した軍警察が治安維持を目的に2週間以上にわたりParaisópolisを占拠し続けた。なおParaisópolisの麻薬犯罪組織は、サンパウロ州を中心とした一大麻薬犯罪組織のPCC(首都第一コマンド)により統率されているといわれている。

またリオ市でも4日、西部地区にある複数のファヴェーラにおいて軍警察などによる犯罪組織掃討作戦が行われ、10名もの死者に加え負傷者1名と逮捕者7名を出す事態となった。リオのファヴェーラでは犯罪組織と警察などによる銃撃戦が度々発生しているが、今回の掃討作戦は比較的規模が大きいものだといえる。さらに2月はカーニバルのため、大勢の観光客がリオを訪れていたが、主に簡易ホテルに宿泊していた若者外国人観光客を狙った集団強盗などの犯罪が多発している。

このような改善しない治安の問題も、前述の汚職と同様に残念なことではあるが、経済危機であっても存続しているブラジリダーヂの1つであるといえよう。

飛行機事故:

アマゾナス州で7日、地方都市から州都のマナウスに向かっていた小型旅客機がアマゾン河支流のManacapuru川に墜落し、搭乗していた28名のうち24名が死亡する事故が発生した。墜落した航空機の定員は乗客19名、乗組員2名であり、定員オーバーが今回の事故の原因であったとの疑いが取り沙汰された。

近年、ブラジルの富裕層の間では小型航空機やヘリコプターなどの航空タクシーの利用が普及しつつあり、2月1日には日本のテレビ番組(NHK『沸騰都市 サンパウロ:富豪は空を飛ぶ』)でも、このような一現実が紹介されている。しかし、増大する航空交通手段の需要に供給側のシステムや人材の整備が追いついていない面があり、このことが今回のような航空タクシー便の事故だけでなく、多くの犠牲者を出した大型旅客機の墜落事故の発生や、航空便の大幅な遅延の再発(過去の社会欄参照)の一要因になっているとも考えられよう(ただし、ブラジルで航空便は頻繁に運行されており、通常時の安全性に大きな問題があると指摘しているわけではない)。

カーニバル:

公式な期間としては21日(日)からの4日間、しかし、実質的にはほぼ1カ月もの間(特にブラジルの北東部では)、ブラジルでは多くの人々がカーニバルに酔いしれた。ブラジルやリオのカーニバルについては、日本でも多くのマスコミが取り上げているため詳述しないが、ここでは逆に、日本のマスコミのカーニバルの取り上げ方に関して、景気後退との関連から若干の所見を述べることにする。

ブラジルのカーニバルに関する今回の日本の報道には、「南米最大の祭典」などの見出しを付すものの、内容(特に最後のむすびの部分)に関しては、「経済危機の影響でカーニバルの規模縮小や経費削減を余儀なくされている」といったものが多く見られた。しかし、現地ブラジルのマスコミ報道を見る限りにおいては、経済危機の影響については(全くというわけではないが)ほとんど触れられておらず、全国各地の盛り上がり様を伝えるものがほとんどであった。まさに、経済危機の中でもエネルギッシュなブラジリダーヂ健在!といった感である。

今回の経済危機における日本の景気後退が鮮明になっているが、このような日本の現状に対し、マスコミの悲観的な報道により消費マインドが過剰に低下させられているとの批判が、企業や政府からなされている。ブラジリダーヂに対して“ジャポニダーヂ”(日本“らしさ”?)とは、今年のブラジルのカーニバルや現在の日本の景況を報道するマスコミのように、そもそも悲観的なものなのかもしれない。しかし、「100年に一度」と言われる今回の世界同時不況を日本ができるだけ早く、または傷を深くせずに乗り切るためには、苦しい時でも/こそ、陽気に(騒ぎ)楽しむというブラジリダーヂに学ぶべきところが多いのではなかろうか。