資料紹介: The Garment Industry in Low-Income Countries 
——An Entry Point of Industrialization——

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介:Takahiro Fukunishi and Tatsufumi Yamagata , eds. ”The Garment Industry in Low-Income Countries ——An Entry Point of Industrialization——”
福西 隆弘
■ 『アフリカレポート』2014年 No.52、p.105
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サブサハラ・アフリカの開発に関心を寄せる識者の間では、現在の経済成長を持続させるためには産業構造の多様化が必要だとの考えが多数である。多くのアフリカ諸国は過去20年の間、ますます一次産品依存を強めているが、アフリカで産業構造の多角化に成功した例がないわけではない。独立後、サトウキビが最大の輸出商品であったモーリシャスは、香港からの投資を契機に1980年代から縫製産業が成長し、現在では金融や観光産業が中心産業となっている。こうした産業発展のパターンは、他の発展途上地域、特にアジア地域ではよく見られるが、アフリカではモーリシャスに続く国はみられない。本書は、アジア、アフリカの低所得国7カ国を対象に、欧米市場が自由化された後の縫製企業の変化を分析したものであるが、その目的の一つは、アジアの低所得国との比較から、縫製産業から始まる典型的な産業発展パターンがアフリカで見られない理由を探ることにある。

先行研究は、投資環境の改善や人的資本の充実によって生産性を向上させることが製造業の発展に必要だと論じている。しかし、工業化のエントリーポイントと考えられる縫製産業では、投資環境の質が低く、人的資本も貧しいアジアの低所得国がめざましい成長を遂げており、疑いを差し挟む余地があった。本書では、バングラデシュやカンボジアの縫製企業とマダガスカル、ケニアの企業を比較し、アフリカにおいて投資環境や人的資本が制約ではないこと、そして、低所得国でありながら賃金が相対的に高い国が多いことを指摘している。

アフリカ諸国の賃金が、所得水準を考慮すると高いという事実は、英語文献ではほとんど指摘されていない。また、低所得国に豊富な非熟練労働の賃金が高いという指摘は、邦語文献を含めても新しいものである。このことは、アフリカの産業発展を考えるうえで重要だと考える。また、一人あたりGDPが示す平均所得と、縫製産業に代表されるフォーマルセクターの賃金に大きな差があるという事実は、都市と農村、インフォーマルとフォーマルセクターといったアフリカの社会構造に関わる問題である。アフリカの産業発展に関心のある方に読んでもらえれば幸いである。

福西 隆弘(ふくにし・たかひろ/アジア経済研究所)