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資料紹介: 恋するソマリア

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介:高野 秀行 著 『恋するソマリア』
児玉 由佳
■ 『アフリカレポート』2015年 No.53、p.75
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本書は、第35回講談社ノンフィクション賞などを受賞した『謎の独立国家ソマリランド』(2013年)の続編である。前作では、ソマリア連邦共和国から独立を宣言したソマリランドが描かれ、さらには南部ソマリアの首都モガディシュやプントランドへ著者が単身乗り込み、その社会・政治の仕組みを解明しようとする姿を読者が追体験するものであった。一方で『恋するソマリア』は、タイトルからも明らかなように、前作とはかなり趣が異なる。帯に「前人未踏の片想い暴走ノンフィクション」とあるように、どうすれば自分がソマリの人々に受け入れてもらえるのか、苦心惨憺する話が中心となっている。2009年と2011年の取材を元にした前作の後を受けて、2011年10月~2012年12月に行った2度の長期取材をまとめたのが本書であり、前作に出てきた人々の人生の変遷も知ることができる。

著者は、ソマリの人々に受け入れてもらうために、様々なアプローチを試みる。日本の中古車をソマリランドに輸出しようとして大失敗に終わった一節もあるが、無理矢理家に招いてもらったり、家庭料理を習うことで、男性には難しいソマリ女性の生活にも肉薄している。そんな日常生活の積み重ねから、ソマリの人々の言動の背後にある意味を著者が「発見」していく。著者の個人的な経験に基づいたものであり、どれだけ普遍的なものなのかは判断が難しいが、日常生活からソマリの人々の価値観を解き明かしていく過程にはスリリングな面白さがある。

また、本書はソマリの人々を取り巻く厳しい状況をも教えてくれる。さらに、彼らの生活が死と隣り合わせであることが、前作以上に随所で言及されている。例えば、懇意にしていたモガディシュのテレビ局のスタッフの死や、その死を目の当たりにして精神に変調をきたしている同僚の姿などが描かれている。最後の章では、著者も南部ソマリアの地方でアル・シャバーブに襲撃され、九死に一生を得ている。前作では民主主義国家建設に向かって進んでいるかのように見えたソマリランドも、政府がメディアへの干渉を露骨に行うなど、その道のりは必ずしも順風満帆ではない。

評者も、エチオピアの農村社会で調査をするにあたって、村の人々と親しくなったと思っていても、現実には自分はただの短期訪問者に過ぎないのだと思い知らされることが多々ある。著者のソマリの人々への切ない片思いは、苦笑いとともに共感を覚えてしまうのである。

児玉 由佳(こだま・ゆか/アジア経済研究所)