資料紹介:介入のとき――コフィ・アナン回顧録――(上・下)

アフリカレポート

No.56

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050149

資料紹介:コフィ・アナン、ネイダー・ムザヴィザドゥ 著 白戸 純 訳 『介入のとき――コフィ・アナン回顧録――(上・下)』

■ 資料紹介:コフィ・アナン、ネイダー・ムザヴィザドゥ 著 白戸 純 訳 『介入のとき――コフィ・アナン回顧録――(上・下)』
佐藤 章
■ 『アフリカレポート』2018年 No.56、p.14
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本書は、1997年から2006年まで国際連合事務総長を務めたコフィ・アナンが2012年に発表した回顧録Interventions: A Life in War and Peace(Penguin Press)の邦訳である。アナン時代の国連事務総長室に勤務したムザヴィザドゥが執筆協力を行っている。

本書は10章からなる。自らの生い立ちにあてられた第1章でアナンは、ガーナの独立運動に献身した父の姿をとおして、「平和的な変革は可能である」と学んだとあかす。第2章以降では、世界を震撼させた主要な事件に当事者として関わったみずからの経験がつづられる。国連のPKO局長としてたずさわったソマリア、ボスニア、ルワンダでの平和維持活動。国連事務総長として関わった東チモール、コソボ、ダルフール、パレスチナ、イラク、レバノン、アフガニスタンでの紛争と危機、9・11事件、そして貧困撲滅の取り組みや国際刑事裁判所の創設。さらに、事務総長退任後に仲介者を務めた、2007年末からのケニアでの選挙後危機。これらの記述をとおして読者は、冷戦後の世界で相次ぎ生起した危機や試練に対し、国連をはじめとする諸主体がどのように対応してきたか、その挑戦と挫折の歴史をたどることができる。

自らの出身地であるアフリカについてアナンは何を語っているだろうか。アフリカに関する記述で目を引くのは、一部の指導者らに向けられるアナンの批判的なまなざしである。ケニアの選挙後危機のさなか、和平会談に抵抗したキバキ大統領の側近らの行動は「子供じみた」ものと断罪される。HIV/エイズ対策への協力を拒むムガベ・ジンバブウェ大統領には「強い怒り」が表明される。ダルフール危機を放置しておきながら、ケニアでの新憲法制定式典に来賓として参列したバシール・スーダン大統領に対しては、「この進歩的な集まりにこそこそと参加している」と、軽蔑を隠さない表現がとられる。

第1章で記されたとおり、アナンはガーナ独立に立ち会うことで変革への信念をえた。その点を念頭におけば、一部の指導者らに向けられるアナンの批判とは、実は、他のどこでもなく、まさしくアフリカにおいて達成された、独立という誉むべき事業を手がかりにして展開されているものだと言えよう。アフリカの自前の経験に照らした、アフリカに向けた自己変革のメッセージ――その呼びかけの書として、本書はアフリカをめぐる精神史に位置づけられるだろう。

佐藤 章(さとう・あきら/アジア経済研究所)